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本編
朝食前の会話
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食事も中盤の頃、爺さんが明日の予定を告げる。
「明日は海を見たら、アジュール最大の市場に向かい、一度帰ってから夜はカニだ」
「そのスケジュール、素敵すぎます」
「お主は楽しみ過ぎて迷子にならぬよう気を付けるのじゃぞ。お主には前例があるからの」
「ギルド長も迷子にならないでくださいね」
「お主……」
その後、夕食後お腹いっぱいになりベッドで横になる。私とラジェはそれぞれ個室をもらえたのでラッキーだった。今日から一か月ほど使う部屋は、綺麗だけどシンプルな飾りつけでゲストベッドとクローゼットがあるだけだ。私はこれで十分だけど、たぶん、普段爺さんはこの家に人を招いていないのだと思う。
いつもだったら毎日魔力を放出していたので問題なかったけど、どうやら魔力を数日ため込むとお腹辺りが熱っぽくなるようだ。
今日は疲れたので白魔法を連発してさっさと寝よう。
黒魔法で部屋を囲み、浄化の魔法を連発するとすっきりしてそのまま寝落ちした。
◇
アジュール滞在二日目、焼き立てのパンの匂いで少し早く起きてしまう。
準備をしてリビングに向かえば、すでに起きていた爺さんが紅茶を飲みながら窓の外を眺めていた。月光さんの姿は見当たらない。
「おはようございます」
「なんじゃい、早いな」
「月光さんはまだお休みですか?」
「……その内に顔を出す」
窓の外を見ると、ウィルさんがちょうど馬に乗って到着したところだった。
なんだかウィルさんの表情は疲れているように見える。
「ウィルさん、ちゃんと眠れたのでしょうか?」
「若いから大丈夫であろう。別に今日も護衛する必要はないと言ったのに勝手についてくるのだ、お主が心配などする必要はない」
爺さんが鼻で笑う。
シルヴァンさんのお願いという話だけど、なぜウィルさんがここまで世話を焼いてくれるのかよく分からない。何かがおかしいと感じるけど、それが何なのかが分からなくて歯痒い。
フレバの町でコッソリと聞いた、爺さんと月光さんの会話を思いだしながら爺さんに尋ねる。
「私って神官長様に似ていますか?」
「お主……何故にそのような質問をする」
「いや、なんとなく。似ていると言われたので」
「誰にだ?」
「人です。それが誰なのかは重要ではないです」
爺さんが馬をポールに繋げるウィルさんを見ながら答える。
「似てはいると思うが、他人の空似などよくあることだ」
「そうですか」
「それより、エルが早朝からお主たちのためにパンを焼いていたぞ」
「やっぱり! 実は美味しそうな匂いで起きました」
ウィルさんがドアをノックする音が聞こえたので扉を開ける。
「おはようございます」
「おはよう。起きるのが早いな」
「お互い様ですね。ちゃんと休まれましたか?」
「ああ、問題ない」
ウィルさんは平気そうにしているけど、目の下のクマが酷いので嘘を付いていると思う。
「今から朝食なんですよ。ウィルさんもいかがですか?」
「俺はすでに朝食を済ませた」
「それだったら、紅茶でも飲んでください」
爺さん、ウィルさん、それから私でテーブルを囲む。なんだか爺さんもウィルさんも表情が硬くぎこちない。それとは対照的に私は焼き立てのパンを食べながらニコニコ顔だ。オレンジが練り込まれたパンは柔らかく、ほんのり甘い。
「お主は本当に幸せそうに食べるな」
「そりゃ美味しいですから」
爺さんは、朝は紅茶のみで食事はしないという。ウィルさんにオレンジパンを勧めてみたけど遠慮された。
少しして起きてきたラジェは、美味しそうにオレンジパンを頬張ってくれた。
全員の準備ができたので、馬車に乗り海へと出発する。
「明日は海を見たら、アジュール最大の市場に向かい、一度帰ってから夜はカニだ」
「そのスケジュール、素敵すぎます」
「お主は楽しみ過ぎて迷子にならぬよう気を付けるのじゃぞ。お主には前例があるからの」
「ギルド長も迷子にならないでくださいね」
「お主……」
その後、夕食後お腹いっぱいになりベッドで横になる。私とラジェはそれぞれ個室をもらえたのでラッキーだった。今日から一か月ほど使う部屋は、綺麗だけどシンプルな飾りつけでゲストベッドとクローゼットがあるだけだ。私はこれで十分だけど、たぶん、普段爺さんはこの家に人を招いていないのだと思う。
いつもだったら毎日魔力を放出していたので問題なかったけど、どうやら魔力を数日ため込むとお腹辺りが熱っぽくなるようだ。
今日は疲れたので白魔法を連発してさっさと寝よう。
黒魔法で部屋を囲み、浄化の魔法を連発するとすっきりしてそのまま寝落ちした。
◇
アジュール滞在二日目、焼き立てのパンの匂いで少し早く起きてしまう。
準備をしてリビングに向かえば、すでに起きていた爺さんが紅茶を飲みながら窓の外を眺めていた。月光さんの姿は見当たらない。
「おはようございます」
「なんじゃい、早いな」
「月光さんはまだお休みですか?」
「……その内に顔を出す」
窓の外を見ると、ウィルさんがちょうど馬に乗って到着したところだった。
なんだかウィルさんの表情は疲れているように見える。
「ウィルさん、ちゃんと眠れたのでしょうか?」
「若いから大丈夫であろう。別に今日も護衛する必要はないと言ったのに勝手についてくるのだ、お主が心配などする必要はない」
爺さんが鼻で笑う。
シルヴァンさんのお願いという話だけど、なぜウィルさんがここまで世話を焼いてくれるのかよく分からない。何かがおかしいと感じるけど、それが何なのかが分からなくて歯痒い。
フレバの町でコッソリと聞いた、爺さんと月光さんの会話を思いだしながら爺さんに尋ねる。
「私って神官長様に似ていますか?」
「お主……何故にそのような質問をする」
「いや、なんとなく。似ていると言われたので」
「誰にだ?」
「人です。それが誰なのかは重要ではないです」
爺さんが馬をポールに繋げるウィルさんを見ながら答える。
「似てはいると思うが、他人の空似などよくあることだ」
「そうですか」
「それより、エルが早朝からお主たちのためにパンを焼いていたぞ」
「やっぱり! 実は美味しそうな匂いで起きました」
ウィルさんがドアをノックする音が聞こえたので扉を開ける。
「おはようございます」
「おはよう。起きるのが早いな」
「お互い様ですね。ちゃんと休まれましたか?」
「ああ、問題ない」
ウィルさんは平気そうにしているけど、目の下のクマが酷いので嘘を付いていると思う。
「今から朝食なんですよ。ウィルさんもいかがですか?」
「俺はすでに朝食を済ませた」
「それだったら、紅茶でも飲んでください」
爺さん、ウィルさん、それから私でテーブルを囲む。なんだか爺さんもウィルさんも表情が硬くぎこちない。それとは対照的に私は焼き立てのパンを食べながらニコニコ顔だ。オレンジが練り込まれたパンは柔らかく、ほんのり甘い。
「お主は本当に幸せそうに食べるな」
「そりゃ美味しいですから」
爺さんは、朝は紅茶のみで食事はしないという。ウィルさんにオレンジパンを勧めてみたけど遠慮された。
少しして起きてきたラジェは、美味しそうにオレンジパンを頬張ってくれた。
全員の準備ができたので、馬車に乗り海へと出発する。
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