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異世界と少年と私

アリアナの指導

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先日、ロワーズに頼んでおいた体術や剣術の指導は護衛のアリアナに担ってもらうことにした。アリアナは真面目というか、ディエゴに比べると騎士として凛としている分、話をする機会を逃していた。
 ちょうどいい機会だし、アリアナの人となりを知れたらいいな、などと呑気に思っていたら、アリアナのほうから声を掛けてくれた。

「エマ様、体術や剣術の指導をご希望とのこと。指導の希望日などはございますか?」
「今日からはいかがでしょうか?」
「分かりました。それでは本日は皆様の体力などを見せて頂きます。それから、それぞれに合う指導をしたいと思います。三人とも動きやすい服装に着替えて下さい。外でお待ちしております」
「分かりました」

 シオンとアイリスの三人で着替えて外に出る。今日は寒いので二人にはウールのインナーを着せている。
 指導が始まる前に、アリアナに伝えなければならないことを言う。

「シオンですが、大きな声などが苦手です。甘やかせとは言いませんが……優しく接して頂きたいのですが可能ですか?」
「エマ様、私のことはアリアナと呼び捨てにして下さい。シオン様の事情は少しですが護衛の注意点としてロワーズ様に伺っております。限度を見誤らないよう注意いたします」
「そうですか。よろしくお願いします」
「それでは、まずは走り込みからやりましょう」

 アリアナが穏やかな声で声を掛けると三人同時に駆けだした。
 走り出して十数分――

(あれ? 私、こんなに走れるの?)

 足取りは軽快だ。
 三十分ほど走り止まる。息切れすらしていない……。
 逆にシオンとアイリスは荒く息をあげている。これが体力のレベルの違いなの?

「エマ様は体力に問題ありませんね。マーク様とシオン様はこれから出来るだけ毎日走り込みをして体力を上げていきましょう」
「はい」

 シオンとアイリスにタオルと水を出し、しばしの休憩後にアリアナから剣を渡される。

「次はこちらの剣をお持ちください。始めは両手できちんとお持ちください。右手は上に親指は立てて剣の峰に沿わせてお持ちください」
「重てぇな。持ち上がらねぇぞ」
「ぼくも」

 確かにこんな太い剣は子供たちには重すぎる。これがこちらのスタンダードな剣なのだろうか? 両刃だけど切れ味は悪そう。
 剣を眺めているとアリアナがギョッとした顔で私を見る。

「エ、エマ様は片手でも持ち上げられるのですね……剣は刃を潰しておりますのでご安心下さい。皆様には剣の重さを実感して頂きたかっただけです。実際の練習には木剣を使用します。エマ様は……そのままでも大丈夫だと思いますが、いかがしますか?」
「私も木剣でお願いします」

 渡された木剣は先ほどの剣に比べればすこぶる軽い。ブンブンと振っていたら手に力を入れすぎたのか、木剣がボキッと折れた。

「あー……」
「エマのけんがこわれちゃったよ」

 なぜか目を輝かしながらシオンが言うが、その横ではアイリスとアリアナがドン引きをしている。
 気を取り直したアリアナが咳ばらいをしながら言う。

「エマ様は先程の剣をお持ちください。今から素振りをやってもらいます。剣は上から肘を曲げないように身体の軸崩れないように」

 アリアナが何度かゆっくりと素振りを披露する。子供たちもコツを掴んだところで素振りを開始、素振り開始一分程で子供たちの息が上がり始める。素振りは初めてしたけど……確かに体力がいる。五分もせずに子供たちは素振りから脱落して地面に座り込んだ。
 私はもう少しいけそうだったのでしばらく素振りに集中していると、アリアナに止められる。

「エマ様……もう素振りは結構です。始めからそんなに素振りをする者は見たことないですよ。もう剣を下ろしてください」

 体力的にはまだいけそうだけど……あれ? いつの間にかシオンとアイリスがお茶を飲んでいる。
 アイリスが呆れながら言う。

「エマがいつまでも素振りしているから、リリアさんが俺たちに茶を出したんだよ」
「エマ、すごいね!」

 シオンはキラキラ顔だ。
 そんなに長く素振りをしていたつもりはなかったけど、集中しすぎたのかな?

「休憩も終わって下さい。次はまた体力の指導をします」
「私、休憩してないけど……」
「……エマ様なら大丈夫でしょう。さて、それでは腕立て伏せから始めます」

 その後、腹筋、背筋、スクワット、ジャンピングスクワットや反復横跳びをした。私の反復横跳びを見て『フォレストエイプのようですね』とアリアナに感想を言われた。褒め言葉……?
 体力作りは続き、腿上げやアンクルホップをやらされた。縄跳びこちらにもあったのね。

「次は、うつ伏せで肘をついて身体をあげてください」

 プランクか……プランクをやったらリバースプランクにサイドプランクをやらされる。子供たちには基礎から指導していたが……私には――

「はい。そこで足を上げてください。もっと上げて! 保って保って。まだですよ。まだ出来ます」

 き、きつい。

「あ、あの」
「はい。では力を抜いて下さい」

 終わった? 少し息が上がる。子供たちを見れば、疲れて地面に転がっていた。
 アリアナは最初から厳しくするつもりはないと言ったのに、なかなかハードな初日だったと思う。しかも絶対Sだよね、アリアナさん。腕立て伏せしている私の上に乗って『エマ様ならもう一人乗っても大丈夫ですね』と満面の笑みで言われたし……。

「それでは、本日はここまでです。皆様しっかりと身体を休めてください」
「「「ありがとうございました」」」

 部屋へ戻る途中ボソッとアイリスが呟く。

「アリアナは鬼だな」
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