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解けない呪い
しおりを挟む「さよなら」
彼女の声が頭の中に反芻するように響く。去って行く彼女の後ろ姿。花柄のワンピースが脳裏に焼き付いて離れない。
俺は自分を取り繕うために嘘をついた。その嘘を見抜かれないように嘘を重ねる。繰り返していくうちに俺は嘘を鎧のように纏うようになっていた。最早取り外すことは困難だった。嘘で重装備した俺の前に彼女は現れた。
彼女と過ごすのはとても楽しかった。この感情は嘘ではない、はずだ。俺は彼女の温もりを求めて、ベッドに沈み込む。貪るような行為を終えた後、すぐに我に返ってしまう。俺はこの強固な鎧を外してしまうのが怖いのだ。臆病な俺は再び嘘つきに戻ってしまう。
「あなたの言葉って呪いみたいね」
彼女は悲しそうに笑った。嘘で塗り固めた愛は壊れてしまって、もう元には戻れない。
仕事の休憩時間に喫茶店に入る。洒落たジャズが店内を流れる。思いがけず、彼女を見つけた。形のいい唇には鮮やかなルージュ。彼女がお気に入りだと言っていたものだ。彼女は本を読みながら、カフェオレの入ったマグカップに口をつける。誰かと、待ち合わせだろうか。
なあ、香織。お前と別れて五年が経った今も、俺は呪いを吐いているよ。どうしたら呪いが解けるんだろうな。じわりじわりと込み上げてくる感情を押し殺す。俺は今日も自分に呪いをかけ続けている。
Fin.
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