短編集(恋愛)

柊原 ゆず

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お姫様と馬

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 幼稚園に通う息子は毎日が楽しそうだ。親としては、とても嬉しいし、健やかに成長するようにと願ってやまない。息子にはお友達ができたそうだ。かのんちゃんという、息子の言葉を借りると『かっこいい』女の子だそうだ。前に幼稚園でかのんちゃんを見かけたことがあるが、お姫様のように可愛らしい女の子だった。

「ママ、きょうかのんちゃんがね」
「うん、かのんちゃんがどうしたの?」

 息子は毎日、幼稚園であったことを私に話してくれる。私はそれを聞くのが密かな楽しみになっていた。

「なんでおひめさまはたすけをまっているだけなんだろうっていったの」

 何かのお伽噺でも読んだのだろうか。確かに、お姫様は助けを乞うことが多い。某ゲームの桃色のお姫様なんかは最も当てはまるところだろう。

「そうなんだ。ご本でも読んだのかな?」
「わかんない。かのんちゃんはおひめさまいやなんだって」
「かのんちゃんはお姫様嫌なんだね」
「うん。でもおひめさまならおうじさまはいらない」
「ん?……かのんちゃんがお姫様なら、王子様はいらないってこと?」
「うん」

 あんなに可愛いのにお姫様は嫌なのか。私が幼い頃はお姫様になりたかったけどなあ。フリルがふんだんにあしらわれた可愛い洋服を着て、ごきげんよう、なんて言って遊んだのを思い出す。お姫様は嫌煙される、それがイマドキなのだろうか。

「おうじさまよりもおうまさんがほしいって」
「お馬さん?」
「うん」
「えっと……、一緒に走るのかな?」
「ちがう!おれがおうまさん!」
「えっ」

 息子が馬?ちょっと展開について行けない。

「おれのせなかにかのんちゃんをのせてはしるんだ!」
「あっ、そういう遊びなのかな?」
「ちがう!おれはずっとかのんちゃんのおうまさん」
「えっ、勇太はそれでいいの?」
「うん!かのんちゃんとずっといっしょ!」
「そ、そっかあ……」

 幼稚園でかのんちゃんを乗せて四つん這いで歩く息子を想像する。うーん、いいのだろうか。当人達がいいならいいんだけどさ。

「勇太はかのんちゃん好き?」
「あいしてる」
「えっ」
「けっこんする」
「えっ」

 あ、そこはお姫様と馬関係なくそうなのね……。





 二十年後、お姫様と馬は結婚しましたとさ。めでたしめでたし……でいいのかな?今日も勇太は花音ちゃんの尻に敷かれて元気に走っています。勇太がニコニコと幸せそうなので母はこういう愛の形もあるんだなと、日々二人を眺めては思うのでした。

Fin.
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