14 / 94
異世界と少年と私
魔力
しおりを挟む
「エマ様、お詫びの言葉もございません」
顔色の悪いハインツが何度も謝罪をする。
無事に誤解が解け、同じように何度も謝るリリアに胸元オープンドレスを着替える手伝いをしてもらった後にロワーズの部屋に戻るとハインツが土下座をする勢いで謝罪してきた。
「ハインツさん、大丈夫です。何もありませんでしたので」
それは嘘だ。ロワーズと一緒に絡まる現場はレズリーをはじめ、騎士たちに目撃されてしまった。絡まりを目撃した騎士全員をレズリーが脅すように口止めはしたが……団長の色事かもしれないおいしいニュースがこのエンタメがないだろう野営地で出回らないはずない。
「誤解が解けてよかったが、二人はなぜ裸同然で抱き合っていたのかな?」
レズリーが再び、あの黒い笑顔で訊ねる。
「事故です。私が転んでしまいロワーズさんを巻き込んだのです」
「へぇ、団長を押し倒したのかい? エマちゃんは凄いね」
言い方……確かにロワーズを押し倒したみたいになったのだが、ただの事故だって。どうやらレズリーは、私がロワーズを押し倒せるはずがないと思っているようだ。事実なのに……。
着替えを済ませた軽装のロワーズがドカッとソファに座りレズリーを鬱陶しそうに見る。
「レズリー、揶揄うな。ただの事故だ」
「ああ、分かっている」
そう言いながらもまだ微笑むレズリーは、半信半疑のようだ。
グーッとまたお腹が鳴る。テーブルに置かれていた食べ物は着替え中に撤去されたようだ。やばい、お腹が空き過ぎて眩暈がする。
「ハインツさん、すみません。食べ物を下さい……」
「もちろんでございます。只今!」
ハインツが急いで運んできたトレーに載っていたのは、ハム、パン、チーズ、それから葡萄だった。
「メインもすぐにお持ちいたしますので、まずはこちらをどうぞ」
「いただきます」
ハムもパンもチーズもしょっぱいけれど、空腹の限界で塩味オンリーでも美味しく感じた。メイン料理は豚っぽい塩味のロースステーキだった。豚とはまた違う謎肉だが、今はなんでもおいしく感じる。ロワーズ、レズリー、それからハインツが注目する中、むしゃむしゃと全てを平らげ、一安心する。
「ごちそうさまでした。夕食感謝します」
「いえ、本当になんと言っていいか」
ハインツがまた謝罪モードに入りそうになるのを止める。
「それより、シオンは大丈夫でしょうか?」
「はい。お坊ちゃまは少量ですがお食事をお取りになりました、そのあとはすぐにお休みになりました。今は側にアンが控えております」
シオンもちゃんと夕食を食べることができたみたいでよかった。
「ハインツ、茶を持って来てくれ」
ロワーズの指示ですぐお茶が配膳される。なんだか三人でまったり飲み始めたけど、私はもうシオンの元に戻っていいよね?
「レズリー、それで、ここへ来た用件はなんだ?」
「主に今後の訓練の予定についてです。エマちゃんにも、今後の説明をしようと思っていたから丁度よかったよ」
なんだか中座するタイミングを失ったので、レズリーから説明を受ける。
レズリーの説明によると、黒騎士団の第三部隊は現在ギランの森に三週間の訓練予定で滞在しており、残りの二週間も予定通りの訓練を行うそうだ。北の砦には二週間後以降に向かうと言われた。何もせず待つのは申し訳ないので手伝いができるか尋ねたのだが、訓練の一環としてすでに全ての騎士の配置は決められているそうだ。要するに、よそ者の私は邪魔になるだけだ。
なんだか何もやらずに過ごすのは気が進まないなと思っていたら、レズリーがとある提案をする。
「そこで提案なんだけど、エマちゃん、生活魔法を覚えてみないかい?」
「魔法! 習えるのですか? それなら、是非、習いたいですが、それは迷惑ではありませんか?」
指先から火や水を出せれば、今後にも便利だ。
「大丈夫だ。適任者の目星はもうついている。明日以降にその者を付けるよ。でも、その前に魔力がないと魔法は使用できない。エマちゃんに魔力があるか試すが、いいかい?」
そっか。魔法って魔力がないと使えないのか。地球では魔力など宿っていなかったけれど、転移の副作用で生えてるといいな。
「はい。お願いします」
「じゃあ、両手を俺の手の上に添えてくれるかい? 魔力をエマちゃんに流すから何か感じたら教えてね」
レズリーが広げた手の上に両手を添えると、ふんわりと生暖かい電流のようなものが両手から腕、肩まで上がるとゆっくりと全身へと広がった。
「全身が暖かいですね」
「よかった。魔力を感じたね。それじゃあ、体の中にある同じような暖かさを感じてみてごらん」
レズリーの言う暖かさを感じようと集中する。心臓と下腹部あたりから、先ほどとは違う霧噴射《ミストシャワー》のような魔力を感じた。もっと魔力を引き出そうと集中すれば、徐々に体の芯から熱くなるのを感じ頬が赤くなるのが分かる。
「少し顔が熱いです」
「自分の魔力を感じたみたいだね。次は、その感じた魔力をゆっくり動かしてみてね」
これを動かす? 巡らすってことかな? 全身に熱を送るようなイメージで魔力を注ぐと、一気に体の隅々まで魔力が行き届いたのを感じた。ああ、凄く気持ちいい。
魔力の心地よさに呆けていたら和太鼓のような音がドドンと鳴り、透き通った女性の声が頭の中で響いた。
『魔力感知を覚えました』
『魔力操作を覚えました』
『魔力感知、魔力操作により固有スキルとユニークスキルが解放されました』
顔色の悪いハインツが何度も謝罪をする。
無事に誤解が解け、同じように何度も謝るリリアに胸元オープンドレスを着替える手伝いをしてもらった後にロワーズの部屋に戻るとハインツが土下座をする勢いで謝罪してきた。
「ハインツさん、大丈夫です。何もありませんでしたので」
それは嘘だ。ロワーズと一緒に絡まる現場はレズリーをはじめ、騎士たちに目撃されてしまった。絡まりを目撃した騎士全員をレズリーが脅すように口止めはしたが……団長の色事かもしれないおいしいニュースがこのエンタメがないだろう野営地で出回らないはずない。
「誤解が解けてよかったが、二人はなぜ裸同然で抱き合っていたのかな?」
レズリーが再び、あの黒い笑顔で訊ねる。
「事故です。私が転んでしまいロワーズさんを巻き込んだのです」
「へぇ、団長を押し倒したのかい? エマちゃんは凄いね」
言い方……確かにロワーズを押し倒したみたいになったのだが、ただの事故だって。どうやらレズリーは、私がロワーズを押し倒せるはずがないと思っているようだ。事実なのに……。
着替えを済ませた軽装のロワーズがドカッとソファに座りレズリーを鬱陶しそうに見る。
「レズリー、揶揄うな。ただの事故だ」
「ああ、分かっている」
そう言いながらもまだ微笑むレズリーは、半信半疑のようだ。
グーッとまたお腹が鳴る。テーブルに置かれていた食べ物は着替え中に撤去されたようだ。やばい、お腹が空き過ぎて眩暈がする。
「ハインツさん、すみません。食べ物を下さい……」
「もちろんでございます。只今!」
ハインツが急いで運んできたトレーに載っていたのは、ハム、パン、チーズ、それから葡萄だった。
「メインもすぐにお持ちいたしますので、まずはこちらをどうぞ」
「いただきます」
ハムもパンもチーズもしょっぱいけれど、空腹の限界で塩味オンリーでも美味しく感じた。メイン料理は豚っぽい塩味のロースステーキだった。豚とはまた違う謎肉だが、今はなんでもおいしく感じる。ロワーズ、レズリー、それからハインツが注目する中、むしゃむしゃと全てを平らげ、一安心する。
「ごちそうさまでした。夕食感謝します」
「いえ、本当になんと言っていいか」
ハインツがまた謝罪モードに入りそうになるのを止める。
「それより、シオンは大丈夫でしょうか?」
「はい。お坊ちゃまは少量ですがお食事をお取りになりました、そのあとはすぐにお休みになりました。今は側にアンが控えております」
シオンもちゃんと夕食を食べることができたみたいでよかった。
「ハインツ、茶を持って来てくれ」
ロワーズの指示ですぐお茶が配膳される。なんだか三人でまったり飲み始めたけど、私はもうシオンの元に戻っていいよね?
「レズリー、それで、ここへ来た用件はなんだ?」
「主に今後の訓練の予定についてです。エマちゃんにも、今後の説明をしようと思っていたから丁度よかったよ」
なんだか中座するタイミングを失ったので、レズリーから説明を受ける。
レズリーの説明によると、黒騎士団の第三部隊は現在ギランの森に三週間の訓練予定で滞在しており、残りの二週間も予定通りの訓練を行うそうだ。北の砦には二週間後以降に向かうと言われた。何もせず待つのは申し訳ないので手伝いができるか尋ねたのだが、訓練の一環としてすでに全ての騎士の配置は決められているそうだ。要するに、よそ者の私は邪魔になるだけだ。
なんだか何もやらずに過ごすのは気が進まないなと思っていたら、レズリーがとある提案をする。
「そこで提案なんだけど、エマちゃん、生活魔法を覚えてみないかい?」
「魔法! 習えるのですか? それなら、是非、習いたいですが、それは迷惑ではありませんか?」
指先から火や水を出せれば、今後にも便利だ。
「大丈夫だ。適任者の目星はもうついている。明日以降にその者を付けるよ。でも、その前に魔力がないと魔法は使用できない。エマちゃんに魔力があるか試すが、いいかい?」
そっか。魔法って魔力がないと使えないのか。地球では魔力など宿っていなかったけれど、転移の副作用で生えてるといいな。
「はい。お願いします」
「じゃあ、両手を俺の手の上に添えてくれるかい? 魔力をエマちゃんに流すから何か感じたら教えてね」
レズリーが広げた手の上に両手を添えると、ふんわりと生暖かい電流のようなものが両手から腕、肩まで上がるとゆっくりと全身へと広がった。
「全身が暖かいですね」
「よかった。魔力を感じたね。それじゃあ、体の中にある同じような暖かさを感じてみてごらん」
レズリーの言う暖かさを感じようと集中する。心臓と下腹部あたりから、先ほどとは違う霧噴射《ミストシャワー》のような魔力を感じた。もっと魔力を引き出そうと集中すれば、徐々に体の芯から熱くなるのを感じ頬が赤くなるのが分かる。
「少し顔が熱いです」
「自分の魔力を感じたみたいだね。次は、その感じた魔力をゆっくり動かしてみてね」
これを動かす? 巡らすってことかな? 全身に熱を送るようなイメージで魔力を注ぐと、一気に体の隅々まで魔力が行き届いたのを感じた。ああ、凄く気持ちいい。
魔力の心地よさに呆けていたら和太鼓のような音がドドンと鳴り、透き通った女性の声が頭の中で響いた。
『魔力感知を覚えました』
『魔力操作を覚えました』
『魔力感知、魔力操作により固有スキルとユニークスキルが解放されました』
477
お気に入りに追加
1,355
あなたにおすすめの小説

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

天才手芸家としての功績を嘘吐きな公爵令嬢に奪われました
サイコちゃん
恋愛
ビルンナ小国には、幸運を運ぶ手芸品を作る<謎の天才手芸家>が存在する。公爵令嬢モニカは自分が天才手芸家だと嘘の申し出をして、ビルンナ国王に認められた。しかし天才手芸家の正体は伯爵ヴィオラだったのだ。
「嘘吐きモニカ様も、それを認める国王陛下も、大嫌いです。私は隣国へ渡り、今度は素性を隠さずに手芸家として活動します。さようなら」
やがてヴィオラは仕事で大成功する。美貌の王子エヴァンから愛され、自作の手芸品には小国が買えるほどの値段が付いた。それを知ったビルンナ国王とモニカは隣国を訪れ、ヴィオラに雑な謝罪と最低最悪なプレゼントをする。その行為が破滅を呼ぶとも知らずに――

断罪された大聖女は死に戻り地味に生きていきたい
花音月雫
ファンタジー
幼い頃に大聖女に憧れたアイラ。でも大聖女どころか聖女にもなれずその後の人生も全て上手くいかず気がつくと婚約者の王太子と幼馴染に断罪されていた!天使と交渉し時が戻ったアイラは家族と自分が幸せになる為地味に生きていこうと決心するが......。何故か周りがアイラをほっといてくれない⁉︎そして次から次へと事件に巻き込まれて......。地味に目立たなく生きて行きたいのにどんどん遠ざかる⁉︎執着系溺愛ストーリー。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

[完結長編連載]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ・更新報告はTwitter等
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

妖精の取り替え子として平民に転落した元王女ですが、努力チートで幸せになります。
haru.
恋愛
「今ここに、17年間偽られ続けた真実を証すッ! ここにいるアクリアーナは本物の王女ではないッ! 妖精の取り替え子によって偽られた偽物だッ!」
17年間マルヴィーア王国の第二王女として生きてきた人生を否定された。王家が主催する夜会会場で、自分の婚約者と本物の王女だと名乗る少女に……
家族とは見た目も才能も似ておらず、肩身の狭い思いをしてきたアクリアーナ。
王女から平民に身を落とす事になり、辛い人生が待ち受けていると思っていたが、王族として恥じぬように生きてきた17年間の足掻きは無駄ではなかった。
「あれ? 何だか王女でいるよりも楽しいかもしれない!」
自身の努力でチートを手に入れていたアクリアーナ。
そんな王女を秘かに想っていた騎士団の第三師団長が騎士を辞めて私を追ってきた!?
アクリアーナの知らぬ所で彼女を愛し、幸せを願う者達。
王女ではなくなった筈が染み付いた王族としての秩序で困っている民を見捨てられないアクリアーナの人生は一体どうなる!?
※ ヨーロッパの伝承にある取り替え子(チェンジリング)とは違う話となっております。
異世界の創作小説として見て頂けたら嬉しいです。
(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾ペコ

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?
朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!
「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」
王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。
不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。
もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた?
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる