57 / 94
異世界と少年と私
アイリスとの話 2
しおりを挟む季節が夏から秋に変わり、肌寒さが世界を彩った頃。
イスミ・アドレアルは、教室で語られる授業の板書を、目の前のノートに懸命に綴っていた。
イスミは、国立第三高等学校の一年生である。
イスミの平凡な日常は、今日も何も変わらずに平凡に過ぎていく。
イスミは本来であれば高等学校三年に数えられる年齢であったが、諸般の事情により今は一学年の授業を受けている。
それを知るものは、この学校には存在していない。
既知の内容である授業は、イスミにとっては単なる復習に過ぎない。
つい先日行われた定期試験も学年で一位であったし、熱心に授業を受ける必要性もなかった。
しかし、イスミは学生の本分を全力で全うする。
それが、イスミの中の《普通》であったから。
本日の授業の終了が告げられて、イスミは帰宅するべく机の上を片付け始めた。
喧騒が教室を満たす。
イスミはそれを横目に教室を出ようとした。
「イスミごめん! 日直手伝って!」
背後にかかる声に足を止める。
一瞬の思考ののち、イスミは自分の席に戻って鞄を置いた。
「ちょっとだけな」
イスミは板書を消しに教室の前に向かった。
「悪いな、ありがとう」
「用事があるから。これ消したら帰るよ」
イスミがこうして手伝いを頼まれるのは特別なことではない。
イスミは頼まれたら断れない。
それが、このクラスの暗黙の理解でイスミが思うイスミの普通だった。
毎日のようにイスミはクラスの雑用の手伝いを頼まれている。
断ることによる波風をイスミは望んでいなかったからだ。
全てを肩代わりせずとも、協力申し出れば悪い顔はされない。
基本的に人間は安寧に阿るものだ。
普通、そうする。
だからイスミは断らない。
周囲の期待通りに行動する。
イスミはそうして、生きていた。
そうして、この学校という組織の平凡なピースとして生きている。
それが、普通だから。
宣言通りに黒板を綺麗にし終えたイスミは、鞄を持って教室を出た。
自らが所属するもう一つの組織へ向かうためである。
402
お気に入りに追加
1,356
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる