ある日、近所の少年と異世界に飛ばされて保護者になりました。

トロ猫

文字の大きさ
上 下
39 / 94
異世界と少年と私

クロの制御

しおりを挟む
 リリアの魔法教室の後にハインツから夕食の招待の伝言を受け、シオンと一緒にロワーズの天幕へと向かう。執務中のロワーズは少し疲れているように見えた。

「お疲れでしょうか?」
「いや。大丈夫だ。そなたらの事情をレズリーにもある程度話していたほうが良いと思ってな。レズリーは私の腹心であり、十年以上共に過ごしてきた。信用できる人物だ」
「レズリーさんなら大丈夫です」

 ロワーズは安堵したかのように、外で待機していた騎士にレズリーを天幕に呼ぶよう命令をする。すぐに天幕へと到着したレズリーは軽装でなんだか新鮮だった。

「団長。お呼びでしょうか?」 
「ああ。話がある。とりあえず食事を取ろう。ハインツ、頼む」

 レズリーは私たちに気づくとニッコリと笑い、席を引いてくれる。

「二人ともこんばんは。元気そうだね」
「ありがとうございます」

 夕食はステーキだった。ステーキ好きだな。シオンはカトラリーの持ち方がまだ握り手になっており、ナイフは使った事がないようだった。以前のステーキの時も切り分けたので、今回も先にロワーズたちに了承を得てシオンのためにステーキを切り分ける。今はうるさくマナーについて教えることはしない、徐々に習っていけば良いと思う。
 食事中の会話は主に私とシオンが今日リリアに習った水魔法についてだった。シオンも会話に参加できて楽しそうだった。食事も終わり、ハインツはお茶を配膳すると何も言わずに退室した。本題ですね。

「レズリー、今から聞く事は他言無用だ」
「了承した」

 ロワーズから告げられた私たちの事情にレズリーは驚いたり、眉間に皺を寄せたり、最後には黙り込んで考え込んでしまう。レズリーはしばらく唸るとおもむろに口を開く。

「本当の話なのか?」
「はい。ロワーズさんが伝えた通りです」

 まぁ、疑うのは分かるよ。だって夢みたいな話だから。私だって逆の立場で魔法を使う国から来ましたとか言われても残念な子の作り話かなという認識でしかない。

「魔法を全く使わない国か……ここから半年ほど掛かるが、別大陸にスイと言う国があるらしい。そこは黒髪が多く魔法はほとんど使わないと商人に聞いたが……そこでも魔法はゼロではないよ。髪の毛の色が変わった話――それにそんな人口の多い国なんて――」
「レズリー。そこは考えても答えは出ない。重要なのは、今後の銀髪と魔力の高さに加えてユニークスキル保持者という事で引き起こされるかもしれない問題だ」

 再びじっと考え込もうとしたレズリーを止め、現実的に起こりそうな問題についての相談を始めたロワーズ。権力や人攫いの話、どれもシオンには聞かせたくないが……知っていたほうがいいかもしれない。シオンを確認するがこれは少ししか理解できていない顔だ。あとでもう一度今日の話の内容を分かりやすいように説明する時間を作ろう。レズリーがこちらをジッと見つめながら言う。

「二人は見目が綺麗だからね。世の中の悪い奴の思考が手に取るように見えるよ。それにしても、妄想魔法なんて聞いたこともないユニークスキルだ。にわかには信じがたい」
「説明するよりもお見せした方がわかりやすいかもしれません」
「おい!」

 ロワーズが少し焦ったように止めようとする。

「大丈夫です。実は以前よりも制御できるようになっています」

 大丈夫! ロワーズボディビルダーは出さないよ。操作が向上したのに加え、瞑想のスキルが相当集中力を高めてくれている。ここに来る前にも妄想魔法で猫を出して練習した時にはちゃんと成功したから。

「それなら良いが……」

 ロワーズはそう言いつつ、訝しげにこちらを見ている。以前あんなのを出してしまったから、疑うのも無理はない。でも大丈夫……多分。
 よし。妄想魔法のスイッチをオンにして気合を入れていつもの黒猫を妄想する。黒猫が急に登場したことに、驚き肩を揺らすレズリーを宥める。

「大丈夫ですよ。それでは猫に少し芸をさせます。よろしくね、クロ」

 勝手に決めた名前で猫を呼ぶ。仕方ないなという表情でクロがこちらへやってくる。お座り、お手、ゴロンやジャンプをさせる。猫をレズリーに向かわせ、肩の上や頭にジャンプさせ、戻ってきてもらう。

(よかった。言う事をちゃんと聞いてくれている)

「ありがとうね~、えらいねぇ、クロ」

 クロを撫でるフリをすると、当たり前でしょって顔でプイっとされる。この猫……絶対意思あるよね。集中して妄想魔法を終了すると、欠伸をしていたクロがスッと消えシオンが寂しそうに手を振る。

「ねこさんまた きえたね」
「また後で出て来てくれるよ」

 レズリーがクロのいたテーブルを見たまましばらく止まっていたので声を掛ける。

「今のが妄想魔法です」
「……こんなスキルは見たことない。山猫に触られたが何も感じなかった。実体はないのか。これが妄想……なのか? 創造ではないのか?」
「一応、発動するのに妄想しないといけないんですよ。気を抜いて変なの妄想すると……それが出てきてしまうので使いやすいとはいえないですけど。オンとオフのスイッチがあるのが、大変助かります」
「そうなんだね。今日聞いた事はもちろん俺の口から漏らすことはしない。約束しよう」

 レズリーに私たちの天幕へと送ってもらい、今日は解散した。シオンについては何も聞かれなかった。きっと私の妄想魔法のことに対してのインパクトが大きすぎて、頭が追いついていないのだろう。
 シオンと寝支度を済ませる。いつもだったら、この後にシオンと灯りの魔法で遊んだりして就寝するのだが、今夜は別の練習をしたいと思う。

「シオン。ユニークスキルの練習をしようか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな

みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」 タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。

処理中です...