短編集(恋愛)

柊原 ゆず

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終末、どこ行く?

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 目を開けると、強い違和感を覚えた。締め切ったカーテンの下から太陽の光が零れて薄明るい部屋。これは昨日も一昨日もそうだった。それから、朝はいつもスズメのちゅんちゅんという声が聞こえる。毎朝の光景だ。けれど今朝はスズメの声がしない。それどころか、お母さんの声が聞こえない。いつもは『起きなさい』って声をかけてくれるのに。まだ朝早いのかなと思ったけれど、時計の短針は七を指している。いつもの、起きる時間だ。
 私はひとまず階段を下りて一階のリビングに向かった。リビングは雨戸とカーテンが閉め切っており、深夜のように暗かった。私は電気を点け、カーテンと雨戸をあけた。町の景色は変わらないが、人や鳥の気配がまるでなかった。独りぼっちで取り残されたような寂しさを感じて、私は自分以外の人間に会いたくなった。私は寝間着姿のまま、隣の家のインターホンを押した。ここには幼馴染で恋人の颯がいるはず。お願い、出て。祈るような心地で待っていると、ドアが開いた。

「結衣、おはよう。泣きそうな顔して、どうしたんだ?」

 私服姿の颯がいつもと変わらない様子でそこにいた。ずっと違和感に囲まれてきたせいか、昨日と変わらない颯を見てようやく安心することができた。

「お、おい、泣くなって。お前、ほんとどうしたんだよ?」

 気が付いたら私は泣いていた。安心したからだろうか。颯はおろおろとしながらも、親指で私の涙を拭ってくれた。ああ、いつもの優しい颯だ。

「ごめん、ちょっと安心しちゃって」
「まあいいけどよ。で、どうしたんだ?パジャマ姿で」
「今朝起きたらお母さんもお父さんもいなくて。それどころか、鳥も、近所の人も皆いなくなっちゃったみたいに誰もいないの」
「俺はここにいるぞ」
「そうなんだけどね、もしかしたら私と颯の二人だけかもしれない」
「二人きりなんて久しぶりだな」
「そうだね。最近颯忙しかったから……って、そんなこと言ってる場合じゃないよ!」

 焦る私と対称的に、いつもの調子の颯。そんな颯を見ていると焦っていた思いがふわふわと飛んでいってしまうようで、私は颯に突っ込みながら笑ってしまった。

「ねえ、結衣。どこ行く?」
「え?」
「折角二人きりになれたんだよ。好きなところ行こうよ」
「そっか、好きなところに行って、他に人がいないか探せば一石二鳥だね!」
「いや、そういうつもりじゃないんだけどなあ……」

 名案だ、と目を輝かせる私に、颯は微妙な顔をする。

「ま、いいか。そうだね。デートしながら人がいないか探そう」
「デート……」

 デートという言葉は恋人になりたての私にはちょっと恥ずかしい言葉だ。照れる私に、颯は笑いながら手を差し伸べる。

「じゃ、行こっか」
「まだ行き先決めてないのに?」
「歩きながら決めようよ。その方が楽しいでしょ?」
「ふふ、そうだね」

 私は颯の手を取って歩き出した。

Fin.
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