67 / 79
異世界と少年と私
お風呂
しおりを挟む
挨拶をしてロワーズの部屋を子供たちと退散してため息をつく。
ヨハンから滲み出る疑いの圧がとにかく凄い。正直、ヨハンとはしばらく会わなくても何も問題はないと思う。
アイリスが眉間に皺を寄せながら言う。
「あいつ何がしたかったんだ? エマ、腕は大丈夫か?」
「マーク、大丈夫よ。心配してくれてありがとう」
「いや、俺は別に……」
照れるアイリスの髪を見れば少々旅の汚れが溜まっている。シオンもだ。そして多分私も。
「今日は髪を洗おうか」
日本のような風呂はないけれど、部屋についている風呂スペースのような場所にはタライが設置されている。お湯を入れ簡易風呂として使えるようだ。エコバッグに入っているシャンプーとリンスをコピーする。
アイリスがタライを見ながら顔をしかめる。
「洗浄の魔法で綺麗になるだろ?」
「洗浄ではある程度しか綺麗にならないのよ。ちゃんと洗いましょう。マークとシオン、どちらが先に入る? お湯を準備するから二人で決めて」
「ぼくは……はいりたくない」
シオンが強張りながら下を見る。ああ、またトラウマを刺激したのかもしれない……。どうやら風呂に浸かるのが嫌なようだ。
「お風呂に浸かる必要はないから。でも、髪だけは洗おうか。服も脱がなくていいから。どう?」
「……わかった」
「じゃあ、先にマークから入ろうか?」
「お、おう」
シオンは少し時間が必要そうなので、先にマークを風呂に入れる。
水魔法と火魔法を使いタライにお湯を張る。アイリスも準備できたみたいなのでタライに入ってもらう。ボディソープを準備されていたリネンのタオルにつけ、泡立てる。リネンのタオルはゴワゴワしているけれど仕方ない。
アイリスが泡立ち始めたタオルをみながら目を見開く。
「すげぇな! それ、シャボンだろ。しかも香り付き。前に使ったシャボンはこんな匂いしなかったぜ」
このボディソープはフローラルの香りとしか書いていないけど、確かに良い匂いが広がっている。その香りのおかげでこの世界に来てからの緊張感がほどけ和んでしまう。明日、これもコピーしよう。
シャンプーとリンスはジャスミンの香りでこれもなんだか懐かしく感じた。風呂上がりのアイリスの髪を櫛で梳かしながら風魔法と火魔法でドライヤーをかける。
「見たことない魔法だな。俺は魔法の練習をしてこなかったから……あんまり分かんねぇけど、エマが凄いってのは分かる」
「マークが練習したいなら、シオンと一緒にすれば良いと思うよ。まぁ、すでに一緒に練習しているけどね」
「俺が?」
「そう。ほら、あの光の遊びよ」
「あれがか……そうなのか」
アイリスは風呂上りに疲れが出たのか無言になってしまったので、私も無言でアイリスの髪を仕上げる。最後にアイリスの毛先に少しヘアオイルを絡ませる。
「はい。終了ね」
「ありがとな。髪を洗ってもらうなんて何年振りかだ」
つやつやの髪を触りながらアイリスが嬉しそうに言う。
やはり洗浄より洗ったほうが髪は綺麗になると思う。洗浄の方が簡単だからこまめにそちらを使うだろうけど、これからも風呂が使える時には洗ってあげようと思う。タライの水に洗浄の魔法をかけ火魔法で温めな直しシオンに声をかける
。
「シオン、準備できたけど大丈夫そう?」
「……うん」
シオンのこちらに向かう足取りが重い。
シオンの頭がタライと並行になれるよう調節して服を着たまま頭だけ洗う。シオンの髪はまだ細く柔らかい幼い子供の髪だ。
シオンも始めは緊張していたけれど、途中からは魔法の話などを楽しそうにしていた。優しく丁寧にシオンの髪を洗い、ドライヤーをかける。うん、銀髪が輝いているね。
ベッドでゴロゴロするアイリスの元へシオンが駆ける。
「じゃあ、私も入るから。二人はそのまま寝てもいいし遊んでいてもいいけど、遊ぶ魔法は光魔法だけでお願い。光は顔に直接当てない事、分かった?」
「「はーい」」
タライのお湯を温め直し、入ってみるが腰までしか浸かることができない。まあ、仕方ない。風呂っぽいのに入ることができるだけでも嬉しい。
体の汗を流し、髪を洗う。二週間以上ぶりのシャンプーだ。洗浄とはまた違う爽快感に思わず声が出る。
「あー、気持ちいい」
想像以上におっさん臭い声が出てしまい、一人、笑い出す。身体は若返っても中身は中年だから仕方ない。
風呂から上がり、寝支度をしてベッドへ向かうと子供たちはすでに夢の国の住人だった。ブランケットを二人にそっとかけ、呟く。
「おやすみ」
ヨハンから滲み出る疑いの圧がとにかく凄い。正直、ヨハンとはしばらく会わなくても何も問題はないと思う。
アイリスが眉間に皺を寄せながら言う。
「あいつ何がしたかったんだ? エマ、腕は大丈夫か?」
「マーク、大丈夫よ。心配してくれてありがとう」
「いや、俺は別に……」
照れるアイリスの髪を見れば少々旅の汚れが溜まっている。シオンもだ。そして多分私も。
「今日は髪を洗おうか」
日本のような風呂はないけれど、部屋についている風呂スペースのような場所にはタライが設置されている。お湯を入れ簡易風呂として使えるようだ。エコバッグに入っているシャンプーとリンスをコピーする。
アイリスがタライを見ながら顔をしかめる。
「洗浄の魔法で綺麗になるだろ?」
「洗浄ではある程度しか綺麗にならないのよ。ちゃんと洗いましょう。マークとシオン、どちらが先に入る? お湯を準備するから二人で決めて」
「ぼくは……はいりたくない」
シオンが強張りながら下を見る。ああ、またトラウマを刺激したのかもしれない……。どうやら風呂に浸かるのが嫌なようだ。
「お風呂に浸かる必要はないから。でも、髪だけは洗おうか。服も脱がなくていいから。どう?」
「……わかった」
「じゃあ、先にマークから入ろうか?」
「お、おう」
シオンは少し時間が必要そうなので、先にマークを風呂に入れる。
水魔法と火魔法を使いタライにお湯を張る。アイリスも準備できたみたいなのでタライに入ってもらう。ボディソープを準備されていたリネンのタオルにつけ、泡立てる。リネンのタオルはゴワゴワしているけれど仕方ない。
アイリスが泡立ち始めたタオルをみながら目を見開く。
「すげぇな! それ、シャボンだろ。しかも香り付き。前に使ったシャボンはこんな匂いしなかったぜ」
このボディソープはフローラルの香りとしか書いていないけど、確かに良い匂いが広がっている。その香りのおかげでこの世界に来てからの緊張感がほどけ和んでしまう。明日、これもコピーしよう。
シャンプーとリンスはジャスミンの香りでこれもなんだか懐かしく感じた。風呂上がりのアイリスの髪を櫛で梳かしながら風魔法と火魔法でドライヤーをかける。
「見たことない魔法だな。俺は魔法の練習をしてこなかったから……あんまり分かんねぇけど、エマが凄いってのは分かる」
「マークが練習したいなら、シオンと一緒にすれば良いと思うよ。まぁ、すでに一緒に練習しているけどね」
「俺が?」
「そう。ほら、あの光の遊びよ」
「あれがか……そうなのか」
アイリスは風呂上りに疲れが出たのか無言になってしまったので、私も無言でアイリスの髪を仕上げる。最後にアイリスの毛先に少しヘアオイルを絡ませる。
「はい。終了ね」
「ありがとな。髪を洗ってもらうなんて何年振りかだ」
つやつやの髪を触りながらアイリスが嬉しそうに言う。
やはり洗浄より洗ったほうが髪は綺麗になると思う。洗浄の方が簡単だからこまめにそちらを使うだろうけど、これからも風呂が使える時には洗ってあげようと思う。タライの水に洗浄の魔法をかけ火魔法で温めな直しシオンに声をかける
。
「シオン、準備できたけど大丈夫そう?」
「……うん」
シオンのこちらに向かう足取りが重い。
シオンの頭がタライと並行になれるよう調節して服を着たまま頭だけ洗う。シオンの髪はまだ細く柔らかい幼い子供の髪だ。
シオンも始めは緊張していたけれど、途中からは魔法の話などを楽しそうにしていた。優しく丁寧にシオンの髪を洗い、ドライヤーをかける。うん、銀髪が輝いているね。
ベッドでゴロゴロするアイリスの元へシオンが駆ける。
「じゃあ、私も入るから。二人はそのまま寝てもいいし遊んでいてもいいけど、遊ぶ魔法は光魔法だけでお願い。光は顔に直接当てない事、分かった?」
「「はーい」」
タライのお湯を温め直し、入ってみるが腰までしか浸かることができない。まあ、仕方ない。風呂っぽいのに入ることができるだけでも嬉しい。
体の汗を流し、髪を洗う。二週間以上ぶりのシャンプーだ。洗浄とはまた違う爽快感に思わず声が出る。
「あー、気持ちいい」
想像以上におっさん臭い声が出てしまい、一人、笑い出す。身体は若返っても中身は中年だから仕方ない。
風呂から上がり、寝支度をしてベッドへ向かうと子供たちはすでに夢の国の住人だった。ブランケットを二人にそっとかけ、呟く。
「おやすみ」
204
お気に入りに追加
1,206
あなたにおすすめの小説
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます
兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。
転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?
朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!
「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」
王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。
不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。
もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた?
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる