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本編
アジュールに向けて 2
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リサを後に猫亭に戻る前に、キースに声を掛ける。
「家に帰る前に紙を買いたいです」
「紙ですか……それなら良い紙屋があります」
せっかくの初めての旅なので、旅路の思い出を紙に描こうかと思っている。
西区にある初めての紙屋に入る。目立たない看板にフェイバの紙屋と書いてある。
場所も入り組んだところにあるからか、窓から中を覗いた感じでは客は少ないようだ。
「もしかして知り合いのお店ですか?」
「いや、ここならゆっくり買
い物ができるかと思っただけです」
「ありがとうございます」
店の中に入ると、店内はそこまで広くない。でも、商品の数でいえば、東区の店よりも揃っている。
レターセットなんて十種類以上ある。アジュールにも紙屋はあるだろうけど、付いたらすぐにジョーたちに手紙を書きたい。以前は無地の手紙を買ったけど、懐は温かい。今日はこのいくつか押し花が入ったレターセットにしよう。銀貨六枚もするけど……
カウンターにいた若い男性の店員に声を掛ける。
「すみません。白い紙を下さい」
「はい。大きさはいかがしますか?」
便箋の大きさよりも少し大きさの白い紙を二十枚ほど購入する。一つ小銅貨三枚だったけど、質はいい。今日は紙用の入れ物を持って来ていないので、銅貨一枚する木の筒状の入れ物も購入する。
「後は鉛筆……え! これ、色鉛筆ですか?」
「はい。ナーザス商会の新商品となります」
「ナーザス商会ですか……」
元家族の商会だ。製紙業とは知っていたけど、こんな色鉛筆も作っていたんだ……
少し考え込んでいると、店員が笑顔で尋ねる。
「試し書きをされますか?」
「え? いいのですか?」
「二色のみですが、赤色、それから黄色なら試し書きが可能です」
「お願いします」
色鉛筆は糸で巻いたものではなく、芯が木に挟まれたものだった。
色鉛筆を握り、渡されたメモ紙に線を引く。
「わぁ。色鉛筆だぁ」
思ったよりも発色のいい色だ。
「力加減で色が柔らかくなりますよ」
店員が微笑みながら言う。
力を抜き、軽く色鉛筆動かす。ああ、この朱色は夕暮れとか描くのによさそう。黄色も試してみると、こちらも発色のいい色だった。原材料はなんだろう? 蝋は入っていると思う……
「全部で何色あるのですか?」
「赤、黄、緑、それから青がございます」
よし、全部買おう。
「全部ください」
「全種類でしょうか? 赤は一つ銅貨三枚、残りは一つ銅貨五枚になりますが、よろしいでしょうか?」
高い! 高い! 高いけど、欲しい……
猫の財布と相談をする。銅貨二枚の黒の鉛筆も二本購入したい。アジュールに行くためにお金を準備していたので、全部買っても足りそうだ。よし!
「はい。全種類ください!」
一瞬、店員がキースに視線を移すが、キースは無表情のままで店員を見返した。
「か、畏まりました。それでは準備をいたしますので、少々お待ちください」
店員が商品を準備する間、猫の財布から銀貨四枚を出す。前世なら同じ文房具に四万近くもの出費があったことなんてなかったけど……今回だけ……今回だけだ。
店員から商品を受け取り、馬車に乗るとキースが無表情で言う。
「支度金をまた引き出しに行かないといけないですね」
「う、そうですね……」
「家に帰る前に紙を買いたいです」
「紙ですか……それなら良い紙屋があります」
せっかくの初めての旅なので、旅路の思い出を紙に描こうかと思っている。
西区にある初めての紙屋に入る。目立たない看板にフェイバの紙屋と書いてある。
場所も入り組んだところにあるからか、窓から中を覗いた感じでは客は少ないようだ。
「もしかして知り合いのお店ですか?」
「いや、ここならゆっくり買
い物ができるかと思っただけです」
「ありがとうございます」
店の中に入ると、店内はそこまで広くない。でも、商品の数でいえば、東区の店よりも揃っている。
レターセットなんて十種類以上ある。アジュールにも紙屋はあるだろうけど、付いたらすぐにジョーたちに手紙を書きたい。以前は無地の手紙を買ったけど、懐は温かい。今日はこのいくつか押し花が入ったレターセットにしよう。銀貨六枚もするけど……
カウンターにいた若い男性の店員に声を掛ける。
「すみません。白い紙を下さい」
「はい。大きさはいかがしますか?」
便箋の大きさよりも少し大きさの白い紙を二十枚ほど購入する。一つ小銅貨三枚だったけど、質はいい。今日は紙用の入れ物を持って来ていないので、銅貨一枚する木の筒状の入れ物も購入する。
「後は鉛筆……え! これ、色鉛筆ですか?」
「はい。ナーザス商会の新商品となります」
「ナーザス商会ですか……」
元家族の商会だ。製紙業とは知っていたけど、こんな色鉛筆も作っていたんだ……
少し考え込んでいると、店員が笑顔で尋ねる。
「試し書きをされますか?」
「え? いいのですか?」
「二色のみですが、赤色、それから黄色なら試し書きが可能です」
「お願いします」
色鉛筆は糸で巻いたものではなく、芯が木に挟まれたものだった。
色鉛筆を握り、渡されたメモ紙に線を引く。
「わぁ。色鉛筆だぁ」
思ったよりも発色のいい色だ。
「力加減で色が柔らかくなりますよ」
店員が微笑みながら言う。
力を抜き、軽く色鉛筆動かす。ああ、この朱色は夕暮れとか描くのによさそう。黄色も試してみると、こちらも発色のいい色だった。原材料はなんだろう? 蝋は入っていると思う……
「全部で何色あるのですか?」
「赤、黄、緑、それから青がございます」
よし、全部買おう。
「全部ください」
「全種類でしょうか? 赤は一つ銅貨三枚、残りは一つ銅貨五枚になりますが、よろしいでしょうか?」
高い! 高い! 高いけど、欲しい……
猫の財布と相談をする。銅貨二枚の黒の鉛筆も二本購入したい。アジュールに行くためにお金を準備していたので、全部買っても足りそうだ。よし!
「はい。全種類ください!」
一瞬、店員がキースに視線を移すが、キースは無表情のままで店員を見返した。
「か、畏まりました。それでは準備をいたしますので、少々お待ちください」
店員が商品を準備する間、猫の財布から銀貨四枚を出す。前世なら同じ文房具に四万近くもの出費があったことなんてなかったけど……今回だけ……今回だけだ。
店員から商品を受け取り、馬車に乗るとキースが無表情で言う。
「支度金をまた引き出しに行かないといけないですね」
「う、そうですね……」
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