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本編
謎の正座
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誘拐未遂犯の少年二人が教会関係者にどこかへと連れていかれた後、ラジェと月光さん、それからノアさんともに前回も訪れた教会の個室へとシルヴァンと向かう。
月光さんは黒ずくめ姿からいつの間にかキースの変装に戻っていたけれど表情は厳しく、キャラクターを崩していた。
部屋へ向かう途中、声を抑えて月光さんに話しかける。
「大丈夫ですか? 神官長様と何かありました?」
「ああ……いや、何も心配することはない」
「何が――」
何があったのかを尋ねる前に、部屋の扉の前に着いてしまう。廊下では若い神官たちが先ほど壊されたガラスを片付けていた。
部屋の中にはノアも付いてこようとしたのだが、今回はシルヴァンに席を外すようにとはっきり断りをされていた。
「どうぞ、座ってください」
部屋に入るとシルヴァンにそう言われ、ラジェと私は椅子の席に着いたけど……月光さん扮するキースはなぜか扉を閉めると、そのまま正座をした体勢で扉の前に座った。
(え? どうして……?)
月光さんの足元を見るが特に魔法で抑制されているわけじゃないのに、なんで月光さんは扉の前で正座をしているのだろうか? その異様な光景にラジェと目を合わせ困惑する。
シルヴァンがため息をつきながら月光さんに声を掛ける。
「その体勢はもう結構ですよ。お気持ちは分かりましたので。子供たちが怖がってしまうのであなたも椅子に座ってください」
「では、失礼します」
月光さんは立ち上がると何もなかったかのように椅子に座り無言になった。これは、一体どういう状況なのだろうか?
まったく何が起こっているか分からないまま、シルヴァンが優しい声で尋ねる。
「さて、二人とも怖かっただろう?」
「大丈夫でした……」
「本当に? もし怖かったならそう言っても問題はない」
シルヴァンが心配げな表情で私の顔を覗き込む。そんなに近いと顔が綺麗だから、なんだか緊張してしまう。
「確かにびっくりしましたけど、怖いとかはなかったです」
「そうか。ラジェ君は大丈夫だったのか?」
「僕も怖くはなかったけど、ミリーちゃんにあんなことしたのは許せない」
「そうか。そうだね……私も同じ気持ちだ」
シルヴァンがラジェの肩をトントンと叩きながら言う。
実際、あの二人の少年に恐怖感はなかった。少年たちの顔を思い出すが、どう考えてもまだ幼い印象だった。私たちが目的だったのか、ただ単に人攫いなのか知らないけれど気になったのでシルヴァンに尋ねる。
「あの二人はどうなるのですか?」
「そうだね……教会の敷地内であのようなことをしでかしたので……ひとまず彼らが目覚めたら尋問――事情を尋ねる予定であるが……」
シルヴァンは誤魔化すように説明、時折月光さんに視線を移していた。調査はこれからするのだろうけど、衛兵の話が出てこないので疑問に思う。
「衛兵には連絡しないのですか?」
「衛兵にも連絡しますよ」
落ち着いた口調でシルヴァンが言う。どうやらすぐには連絡しないようだ。
これはジョーとマリッサにも伝わるコースかな……心配をかけてしまう。
シュンとした私に気が付いたのかシルヴァンが首を傾げる。
「何かありましたか?」
「家族に心配をかけてしまうかなって思って」
それに、もし変態騎士が来たら子供二人でどうやって誘拐犯を退治したか聞かれそうだし……ラジェはこの国の出身ではないので教会で魔力検査もしていない。ガレルさんもラジェの魔力が多いことはできるだけ隠したいのか、その話題になると口を噤む。
「心配はいらない。そこは大人に任せなさい。月光、そうであろう?」
「はい。お任せください」
二人は知り合いなの? 雰囲気がなんだか知り合いのような気がするのだけど……。
「そうだ。今日は二人が好きそうなお菓子を準備したのだが、クッキーは好きかな?」
「大好きです!」
月光さんは黒ずくめ姿からいつの間にかキースの変装に戻っていたけれど表情は厳しく、キャラクターを崩していた。
部屋へ向かう途中、声を抑えて月光さんに話しかける。
「大丈夫ですか? 神官長様と何かありました?」
「ああ……いや、何も心配することはない」
「何が――」
何があったのかを尋ねる前に、部屋の扉の前に着いてしまう。廊下では若い神官たちが先ほど壊されたガラスを片付けていた。
部屋の中にはノアも付いてこようとしたのだが、今回はシルヴァンに席を外すようにとはっきり断りをされていた。
「どうぞ、座ってください」
部屋に入るとシルヴァンにそう言われ、ラジェと私は椅子の席に着いたけど……月光さん扮するキースはなぜか扉を閉めると、そのまま正座をした体勢で扉の前に座った。
(え? どうして……?)
月光さんの足元を見るが特に魔法で抑制されているわけじゃないのに、なんで月光さんは扉の前で正座をしているのだろうか? その異様な光景にラジェと目を合わせ困惑する。
シルヴァンがため息をつきながら月光さんに声を掛ける。
「その体勢はもう結構ですよ。お気持ちは分かりましたので。子供たちが怖がってしまうのであなたも椅子に座ってください」
「では、失礼します」
月光さんは立ち上がると何もなかったかのように椅子に座り無言になった。これは、一体どういう状況なのだろうか?
まったく何が起こっているか分からないまま、シルヴァンが優しい声で尋ねる。
「さて、二人とも怖かっただろう?」
「大丈夫でした……」
「本当に? もし怖かったならそう言っても問題はない」
シルヴァンが心配げな表情で私の顔を覗き込む。そんなに近いと顔が綺麗だから、なんだか緊張してしまう。
「確かにびっくりしましたけど、怖いとかはなかったです」
「そうか。ラジェ君は大丈夫だったのか?」
「僕も怖くはなかったけど、ミリーちゃんにあんなことしたのは許せない」
「そうか。そうだね……私も同じ気持ちだ」
シルヴァンがラジェの肩をトントンと叩きながら言う。
実際、あの二人の少年に恐怖感はなかった。少年たちの顔を思い出すが、どう考えてもまだ幼い印象だった。私たちが目的だったのか、ただ単に人攫いなのか知らないけれど気になったのでシルヴァンに尋ねる。
「あの二人はどうなるのですか?」
「そうだね……教会の敷地内であのようなことをしでかしたので……ひとまず彼らが目覚めたら尋問――事情を尋ねる予定であるが……」
シルヴァンは誤魔化すように説明、時折月光さんに視線を移していた。調査はこれからするのだろうけど、衛兵の話が出てこないので疑問に思う。
「衛兵には連絡しないのですか?」
「衛兵にも連絡しますよ」
落ち着いた口調でシルヴァンが言う。どうやらすぐには連絡しないようだ。
これはジョーとマリッサにも伝わるコースかな……心配をかけてしまう。
シュンとした私に気が付いたのかシルヴァンが首を傾げる。
「何かありましたか?」
「家族に心配をかけてしまうかなって思って」
それに、もし変態騎士が来たら子供二人でどうやって誘拐犯を退治したか聞かれそうだし……ラジェはこの国の出身ではないので教会で魔力検査もしていない。ガレルさんもラジェの魔力が多いことはできるだけ隠したいのか、その話題になると口を噤む。
「心配はいらない。そこは大人に任せなさい。月光、そうであろう?」
「はい。お任せください」
二人は知り合いなの? 雰囲気がなんだか知り合いのような気がするのだけど……。
「そうだ。今日は二人が好きそうなお菓子を準備したのだが、クッキーは好きかな?」
「大好きです!」
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