ヤンデレ小話

柊原 ゆず

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はちみつ☆レモンソーダ

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 少女漫画を読むのが大好き。イケメンが甘い言葉を囁いて、主人公は恋に落ちてしまうの。王子様のような、素敵なイケメンに口説かれてみたい。少女漫画のように、甘く優しい恋をしたい。友達には夢見がちだと言われてしまったけれど、信じていれば叶うものなのよ。私は未だ見ぬ恋を探す少女漫画の主人公。私はそう信じて疑わなかった。
 私の通う高校は制服が可愛い。制服のデザインで高校を選んだので、通学時間は他の生徒よりも長くなってしまった。可愛い制服を着れるのならば安いものよ。私は満員電車に揺られながら、昨日読んでいた少女漫画を思い出していた。『はちみつ☆レモンソーダ』は今人気の少女漫画だ。蜂蜜のように甘く優しい先輩と、レモンのように少しツンとした幼馴染の間で揺れる乙女心を描いた話だ。ソーダのように刺激的で、私は夢中で読み進めていた。私が好きなのは高蜂先輩だ。甘い言葉を主人公にかけてくれる。ああ、私も甘い言葉を囁かれてみたい。
 夢見心地の私に、現実が襲う。お尻に、無骨な手が当たっているのだ。気のせいかと思ったけれど、形を確かめるように撫でる様に、肌が粟立つ。痴漢だ……!声を出したいのに、怖くて声が出ない。誰か、助けて……!

「おい、何してるんだ?!」

 男の声がした。恐る恐る声の方を見ると、同じ学校の制服を着たイケメンがおじさんの手首を掴んでいた。

「な、何をする?!」
「痴漢していただろ!」

 抵抗するおじさんに構わず、彼は丁度停車した駅の駅員さんにおじさんを突き渡した。私はお礼を言うために同じく下車した。

「あ、あの、助けてくれて、ありがとうございます!」

 勇気を振り絞って彼に声をかける。彼は私に気付くと、柔和な笑みを浮かべた。

「いや、僕は当然のことをしただけだよ。それよりも君、大丈夫かい?怖かっただろう?」

 優しく気遣う彼に、安心したからか涙が溢れた。初めてのことで、とても怖かったのだ。彼は私が泣き止むまで優しく背を擦ってくれた。

「すみません、突然泣いてしまって……」
「いいんだよ。少しでも君の気分が良くなってくれたら嬉しいな」
「あ、あの。君じゃなくて、美紀って呼んでください」

 彼は驚いた顔で私を見た。

「いいのかい?」
「はい!」
「じゃあ、僕のことは樹って呼んでね」

 嬉しそうに笑う樹さんはとても格好良くて、私は恋に落ちてしまった。

「ねえ、今日一日だけ学校休まない?」

 樹さんは悪戯に笑う。刺激的な誘いだ。『はちみつ☆レモンソーダ』を思い出す。ソーダのようにパチパチしていて、わくわくする。私は彼の誘いに乗ることにした。





 樹さん、いや樹とはその後も連絡を交わして、付き合うことになった。顔を赤くさせて告白した樹は格好いいのに可愛くて、私は二つ返事で彼と恋人になった。

「ねえ、美紀」
「なあに?」
「僕、浮気されるのは嫌なんだ」
「私もよ!」
「僕は女友達の連絡先を全部消すから、美紀も男友達の連絡先を全部消してほしいな」
「そうね、浮気は嫌だもの。消すわ」

 私達は異性の連絡先を消去した。彼が私との交際に真剣なのだと感じてとても嬉しかった。
 それから、樹と昼休みはいつも一緒にいた。一つ学年が上の樹が迎えに来てくれるのだけれど、イケメンな彼は他の学生の注目の的で、誇らしくも少し嫉妬してしまう。

「美紀、今日は誰と何を話していたの?」

 樹は私の話を聞くのが好きだと言ってくれた。私は昼休みに、ご飯を食べながら今日あったことを話す。私が異性のクラスメイトと話すのを嫌う彼だから、私はなるべく同性の友達と過ごしている。

「ああ、僕も話に混ざれたらな。もっと一緒にいたいね」

 寂しそうに言う彼に胸がキュン、とする。学年が一つ違うだけで、会う時間が限られてしまうのだ。

「私も樹と、もっと一緒にいられたらなあ」

 しゅんとする私に、樹が何かを閃いたような顔をした。嬉しそうな顔をした樹は私の両手を取った。

「そうだ、美紀!高校を卒業したら結婚しよう!」

 樹の口から出たのは爆弾発言だった。け、結婚?!私は赤面してしまう。早すぎる展開に頭が追い付かない。

「結婚したらずっと一緒にいられるよ!僕は大学に入って美紀を養えるようにたくさん勉強するから!」

 興奮して顔が近い樹。綺麗な顔が目前にあって、私はドキドキしてしまう。私のことを、真剣に考えてくれている。それが嬉しくて、私はコクコクと頭を縦に振った。

「嬉しい……。僕、頑張るからね!」

 この時の私は、まさか彼に監禁されることになるとは思いもしなかったのだ。

Fin.
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