転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

トロ猫

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本編

行ってきます!

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 出発の準備ができるまでガレルさんと話す爺さんをよそ目に、ラジェと乗車する馬車の外を眺める。
 ラジェが目を大きくしながら馬を見上げ呟く。

「綺麗……」
「ラジェは馬が好きなの?」
「うん。砂の国の馬とは違うけど、長い鬣が豪華だね」

 確かに私たちの乗る馬車の馬たちは、幌馬車の馬とは筋肉の付き方もしなやかさも一味違う。
 マリッサが微笑みながら馬を軽く撫でる。

「この子たちは長期の旅用の馬たちよ。他の馬より強く頑丈なのよ」

 マリッサが言うには、この馬たちは力が強いだけではなく持久力があるという。
 御者たちが馬車に乗り始めると、ジョーが寂しそうな顔で両手を広げる。

「ミリー、そろそろ出発するようだ。馬車に乗る前に父さんたちに大きなハグをしてくれ」
「うん!」

 ジョーに抱き着くと、よしよしと頭を撫でられる。

「エンリケさんの言うことをよく聞くんだぞ」
「お父さん、そんなにギュッとしたら痛いよ」
「くぅ、来年まで会えないと思うとつらいな」
「すぐに戻ってくるよ」
「ああ……気を付けて行ってくるんだぞ」

 ジョーを見上げると、少しだけ涙目になっていた。
 隣にいたジークを抱っこしたマリッサが片手を広げる。

「ミリー、いらっしゃい」
「お母さん!」

 マリッサの腕に飛び込む。

「お祖父さまからいただいたペンダント、何があっても外してはダメよ」
「はーい」
「ねぇね!」
「ミリー、ジークともお別れしてあげてね」

 マリッサに抱かれたままのジークにハグをすると、キャキャと声を上げて喜んだ。ジークは、たぶん私がしばらく家を空けることをまだ理解していないようだ。

「ジークもいい子でね。カニさんのお土産があったら買ってくるから」
「カニしゃん?」

 こんな首を傾げるジークの姿もしばらく見られないのか……
 マリッサが思い出したように声を上げる。

「あ、そうだわ。これをジョーのお母さまに預かっていたのよ」
「え? なんだろう?」

 マリッサから箱と手紙を渡される。どうやらジョーの母、ステファニーさんが年を越す前に晩餐会を計画していたらしい。でも、今回、私が王都にいないという事情を説明するとこの箱と手紙を送って来たらしい。
 箱は綺麗なピンクのリボンで包まれており、この場で開けるのを躊躇う。

「中は確認していないけど、旅の餞別だとおっしゃっていたわ。後で確認するといいわ」
「うん、分かった」

 馬車の近くでは、ガレルさんとラジェがハグをしながら砂の国の言葉で別れの挨拶をしていた。

「ギルド長といれば安全だろうが、何かあれば戦うことより自分を守ることを優先してくれ」
「ガレルは心配性だね。僕は大丈夫だよ」
「財布は掏られないようにちゃんと内ポケットに入れているか?」
「ちゃんと入れているよ」
「分かった……それなら、気を付けて行ってこい」
「うん……」

 ガレルさんは笑顔だったけど、心配なのだろう。表情は固い。
 それぞれのお別れが終わり、馬車へと向かう。すると、ようやくジークが異変に気付いたのか、大声で泣き始めた。

「ねぇね! ねぇね!」
「ジーク、ねぇねはすぐに戻ってくるから!」

 もう一度ジークを抱きしめながら言う。

「ねぇね。いっちょなの!」

 涙目のジークに上目遣いで言われ、心が揺れてしまう。

「ジーク、すぐまた会えるから。私が帰ってくるまで、これを私だと思ってね」

 爺さんたちに見えないように、土魔法で作った猫に乗った私の人形をジークに渡す。

「ねこしゃん……ねぇね……」
「うん。帰ってきたらカニしゃんも作るから。いい子で待っていてね」
「……カニしゃん」

 マリッサが苦笑いしながら言う。

「ミリー、ジークは大丈夫よ。ほら、馬車に乗って」
「うん。分かった」
「ミリー、気を付けて楽しんでくるんだぞ!」
「お父さん、お母さん、ジーク、行ってくるね!」

 後ろ髪を引かれながらも、馬車に乗り込む。
 窓を開け、みんなに向かって手を振ると馬車が出発した。
 窓から家族の姿が見えなくなるまでずっとラジェと手を振った。
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