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異世界と少年と私
上司ゴリラ
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子供たちの待つ部屋に帰る足取りは重い。
正直ヨハンも契約愛人も断って自力で頑張ってもいいのだけど……私だけではなく子供二人の生活も掛かっているのにリスクは取りたくない。ロワーズの側も狙われるから完全に安全というわけではないけどね。
それに、一度走り始めた噂は止められない……別に生娘な訳でもないし、結婚願望がある訳でもないから勘違いされても平気だ。仕事と割り切るしかない。
(あれ、この身体はどうなっているんだろう?)
大体この身体が何歳なのかも分からい……頭を振る。そんなことより子供たちと相談しなければいけないことが山積みだ。
青の間に戻るとシオンが駆けよってくる。
「エマ! おかえりなさい」
「シオン、マーク。話があるのだけど聞いてくれる?」
包み隠さずに今の状況や仕事の依頼、それからそれに伴う問題を話した。子供だからって変に隠しても誤解を生むだけだしね。シオンがすべて理解できているかは分からないけど。
マークが目を見開きながら興味津々に言う。
「金貨四十枚はすげぇな。俺の調理班の給金一日銀貨一枚だったぜ。寝るとこも食べ物もあったから困らなかったけど」
「あいじんってどういういみ?」
シオンは逆に不安そうな顔をしている。
「えとね、実際に愛人になる訳じゃなくて……愛人のフリをするだけだからね。ロワーズの――そう彼女のフリだよ。仕事は別にあるから。ある程度のお金を稼いだら自立しようと思っている。それまで、このお仕事でお金を貯めたいと思っているの」
「そうか。それまでよろしくな」
アイリスがすっきりした顔で言う。
「何を言ってんのよ。自立する時はマークも一緒よ。もう家族なんだから」
「……そうか……家族か」
アイリスは複雑そうな顔をしていたが、耳が赤くなっていたので照れているのがわかる。アイリスの事情をまだ詳しく分からないけど、彼女だけ置いて行くとかいう選択肢はない。
「それでこの仕事を受けたいと思っているのだけど、二人の同意が欲しいのよ。二人にも関わる事だから」
「俺はいいと思うぜ。なんせ金がいいしな」
「カレシになったらぼくたちはいらないの?」
ん? あれ? シオンの話が噛み合ってない。どうしたんだろう?
「シオン、違うよ。愛人もフリだから本当にそうなる訳じゃないよ。他の人に分からない様にお仕事する為だよ。どうしてシオンを要らないと思うの?」
「……おかあさんが、カレシできたからぼくはいらないって」
「……シオンがいらないなんて事は絶対にない。シオンもマークも一番だよ。こっちにおいで」
シオンを抱っこしてハグをする。シオンから初めて聞く母親の話は、部分部分だったが胸糞の悪くなるものだった。
「ロワーズは、私の彼氏じゃなくて上司だよ。ボスだよボス。そうそうボス猿だよ。あ」
最近、制御出来ていたはずの妄想魔法が勝手に発動する。出てきたのは、ロワーズの顔をした大きなゴリラ。これ、猿じゃないし。
ロワーズゴリラが昔の上司と同じセリフを言う。
「帰ろうとしている所、悪いんだけどさぁ、この資料今日までにまとめよろしく」
妄想魔法、これ、喋れたんだ……。内容はともかくここまではっきりと声を出しているのは初めてだ。
「俺の懐が寂しい頭も寂しい。なんちゃって!」
ロワーズゴリラがテヘペロする姿に殺気が湧く。早く消えろ!
そう願うと瞬時に妄想魔法は消えた。
アイリスが興奮しながら言う。
「なんだ今の! デカイ魔物だったな。言葉を話していたし……なんか団長に似ていたな」
「おサルさんおおきかったね」
「いや、あれはゴリラなんだけどね。とにかくお仕事を受けたからといって、二人が要らないという事はないからね。どうかな? このお仕事受けてもいいかな?」
「「うん」」
正直ヨハンも契約愛人も断って自力で頑張ってもいいのだけど……私だけではなく子供二人の生活も掛かっているのにリスクは取りたくない。ロワーズの側も狙われるから完全に安全というわけではないけどね。
それに、一度走り始めた噂は止められない……別に生娘な訳でもないし、結婚願望がある訳でもないから勘違いされても平気だ。仕事と割り切るしかない。
(あれ、この身体はどうなっているんだろう?)
大体この身体が何歳なのかも分からい……頭を振る。そんなことより子供たちと相談しなければいけないことが山積みだ。
青の間に戻るとシオンが駆けよってくる。
「エマ! おかえりなさい」
「シオン、マーク。話があるのだけど聞いてくれる?」
包み隠さずに今の状況や仕事の依頼、それからそれに伴う問題を話した。子供だからって変に隠しても誤解を生むだけだしね。シオンがすべて理解できているかは分からないけど。
マークが目を見開きながら興味津々に言う。
「金貨四十枚はすげぇな。俺の調理班の給金一日銀貨一枚だったぜ。寝るとこも食べ物もあったから困らなかったけど」
「あいじんってどういういみ?」
シオンは逆に不安そうな顔をしている。
「えとね、実際に愛人になる訳じゃなくて……愛人のフリをするだけだからね。ロワーズの――そう彼女のフリだよ。仕事は別にあるから。ある程度のお金を稼いだら自立しようと思っている。それまで、このお仕事でお金を貯めたいと思っているの」
「そうか。それまでよろしくな」
アイリスがすっきりした顔で言う。
「何を言ってんのよ。自立する時はマークも一緒よ。もう家族なんだから」
「……そうか……家族か」
アイリスは複雑そうな顔をしていたが、耳が赤くなっていたので照れているのがわかる。アイリスの事情をまだ詳しく分からないけど、彼女だけ置いて行くとかいう選択肢はない。
「それでこの仕事を受けたいと思っているのだけど、二人の同意が欲しいのよ。二人にも関わる事だから」
「俺はいいと思うぜ。なんせ金がいいしな」
「カレシになったらぼくたちはいらないの?」
ん? あれ? シオンの話が噛み合ってない。どうしたんだろう?
「シオン、違うよ。愛人もフリだから本当にそうなる訳じゃないよ。他の人に分からない様にお仕事する為だよ。どうしてシオンを要らないと思うの?」
「……おかあさんが、カレシできたからぼくはいらないって」
「……シオンがいらないなんて事は絶対にない。シオンもマークも一番だよ。こっちにおいで」
シオンを抱っこしてハグをする。シオンから初めて聞く母親の話は、部分部分だったが胸糞の悪くなるものだった。
「ロワーズは、私の彼氏じゃなくて上司だよ。ボスだよボス。そうそうボス猿だよ。あ」
最近、制御出来ていたはずの妄想魔法が勝手に発動する。出てきたのは、ロワーズの顔をした大きなゴリラ。これ、猿じゃないし。
ロワーズゴリラが昔の上司と同じセリフを言う。
「帰ろうとしている所、悪いんだけどさぁ、この資料今日までにまとめよろしく」
妄想魔法、これ、喋れたんだ……。内容はともかくここまではっきりと声を出しているのは初めてだ。
「俺の懐が寂しい頭も寂しい。なんちゃって!」
ロワーズゴリラがテヘペロする姿に殺気が湧く。早く消えろ!
そう願うと瞬時に妄想魔法は消えた。
アイリスが興奮しながら言う。
「なんだ今の! デカイ魔物だったな。言葉を話していたし……なんか団長に似ていたな」
「おサルさんおおきかったね」
「いや、あれはゴリラなんだけどね。とにかくお仕事を受けたからといって、二人が要らないという事はないからね。どうかな? このお仕事受けてもいいかな?」
「「うん」」
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