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僕のお姫さまはいつだって君だけ
しおりを挟む白雪 林檎がアイドルを辞めると言った。彼女は五人組アイドルグループ『Fairy Taleな私たち』のメンバーの一人だった。彼女はメンバーの中でも歌唱力、ダンス、MC力の全てに長けており、グループ内で一番の人気を誇っていた。同じくメンバーの一員である僕、白鳥 翔子は彼女に憧れを抱いていた。自分を極限まで追い込み、ファンの皆に笑顔を届ける彼女はアイドルの鏡だ。僕は彼女の隣に立てることを何よりも誇りに思っていた。それなのに。
「……林檎、どうして」
林檎は多くを語らなかった。眉を下げて、ごめんねと呟くだけだった。僕は衝動的に彼女の胸倉を掴んだ。
「謝るくらいなら辞めるって言うな!!」
林檎は動揺することなく、ごめんねと言うだけだった。一貫した態度に、彼女の意思が固いことを悟る。ズルズルと身体の力が抜けていく。僕は縋るように彼女の服を掴んだ。
「……ねえ、お願いだよ。嘘だって、冗談だって言ってくれないか」
眉を下げた林檎の言葉はこれで三度目だ。彼女は膝をついた僕を優しく抱擁する。ふわりと香る林檎の香水に包まれて、これが夢ではないことを思い知る。堪らずに、僕の瞳からは大粒の涙が零れ落ちた。彼女は、幼子をあやすように、僕の頭を撫でる。違う、こんなものが欲しいわけじゃない。僕は貴女の隣に立ち続けていたいだけ。それだけなのに、それすらも叶わないのか。
「大丈夫。翔子なら私がいなくても立派なアイドルよ」
僕は首を振る。
「違う、違うよ林檎。僕は、君とアイドルを続けたい。それだけなんだ」
「……ありがとう、翔子」
林檎は僕の額にキスを落とした。
「大好きよ」
その言葉は今、聞きたくなかった。
林檎はファンにも引退を発表した。ラストライブは悲しくなるほどあっという間で、お姫様のように可憐な林檎は表舞台から姿を消した。
彼女は今、何をしているのだろう。彼女は現在、連絡手段を一切絶っている。どこで何をしているのか、全く分からない。僕の悲しみは絶望と怒りに変わっていった。僕を捨てた貴女に思い知らせてやる。最高のアイドルを自分は見捨ててしまったと、後悔させてやる。僕は『Fairy Taleな私たち』を抜け、『白鳥 翔』としてソロ活動を始めた。白いスーツを身に纏い、頭には王冠のアクセサリーを身に着ける。コンセプトは『白鳥の王子様』だ。僕は今日もステージに立つ。
「待たせたね、僕のお姫様。さあ、舞踏会を始めよう!」
多くの歓声が僕には虚しく響く。僕のお姫様の席は今も空席のままだ。
Fin.
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