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本編
クッキー缶
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シルヴァンさんが準備してくれたクッキーは、なんと菓子店レシアの物だった。しかも結構大きな缶だ。
「今日は美味しい紅茶も用意していますよ」
シルヴァンがクッキーの缶を開けると思わずラジェと一緒に歓喜の声が漏れる。
「わぁ」
そこにはいろんな種類のクッキーが並べられていた。バタークッキー、ジャムサンドクッキー、コーヒーのクッキー、それからソフトクッキー。これは魅惑のアソートメントだ。
前回、レシアを訪れた時にルーカスとお土産用にクッキー箱は購入したけど、こんなアソートメント箱なんて見ていない。缶も豪華だし、これはもしかして貴族向けなのかもしれない。
喜ぶ私たちの顔を見ながら微笑んだシルヴァンの笑顔がまるで天使のように綺麗だった。
「気に入ってくれたかな?」
「たくさんあって美味しそうです!」
「実はこの箱には秘密があって、上の部分を取ると下にもクッキーが隠れているのだよ」
シルヴァンが上のクッキーの土台を上げると、下の段にもたくさんの種類のクッキーが詰め込まれていた。
「凄い。こんなにたくさんのクッキー、素敵です」
「気に入ってくれてよかった。紅茶を入れるから、二人とも好きなだけ皿に載せるといい」
そう言って、シルヴァンが紅茶を淹れている間にずっと無言で椅子に座っている月光さんに小声で話しかける。
「神官長様とお知り合いだったんですか?」
「ああ、昔な」
キース姿の月光さんが私の顔を凝視して複雑な表情をする。なんだろう。
「何か――」
「ラジェがクッキーを選ぶのを待っているぞ」
うーん。わざと話を逸らされたような気がするけど……ラジェと好きなクッキーをそれぞれ皿に載せ始めた。
「ラジェはどれがいい?」
「どれも美味しそうだから、僕はミリーちゃんが選んでくれたのでいいよ」
ラジェの皿にクッキーを載せ、自分の分も選ぶ。
本当は全種類のクッキーを皿に載せたいけど……控えめに載せていく。だってこのクッキー缶、相当な値段だよね? 一体いくらなんだろう……。
ラジェが私の皿を凝視して言う。
「ミリーちゃん、クッキーがお皿から落ちるよ」
「あ……」
クッキー缶の値段を考えていたら、自然とたくさんのクッキーを皿に載せてしまった……一度手に取ったクッキーを返すのも失礼だよね。
「ギリギリ落ちていないから大丈夫。ラジェ、このベリーのジャムが付いたの美味しそうだよ。これはラジェにあげるね」
「うん。ありがとう」
無事クッキー選びが終了、皿を見れば結局山盛りになっていた。
シルヴァンがいい香りのする紅茶を目の前に置きながら私のクッキー皿を目をやる。
「もっと取ってもいいのだよ」
「ありがとうございます。でも、これ以上はお皿に載らないので……」
「フッ、確かにそうだね」
シルヴァンさんが控えめに笑う。
紅茶は月光さんの分も出ていたので先ほどの変な雰囲気も消えた。
早速、バタークッキーを一口食べる。ああ、至福だ。
紅茶に口を付ければ、ほのかに甘い。蜂蜜を垂らしたのだろうか。美味しい。
ラジェもジャムのクッキーを気に入ったのか、軽く口角を上げながらクッキーを頬張っていた。
クッキー、紅茶、クッキーを数回繰り返して自分がいる場所を思い出した。ちょっと和みすぎて、周りのことを忘れていた。顔を上げれば、シルヴァン、それから月光さんまでが微笑ましい顔で私とラジェをを見つめていた。
「クッキー、とても美味しいです……」
「それは良かった。食べ終わったら約束していた本も持ってきた」
「楽しみです!」
クッキーを食べ終え、シルヴァンの持ってきた本を見せてもらう。
私が持っているのとは別の宗教関係の子供用の本が一冊と、もう一冊は表紙に綺麗な女性の絵が描かれており『お姫様と魔法』とタイトルがついていた。
「お姫様の話?」
「ああ、お姫様が人々を救う話だね。せっかくだから読んでみようか」
「はい」
シルヴァンが読み始めた内容は明らかに童話だった。初めて聞く話だったが、内容は姫が白魔法と慈愛で戦争を終わらせるという内容だった。子供用の宗教の本があるのは知っていたけど、こんな童話もあったのには少し驚いた。本の表紙や中身の挿絵から貴族などお金がある程度ないと購入できない代物のようだけど。
隣にいるラジェは興味深そうに聞いていたので、こういう類の話が実は好きなのかもしれない。
シルヴァンの朗読が終わるとラジェと一緒に拍手をした。
そのあとも二冊の本の話などをしていたら、帰る時間になった。
「そろそろ帰る時間になってしまったね。今日は怖い思いをさせてすまない」
「だ、大丈夫です!」
本当はクッキーとか本のおかげで誘拐されかけたことはちょっと忘れていた……。
「後のことは私たちに任せなさい。二人とも馬車を出すのでそれに乗って帰りなさい」
「え? 馬車ですか?」
「教会の目立たない馬車だから東区でも大丈夫だ。今日はそれに乗って帰ってほしい」
シルヴァンが月光さんに視線を移せば、月光さんは深々と礼をして言う。
「お任せください。公子様」
**
いつもご愛読ありがとうございます。
4月中、アルファポリスにて書籍1巻が無料で読めるキャンペーン中です。
まだ読まれていない方は、この機会にぜひ読んでいただければと思います。
「今日は美味しい紅茶も用意していますよ」
シルヴァンがクッキーの缶を開けると思わずラジェと一緒に歓喜の声が漏れる。
「わぁ」
そこにはいろんな種類のクッキーが並べられていた。バタークッキー、ジャムサンドクッキー、コーヒーのクッキー、それからソフトクッキー。これは魅惑のアソートメントだ。
前回、レシアを訪れた時にルーカスとお土産用にクッキー箱は購入したけど、こんなアソートメント箱なんて見ていない。缶も豪華だし、これはもしかして貴族向けなのかもしれない。
喜ぶ私たちの顔を見ながら微笑んだシルヴァンの笑顔がまるで天使のように綺麗だった。
「気に入ってくれたかな?」
「たくさんあって美味しそうです!」
「実はこの箱には秘密があって、上の部分を取ると下にもクッキーが隠れているのだよ」
シルヴァンが上のクッキーの土台を上げると、下の段にもたくさんの種類のクッキーが詰め込まれていた。
「凄い。こんなにたくさんのクッキー、素敵です」
「気に入ってくれてよかった。紅茶を入れるから、二人とも好きなだけ皿に載せるといい」
そう言って、シルヴァンが紅茶を淹れている間にずっと無言で椅子に座っている月光さんに小声で話しかける。
「神官長様とお知り合いだったんですか?」
「ああ、昔な」
キース姿の月光さんが私の顔を凝視して複雑な表情をする。なんだろう。
「何か――」
「ラジェがクッキーを選ぶのを待っているぞ」
うーん。わざと話を逸らされたような気がするけど……ラジェと好きなクッキーをそれぞれ皿に載せ始めた。
「ラジェはどれがいい?」
「どれも美味しそうだから、僕はミリーちゃんが選んでくれたのでいいよ」
ラジェの皿にクッキーを載せ、自分の分も選ぶ。
本当は全種類のクッキーを皿に載せたいけど……控えめに載せていく。だってこのクッキー缶、相当な値段だよね? 一体いくらなんだろう……。
ラジェが私の皿を凝視して言う。
「ミリーちゃん、クッキーがお皿から落ちるよ」
「あ……」
クッキー缶の値段を考えていたら、自然とたくさんのクッキーを皿に載せてしまった……一度手に取ったクッキーを返すのも失礼だよね。
「ギリギリ落ちていないから大丈夫。ラジェ、このベリーのジャムが付いたの美味しそうだよ。これはラジェにあげるね」
「うん。ありがとう」
無事クッキー選びが終了、皿を見れば結局山盛りになっていた。
シルヴァンがいい香りのする紅茶を目の前に置きながら私のクッキー皿を目をやる。
「もっと取ってもいいのだよ」
「ありがとうございます。でも、これ以上はお皿に載らないので……」
「フッ、確かにそうだね」
シルヴァンさんが控えめに笑う。
紅茶は月光さんの分も出ていたので先ほどの変な雰囲気も消えた。
早速、バタークッキーを一口食べる。ああ、至福だ。
紅茶に口を付ければ、ほのかに甘い。蜂蜜を垂らしたのだろうか。美味しい。
ラジェもジャムのクッキーを気に入ったのか、軽く口角を上げながらクッキーを頬張っていた。
クッキー、紅茶、クッキーを数回繰り返して自分がいる場所を思い出した。ちょっと和みすぎて、周りのことを忘れていた。顔を上げれば、シルヴァン、それから月光さんまでが微笑ましい顔で私とラジェをを見つめていた。
「クッキー、とても美味しいです……」
「それは良かった。食べ終わったら約束していた本も持ってきた」
「楽しみです!」
クッキーを食べ終え、シルヴァンの持ってきた本を見せてもらう。
私が持っているのとは別の宗教関係の子供用の本が一冊と、もう一冊は表紙に綺麗な女性の絵が描かれており『お姫様と魔法』とタイトルがついていた。
「お姫様の話?」
「ああ、お姫様が人々を救う話だね。せっかくだから読んでみようか」
「はい」
シルヴァンが読み始めた内容は明らかに童話だった。初めて聞く話だったが、内容は姫が白魔法と慈愛で戦争を終わらせるという内容だった。子供用の宗教の本があるのは知っていたけど、こんな童話もあったのには少し驚いた。本の表紙や中身の挿絵から貴族などお金がある程度ないと購入できない代物のようだけど。
隣にいるラジェは興味深そうに聞いていたので、こういう類の話が実は好きなのかもしれない。
シルヴァンの朗読が終わるとラジェと一緒に拍手をした。
そのあとも二冊の本の話などをしていたら、帰る時間になった。
「そろそろ帰る時間になってしまったね。今日は怖い思いをさせてすまない」
「だ、大丈夫です!」
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「え? 馬車ですか?」
「教会の目立たない馬車だから東区でも大丈夫だ。今日はそれに乗って帰ってほしい」
シルヴァンが月光さんに視線を移せば、月光さんは深々と礼をして言う。
「お任せください。公子様」
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