30 / 79
異世界と少年と私
妄想魔法
しおりを挟む
「え? 何、この猫?」
こんな場所になんで猫がいるのだろう……それより、どこから来た? まさか、魔物じゃないよね? 訝し気に猫を鑑定をする。
幻術の猫――エマ・シラカワの妄想魔法で造られた猫
妄想魔法? あ、あれか……ユニークスキルの。妄想魔法はオフにしていたはずなんだけど。そういえば、注意書きに術者の気持ちに左右されると書いてあった。まさか、それで? それならオフの意味なくない?
(なんのためのオフよ!)
ズルッとベンチから落ちそうになる。これは、あれか……飼っていた猫を思い出したからから妄想魔法が発動して猫が現れたの? 妄想魔法の発動条件がよく分からない。
「そんな事より、これを早く消さないと」
誰かに見つかる前に、この猫には消えてもらわないと説明ができない。ゴロゴロと喉を鳴らしながら足に纏《まと》わりつく黒い猫は実体がないが妙に動きがリアルだ。消えろ! 消えるのだ、猫よ! 念じながら猫を指さすが何も起きない。
「その山猫はなんだ?」
うっ。よりによってロワーズに猫が見つかる。
「あはは、どこから来たのでしょうかね?」
誤魔化しながら猫があっちへ行くよう、シッシと払う。そんな焦る私を横目に、猫は勝手にベンチへと登り欠伸をして毛繕いを始めた。これって……私の魔法のはずだよね? なんで言うこと聞かないの?
「ねこさん?」
日向ぼっこでウトウトとしていたシオンも目を見開いて猫を見る。猫はしばらくシオンを見つめるといきなりフッと消えた。待って、消えるのは今じゃないでしょ!
「ねこさん、きえたね」
「う、うん。どこへ行ったのだろうね。あはは」
妄想魔法の猫が消えたのは良かったが、ロワーズの視線がすこぶる痛い。めっちゃくちゃ痛い。ロワーズがジト目で見下ろしながら小声で言う。
「そなたと話さなければならないことが、また増えたな」
「ただの猫ちゃんですよ。そんな――」
「ただの山猫が目の前で蒸発などしないだろ。あとで話すから、それまでに『ただの猫ちゃん』よりもまともな言い訳でも考えておくのだな」
「うっ」
幸い、妄想魔法の猫はロワーズとシオンの二人以外には気づかれなかったようだ。
含みのある笑いを向けたロワーズと別れ、護衛とリリアに天幕まで送り届けられホッと一息をつく。シオンにリンゴジュースとクッキーを出し、今日の妄想魔法について考える。
妄想魔法――妄想時に発動する魔法。実態はない。術者の感情で左右されやすい。オンオフあり。現在オフ。
現在オフって盛大な嘘でしょ? 説明文を押してみるが発動の条件は書いていない。あの猫が出る直前、確か猫のように惰眠を貪りたいと思いながら昔飼っていた猫を思い出し寂しくなった。どの辺が妄想だった? 感情的になった分、考えていたことが露わになったの? 試しにもう一度、猫とゴロゴロと惰眠を貪る幸せな妄想をする。いつか猫カフェで味わった猫を撫でる心地良さを思いだしながら、ずっと猫を妄想したが……何も出なかった。
今度は妄想スキルをオンにして、たくさんの猫を妄想してみる。
「おら、おら、猫、猫、猫来い!」
すぐにスッと魔力が抜ける感覚がして、目の前には白、黒にオレンジ色の三匹の猫が現れ足元でエアスリスリを始める。実体はないのでスリスリされる感触もない、不思議な気持ちになる。
三匹の猫に気づいたシオンが声を上げ猫に駆け寄る。
「ねこさんがいっぱい! あれ? ねこさん、さわれないよ」
実体がないからもちろんシオンも猫を触ることは出来ない。こんな怪しい魔法は永遠にちゃんとオフにしておかないと。どれだけ私が毎日妄想していると思っているの! 妄想の度にこんな魔法が発動したら普通の生活は送れない。よからぬ妄想だってたくさんしている。あぁ、本当にそんなよろしくない妄想を皆さんの前で披露してしまうかと考えると……恥ずかしさで死ねる。
猫たちを消そうとしたが、やはり消し方が分からない。猫たちは好き勝手に遊ぶとそのうち消えた。
「ねこさん またきえたね」
「そうだね。また気が向いたら出てきてくれるよ」
正直、もう猫たちには勝手に現れて欲しくはないが、猫が消えてしょんぼりとしたシオンにそう声をかけた。
こんな場所になんで猫がいるのだろう……それより、どこから来た? まさか、魔物じゃないよね? 訝し気に猫を鑑定をする。
幻術の猫――エマ・シラカワの妄想魔法で造られた猫
妄想魔法? あ、あれか……ユニークスキルの。妄想魔法はオフにしていたはずなんだけど。そういえば、注意書きに術者の気持ちに左右されると書いてあった。まさか、それで? それならオフの意味なくない?
(なんのためのオフよ!)
ズルッとベンチから落ちそうになる。これは、あれか……飼っていた猫を思い出したからから妄想魔法が発動して猫が現れたの? 妄想魔法の発動条件がよく分からない。
「そんな事より、これを早く消さないと」
誰かに見つかる前に、この猫には消えてもらわないと説明ができない。ゴロゴロと喉を鳴らしながら足に纏《まと》わりつく黒い猫は実体がないが妙に動きがリアルだ。消えろ! 消えるのだ、猫よ! 念じながら猫を指さすが何も起きない。
「その山猫はなんだ?」
うっ。よりによってロワーズに猫が見つかる。
「あはは、どこから来たのでしょうかね?」
誤魔化しながら猫があっちへ行くよう、シッシと払う。そんな焦る私を横目に、猫は勝手にベンチへと登り欠伸をして毛繕いを始めた。これって……私の魔法のはずだよね? なんで言うこと聞かないの?
「ねこさん?」
日向ぼっこでウトウトとしていたシオンも目を見開いて猫を見る。猫はしばらくシオンを見つめるといきなりフッと消えた。待って、消えるのは今じゃないでしょ!
「ねこさん、きえたね」
「う、うん。どこへ行ったのだろうね。あはは」
妄想魔法の猫が消えたのは良かったが、ロワーズの視線がすこぶる痛い。めっちゃくちゃ痛い。ロワーズがジト目で見下ろしながら小声で言う。
「そなたと話さなければならないことが、また増えたな」
「ただの猫ちゃんですよ。そんな――」
「ただの山猫が目の前で蒸発などしないだろ。あとで話すから、それまでに『ただの猫ちゃん』よりもまともな言い訳でも考えておくのだな」
「うっ」
幸い、妄想魔法の猫はロワーズとシオンの二人以外には気づかれなかったようだ。
含みのある笑いを向けたロワーズと別れ、護衛とリリアに天幕まで送り届けられホッと一息をつく。シオンにリンゴジュースとクッキーを出し、今日の妄想魔法について考える。
妄想魔法――妄想時に発動する魔法。実態はない。術者の感情で左右されやすい。オンオフあり。現在オフ。
現在オフって盛大な嘘でしょ? 説明文を押してみるが発動の条件は書いていない。あの猫が出る直前、確か猫のように惰眠を貪りたいと思いながら昔飼っていた猫を思い出し寂しくなった。どの辺が妄想だった? 感情的になった分、考えていたことが露わになったの? 試しにもう一度、猫とゴロゴロと惰眠を貪る幸せな妄想をする。いつか猫カフェで味わった猫を撫でる心地良さを思いだしながら、ずっと猫を妄想したが……何も出なかった。
今度は妄想スキルをオンにして、たくさんの猫を妄想してみる。
「おら、おら、猫、猫、猫来い!」
すぐにスッと魔力が抜ける感覚がして、目の前には白、黒にオレンジ色の三匹の猫が現れ足元でエアスリスリを始める。実体はないのでスリスリされる感触もない、不思議な気持ちになる。
三匹の猫に気づいたシオンが声を上げ猫に駆け寄る。
「ねこさんがいっぱい! あれ? ねこさん、さわれないよ」
実体がないからもちろんシオンも猫を触ることは出来ない。こんな怪しい魔法は永遠にちゃんとオフにしておかないと。どれだけ私が毎日妄想していると思っているの! 妄想の度にこんな魔法が発動したら普通の生活は送れない。よからぬ妄想だってたくさんしている。あぁ、本当にそんなよろしくない妄想を皆さんの前で披露してしまうかと考えると……恥ずかしさで死ねる。
猫たちを消そうとしたが、やはり消し方が分からない。猫たちは好き勝手に遊ぶとそのうち消えた。
「ねこさん またきえたね」
「そうだね。また気が向いたら出てきてくれるよ」
正直、もう猫たちには勝手に現れて欲しくはないが、猫が消えてしょんぼりとしたシオンにそう声をかけた。
201
お気に入りに追加
1,210
あなたにおすすめの小説
神によって転移すると思ったら異世界人に召喚されたので好きに生きます。
SaToo
ファンタジー
仕事帰りの満員電車に揺られていたサト。気がつくと一面が真っ白な空間に。そこで神に異世界に行く話を聞く。異世界に行く準備をしている最中突然体が光だした。そしてサトは異世界へと召喚された。神ではなく、異世界人によって。しかも召喚されたのは2人。面食いの国王はとっととサトを城から追い出した。いや、自ら望んで出て行った。そうして神から授かったチート能力を存分に発揮し、異世界では自分の好きなように暮らしていく。
サトの一言「異世界のイケメン比率高っ。」
イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)
こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位!
死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。
閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話
2作目になります。
まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。
「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
スキル調味料は意外と使える
トロ猫
ファンタジー
2024.7.22頃 二巻出荷予定
2023.11.22 一巻刊行
八代律(やしろ りつ)は、普通の会社員。
ある日、女子大生と乗ったマンションのエレベーター事故で死んでしまう。
気がついたら、真っ白な空間。目の前には古い不親切なタッチパネル。
どうやら俺は転生するようだ。
第二の人生、剣聖でチートライフ予定が、タッチパネル不具合で剣聖ではなく隣の『調味料』を選んでしまう。
おい、嘘だろ! 選び直させてくれ!
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?
夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。
気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。
落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。
彼らはこの世界の神。
キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。
ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。
「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる