71 / 79
異世界と少年と私
異世界の雇用条件
しおりを挟む
雇用条件を尋ねると、ワーズが口角を上げる。
「雇用条件だな。準備している。ハインツ」
「はい。エマ様の雇用条件として月に金貨四十枚。それから、密偵などを捕まえた時の特別報酬と衣食住の保証付きとなります。他にご希望があれば可能な限り配慮します」
月に金四十枚は一家族の四倍だ。それにプラスして衣食住の保証は……かなりの好条件だと思う。条件が良すぎて裏がありそうで怖い……。
「私には子供たちがいますので……食住は子供の分もお願いできますか? 給与から天引きで構いません。それから仕事内容の確認を詳しくしたいです。後、この仕事に期限はありますでしょうか?」
すぐに思いつく質問をするが、ハインツはすでに答えを持っていたかのように微笑む。
「子供たちの衣食住はロワーズ様の庇護下ですので、エマ様の給与からの天引きはございません。衣には武器の新調も含まれております。上限がございますので、その説明は後ほどいたします。仕事は主に鑑定ですが……鑑定と魔力の高さは内密にしていただきたいと思っております。それに伴いロワーズ様の側にいる『隠れ蓑』が必要となります」
「隠れ蓑ですか……それは、侍女とかですか?」
「違います。愛人です」
「は 愛人?」
ハインツが躊躇もせずに済ました顔で言うので思わず素で反応してしまう。なぜ隠れ蓑が愛人でないといけないの? ロワーズを睨むと申し訳なさそうに目を逸らす。
「あ、愛人役をしたら、シオンやマークがさらに狙われる事態になるのではないでしょうか?」
「……逃げた下男はもうすでにそう報告しておるだろう。それに言わなかったが騎士たちも大勢がすでにそう認識している。噂というものは速い、今更否定しても誰も信じてくれまい」
「愛人として認識されている……? あの、せめて恋人とか親しい友人とか言い方あるでしょう。愛人って……」
振り返りディエゴとアリアナに嘘だと言って欲しくて同意を求めるが――
「いや、俺は違うって分かっている――うぐっ」
ディエゴが話の途中でアリアナに肘打ちされると、言葉遣いを変えそのまま話を続ける。
「――ですが、他の騎士はまた別で……。その、お二人が裸で抱き合っているのを見た騎士もいましたので。その、団長にもついに春が来たと酒のつまみで話が盛り上がっておりました」
アリアナも続けて真剣な顔で言う。
「私も今の話を聞くまで団長の愛人の護衛を命じられたと思っておりました。申し訳ございません」
密偵にいろいろ勘違いされているのも、騎士どもが勝手に盛り上がって噂をばら撒いているのもどちらとも最悪だ。愛人天幕とあの事故のせいか……あの時に裸だったのロワーズだけだし!
思考が追いつかない。でも、考えてみれば……そう捉えられていてもおかしくない。
ロワーズが苦笑いしながら顎をなぞり冷静に言う。
「不本意でも、それを利用するのみだ。あくまで愛人役だ。期間は設けていないがエマ嬢が辞めたくなったら相談してくれればいい」
続けてロワーズに質問があるかと尋ねられたので、一番にモヤモヤしていることを尋ねる。
「こちらで愛人とはどういう意味でしょうか?」
「婚姻を結んでない者同士が閨を共にすることだが、我々の契約ではそこまで要求はしない」
「それは……恋人とは言わないのですか?」
私の質問にロワーズが言いよどみ、代わりにハインツが答える。
「恋人とは文の交換など健全なお付き合いのことを言います」
「ソウデスカ……故郷で愛人はあまり世間体の良い事ではありません」
「そうなのですか? 貴族は婚姻後、嫡子が産まれたら愛人をつくられる方も多いので、世間体は悪くありませんのでご安心下さい」
「それは。未婚の場合もですか?」
「……それは」
ああ、やっぱり良くないって話じゃない!
まぁ、そうでしょうね。こちらの貞操観念は愛人とか緩い割に足をちょっと見せただけでビックリしていたけど……境界線が分からない。
大きなため息をつく。
北の砦にヨハンと残り命を狙われるか、ロワーズと共に行動して愛人役をしながら命を狙われるのか。ガックリな二択だ。
「それで、私が愛人役を引き受けたらシオンとマークは世間からのどのように見られますか?」
「子は宝だ。世に子を残すのは貴族にとっては義務でもある。婚外子や未婚の子でも引けを取るなどない。家督を継げるのは嫡出子の長子か摘出子として養子に入る者だけだが、愛人という立場だから子供たちが罵られたりする事はない」
ロワーズは自信満々にそう言うが、考える時間が欲しい。
「今、返事はできません。子供たちの同意を得てから決めます。そして条件を増やします。私や子供たちに体術や剣の扱いを教えることのできる方をつけて欲しいです。自分の身は結局自分で守らないといけないので」
「それならアリアナが適任だろう。急だが旅の準備もある、可能なら返事は早めにお願いしたい」
「子供たち次第ですが、今日か明日には返事できると思います」
「雇用条件だな。準備している。ハインツ」
「はい。エマ様の雇用条件として月に金貨四十枚。それから、密偵などを捕まえた時の特別報酬と衣食住の保証付きとなります。他にご希望があれば可能な限り配慮します」
月に金四十枚は一家族の四倍だ。それにプラスして衣食住の保証は……かなりの好条件だと思う。条件が良すぎて裏がありそうで怖い……。
「私には子供たちがいますので……食住は子供の分もお願いできますか? 給与から天引きで構いません。それから仕事内容の確認を詳しくしたいです。後、この仕事に期限はありますでしょうか?」
すぐに思いつく質問をするが、ハインツはすでに答えを持っていたかのように微笑む。
「子供たちの衣食住はロワーズ様の庇護下ですので、エマ様の給与からの天引きはございません。衣には武器の新調も含まれております。上限がございますので、その説明は後ほどいたします。仕事は主に鑑定ですが……鑑定と魔力の高さは内密にしていただきたいと思っております。それに伴いロワーズ様の側にいる『隠れ蓑』が必要となります」
「隠れ蓑ですか……それは、侍女とかですか?」
「違います。愛人です」
「は 愛人?」
ハインツが躊躇もせずに済ました顔で言うので思わず素で反応してしまう。なぜ隠れ蓑が愛人でないといけないの? ロワーズを睨むと申し訳なさそうに目を逸らす。
「あ、愛人役をしたら、シオンやマークがさらに狙われる事態になるのではないでしょうか?」
「……逃げた下男はもうすでにそう報告しておるだろう。それに言わなかったが騎士たちも大勢がすでにそう認識している。噂というものは速い、今更否定しても誰も信じてくれまい」
「愛人として認識されている……? あの、せめて恋人とか親しい友人とか言い方あるでしょう。愛人って……」
振り返りディエゴとアリアナに嘘だと言って欲しくて同意を求めるが――
「いや、俺は違うって分かっている――うぐっ」
ディエゴが話の途中でアリアナに肘打ちされると、言葉遣いを変えそのまま話を続ける。
「――ですが、他の騎士はまた別で……。その、お二人が裸で抱き合っているのを見た騎士もいましたので。その、団長にもついに春が来たと酒のつまみで話が盛り上がっておりました」
アリアナも続けて真剣な顔で言う。
「私も今の話を聞くまで団長の愛人の護衛を命じられたと思っておりました。申し訳ございません」
密偵にいろいろ勘違いされているのも、騎士どもが勝手に盛り上がって噂をばら撒いているのもどちらとも最悪だ。愛人天幕とあの事故のせいか……あの時に裸だったのロワーズだけだし!
思考が追いつかない。でも、考えてみれば……そう捉えられていてもおかしくない。
ロワーズが苦笑いしながら顎をなぞり冷静に言う。
「不本意でも、それを利用するのみだ。あくまで愛人役だ。期間は設けていないがエマ嬢が辞めたくなったら相談してくれればいい」
続けてロワーズに質問があるかと尋ねられたので、一番にモヤモヤしていることを尋ねる。
「こちらで愛人とはどういう意味でしょうか?」
「婚姻を結んでない者同士が閨を共にすることだが、我々の契約ではそこまで要求はしない」
「それは……恋人とは言わないのですか?」
私の質問にロワーズが言いよどみ、代わりにハインツが答える。
「恋人とは文の交換など健全なお付き合いのことを言います」
「ソウデスカ……故郷で愛人はあまり世間体の良い事ではありません」
「そうなのですか? 貴族は婚姻後、嫡子が産まれたら愛人をつくられる方も多いので、世間体は悪くありませんのでご安心下さい」
「それは。未婚の場合もですか?」
「……それは」
ああ、やっぱり良くないって話じゃない!
まぁ、そうでしょうね。こちらの貞操観念は愛人とか緩い割に足をちょっと見せただけでビックリしていたけど……境界線が分からない。
大きなため息をつく。
北の砦にヨハンと残り命を狙われるか、ロワーズと共に行動して愛人役をしながら命を狙われるのか。ガックリな二択だ。
「それで、私が愛人役を引き受けたらシオンとマークは世間からのどのように見られますか?」
「子は宝だ。世に子を残すのは貴族にとっては義務でもある。婚外子や未婚の子でも引けを取るなどない。家督を継げるのは嫡出子の長子か摘出子として養子に入る者だけだが、愛人という立場だから子供たちが罵られたりする事はない」
ロワーズは自信満々にそう言うが、考える時間が欲しい。
「今、返事はできません。子供たちの同意を得てから決めます。そして条件を増やします。私や子供たちに体術や剣の扱いを教えることのできる方をつけて欲しいです。自分の身は結局自分で守らないといけないので」
「それならアリアナが適任だろう。急だが旅の準備もある、可能なら返事は早めにお願いしたい」
「子供たち次第ですが、今日か明日には返事できると思います」
212
お気に入りに追加
1,210
あなたにおすすめの小説
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
神によって転移すると思ったら異世界人に召喚されたので好きに生きます。
SaToo
ファンタジー
仕事帰りの満員電車に揺られていたサト。気がつくと一面が真っ白な空間に。そこで神に異世界に行く話を聞く。異世界に行く準備をしている最中突然体が光だした。そしてサトは異世界へと召喚された。神ではなく、異世界人によって。しかも召喚されたのは2人。面食いの国王はとっととサトを城から追い出した。いや、自ら望んで出て行った。そうして神から授かったチート能力を存分に発揮し、異世界では自分の好きなように暮らしていく。
サトの一言「異世界のイケメン比率高っ。」
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)
こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位!
死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。
閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話
2作目になります。
まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。
「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」
スキル調味料は意外と使える
トロ猫
ファンタジー
2024.7.22頃 二巻出荷予定
2023.11.22 一巻刊行
八代律(やしろ りつ)は、普通の会社員。
ある日、女子大生と乗ったマンションのエレベーター事故で死んでしまう。
気がついたら、真っ白な空間。目の前には古い不親切なタッチパネル。
どうやら俺は転生するようだ。
第二の人生、剣聖でチートライフ予定が、タッチパネル不具合で剣聖ではなく隣の『調味料』を選んでしまう。
おい、嘘だろ! 選び直させてくれ!
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる