ある日、近所の少年と異世界に飛ばされて保護者になりました。

トロ猫

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異世界と少年と私

魔力

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「エマ様、お詫びの言葉もございません」

 顔色の悪いハインツが何度も謝罪をする。

 無事に誤解が解け、同じように何度も謝るリリアに胸元オープンドレスを着替える手伝いをしてもらった後にロワーズの部屋に戻るとハインツが土下座をする勢いで謝罪してきた。

「ハインツさん、大丈夫です。何もありませんでしたので」

 それは嘘だ。ロワーズと一緒に絡まる現場はレズリーをはじめ、騎士たちに目撃されてしまった。絡まりを目撃した騎士全員をレズリーが脅すように口止めはしたが……団長の色事かもしれないおいしいニュースがこのエンタメがないだろう野営地で出回らないはずない。

「誤解が解けてよかったが、二人はなぜ裸同然で抱き合っていたのかな?」

 レズリーが再び、あの黒い笑顔で訊ねる。

「事故です。私が転んでしまいロワーズさんを巻き込んだのです」
「へぇ、団長を押し倒したのかい? エマちゃんは凄いね」

 言い方……確かにロワーズを押し倒したみたいになったのだが、ただの事故だって。どうやらレズリーは、私がロワーズを押し倒せるはずがないと思っているようだ。事実なのに……。
 着替えを済ませた軽装のロワーズがドカッとソファに座りレズリーを鬱陶しそうに見る。

「レズリー、揶揄うな。ただの事故だ」
「ああ、分かっている」

 そう言いながらもまだ微笑むレズリーは、半信半疑のようだ。
 グーッとまたお腹が鳴る。テーブルに置かれていた食べ物は着替え中に撤去されたようだ。やばい、お腹が空き過ぎて眩暈がする。

「ハインツさん、すみません。食べ物を下さい……」
「もちろんでございます。只今!」

 ハインツが急いで運んできたトレーに載っていたのは、ハム、パン、チーズ、それから葡萄だった。

「メインもすぐにお持ちいたしますので、まずはこちらをどうぞ」
「いただきます」

 ハムもパンもチーズもしょっぱいけれど、空腹の限界で塩味オンリーでも美味しく感じた。メイン料理は豚っぽい塩味のロースステーキだった。豚とはまた違う謎肉だが、今はなんでもおいしく感じる。ロワーズ、レズリー、それからハインツが注目する中、むしゃむしゃと全てを平らげ、一安心する。

「ごちそうさまでした。夕食感謝します」
「いえ、本当になんと言っていいか」

 ハインツがまた謝罪モードに入りそうになるのを止める。

「それより、シオンは大丈夫でしょうか?」
「はい。お坊ちゃまは少量ですがお食事をお取りになりました、そのあとはすぐにお休みになりました。今は側にアンが控えております」

 シオンもちゃんと夕食を食べることができたみたいでよかった。

「ハインツ、茶を持って来てくれ」

 ロワーズの指示ですぐお茶が配膳される。なんだか三人でまったり飲み始めたけど、私はもうシオンの元に戻っていいよね?

「レズリー、それで、ここへ来た用件はなんだ?」
「主に今後の訓練の予定についてです。エマちゃんにも、今後の説明をしようと思っていたから丁度よかったよ」

 なんだか中座するタイミングを失ったので、レズリーから説明を受ける。
 レズリーの説明によると、黒騎士団の第三部隊は現在ギランの森に三週間の訓練予定で滞在しており、残りの二週間も予定通りの訓練を行うそうだ。北の砦には二週間後以降に向かうと言われた。何もせず待つのは申し訳ないので手伝いができるか尋ねたのだが、訓練の一環としてすでに全ての騎士の配置は決められているそうだ。要するに、よそ者の私は邪魔になるだけだ。
 なんだか何もやらずに過ごすのは気が進まないなと思っていたら、レズリーがとある提案をする。

「そこで提案なんだけど、エマちゃん、生活魔法を覚えてみないかい?」
「魔法! 習えるのですか? それなら、是非、習いたいですが、それは迷惑ではありませんか?」

 指先から火や水を出せれば、今後にも便利だ。

「大丈夫だ。適任者の目星はもうついている。明日以降にその者を付けるよ。でも、その前に魔力がないと魔法は使用できない。エマちゃんに魔力があるか試すが、いいかい?」

 そっか。魔法って魔力がないと使えないのか。地球では魔力など宿っていなかったけれど、転移の副作用で生えてるといいな。

「はい。お願いします」
「じゃあ、両手を俺の手の上に添えてくれるかい? 魔力をエマちゃんに流すから何か感じたら教えてね」

 レズリーが広げた手の上に両手を添えると、ふんわりと生暖かい電流のようなものが両手から腕、肩まで上がるとゆっくりと全身へと広がった。

「全身が暖かいですね」
「よかった。魔力を感じたね。それじゃあ、体の中にある同じような暖かさを感じてみてごらん」

 レズリーの言う暖かさを感じようと集中する。心臓と下腹部あたりから、先ほどとは違う霧噴射《ミストシャワー》のような魔力を感じた。もっと魔力を引き出そうと集中すれば、徐々に体の芯から熱くなるのを感じ頬が赤くなるのが分かる。

「少し顔が熱いです」
「自分の魔力を感じたみたいだね。次は、その感じた魔力をゆっくり動かしてみてね」

 これを動かす? 巡らすってことかな? 全身に熱を送るようなイメージで魔力を注ぐと、一気に体の隅々まで魔力が行き届いたのを感じた。ああ、凄く気持ちいい。
魔力の心地よさに呆けていたら和太鼓のような音がドドンと鳴り、透き通った女性の声が頭の中で響いた。

『魔力感知を覚えました』
『魔力操作を覚えました』
『魔力感知、魔力操作により固有スキルとユニークスキルが解放されました』

 
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