109 / 135
本編
ブンブン
しおりを挟む
文字教室に到着すると、出迎えの神官にキースが止められる。
「親御さんは別室にてお待ちいただけるようにお願いします」
「それは、なぜでしょうか?」
キース、もとい月光さんは笑顔だが目が笑っていない。でも、神官も笑顔を崩さずに毅然とした態度で告げる。
「こちらの施設は広くなく、今日は特に人数が多いのでご理解願いたい」
「そうですか……分かりました。では、私は別室で待つとしよう」
「では、案内します」
キースが振り向き軽くウインクをする。ああ、これは……月光さん、別室で待つ気はさらさらないんだろうな。
「私たちは大丈夫なので、『ちゃんと』待っていてくださいね」
「もちろん『ちゃんと』待ちますよ」
んー。なんか含みのある返事だったけど、月光さんなら上手くやるだろう。
神官に別室に案内されるキースをラジェと一緒に見送り、文字教室の広場へと向かう。
今日は今年最後の文字教室だからか以前訪れた時の倍ほどの子供たちがいた。こんなにたくさんの子供をいっぺんに見るのは初めてかもしれない。
ラジェも子供の多さに圧倒されているようで、静かになっていた。
カンカンと鉄を叩く音が聞こえれば子供たちが一気に教室の席取りを始める。
前の席を取ろうと揉める子供たちを避け、ラジェが後ろの席を陣取る。
「ミリーちゃん、こっちの席が空いているよ」
「ありがと――」
「私がここに座るの」
ラジェが陣取ってくれた場所に座りに行こうとすれば、大きな女の子にラジェが押されるのが見えた。
勢いで地面に倒れたラジェに手を貸し、怪我をしていないか確認する。
「ラジェ、大丈夫?」
「うん。大したことないよ。大丈夫だよ」
怪我はしてないようでよかった。ラジェの服についた土をクリーンして、大きな女の子を見上げる。私たちより一、二歳年上だろうか。小さな花のピンが挿してあった髪を触るその顔はやや気不味い顔をしていた。ああ、まさかラジェが尻もちをつくほど強く押したという自覚がなかったのかな。
女の子がモジモジしながら謝る。
「ご、ごめんなさい」
「大丈夫だよ。僕も前を見ていなかったから」
ラジェはそう言うと曇りのない笑顔を女の子に向け披露すると、みるみるうちに女の子の頬が赤くなりラジェを見る目が変わったのが分かった。ああ……これは、恋しちゃったかな。ラジェの笑顔をもう一度確認、眩しい笑顔だ。ガレルさんと同じようにラジェも将来はモテモテになるかもしれない。
「あ、あの。私、レイチェルって言うの。あなたは?」
「僕はラジェだよ。よろしくね、レイチェルちゃん」
レイチェルと名乗った子の目は完全にハート型に変わる。これは、完全に恋をしたなぁ。
「ラジェ君、もしよかったら……その、レイチェルと一緒に座ろう」
「ごめんね。僕、今日はミリーちゃんと座るから」
そう言って笑顔で振り向くラジェと対照的にレイチェルの刺さりそうな鋭い視線を感じる。小さくてもニナと同じでもう女なんだよね。ラジェ、罪な子!
明らかにテンションを落としたレイチェルが泣きそうになる。仕方ないな。ラジェ、ごめん。少しだけ犠牲になって!
「さ、三人で座ればいいよ!」
「ミリーちゃんがそう言うなら……」
「うん。ラジェは真ん中に座ってね。絶対」
レイチェルが満足そうにラジェの隣に座ったところで、前回と同じ全身をローブで隠した怪しさ満載のシルヴァンが登場する。
シルヴァンは辺りを見回すと、明らかに私たちがいる方向を見て立ち止まり手を振り始めた。手を振るのを止めないシルヴァンを見ながらラジェが尋ねる。
「み、ミリーちゃん。あれはこっちに手を振っているの?」
「た、たぶん……」
手を振り返すまで手を振るのを止めなさそうだったので、控えめに手を振るとシルヴァンは満足そうに青空教室を始めた。
周りにはジロジロみられるし、ちょっと恥ずかしかった。
「親御さんは別室にてお待ちいただけるようにお願いします」
「それは、なぜでしょうか?」
キース、もとい月光さんは笑顔だが目が笑っていない。でも、神官も笑顔を崩さずに毅然とした態度で告げる。
「こちらの施設は広くなく、今日は特に人数が多いのでご理解願いたい」
「そうですか……分かりました。では、私は別室で待つとしよう」
「では、案内します」
キースが振り向き軽くウインクをする。ああ、これは……月光さん、別室で待つ気はさらさらないんだろうな。
「私たちは大丈夫なので、『ちゃんと』待っていてくださいね」
「もちろん『ちゃんと』待ちますよ」
んー。なんか含みのある返事だったけど、月光さんなら上手くやるだろう。
神官に別室に案内されるキースをラジェと一緒に見送り、文字教室の広場へと向かう。
今日は今年最後の文字教室だからか以前訪れた時の倍ほどの子供たちがいた。こんなにたくさんの子供をいっぺんに見るのは初めてかもしれない。
ラジェも子供の多さに圧倒されているようで、静かになっていた。
カンカンと鉄を叩く音が聞こえれば子供たちが一気に教室の席取りを始める。
前の席を取ろうと揉める子供たちを避け、ラジェが後ろの席を陣取る。
「ミリーちゃん、こっちの席が空いているよ」
「ありがと――」
「私がここに座るの」
ラジェが陣取ってくれた場所に座りに行こうとすれば、大きな女の子にラジェが押されるのが見えた。
勢いで地面に倒れたラジェに手を貸し、怪我をしていないか確認する。
「ラジェ、大丈夫?」
「うん。大したことないよ。大丈夫だよ」
怪我はしてないようでよかった。ラジェの服についた土をクリーンして、大きな女の子を見上げる。私たちより一、二歳年上だろうか。小さな花のピンが挿してあった髪を触るその顔はやや気不味い顔をしていた。ああ、まさかラジェが尻もちをつくほど強く押したという自覚がなかったのかな。
女の子がモジモジしながら謝る。
「ご、ごめんなさい」
「大丈夫だよ。僕も前を見ていなかったから」
ラジェはそう言うと曇りのない笑顔を女の子に向け披露すると、みるみるうちに女の子の頬が赤くなりラジェを見る目が変わったのが分かった。ああ……これは、恋しちゃったかな。ラジェの笑顔をもう一度確認、眩しい笑顔だ。ガレルさんと同じようにラジェも将来はモテモテになるかもしれない。
「あ、あの。私、レイチェルって言うの。あなたは?」
「僕はラジェだよ。よろしくね、レイチェルちゃん」
レイチェルと名乗った子の目は完全にハート型に変わる。これは、完全に恋をしたなぁ。
「ラジェ君、もしよかったら……その、レイチェルと一緒に座ろう」
「ごめんね。僕、今日はミリーちゃんと座るから」
そう言って笑顔で振り向くラジェと対照的にレイチェルの刺さりそうな鋭い視線を感じる。小さくてもニナと同じでもう女なんだよね。ラジェ、罪な子!
明らかにテンションを落としたレイチェルが泣きそうになる。仕方ないな。ラジェ、ごめん。少しだけ犠牲になって!
「さ、三人で座ればいいよ!」
「ミリーちゃんがそう言うなら……」
「うん。ラジェは真ん中に座ってね。絶対」
レイチェルが満足そうにラジェの隣に座ったところで、前回と同じ全身をローブで隠した怪しさ満載のシルヴァンが登場する。
シルヴァンは辺りを見回すと、明らかに私たちがいる方向を見て立ち止まり手を振り始めた。手を振るのを止めないシルヴァンを見ながらラジェが尋ねる。
「み、ミリーちゃん。あれはこっちに手を振っているの?」
「た、たぶん……」
手を振り返すまで手を振るのを止めなさそうだったので、控えめに手を振るとシルヴァンは満足そうに青空教室を始めた。
周りにはジロジロみられるし、ちょっと恥ずかしかった。
1,583
お気に入りに追加
25,841
あなたにおすすめの小説
卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく
しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ
おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。
【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。
誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。
でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。
「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」
アリシアは夫の愛を疑う。
小説家になろう様にも投稿しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」
結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は……
短いお話です。
新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。
4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。