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異世界と少年と私

二人きりでの話

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「ハインツ、いるか? 茶を頼む」

 ロワーズが、仕切りの裏に控えていたのであろうハインツに声をかけると返事が返って来る。

「只今、お茶をお持ちいたします」

 薄い仕切りだったら、こちらの会話も全部聞こえているのじゃない? 仕切りの薄さを遠目に確認していいたら、ロワーズに視界を遮られる。

「仕切りには防音が付与されておる。心配するでない。そなたの失態は私にしか聞こえていない。こちらの魔道具はちゃんと切り替え出来る仕様になっている」
「ア、ソウデスカ」 

 笑いながらそう言うロワーズから視線を逸らす。どうせ、私のユニークスキルは切り替え仕様が壊れていますよ。
 お茶が準備され一息つく。チラっとロワーズに視線を送ると、再び思い出し笑いをしたかのようにフッと笑われた。

「それで、お話というのは?」
「そなた、いやそなたとシオンについてだ。本来なら北の砦で聞き取り調査をしなければならないのだが、悪意が多くどこで情報が漏れるか分からない。ウエステリア王国は比較的安定しているが……悪行は避けられない」
「どういう意味でしょうか?」
「そなたらは魔力が高いだけではなく容姿も目立つ。貴族の横行や人攫いの悪意に巻き込まれる可能性が高い」
「人攫いって……」

 銀髪は魔力が高いという。人攫いとかのトラブルは避けたい。

「この国ではすでに廃止されているが他国には未だに愛玩奴隷などの風習が根強い場所もある。魔力の多い平民を使い潰すために攫う貴族もいる」
「奴隷ですか?」

 地球にも人攫いはいる。奴隷制がなくなっても未だに人身取引ヒューマン・トラフィッキングは行われている。この世界、魔法関係以外は地球の中世時代に近い。奴隷なんてザラにあるだろう。

「ああ、そうだ。この国にも奴隷制はあるが、犯罪奴隷と借金奴隷の身だ」

 犯罪奴隷の大部分は鉱山送りになるという。借金奴隷は奴隷と名がついているけれど、雇われた使用人とほぼ変わらない待遇だという。借金の額により年数が定められ、その間の衣食住は主人が責任を持ち少ないながら給与も出るらしい。

「そういう人たちも奴隷と呼ぶのですね。なんだか想像していた無理やり奴隷にされる状況とは違い安心しました」
「主人と借金奴隷の双方の合意がない限り契約は結ばれぬ。だが、諸外国、特にセラール聖国は、奴隷市場が大きく人攫いも活発で人権もない。あの国は、人族至上主義で人族や貴族の選民意識が高い。人族以外は住みにくい国である」

 そう聞くとウエステリア王国は大分まともなのかもね。まぁ、ロワーズの意見だけで判断はできないけれど。聞く限りこの国では借金奴隷はある程度保証されている。セラール聖国という所には一生用事はなさそう。あと、他の種族がいるのか。ファンタジー的なエルフやドワーフとかだろうか?

「懸念されている事は分かりました。問題になるなら、髪を染めてもいいのですけど、こちらに染粉はありますか?」
「髪の色は属性と直結しており、属性の色が濃く出てる髪は特に染めにくい。銀髪もそのひとつだ。銀髪は全属性だと言われている。エマもそうであろう?」

 銀髪が珍しく且つ全属性だと知れ渡ってるなら、嘘を付いても意味がない。困るなぁ……今の私とシオンは、鴨がネギ背負ってパレードしてる感じだ。髪を染めれないのが痛い。

「お察しの通りです」
「だろうな。私としては二人をこのまま保護したいと思っているが、そのためには二人が信用に値できるか見定めねばならない。二人が間者ではないとも言い切れない。いくつか質問に答えてもらえるか?」

 保護か。うーん、私一人ならどうにかできそうだけどシオンがいるので突発的な行動はできない。とりあえず、保護されて今後どうするか状況を見て判断した方がいいだろう。

「答えられる範囲でしたらお答えします」
「そうか。では、二人はどこからきたのだ?」
「日本という国です」
「ニーホンとは聞いたことない国だな。どこにあるのだ?」

 それは私が聞きたいのだけど。未だに現在地も良く分かってないのですよこちらは。

「ここがどこにあるのか分からないので、日本までの帰り方もわかりません」
「そうか。ここにはどのようにしてやって来た?」
「よく分からないです。買い物帰りに道を歩いていたら、強い光に巻き込まれ気づいたらあの場所にいたので」
「やはり転移であるか」

 転移である可能性は高いけど、異世界転移だ。そのことを伝えれば話が大きくなりそうなので口を紡ぐとロワーズが次の質問に移る。

「シオンと其方は本当に親類ではないのか?」
「シオンは、光に巻き込まれる直前に道端で出会った子です」
「そなたの国はそんなに銀髪がいるのか?」
「いえ、この銀髪は……」
「銀髪は?」
 なんて説明すればいいか迷う私をロワーズが訝し気に見る。日本にゴロゴロ銀髪などいないけど、どう説明するかな。

「えーと。私の国では染める人もいましたが、基本は黒か茶色でした。私とシオンもそうでした。転移後に色が変わったのです。転移の副作用のようなものだと思ってます。魔力もそうです。故郷には魔力も魔法もありませんでしたので」

 ロワーズの眉間のシワが深くなる。そのシワやめて、怖いから。

「転移後に魔力を? にわかには信じがたい話だな。魔力を持たぬ国があるのか? この近辺にはそのような国はない。それなのに、なぜウエステリア語が流暢なのだ? おかしいだろ」

 ロワーズの顔は眉間のシワに加えて額の血管が浮き出てくる。分かるよ。もうさ、言ってることめちゃくちゃだし。でも、ちゃんと説明できるから、血管は抑えて!

「それは、言語翻訳というスキルのおかげです。私には、ロワーズさんの話している言葉が母国語に聞こえますし、発してる言葉も母国語なのですが……ウエステリア語に自動翻訳されてます」
「それは……固有スキルなのか? どの言語も話せるということか?」
「固有スキルではありません。全ての言語かどうかも分かりません。スキル表示にも記載がないですので」
「……鑑定も持っているのか?」

 え? なんで分かったの? 鑑定については言うつもりはなかったのだけど。

「固有スキルやユニークスキルでない限り術者には説明記載はない。鑑定は魔力のレベルによって細かくスキルの詳細を視ることができると聞いている」

 え? そうなの? そんなの知らないよ。こちらの常識を知らない所為でボロが出ている。もう早く切り上げよう。

「他にユニークスキルはあるのか?」
「大丈夫です。ユニークスキル他にありません」

 嘘はついていない。コピーは固有スキルだ。コピーは絶対に誰にも知られないほうが身のためだ。コピースキルを持っている事が広まったら何に利用されるか分からない。下手したら殺されるかもしれない。どうにかこの会話を切り上げるために固有スキルの商人交渉の信頼関係というスキルを使ってみる。少しでも自分に有利に持って行けるかな。
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