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柊原 ゆず

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2021年

7月まとめ

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①『りんご飴の観覧車』
 りんご飴の観覧車に揺られお昼寝。
 甘い匂いにうっとりとしながら睡魔と手を取り合う。そんな私に隣の彼が笑った。瞼を閉じた私の唇に、かさついた唇が触れる。さっき食べたりんご飴の味がした。


②『おそろい』
 今日は記念日ではないが、いつも頑張っている彼女にケーキをプレゼントしたくなった。帰宅し、ケーキの入った小箱を渡す。彼女は照れたように笑って、冷蔵庫を開けた。中には同じ店のロゴが入った小箱。中身はどちらもタルトとチーズケーキ。お互いの好物だ。僕らは頬を赤く染めながら笑みを浮かべた。


③『まだ不器用なあなた』
 まだ身体の使い方がぎこちないあなたは四つん這いができずにお尻をふりふりと揺らしている。いつかはその小さな足で地面を踏み締め歩くのだろうか。私はまだ不器用なあなたを見つめている。「ママ」と私を呼んで駆け寄ったあなたと手を繋いで歩く姿を思い浮かべながら。


④『死亡フラグ』
 友人の別荘に数人で泊まることになった。そこで事件が起こる。激しい吹雪で帰ろうにも帰れない。疑心暗鬼になり、友人の一人が「こんな場所にいられるか!俺は部屋に戻る!」と言って出てしまった。次のターゲットは決まりだ。


⑤『幼き日の約束』
「悪いのは君だよ。僕がずっとずっと愛していたのに裏切るなんて」
 大粒の涙を零しながら私の首を絞めるのは、かつて仲が良かったが転校してしまった友人だった。『大きくなったら結婚しようね』なんて約束をしなければよかったと後悔したがもう遅かった。


⑥『地獄』
 君と話していると時間があっという間に過ぎる。一緒にいて心地いい。ずっと一緒にいたい。そんなことを言ったら君はぎこちなくなって私に素気なくなるのかな。それだけは嫌だ。でも言ってしまいたい。そんな地獄のような心地を何年も味わっている。


⑦『宇宙人との交信』
 こどもがあー、やうー、など声が出るようになった。声に合わせて私も声を出す。
「あ、あ、あー!」
「あ、あ、あー、ママはここだよ」
 すると、こどもがケラケラと笑った。まるで会話しているみたい。もしかすると、そうやって宇宙人ともお話ができるかもしれない。そんな冗談みたいなことを考えた。


⑧『土でできた宝石』
 幼い頃、土で作った山を砂で磨くのが好きだった。磨けば磨くほど、艶が出て輝くようになる。まるで宝石のようなそれに、うっとりと見つめる。私だけの宝石のお山。誰かが見つけて私みたいにうっとりしてくれたらいいな。公園の片隅にある宝石のお山は夕日を受けて誇らしげに輝いていた。


⑨『罠』
 菜の花が続く一本道に青空がどこまでも広がっている。ここはどこだろう。私はあてもなく歩き続ける。暫く歩くと、道の真ん中に少女の石像が鎮座していた。私はその美しさに、思わず滑らかな岩肌をなぞった。すると石像が光り出し、少女の声が聞こえた。
「助けてくれてありがとう。次はあなたの番よ」


⑩『大切なあなたへ』
 大切なあなたへ。エネルギー、足りていますか?元気がないと怒ることもできないのよ。あなたは決して怒らない優しい人と言われているけれどそれは誤解ね。あなたは疲れて感情が出せないだけ。今はぐっすり眠って、元気を出して。あなたのことを世界一、いや宇宙一心配している私より。


⑪『神様の言葉』
「君の名前は?」
「……涼太」
「リョータくん!私とお友達になろう」
 差し伸べたあなたの手は、まるで神様のようで眩しかった。卒園し、彼女は私立の小学校へ通うことになり、会えなくなった。今ではもう、僕のことなど忘れてしまっているだろう。けれど僕はずっと忘れられないでいる。


⑫『欲張りな神様』
 彼女の声を気に入った神様は彼女から声を奪った。声のない彼女の純粋な心に触れ、僕は彼女に惹かれていく。けれど僕は気付いたんだ。彼女の声だけでなく、彼女自身も欲しいと。僕は思い出した。彼女から声を奪った神様は僕だったのだ。


⑬『助けて』
 ドサッと落ちたのは大粒の果実。凶作で飢餓に喘ぐ村人達は木の精霊に生贄を捧げた。無理矢理祀られた少女は木の精霊に気に入られ、大きな木へと変貌を遂げる。木には沢山の果実が実り、村は飢えることなく繁栄した。助けてという少女の声は村人の歓喜の声にかき消され彼らの耳には届かない。


⑭『羽のない天使』
 彼女の背中には痕がある。曰く、羽をもがれた時の傷だそうだ。君は天使だったの?と聞くと、彼女は笑って、さあねと答えた。月明かりに照らされた彼女はとても綺麗で、傷跡すらも愛おしく思える。羽がなくて良かった。自由に飛んでいってしまいそうだから。僕は呪文をかけるように傷痕に唇を落とした。


⑮『海派のおにぎり』
 僕、山よりも海派なんだ。お握り君はそう言って、浮き輪とボールを持って海に行きました。ぷかぷかと海に身を任せて漂います。少しずつご飯がほぐれていくけれど、お握り君は笑っていました。大好きな海に抱きしめられて、最期を迎えられるなんて僕はとびきりの幸せものだ。お握り君は目を閉じました。


⑯『真っ黒なお友達』
 私に影はないけれど、真っ黒なお友達がいる。私達はいつも一緒。お友達は私の一歩後ろを歩くのが好きみたい。顔を見たことはないけど、大きくて、角が生えているのはわかる。恥ずかしがり屋さんなのね。とっても可愛い。いつか私の目の前に現れてくれたら嬉しいな。そう思いながら今日も眠りにつく。


⑰『恋に落ちてしまったあなた』
 隣にいるあなたが恋に落ちる瞬間を見てしまった。頬を赤く染めて、目の前の女の子を見つめるあなた。世界で一番あなたを大切にしているのはあなたの隣にいる私なのに。あの子じゃなくて、私を見てよ。私のこころが悲鳴を上げる。けれどあなたが気付くことはなく、悲鳴は胸の底に沈んで消えた。


⑱『言葉の数だけ重く』
「好きです!付き合ってください!」
「もういい加減諦めたら?今日で何回目よ?」
「10292011回です!」
「よく覚えてるわね」
「メモしてますから!いわばこれは『愛の告白ノート』です!」
「重いわ」
「僕の貴女への愛が軽いと思わないでくださいね」
 彼女は重いため息を吐いた。


⑲『幸せ者』
 この広い世界で、同じ国で同じ年に生まれ、こうして出会い言葉を交わしている。僕はなんて幸せ者なのだろう。彼女と出会った時から僕はついているが、僕は更なる奇跡を起こしたい。
「好きです!付き合ってください!」
 僕のこの言葉が彼女のこころに届きますように。


⑳『星のかけらとあなたの笑顔』
 あなたが落とした星のかけらを拾って瓶に入れる。薄紫色の星は瓶の中で光を受けてキラキラ輝いている。失恋したあなたは消えてしまいそうなほどに儚くて、そしてとても綺麗だ。
「いつも話を聞いてくれてありがとう」
 泣き止んだあなたの笑顔が見たくて、私はいつも本音を隠して傍にいる。


㉑『陰る太陽に焦がれる』
 いつも太陽のような笑顔で人々を魅了し、ヒーロー役が多かった推し俳優。今回は悪役のようだ。いつもとは違う色気のある流し目。薄く笑みを湛える彼に私の心は奪われた。けれど評判は思わしくなかったようだ。再びあの姿が見たい。私は今日も悪役の彼を液晶越しに見つめて感嘆の溜め息を漏らした。


㉒『白馬に乗った王子様』
 幼い頃は白馬に乗った王子様に憧れていた。しかし、歳を取り結婚し、王子様なんていないのだと悟った。今、隣には長年連れ去った夫がいる。馬に乗り走る姿は白馬に乗った王子様のようで、私はこっそりと夫に惚れ直す。私達は毎年夏になると遊びに行くのだ。孫の用意してくれたキュウリの馬に乗って。


㉓『蝉の命日』
「わたし、蝉なの。あなたに会いたくて人間にしてもらいました」
 緑色の髪の毛が光を浴びて光る。それは、羽化したての蝉の羽のように見えた。 七日後、彼女は呆気なく死んだ。今日が命日。あなたとの子供が欲しいと願う彼女に与えてやれたのはキスだけだった。ごめんな。命日には決まって頭を下げる。


㉔『隠れていたワカメ』
 お味噌汁を作った後のお鍋。洗剤で洗おうとして気付く。ワカメが鍋にくっ付いている。全てお椀によそったと思っていたのに。隠れていたワカメは洗剤に晒されており、もう食べられない。なんだか悲しくなってしまった。誰にも食べてもらえないなんて可哀想。ごめんなさい、ワカメさん。心の中で謝った。


㉕『違う、そうじゃない』
 夜に真っ暗闇だと心許ないのでセンサー式の懐中電灯を廊下に置いた。夜中、何回か明かりがつく。夫ではないらしい。私は夜中に恐る恐る廊下を見張る。五回、明かりがついては消えるを繰り返す。
「…… ア・イ・シ・テ・ルのサイン ?」
 私は思わず呟く。次の日から明かりが再びつくことはなくなった。


㉖『神様、おやつはおあずけです』
 入道雲が真っ白でふわふわして美味しそうだったので大好物のブルーハワイをかけて食べようと思いました。けれど青空に溶けて消えちゃいました。残念。


㉗『神様、笑って誤魔化してもだめです』
 神様のお友達のトンビさんが言いました。
「神様、ブルーハワイには味に決まりがないそうですよ」
「へえ、ブルーハワイにも色々あるんだね」
 神様は舌なめずりをしました。
「神様、全てのブルーハワイの味を試さないでくださいね」
「トンビくんは勘が良いね」
 神様はにこにこと笑いました。


㉘『クーラーにつられるチョロい幼馴染』
 茹だるような暑さもクーラーの前には敵わない。冷風を浴びながら宿題と格闘していると、目の前に飲み物が置かれた。私の好きなオレンジジュースだ。
「お~!やるね、友樹」
「何年の付き合いだと思ってるの。それぐらい分かるさ」
 毎年恒例だからね。友樹のおかげで私は涼しい夏休みを謳歌している。


㉙『恋する死体』
 俯瞰して見た僕の姿は酷いものだった。背中には何度も刺された痕があり、血の海に溺れるように倒れている。警察と思われる男達の中に混じって、一人の女性がいた。鑑識官というやつだろうか。彼女は僕の身体を隅々まで見つめ、調べる。その姿は真剣そのものだ。僕は彼女の眼差しに恋をしていた。


㉚『ノイローゼ』
 私は仕事柄沢山の死体を目にしてきた。だが、最近目にする死体はどれも同じ男なのだ。何度も何度も何度も現れる同じ死体。同僚や上司は違うと言う。ではこれは一体?私の頭がおかしくなったとでも言うのだろうか。懇願するような目はいつも濁っている。
「もうやめて」
 悲痛な声は空気に溶けて消えた。


㉛『声をかける相手を間違えた』
 ぽ、ぽ、ぽ、という音が近くで聞こえた。汽車に乗ったことはないけれど、汽笛はぽーっと鳴ると母が言っていたのを思い出す。この辺りに汽車はないはずなのに。私は音の方を歩いてゆくと、背の高い女性が見えた。八尺はあるだろうその人に声をかけた。
「この辺りに汽車はありますか?」
「ぽ?」
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