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異世界と少年と私
ありがたい連行
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「魔の者でないことは理解した。だが、それならば何故ここにいる?」
そんなのは私も聞きたいね。まず、ここは異世界。そして、今いる国はうんちゃら王国だという話も分かった。でも、そんな国は知らないから今の位置情報も分からない。だから、なんでここにいるかを尋ねられても困る。光に誘拐されたから……そんなことを口走ったら、またあの静電気剣を向けられそうだ。
今はとにかく情報が欲しい。
「ここは、どこですか?」
団長様に怪訝な顔をされる。何を言ってんだこいつと思っているがもろに顔に出ている。仕方ないんです。ここがどこか分からないのだから。
レズリーが困ったように尋ねる。
「お嬢さんたちは、どこから来た? ここはウエストリア王国、北の砦近くギランの森。通常一般人は入らない森の領域だ。故に、二人を警戒することを理解してほしい」
それで、二人とも異様にピリピリしているのだろうか?
二人は今、黒騎士団の訓練のために野営地を設けて森に滞在しているそうだ。北の塔とは彼らが所属する黒騎士団が滞在している街のような場所らしい。街……そこまで行ければ、今後どうするか選択肢は広がりそうだけど。
どう返答するかを考えていたらレズリーが再び口を開く。
「お嬢さんたちは、この国では珍しい髪色に顔立ちだ。二人はこの国の者ではないのでは?」
「お嬢さんじゃないです。エマと申します」
流石に四十間近でお嬢さんって呼ばれ続けられるのはつらい。姓は、今は別に教えなくともいいと判断。
「何故、ここにいるのかは正直分からないです。気がついたら……ここにいたんです」
「気がついたらとは……人攫いか?」
レズリーが何か呟いたけれど、なんと言ったのかはよく聞こえなかった。
「冷たっ」
額に付いた雪が水滴になって頬まで流れたのを手で拭いながら、ハッとする。シオンは半袖短パンなのだ。
私、バカじゃない? こんな寒い中、一番にケアしてあげないといけないのはシオンだ。
急いで着ていたダウンジャケットを脱いでシオンを包む。
「ごめんね。寒かったでしょう?」
オーバーサイズのダウンジャケットを着たシオンが足元をモジモジさせる。あ、上だけ着せても裸足じゃ意味がない。
「シオン、抱っこしても大丈夫?」
「……うん」
よかった。嫌がられたり怖がられたりはしていないようだ。
子供を抱き上げるのに慣れていなくて、シオンを抱っこするのに手こずり、いろんな体制で抱っこしてみる。結局は一番しっくりきた、前後ろを逆にダウンジャケットを着て中でシオンを前向き抱っこすることで収まった。私の背中はスース―するけど、シオンは全身が包まれる。以前の体型のままだったら布が足りなかった。細くなってよかった。
胸元にあるシオンの顔が覗く。可愛い。始めこそは、抱っこされることに戸惑ったシオンもダウンジャケット内の温かさに安心したのかウトウトし始めた。五歳くらいの子供ってもっと重たいと思っていたけれど、想像より軽くてびっくりした。こんなものなの?
団長様が天候を確かめながら、ため息混じりで言う。
「ここにいても埒が明かない。日没までには野営地に到着したい。二人にはこのまま同行してもらう。拒否権はない」
こちらとしても日暮れ前に安全な場所へ移動できるのはありがたい話だ。こんな右も左も分からない場所に置いていかれるよりも、連行された方が生き残る可能性は高い。でも、団長様さ、言い方って大切だと思う。まるで上官が命令するかのように淡々と話を進める団長様を見かねたレズリーが間に入る。
「先ほども自己紹介をしたが、俺はウエストリア王国黒騎士団副団長のレズリーだ。それから、こちらが――」
「ロワーズ・フォン・クライストだ」
レズリーの言葉を遮り、自己紹介をする団長様。フォンのような家名の前に前置詞があるってことは地位の高い人なのだろうか? そうだとしても、向けられる威圧的な態度になんだか腹が立つ。
「エマです。この子はシオン。レズリー副団長、それから……ロワーズフォンクライストさん、よろしくお願いします」
敬意は崩さずに嫌味を込めて挨拶すれば『くっ』という音が団長様から聞こえた。
「エマちゃんにシオン君だね。ここから野営地まで少し距離はあるが、シオン君は俺が抱っこしようか?」
レズリーが両手を差し出してくると、シオンがイヤイヤと首を横に振った。そうだよね。シオンにとって私も知らない人だけど、レズリーは剣を向けて来た人だもんね。
「軽いので問題ないです。申し出は感謝します」
「そうか。分かった。休憩が必要なら遠慮せず教えほしい」
行き場を失った両手を引っ込めたレズリーが爽やかに笑う。
「はい、ありがとうございます」
野営地までは徒歩で三時間ほどかかるそうだ。三時間……。
コンビニ、スーパーのみの往復生活で体力も落ちまくっていたので心配になったけれど、歩き出したら足も身体も以前とは比べものにならないくらい軽やかだった。わー、肉がないって最高!
因みに、北の砦までは野営地から更に馬車で一日半ほどかかるそうだ。どこが北の砦近くの森なのか小一時間ほど問い詰めたいなと思いながら先を行く団長様に付いて行く。
そんなのは私も聞きたいね。まず、ここは異世界。そして、今いる国はうんちゃら王国だという話も分かった。でも、そんな国は知らないから今の位置情報も分からない。だから、なんでここにいるかを尋ねられても困る。光に誘拐されたから……そんなことを口走ったら、またあの静電気剣を向けられそうだ。
今はとにかく情報が欲しい。
「ここは、どこですか?」
団長様に怪訝な顔をされる。何を言ってんだこいつと思っているがもろに顔に出ている。仕方ないんです。ここがどこか分からないのだから。
レズリーが困ったように尋ねる。
「お嬢さんたちは、どこから来た? ここはウエストリア王国、北の砦近くギランの森。通常一般人は入らない森の領域だ。故に、二人を警戒することを理解してほしい」
それで、二人とも異様にピリピリしているのだろうか?
二人は今、黒騎士団の訓練のために野営地を設けて森に滞在しているそうだ。北の塔とは彼らが所属する黒騎士団が滞在している街のような場所らしい。街……そこまで行ければ、今後どうするか選択肢は広がりそうだけど。
どう返答するかを考えていたらレズリーが再び口を開く。
「お嬢さんたちは、この国では珍しい髪色に顔立ちだ。二人はこの国の者ではないのでは?」
「お嬢さんじゃないです。エマと申します」
流石に四十間近でお嬢さんって呼ばれ続けられるのはつらい。姓は、今は別に教えなくともいいと判断。
「何故、ここにいるのかは正直分からないです。気がついたら……ここにいたんです」
「気がついたらとは……人攫いか?」
レズリーが何か呟いたけれど、なんと言ったのかはよく聞こえなかった。
「冷たっ」
額に付いた雪が水滴になって頬まで流れたのを手で拭いながら、ハッとする。シオンは半袖短パンなのだ。
私、バカじゃない? こんな寒い中、一番にケアしてあげないといけないのはシオンだ。
急いで着ていたダウンジャケットを脱いでシオンを包む。
「ごめんね。寒かったでしょう?」
オーバーサイズのダウンジャケットを着たシオンが足元をモジモジさせる。あ、上だけ着せても裸足じゃ意味がない。
「シオン、抱っこしても大丈夫?」
「……うん」
よかった。嫌がられたり怖がられたりはしていないようだ。
子供を抱き上げるのに慣れていなくて、シオンを抱っこするのに手こずり、いろんな体制で抱っこしてみる。結局は一番しっくりきた、前後ろを逆にダウンジャケットを着て中でシオンを前向き抱っこすることで収まった。私の背中はスース―するけど、シオンは全身が包まれる。以前の体型のままだったら布が足りなかった。細くなってよかった。
胸元にあるシオンの顔が覗く。可愛い。始めこそは、抱っこされることに戸惑ったシオンもダウンジャケット内の温かさに安心したのかウトウトし始めた。五歳くらいの子供ってもっと重たいと思っていたけれど、想像より軽くてびっくりした。こんなものなの?
団長様が天候を確かめながら、ため息混じりで言う。
「ここにいても埒が明かない。日没までには野営地に到着したい。二人にはこのまま同行してもらう。拒否権はない」
こちらとしても日暮れ前に安全な場所へ移動できるのはありがたい話だ。こんな右も左も分からない場所に置いていかれるよりも、連行された方が生き残る可能性は高い。でも、団長様さ、言い方って大切だと思う。まるで上官が命令するかのように淡々と話を進める団長様を見かねたレズリーが間に入る。
「先ほども自己紹介をしたが、俺はウエストリア王国黒騎士団副団長のレズリーだ。それから、こちらが――」
「ロワーズ・フォン・クライストだ」
レズリーの言葉を遮り、自己紹介をする団長様。フォンのような家名の前に前置詞があるってことは地位の高い人なのだろうか? そうだとしても、向けられる威圧的な態度になんだか腹が立つ。
「エマです。この子はシオン。レズリー副団長、それから……ロワーズフォンクライストさん、よろしくお願いします」
敬意は崩さずに嫌味を込めて挨拶すれば『くっ』という音が団長様から聞こえた。
「エマちゃんにシオン君だね。ここから野営地まで少し距離はあるが、シオン君は俺が抱っこしようか?」
レズリーが両手を差し出してくると、シオンがイヤイヤと首を横に振った。そうだよね。シオンにとって私も知らない人だけど、レズリーは剣を向けて来た人だもんね。
「軽いので問題ないです。申し出は感謝します」
「そうか。分かった。休憩が必要なら遠慮せず教えほしい」
行き場を失った両手を引っ込めたレズリーが爽やかに笑う。
「はい、ありがとうございます」
野営地までは徒歩で三時間ほどかかるそうだ。三時間……。
コンビニ、スーパーのみの往復生活で体力も落ちまくっていたので心配になったけれど、歩き出したら足も身体も以前とは比べものにならないくらい軽やかだった。わー、肉がないって最高!
因みに、北の砦までは野営地から更に馬車で一日半ほどかかるそうだ。どこが北の砦近くの森なのか小一時間ほど問い詰めたいなと思いながら先を行く団長様に付いて行く。
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