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本編
誘拐未遂の裏話
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次の日、朝食の準備中に月光さん扮するキースが爺さんの手紙を持って猫亭へとやってきた。
ジョーが手紙を受け取りながら眉間に皺を寄せる。
「三枚あるな。俺とミリー、それからガレル宛か」
私宛の手紙を読む。
昨日は転んで怪我をしたと聞いた。キースの護衛が至らなくて済まなかった。
急がせるが、アジュールの件の返事を聞きたい。
昨日の誘拐犯についてのことは直接的には触れていなかったけれど、爺さんなりに気に掛けるような内容ではあった。ちょっと業務的だけど。
どうやらジョーにも私と同じように、アジュール行きの件についての返事の催促をする手紙だったようだ。
昨日の今日だ……爺さんが返事を急かす理由は昨日の事件に関係しているの? それなら、誘拐犯は例の婚約を急かしてきた商会の者たちだったのだろうか?
キースと目が合うと、軽く微笑まれた。
ジョーがガレルさんに手紙を渡しながら尋ねる。
「ガレル、代わりに字を読もうか?」
「大丈夫。この手紙、砂の国の文字だ」
ガレルさんが手紙を見せながら言う。
きっとガレルさんは、私たちが砂の国の文字を読めないから手紙を見せたのだろうが……私には、はっきりとその内容が読めた。
向こうがどうやら本格的にラジェを探し出しているようだ。以前話したように、しばらくラジェを預かる。
手紙を全てじっくりと読むことはできなかったけど、その部分だけは、はっきりと目に留まった。
ガレルさんに尋ねる。
「なんて書いてあるんですか?」
「……旦那さんと同じ。ラジェのアジュールの話だ」
ガレルさんには微妙に誤魔化されたけど、言っていることは嘘ではない。ガレルさんの手紙に書いてあった『向こう』とは一体誰のことか気になる。月光さんに尋ねたら、答えてくれるかな? タダでは答えてくれなさそう。
ジークを抱えたマリッサが食堂にやってくると、キースはマリッサにも手紙を渡した。
手紙を読んだマリッサが驚きながらも微笑む。
「お祖父さまの自宅での夕食会に招待されたわ」
「え?」
私とジョーが声を揃え驚く。
どうやらジョー、私、それにジークも夕食会に誘われているという。
そんなこと私の手紙にもジョーの手紙にも書いてなかったのだけど……
「お母さん、それはいつなの?」
「三日後ね……」
爺さん……急すぎるよ。
爺さんは、夕食会の日にアジュール行きの返事を聞くとマリッサの手紙に書いていた。
今夜はスパーク家の緊急会議だ。
その後、朝食の手伝いを終わらせ一人きりになるために屋上へと向かう。後ろからはキースが付いてくる。
今、家にはマリッサ、ジーク、それからマルクがいるので、キースと二人きりで部屋に閉じこもっていたら変に思われそうなので屋上へと向かう。キースは、一応爺さんから護衛にと猫亭に置いて行かれているので、ジョーもマリッサも特に何も言わないけど……さすがに部屋に二人きりはアウトだと思う。
屋上のドアを閉め、こっそりと黒魔法で防音してからキースに声を掛ける。
「じゃあ、月光さん、お約束の質問タイムですよ」
「その前に、エンリケ様からの伝言だ」
「ギルド長からですか?」
「ああ。昨日、ミリー嬢ちゃんを誘拐しようとした奴らについての報告だ。やはり、婚約打診してきたどちらかの商会から雇われていた可能性が高い。だが、あちらも誤算があったようだ」
キースの顔で月光さんが口角をあげる。
どうやら昨日の誘拐犯の少年たち、雇われてはいたが、誘拐を依頼されたわけではなかったようだ。
どうやら、私が青空教室に通っていることを聞きつけた商人だろう依頼者が配達をしていた少年の二人に声を掛け、私の様子や行動を報告すれば銅貨五枚を渡すと約束していたらしい。
でも、どういうミスコミュニケーションなのか……少年二人は、私を商人の元へと連れて行けばもっとお金を貰えると思い込んで勝手な行動に出たという。
商人にとって、それはきっと全く予想していない事態へと発展してしまったようだ。
そりゃ、ちょっと様子を報告して貰おうと思った少年たちが教会の窓を割り、私を誘拐しようとしたのだから……商人にとっては寝耳に水であったはずだ。
「どうして少年たちはそこまでのことをしでかしたのですか?」
「ああ、それは商人が悪いのだが……あの少年たちは貧民街の者だ。商人には小銭であっただろうが、あの者たちには大金だっただけだ」
欲しいものは奪う、という考えが貧民街には横行しているという。なので、少年たちも子供の様子を報告するだけで大金が貰えるのならば、いっそ誘拐してしまえばもっとお金になるのではないかと考えたそうだ。
そんな安直な考えのせいで、昨日の誘拐未遂事件は起こった。
神官からの尋問で少年たちは罪を認め、知っていることは全て白状しているという。でも、少年たちを雇ったという人物は結局誰だか分からなかったという、証言では中肉中背の男で商人のようだったとしか情報はなかったそうだ。
キースが眉間に皺を寄せながら言う。
「状況から見て、婚約を申し出たどちらかの商会の関係者だろう」
「そうなんですね……」
正直、婚約とかの話はもう終わったものだと思っていたし、月光さんを護衛に付けたのも……爺さんが過保護になっているだけだと思っていた。なので、本当に危険視する必要があったのに少し驚いている。
ジョーが手紙を受け取りながら眉間に皺を寄せる。
「三枚あるな。俺とミリー、それからガレル宛か」
私宛の手紙を読む。
昨日は転んで怪我をしたと聞いた。キースの護衛が至らなくて済まなかった。
急がせるが、アジュールの件の返事を聞きたい。
昨日の誘拐犯についてのことは直接的には触れていなかったけれど、爺さんなりに気に掛けるような内容ではあった。ちょっと業務的だけど。
どうやらジョーにも私と同じように、アジュール行きの件についての返事の催促をする手紙だったようだ。
昨日の今日だ……爺さんが返事を急かす理由は昨日の事件に関係しているの? それなら、誘拐犯は例の婚約を急かしてきた商会の者たちだったのだろうか?
キースと目が合うと、軽く微笑まれた。
ジョーがガレルさんに手紙を渡しながら尋ねる。
「ガレル、代わりに字を読もうか?」
「大丈夫。この手紙、砂の国の文字だ」
ガレルさんが手紙を見せながら言う。
きっとガレルさんは、私たちが砂の国の文字を読めないから手紙を見せたのだろうが……私には、はっきりとその内容が読めた。
向こうがどうやら本格的にラジェを探し出しているようだ。以前話したように、しばらくラジェを預かる。
手紙を全てじっくりと読むことはできなかったけど、その部分だけは、はっきりと目に留まった。
ガレルさんに尋ねる。
「なんて書いてあるんですか?」
「……旦那さんと同じ。ラジェのアジュールの話だ」
ガレルさんには微妙に誤魔化されたけど、言っていることは嘘ではない。ガレルさんの手紙に書いてあった『向こう』とは一体誰のことか気になる。月光さんに尋ねたら、答えてくれるかな? タダでは答えてくれなさそう。
ジークを抱えたマリッサが食堂にやってくると、キースはマリッサにも手紙を渡した。
手紙を読んだマリッサが驚きながらも微笑む。
「お祖父さまの自宅での夕食会に招待されたわ」
「え?」
私とジョーが声を揃え驚く。
どうやらジョー、私、それにジークも夕食会に誘われているという。
そんなこと私の手紙にもジョーの手紙にも書いてなかったのだけど……
「お母さん、それはいつなの?」
「三日後ね……」
爺さん……急すぎるよ。
爺さんは、夕食会の日にアジュール行きの返事を聞くとマリッサの手紙に書いていた。
今夜はスパーク家の緊急会議だ。
その後、朝食の手伝いを終わらせ一人きりになるために屋上へと向かう。後ろからはキースが付いてくる。
今、家にはマリッサ、ジーク、それからマルクがいるので、キースと二人きりで部屋に閉じこもっていたら変に思われそうなので屋上へと向かう。キースは、一応爺さんから護衛にと猫亭に置いて行かれているので、ジョーもマリッサも特に何も言わないけど……さすがに部屋に二人きりはアウトだと思う。
屋上のドアを閉め、こっそりと黒魔法で防音してからキースに声を掛ける。
「じゃあ、月光さん、お約束の質問タイムですよ」
「その前に、エンリケ様からの伝言だ」
「ギルド長からですか?」
「ああ。昨日、ミリー嬢ちゃんを誘拐しようとした奴らについての報告だ。やはり、婚約打診してきたどちらかの商会から雇われていた可能性が高い。だが、あちらも誤算があったようだ」
キースの顔で月光さんが口角をあげる。
どうやら昨日の誘拐犯の少年たち、雇われてはいたが、誘拐を依頼されたわけではなかったようだ。
どうやら、私が青空教室に通っていることを聞きつけた商人だろう依頼者が配達をしていた少年の二人に声を掛け、私の様子や行動を報告すれば銅貨五枚を渡すと約束していたらしい。
でも、どういうミスコミュニケーションなのか……少年二人は、私を商人の元へと連れて行けばもっとお金を貰えると思い込んで勝手な行動に出たという。
商人にとって、それはきっと全く予想していない事態へと発展してしまったようだ。
そりゃ、ちょっと様子を報告して貰おうと思った少年たちが教会の窓を割り、私を誘拐しようとしたのだから……商人にとっては寝耳に水であったはずだ。
「どうして少年たちはそこまでのことをしでかしたのですか?」
「ああ、それは商人が悪いのだが……あの少年たちは貧民街の者だ。商人には小銭であっただろうが、あの者たちには大金だっただけだ」
欲しいものは奪う、という考えが貧民街には横行しているという。なので、少年たちも子供の様子を報告するだけで大金が貰えるのならば、いっそ誘拐してしまえばもっとお金になるのではないかと考えたそうだ。
そんな安直な考えのせいで、昨日の誘拐未遂事件は起こった。
神官からの尋問で少年たちは罪を認め、知っていることは全て白状しているという。でも、少年たちを雇ったという人物は結局誰だか分からなかったという、証言では中肉中背の男で商人のようだったとしか情報はなかったそうだ。
キースが眉間に皺を寄せながら言う。
「状況から見て、婚約を申し出たどちらかの商会の関係者だろう」
「そうなんですね……」
正直、婚約とかの話はもう終わったものだと思っていたし、月光さんを護衛に付けたのも……爺さんが過保護になっているだけだと思っていた。なので、本当に危険視する必要があったのに少し驚いている。
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