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本編
家族会議+1
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夜、ジョーが猫亭のディナーの営業を少し早く切り上げた。家族会議の時間だ。
ジョーとマリッサ、マリッサの膝の上でボーロを食べるジーク……そしてなぜか月光さん扮するキースも一緒にテーブルを囲んだ。
一応、キースは護衛という名目で四階の空いていた部屋に滞在中だけど……この家族会議が爺さんに筒抜けになるのはちょっと……どこかで線引きは必要だ。
キースに耳打ちをしながら牽制する。
「キースさん、今日の話し合いの内容までギルド長に伝えなくていいですからね?」
「私の胸の内に秘めておきます」
「……ありがとうござます」
ジークがテーブルから零しそうになったボーロをキースが急いでキャッチする。
「ジーク坊ちゃん、落としましたよ」
ジークが無言でゆっくりとキースからボーロを受け取る。今、ジークはちょっと人見知り中だ。特にキースにはまだ慣れていないようで少し警戒しているようだ。でも、どうやら今回はボーロが欲しいという気持ちが人見知りを上回ったようだ。
ボーロを受け取ると、ジークはすぐにキースから視線を逸らした。
ジークがこの時間に起きているのは珍しい。でも、それは昼間に私とたくさん遊んだので、昼寝をしなかったからだ。ジークは、夕食後にすっかりと寝てしまい、少し前に目覚めたばかりだった。
家族会議の議題は私のアジュール行きの件だ。
昼間にアジュールに行きたいかどうかどうか、ジークと遊びながら考えてみた。
出した答えは、行きたいだった。
理由は、これを逃せばアジュールへ訪れる機会がいつ来るか分からない。下手すれば、大人にならないといけないかもしれない。そうしたら、カニや海鮮料理は大人になるまでお預けということになるのだ……
(カニ、食べたい)
そんなことを考えていると、目の前に座るジョーが訝しげに尋ねる。
「ミリー、なんでそんなにニヤつきながら、口を拭いているんだ?」
「ちょっと食べ物のこと考えていて……」
「夕食、足りなかったか? 皿から溢れそうなほどシチューを盛っていたのを見たが……」
「ううん。お腹いっぱいだよ」
今日は、ジークと遊んでいる時に、アジュールのことを考えながら土魔法で大量の蟹や海の生き物を出して遊んでいた。そして、その反動で夕食はたくさん食べていた。
「これでも食うか?」
ジョーがポケットから袋に入ったオーツクッキーを渡してくる。
「お父さん、ありがとう。後で食べるね」
「後で……? ミリー、大丈夫か?」
クッキーを後で食べると言っただけで、ジョーもマリッサも驚いたように目を見開く。そこまで驚くことかな? そんなに食いしん坊……いや、今までのことを思い返すと完全に食いしん坊キャラだった。
オーツクッキーを見れば、いつもは入っていない赤いベリーが入っていた。美味しそう……
「やっぱり、食べようかな」
「お、おう。今日は木苺入りだぞ」
クッキーを一口齧れば、木苺の甘酸っぱさがフワっと口の中で広がった。
「美味しい」
「だろ?」
ジョーが満面の笑みで笑う。
クッキーを食べ終わると、マリッサが尋ねる。
「アジュールの話、ミリーはどうしたいの?」
「アジュールには、行きたいかな……」
私の答えを聞いたマリッサとジョーは、互いを見ながら諦めたように笑う。
「ミリーなら、そう言うのではないかと思っていたのよ。ねぇ、ジョー?」
「ああ。そうだな。だが、心配だ」
マリッサは私のアジュール行きに賛成のようだ。ジョーはというと、少しだけ懸念があるようだ。
やや難しい顔をするジョーに尋ねる。
「お父さんは、何が一番気になるの?」
「それはだな……道中が危険だろ? 魔物もまだ増えたままだ。それに――」
「それに?」
「ミリーが何週間も家にいないなんて寂しいだろ!」
ジョーが子犬のような顔をして言う。
そうだった……カニのことばかり考えて、そのことを忘れていた。マリッサとジョーとは拾われて以来ずっと一緒にいた。いままでもお泊りとかほとんどしていないので、二人から離れるという実感が薄かった。
「ねぇね、いないいないする?」
ジークもジョーと同じ子犬顔で首を傾げる。可愛いけど、これはちゃんと説明しないと泣き出しそうだ。
「ジーク、ねぇねぇはまだいないいないしないよ」
「ジークもいないない」
そう言いながら顔を隠すジークが愛おしかった。
ボーロを食べ終えると、ジークはまた眠たくなったのかウトウトし始めた。
マリッサがジークを寝かしつけている間、ジョーが爺さんに尋ねたいことを紙に書きだした。
ジョーが紙に書いている内容を盗み見する。細々としたものもあったが、ジョーの懸念は主に二つ、私の安全、それから私と離れる期間の長さだ。
「新年も一緒に祝えないのか……」
少し拗ねたように言うジョーを戻って来たマリッサが宥める。
「ジョー、ミリーも少しずつ大人になってきたのよ、これも練習だと思いしょう」
「そんな練習したくないが……護衛も雇うだろうし、キースも同行するのだろう?」
「はい。その予定です」
キースが頷きながら言うと、マリッサとジョーも頷く。キースへの信頼が凄い。
「エンリケさんとキースがいるのなら問題はないだろうが、詳細を直接聞いてから最終的には決めないか?」
「そうね。ミリーもそれでいいかしら?」
「うん!」
マリッサはほぼ賛成、ジョーは詳細を聞いてからアジュール行きの判断をすることになった。
部屋に戻り、ベッドに横になる。
爺さんの家への招待は二日後だ。そういえば、爺さんの家に行くのは初めてだ。爺さんの家ってどんなところだろう。
「想像もできない」
そんなことを考えているといつの間にか意識を手放していた。
ジョーとマリッサ、マリッサの膝の上でボーロを食べるジーク……そしてなぜか月光さん扮するキースも一緒にテーブルを囲んだ。
一応、キースは護衛という名目で四階の空いていた部屋に滞在中だけど……この家族会議が爺さんに筒抜けになるのはちょっと……どこかで線引きは必要だ。
キースに耳打ちをしながら牽制する。
「キースさん、今日の話し合いの内容までギルド長に伝えなくていいですからね?」
「私の胸の内に秘めておきます」
「……ありがとうござます」
ジークがテーブルから零しそうになったボーロをキースが急いでキャッチする。
「ジーク坊ちゃん、落としましたよ」
ジークが無言でゆっくりとキースからボーロを受け取る。今、ジークはちょっと人見知り中だ。特にキースにはまだ慣れていないようで少し警戒しているようだ。でも、どうやら今回はボーロが欲しいという気持ちが人見知りを上回ったようだ。
ボーロを受け取ると、ジークはすぐにキースから視線を逸らした。
ジークがこの時間に起きているのは珍しい。でも、それは昼間に私とたくさん遊んだので、昼寝をしなかったからだ。ジークは、夕食後にすっかりと寝てしまい、少し前に目覚めたばかりだった。
家族会議の議題は私のアジュール行きの件だ。
昼間にアジュールに行きたいかどうかどうか、ジークと遊びながら考えてみた。
出した答えは、行きたいだった。
理由は、これを逃せばアジュールへ訪れる機会がいつ来るか分からない。下手すれば、大人にならないといけないかもしれない。そうしたら、カニや海鮮料理は大人になるまでお預けということになるのだ……
(カニ、食べたい)
そんなことを考えていると、目の前に座るジョーが訝しげに尋ねる。
「ミリー、なんでそんなにニヤつきながら、口を拭いているんだ?」
「ちょっと食べ物のこと考えていて……」
「夕食、足りなかったか? 皿から溢れそうなほどシチューを盛っていたのを見たが……」
「ううん。お腹いっぱいだよ」
今日は、ジークと遊んでいる時に、アジュールのことを考えながら土魔法で大量の蟹や海の生き物を出して遊んでいた。そして、その反動で夕食はたくさん食べていた。
「これでも食うか?」
ジョーがポケットから袋に入ったオーツクッキーを渡してくる。
「お父さん、ありがとう。後で食べるね」
「後で……? ミリー、大丈夫か?」
クッキーを後で食べると言っただけで、ジョーもマリッサも驚いたように目を見開く。そこまで驚くことかな? そんなに食いしん坊……いや、今までのことを思い返すと完全に食いしん坊キャラだった。
オーツクッキーを見れば、いつもは入っていない赤いベリーが入っていた。美味しそう……
「やっぱり、食べようかな」
「お、おう。今日は木苺入りだぞ」
クッキーを一口齧れば、木苺の甘酸っぱさがフワっと口の中で広がった。
「美味しい」
「だろ?」
ジョーが満面の笑みで笑う。
クッキーを食べ終わると、マリッサが尋ねる。
「アジュールの話、ミリーはどうしたいの?」
「アジュールには、行きたいかな……」
私の答えを聞いたマリッサとジョーは、互いを見ながら諦めたように笑う。
「ミリーなら、そう言うのではないかと思っていたのよ。ねぇ、ジョー?」
「ああ。そうだな。だが、心配だ」
マリッサは私のアジュール行きに賛成のようだ。ジョーはというと、少しだけ懸念があるようだ。
やや難しい顔をするジョーに尋ねる。
「お父さんは、何が一番気になるの?」
「それはだな……道中が危険だろ? 魔物もまだ増えたままだ。それに――」
「それに?」
「ミリーが何週間も家にいないなんて寂しいだろ!」
ジョーが子犬のような顔をして言う。
そうだった……カニのことばかり考えて、そのことを忘れていた。マリッサとジョーとは拾われて以来ずっと一緒にいた。いままでもお泊りとかほとんどしていないので、二人から離れるという実感が薄かった。
「ねぇね、いないいないする?」
ジークもジョーと同じ子犬顔で首を傾げる。可愛いけど、これはちゃんと説明しないと泣き出しそうだ。
「ジーク、ねぇねぇはまだいないいないしないよ」
「ジークもいないない」
そう言いながら顔を隠すジークが愛おしかった。
ボーロを食べ終えると、ジークはまた眠たくなったのかウトウトし始めた。
マリッサがジークを寝かしつけている間、ジョーが爺さんに尋ねたいことを紙に書きだした。
ジョーが紙に書いている内容を盗み見する。細々としたものもあったが、ジョーの懸念は主に二つ、私の安全、それから私と離れる期間の長さだ。
「新年も一緒に祝えないのか……」
少し拗ねたように言うジョーを戻って来たマリッサが宥める。
「ジョー、ミリーも少しずつ大人になってきたのよ、これも練習だと思いしょう」
「そんな練習したくないが……護衛も雇うだろうし、キースも同行するのだろう?」
「はい。その予定です」
キースが頷きながら言うと、マリッサとジョーも頷く。キースへの信頼が凄い。
「エンリケさんとキースがいるのなら問題はないだろうが、詳細を直接聞いてから最終的には決めないか?」
「そうね。ミリーもそれでいいかしら?」
「うん!」
マリッサはほぼ賛成、ジョーは詳細を聞いてからアジュール行きの判断をすることになった。
部屋に戻り、ベッドに横になる。
爺さんの家への招待は二日後だ。そういえば、爺さんの家に行くのは初めてだ。爺さんの家ってどんなところだろう。
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