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異世界と少年と私

上半身裸の男 (ロワーズ視点)

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 こ、これは私なのか?

 エマは妄想魔法とやらを使い、山猫を出すと言っていたのだが……これはどう見てもそれではない。目の前では、どこか私の顔に似た上半身裸の男が腕や胸の筋肉を強調しながら見せつけてくる。

「やめてー、どうしてー」

 筋肉男の側でアワアワ叫ぶエマだが、この魔法はエマの想像で創られたものだとういう話だ。やはりエマは痴女ではなかろうか。
 大体エマは初めて会った時からおかしいのだ。突然現れ、いきなり服が落ちたかと思ったら足を見せつけられた。確かに綺麗な足だったのだが、いやそういう話ではない。妄想魔法とやらで現れている気持ちの悪い筋肉男を見て自分を落ち着かせる。
 森で発見したエマの着用していた衣服は仕立てがあっておらず、シオンは下着姿だった。魔法は見たことがなく、体力は騎士の私並みにある。言葉遣いは、貴族のそれに近く教養もあると思われるが、平民だと言い張る。それなのにレズリーが鑑定不可なほど魔力を保有している。あまりにもちぐはぐな二人は怪しいのだが、危険だとも思えず……

(どうしたものか)

 何処から出してるか分からない、クッキーや砂糖の甘味。なんでもないかのようにメイドに香油の塗り薬、リリアには綿で仕立てられたというあの身体に合っていなかった衣服をお礼と称して与えたと報告も受けている。
 先程のワインもそうだ。エマは赤ワインの方が好きだと言った。主流の酒といえば、林檎酒《シードル》、蜂蜜酒《ミード》、それにエールだ。赤ワインは貴族でも年に数回飲むことが出来るかどうかのものだ。それを好んで飲むと言ったのだ。
 そして……この訳のわからない妄想魔法というスキル。そもそもユニークスキルは滅多に現れるスキルではない。ユニークスキルを持つ者は国のためにも優遇される存在だ。これは報告せねばならないだろうが、こんな訳の分からないスキルなど……どのように報告すれば良いのか。

「もう、これどうやって消えるのよ!」

 エマがどうにか妄想魔法を消そうとするが、それに反して尻の筋肉を強調し始めた男。この下半身タオル姿は、あの晩の私か。油を塗ったかのような黒光りの身体に妙に白い歯が煌めく。エマの中で私はこのように写っているのか? 
 自分のスキルに剥き出しに怒りを露わにするエマの表情は実に自然で面白い。当主になる女性は違うが、私が今まで見てきた貴族の令嬢は甘え声で金好き、美しく清楚な仮面を被り他の女を蹴落とすことしか考えていない者が殆どだ。エマは確かに目が醒めるような美人だがやつらとは違うと感じる。しかし、女性自体を何年も遠ざけてしまっている私は女性の扱いというものが上手くない。拗らせ過ぎだとレズリーには言われているが苦手なのだから仕方ないのだ。
 銀髪に魔力が高く人目を引く顔の二人は貴族や人攫いに狙われる可能性が高いであろう。それにこんな世間知らずで奇妙なスキルを持つ者を放置できない。両親と兄上に相談した方が良いかも知れん。

「もう! いいから早く消えて!」

 動揺しながらなりふり構わず叫んでいるエマが可愛いと思う私もおかしいのかもしれない。
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