ある日、近所の少年と異世界に飛ばされて保護者になりました。

トロ猫

文字の大きさ
上 下
37 / 94
異世界と少年と私

自衛と安全

しおりを挟む
「次はこれです。土よ。我の前の壁を作り、敵の攻撃を防げ。【土壁アースウォール】」

 ハインツの詠唱と共に大きくなった土が上に登り、次第に高さ二メートルに幅一メートルほどの壁が現れる。

「立派な壁ですね」
「エマ様もすぐにできるでしょう」

 同じ壁をイメージして【土壁アースウォール】と唱える。ハインツと似た壁が目の前に立ち褒められる。

「エマ様は土魔法の覚えが早いでございますな」

 シオンも私と同じ詠唱で土壁を展開すれば、ドアのような土壁が目の前に立つ。シオンが首を傾げながら尋ねる。

「ぼくのエマとちがうよ。どうして?」
「本当だね、どうしてだろう。でも、立派だよ」
「シオン様。魔法とは想像です。ひとりひとり思い描く魔法は違います。実際エマ様と私の土壁は違いますでしょう?」

 ハインツの説明通り、確かにそれぞれ違う。ハインツの土壁はタイル造りに泥が被せられた壁で、私の壁は珪藻土壁のような造りだ。試しに自分の壁にアクアをぶつけると一気に壁が投げつけた水分を吸い込んだ。いや、確かに珪藻土壁は便利だけど……私の壁、耐久性なく一発で壊されそう。
 もう一度、頑丈な壁のイメージを固め土壁アースウォールと唱える。現れたのは同じ大きさの壁だ。だが、これは耐久性のあるコンクリート仕様だ。先ほどの珪藻土壁より少し魔力の使用は多いが……結果には満足だ。ハインツが驚きながら土魔法で新しく建てた壁を見上げる。

「こ、これは、とても頑丈そうですね。エマ様」
「ありがとうございます」

 試しに水魔法でコンクリート壁を攻撃する。

(うん、これならいけるね)

「ぼくもおなじかべをつくりたい」

 何度か練習を繰り返し、シオンもコンクリートの土壁を練り上げたが……何故かドアの形のままの強度な土壁が仕上がった。

(シオンにとって壁とはドアなのだろうか)

 ハインツは私たち二人の著しい(?)土魔法の上達をなら次の段階に進めると判断する。シオンが身を守れるようにもう少し土壁を極めたいという希望を伝えるのが遅れてしまいハインツが次の詠唱を始める。

「土よ、我の敵を射抜け【土弾ストーンバレット】」

(あ、これは!)

 急いでシオンの耳に手を置けばハインツの手から私の土壁を目掛け、銃声と共に土弾が飛ばされる。全ての土弾が命中するも、コンクリートの壁は擦り傷程度のダメージだった。

「やはり己よりも魔力の高い防壁は崩しがたいですな」

 穏やかに笑いながらハインツ言う。シオンは大きな銃声のような音も平気そうだけど、ハインツに苦言を言う。

「ハインツさん、大きな音が出るのならば先に言って頂けると……」
「はっ。失礼いたしました。つい、挑戦したくなりました。シオン様を怖がらせてしまったでしょうか?」
「ぼく、だいじょうぶ」

 シオンが満面の笑みを見せる。ああ、私が過保護過ぎたのだろうか。いや、虐待によるトリガーが何か分からないので細心の注意を払うのは間違っていないはず。とりあえず、大きい音は大丈夫だと頭の中でメモをする。

 魔力量で破壊可能か決定するなら、自分の防壁は破れるのだろうか? ハインツと同じ魔法を撃ってみる。

「【土弾ストーンバレット】」

 試しに以前渡米時代に一度だけ撃ったことのあるハンドガンを思い浮かべ、コンクリート土壁へ向け土弾を放つとパァンパァンと高い音が辺りに鳴り響く。コンクリートの土壁を確認すれば、土弾は土壁には貫通しなかったものの歪な痕が残っていた。ハインツがコンクリート壁に残った抉れを確認しながら困った表情で言う。

「エマ様、この威力はとんでものうございます」

 ああ、やり過ぎた。ハインツの表情を見てすぐにそう思ったけれど時は遅し……。

「ぼくもーぼくもー」 

 シオンが抉れたコンクリート壁の前で難しい顔をするハインツの横で嬉しそうにジャンプをする。子供に銃の打ち方を教えて良いものなのだろうか? ハインツの反応を確認すると止める気配はないどころか習得するように勧めている。ここは確かに日本ではなく異世界なのだ。子供への攻撃的な指導は許容範囲のようだ。地球でも幼い子供にも銃の打ち方を教えている海外の家庭はあるが……私が日本にいたのなら、こんな事態は迷わずに否定していただろう。でも、シオンが安全でいるのが一番なのだ。シオンに目線を合わせ確認する。

「シオンがお約束を破らないならさっきの魔法を教えるよ」
「うん!」
「まず、普段はこの魔法は無闇に人に向けて撃たない事。自分に向けて撃たない事。全ての練習は私がいるところでやる事。でも……危険だと思ったら迷わず使う事。このお約束出来る?」
「ぼく おやくそくできるよ!」

 シオンが嬉しそうに返事をする。これはただ単に魔法を使いたいから返事しただけで、まだこの魔法の危険性について分かっていない様子だ。でも、この世界は危険が多い、かなり多い。シオンが自身を守るためだ……自分の気持ちに蓋をして銃の土弾魔法を教える。一先ず、飛ばすことは出来ないがシオンは尖った土弾を出せるようになった。
 天幕に戻り、夕食を取る。食後に灯りの魔法や土魔法でシオンと遊んでいたら、いつの間にか寝ていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

処理中です...