上 下
39 / 79
異世界と少年と私

クロの制御

しおりを挟む
 リリアの魔法教室の後にハインツから夕食の招待の伝言を受け、シオンと一緒にロワーズの天幕へと向かう。執務中のロワーズは少し疲れているように見えた。

「お疲れでしょうか?」
「いや。大丈夫だ。そなたらの事情をレズリーにもある程度話していたほうが良いと思ってな。レズリーは私の腹心であり、十年以上共に過ごしてきた。信用できる人物だ」
「レズリーさんなら大丈夫です」

 ロワーズは安堵したかのように、外で待機していた騎士にレズリーを天幕に呼ぶよう命令をする。すぐに天幕へと到着したレズリーは軽装でなんだか新鮮だった。

「団長。お呼びでしょうか?」 
「ああ。話がある。とりあえず食事を取ろう。ハインツ、頼む」

 レズリーは私たちに気づくとニッコリと笑い、席を引いてくれる。

「二人ともこんばんは。元気そうだね」
「ありがとうございます」

 夕食はステーキだった。ステーキ好きだな。シオンはカトラリーの持ち方がまだ握り手になっており、ナイフは使った事がないようだった。以前のステーキの時も切り分けたので、今回も先にロワーズたちに了承を得てシオンのためにステーキを切り分ける。今はうるさくマナーについて教えることはしない、徐々に習っていけば良いと思う。
 食事中の会話は主に私とシオンが今日リリアに習った水魔法についてだった。シオンも会話に参加できて楽しそうだった。食事も終わり、ハインツはお茶を配膳すると何も言わずに退室した。本題ですね。

「レズリー、今から聞く事は他言無用だ」
「了承した」

 ロワーズから告げられた私たちの事情にレズリーは驚いたり、眉間に皺を寄せたり、最後には黙り込んで考え込んでしまう。レズリーはしばらく唸るとおもむろに口を開く。

「本当の話なのか?」
「はい。ロワーズさんが伝えた通りです」

 まぁ、疑うのは分かるよ。だって夢みたいな話だから。私だって逆の立場で魔法を使う国から来ましたとか言われても残念な子の作り話かなという認識でしかない。

「魔法を全く使わない国か……ここから半年ほど掛かるが、別大陸にスイと言う国があるらしい。そこは黒髪が多く魔法はほとんど使わないと商人に聞いたが……そこでも魔法はゼロではないよ。髪の毛の色が変わった話――それにそんな人口の多い国なんて――」
「レズリー。そこは考えても答えは出ない。重要なのは、今後の銀髪と魔力の高さに加えてユニークスキル保持者という事で引き起こされるかもしれない問題だ」

 再びじっと考え込もうとしたレズリーを止め、現実的に起こりそうな問題についての相談を始めたロワーズ。権力や人攫いの話、どれもシオンには聞かせたくないが……知っていたほうがいいかもしれない。シオンを確認するがこれは少ししか理解できていない顔だ。あとでもう一度今日の話の内容を分かりやすいように説明する時間を作ろう。レズリーがこちらをジッと見つめながら言う。

「二人は見目が綺麗だからね。世の中の悪い奴の思考が手に取るように見えるよ。それにしても、妄想魔法なんて聞いたこともないユニークスキルだ。にわかには信じがたい」
「説明するよりもお見せした方がわかりやすいかもしれません」
「おい!」

 ロワーズが少し焦ったように止めようとする。

「大丈夫です。実は以前よりも制御できるようになっています」

 大丈夫! ロワーズボディビルダーは出さないよ。操作が向上したのに加え、瞑想のスキルが相当集中力を高めてくれている。ここに来る前にも妄想魔法で猫を出して練習した時にはちゃんと成功したから。

「それなら良いが……」

 ロワーズはそう言いつつ、訝しげにこちらを見ている。以前あんなのを出してしまったから、疑うのも無理はない。でも大丈夫……多分。
 よし。妄想魔法のスイッチをオンにして気合を入れていつもの黒猫を妄想する。黒猫が急に登場したことに、驚き肩を揺らすレズリーを宥める。

「大丈夫ですよ。それでは猫に少し芸をさせます。よろしくね、クロ」

 勝手に決めた名前で猫を呼ぶ。仕方ないなという表情でクロがこちらへやってくる。お座り、お手、ゴロンやジャンプをさせる。猫をレズリーに向かわせ、肩の上や頭にジャンプさせ、戻ってきてもらう。

(よかった。言う事をちゃんと聞いてくれている)

「ありがとうね~、えらいねぇ、クロ」

 クロを撫でるフリをすると、当たり前でしょって顔でプイっとされる。この猫……絶対意思あるよね。集中して妄想魔法を終了すると、欠伸をしていたクロがスッと消えシオンが寂しそうに手を振る。

「ねこさんまた きえたね」
「また後で出て来てくれるよ」

 レズリーがクロのいたテーブルを見たまましばらく止まっていたので声を掛ける。

「今のが妄想魔法です」
「……こんなスキルは見たことない。山猫に触られたが何も感じなかった。実体はないのか。これが妄想……なのか? 創造ではないのか?」
「一応、発動するのに妄想しないといけないんですよ。気を抜いて変なの妄想すると……それが出てきてしまうので使いやすいとはいえないですけど。オンとオフのスイッチがあるのが、大変助かります」
「そうなんだね。今日聞いた事はもちろん俺の口から漏らすことはしない。約束しよう」

 レズリーに私たちの天幕へと送ってもらい、今日は解散した。シオンについては何も聞かれなかった。きっと私の妄想魔法のことに対してのインパクトが大きすぎて、頭が追いついていないのだろう。
 シオンと寝支度を済ませる。いつもだったら、この後にシオンと灯りの魔法で遊んだりして就寝するのだが、今夜は別の練習をしたいと思う。

「シオン。ユニークスキルの練習をしようか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます

兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。

処理中です...