上 下
33 / 79
異世界と少年と私

猫の話をしよう

しおりを挟む
 妄想魔法で現れたのは、上半身裸のロワーズと瓜二つの黒光りしている男だった。何故か割増で筋肉が付いていて、ボディビルダーのポーズを満面の笑みで決めている。うへぇい。

(ちょちょちょやめて、どうしてこんなのが出るの!)

 こんなボディビルダー男なんかの妄想はしてないはずだ。消えろ妄想魔法と頭の中で唱えたが、ロワーズボディビルダーは一向に消えないどころか白い歯をキラキラさせ眉を小刻みに動かしながら目を合わせてくる。

「やめてー、どうしてー」

 本人の前で本当にやめて、恥ずかしすぎる。早く消えて欲しいのにいつまでも消えない。ロワーズは呆気に取られ、その後しばらく難しい表情で黙る。もう、これ怒っているよね?

「もう、これどうやって消えるのよ!」

 ロワーズボディビルダーが機嫌よくフンフンと鼻を鳴らしながら尻の筋肉をアピールしてくる。やめて、やめて。本当にやめて。

「もう、いいから消えて!」

 怒り任せにそう叫べば、ロワーズボディビルダーがスッと消える。ふぅ、やっと消えてくれた。急いで何もなかったかのように猫との時間を妄想し、黒猫を出す。

(よかった。今度はちゃんと成功した)

 黒猫はテーブルに飛び乗りゴロンと転がったと思ったら、ゆらゆらと揺れる灯りの魔道具の光と遊び始めた。しばらく遊んだら、飽きたのか私のところに戻ってきて撫でろと要求してきた。実体がないので、撫でるフリをすると消えていった。これ以上妄想魔法に暴走されたくないのでオフにする。ステイオフでよろしく。
 何か言いたそうにこちらを見つめるロワーズに冷静を装い説明をする。

「このように想像上の猫などを出せるみたいです」
「……あの裸の男は私か?」

 やめて。そんな話もう持ちださなくていいから。声のボリュームを上げ再び説明に戻る。

「触ることも出来ない上に、言うこともなかなか聞いてくれないみたいです」
「先ほどの――」
「猫の話です!」

 裸の男の件は記憶から削除だ。その話はスルーだスルー。あれは、なかったことにしよう。

「ふむ……ユニークスキルについては、分からぬことが多い。妄想魔法というスキルは今まで聞いたことがないので助言はできない」

 分かるよ。多分、このスキルは私以外誰も持っていないと思う。私もいらなかったよ、こんな制御できないスキル。この際、気を取り直して他のスキルについて情報を得よう。

「他にどのようなユニークスキルがあるのでしょうか?」
「ユニークスキルの持ち主自体少ないのだが、その中でも多いスキルが鑑定とアイテムボックスだ。ユニークスキル持ちは貴族や人攫いに狙われることが多い故、平民だと公表せずに持っている者も多い。魔力が高い者に出現することが多いので、ユニークスキルの持ち主の大半は貴族である。スキルの種類については書物がある。機会があれば、後々見せるとしよう」
「そうですか。ありがとうございます」
「それから、鑑定スキル持ちの者に聞いた情報だが、ユニークスキルは術者が魔力の使い方に慣れれば徐々に使いやすくなると言っていた。エマも練習をすれば、先程のような失態はせぬかもな」
「……ソウデスネ」

 苦笑いをしながらロワーズに返事をする。でも、いい事を聞いた。明日から、バンバン魔法の訓練をしよう。そして、あの生意気な黒猫を屈服させてやる。いや、猫はあれでも良いのだけれども、ロワーズボディビルダー事件はもう起こしたくない。
 さて、目標も出来たし明日から頑張るとするか。椅子から腰を上げロワーズに挨拶をする。

「色々、ご面倒をかけておかけして申し訳ありませんでした。本日はこれで――」
「まだ話は終わっていない」

 座れと言われたので、腰を上げた椅子に再び座る。ロワーズの眉間のシワが深くなっている。なんの話かな……なんだか今から説教される気分だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます

兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

処理中です...