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今日も彼女は変わらない
しおりを挟む「二人でどこかへ抜け出そうか」
由美は悪戯に笑って、手を差し伸べた。栗毛色の髪が遊ぶように揺れて、俺は見とれてしまう。おずおずと彼女の手を取ると、彼女はぐいと俺の手を引っ張って走り出す。
「お、おい、早いって!」
慌てて声を上げた俺は、高鳴る心臓とワクワクに押しつぶされそうだ。どこへ向かうのだろう。期待に満ちた俺の額に冷たい何かが当たって、俺は思わず飛び起きた。
「つめたっ!」
……な、なんだ?何が起こった?きょろきょろと辺りを見回すと、由美がサイダー片手に笑っていた。
「何寝てんの?もう放課後だよ」
太陽が傾き、橙色の空が由美の背後に広がっている。そうか、俺は寝ていたのか。ということはつまり、さっきのは夢……。俺は盛大に溜め息をついた。
「夢かあ……」
「何?どうしたの?」
「すっげーいい夢見た」
「どんな夢?」
「ナイショ」
「えー、教えてよ」
むう、とむくれる由美は可愛い。可愛いなど、恋人でもない俺がそんなことを言えるはずもなく。俺は鞄を持って立ち上がる。
「ほら、帰るぞ」
「教えてくれないの?ケチ」
「ケチで結構」
笑いながら俺は歩き始める。もう、と言いながら由美も後ろから付いてきた。俺達は中学生の頃からずっと、変わらずふざけてばかりの仲だ。他の男よりは仲がいいと言い切れるが、それだけだ。今はこのまま、二人で馬鹿やってるだけでも幸せだが、ずっと仲のいい友人でいるのは嫌だ。一方で、告白して玉砕したくもない。振られたのがきっかけで関係がギクシャクしてしまうのは御免だった。
由美が俺のことを意識していないのは接していてよく分かる。悲しいほどに。奇跡でも起きない限り、恋人になるのは難しいのかもしれない。
由美への想いを諦めきれない。俺は無意識に彼女を見つめる。その顔に、俺が好きだと書いていないか。絶対にありえないけれど、耳を澄ます。心の声が聞こえてこないか。無常にも、顔には何も書いていないし、何も聞こえない。
「どうかした?」
キョトンとした顔で見つめる彼女は、今日も憎らしいほど愛おしい。
Fin.
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