105 / 148
本編
ラジェの疑問
しおりを挟む
まだ開店していない食堂のテーブルをジョー、マリッサ、ガレルさん、それからラジェと私で囲む。
「声を掛けられただけで何もされてないから、本当に大丈夫だよ」
今日の市場の知らない女性に声を掛けられた状況を説明するが、マリッサもジョーもなんだか納得のいかない不安を感じているようだ。相手が下町の市場にいるのに裕福な服装をしていたのもだが、どうやら護衛を連れていたのではないかというガレルの話に更にうーんとうなり、二人して黙り込んでしまう。
少ししてマリッサが不安そうに尋ねる。
「ミリー、その女性は貴族だったの?」
「違うと思う」
これに関しては本当にそう思う。市場で声を掛けてきた女性は裕福で金銭的には余裕はありそうだったが、貴族かと問われるのなら違うと思う。ジョーのお母さんのような芯から湧きだす上品さは感じなかった。どっちにしても月光さんにあの女性の素性を尋ねれば誰かは分かるだろう。でも、このままだと明日の教室は行けなくなりそう。困りはしないが、なんとなくシルヴァンとの約束を破ることはしたくなかった。助け舟を求め天井をチラっと見上げたが、無反応だった。月光さんめ!
「俺も貴族だとは思わなかった」
「そうなのか? どうしてそう思った?」
天井に向けてお願いした助け船はガレルさんから来た。ジョーの疑問に答えるガレルさんの洞察力は高く、驚くほど市場で声を掛けてきた女性とその後ろにいた護衛の詳細を覚えていた。ガレルさんが言うには後ろにいた護衛は雇われの短期の冒険者だろうという。
「護衛はまだ若く、警戒心が低かった。装備も中古品で錆びていた。駆け出しの冒険者だ。女は商人だ。服は綺麗だがベルトに財布を結び付けてポケットに入れていた。あれをやるのは商人だけだ。貴族の女は財布など持たない」
ガレルさん、なんか凄いよ。あんなに片言だった王国語も最近は流ちょうになってきている。錆びとかポケットとか私は全然そんな場所を見ていなかった。目を輝かせながらガレルさんを見上げれば、目が合った瞬間に顔を逸らされる。なんでだろう……私の隣に座っているラジェを見れば、同じようにキラキラした目でガレルさんを見ていた。どうやら、ガレルさんは私たちの尊敬の眼差しに耐えきらずに顔を逸らしたみたいだ。話し合っている内容はシリアスだけど、なんとなくガレルさんを見ながらほのぼのとしてしまう。
「商人か……マリッサ、エンリケさんから何か聞いているか?」
「お祖父さまは何も言っていなかったけれど、急にミリーに従者を付けて出迎えを始めたから不思議には思っていたのよね」
ジョーとマリッサ二人に加えてガレルさんとラジェも私を見る。
「あー、あー」
急に話を振られてすぐに答えが出て来ずに目を泳がせていると、ボトっと天井の一部が床に落ち全員の視線がそちらに向かう。マリッサが落ちて来た板を拾いながら天井を見上げる。
「あら、やだ。天井が壊れたの? 板が完全に割れているわね」
「下に誰もいなくて良かったな。あとで大工を呼ぶから、ここは客が通らないようにしないとな」
急に壊れた天井の件で市場の女性の話や急に私に付いた従者の話は中途半端に終わった。たぶん月光さんの仕業だろう。助かったけど、天井の修理代……。
とにかく時間は稼げた。また夜にはジョーとマリッサに質問攻めにあうだろうからそれまでに月光さんから事情を聞こう。壊れた天井には布を張り応急処置をして床をクリーンする。天井を凝視するラジェに声を掛ける。
「明日には大工を呼ぶみたいだよ。部屋に戻るけどラジェはどうする?」
「僕も行く」
ラジェと共に四階へ上がりソファへダイブする。ラジェはお茶の準備をしてくれた。ありがとう、ラジェ。
「お茶ができたよ。どうぞ」
「ありがとう! 今日はラジェも疲れたでしょう? なんか変な人に声掛けられたしね」
「うん……ミリーちゃん、天井にいるのは誰?」
ラジェの質問に飲んでいたお茶を吹く。
「声を掛けられただけで何もされてないから、本当に大丈夫だよ」
今日の市場の知らない女性に声を掛けられた状況を説明するが、マリッサもジョーもなんだか納得のいかない不安を感じているようだ。相手が下町の市場にいるのに裕福な服装をしていたのもだが、どうやら護衛を連れていたのではないかというガレルの話に更にうーんとうなり、二人して黙り込んでしまう。
少ししてマリッサが不安そうに尋ねる。
「ミリー、その女性は貴族だったの?」
「違うと思う」
これに関しては本当にそう思う。市場で声を掛けてきた女性は裕福で金銭的には余裕はありそうだったが、貴族かと問われるのなら違うと思う。ジョーのお母さんのような芯から湧きだす上品さは感じなかった。どっちにしても月光さんにあの女性の素性を尋ねれば誰かは分かるだろう。でも、このままだと明日の教室は行けなくなりそう。困りはしないが、なんとなくシルヴァンとの約束を破ることはしたくなかった。助け舟を求め天井をチラっと見上げたが、無反応だった。月光さんめ!
「俺も貴族だとは思わなかった」
「そうなのか? どうしてそう思った?」
天井に向けてお願いした助け船はガレルさんから来た。ジョーの疑問に答えるガレルさんの洞察力は高く、驚くほど市場で声を掛けてきた女性とその後ろにいた護衛の詳細を覚えていた。ガレルさんが言うには後ろにいた護衛は雇われの短期の冒険者だろうという。
「護衛はまだ若く、警戒心が低かった。装備も中古品で錆びていた。駆け出しの冒険者だ。女は商人だ。服は綺麗だがベルトに財布を結び付けてポケットに入れていた。あれをやるのは商人だけだ。貴族の女は財布など持たない」
ガレルさん、なんか凄いよ。あんなに片言だった王国語も最近は流ちょうになってきている。錆びとかポケットとか私は全然そんな場所を見ていなかった。目を輝かせながらガレルさんを見上げれば、目が合った瞬間に顔を逸らされる。なんでだろう……私の隣に座っているラジェを見れば、同じようにキラキラした目でガレルさんを見ていた。どうやら、ガレルさんは私たちの尊敬の眼差しに耐えきらずに顔を逸らしたみたいだ。話し合っている内容はシリアスだけど、なんとなくガレルさんを見ながらほのぼのとしてしまう。
「商人か……マリッサ、エンリケさんから何か聞いているか?」
「お祖父さまは何も言っていなかったけれど、急にミリーに従者を付けて出迎えを始めたから不思議には思っていたのよね」
ジョーとマリッサ二人に加えてガレルさんとラジェも私を見る。
「あー、あー」
急に話を振られてすぐに答えが出て来ずに目を泳がせていると、ボトっと天井の一部が床に落ち全員の視線がそちらに向かう。マリッサが落ちて来た板を拾いながら天井を見上げる。
「あら、やだ。天井が壊れたの? 板が完全に割れているわね」
「下に誰もいなくて良かったな。あとで大工を呼ぶから、ここは客が通らないようにしないとな」
急に壊れた天井の件で市場の女性の話や急に私に付いた従者の話は中途半端に終わった。たぶん月光さんの仕業だろう。助かったけど、天井の修理代……。
とにかく時間は稼げた。また夜にはジョーとマリッサに質問攻めにあうだろうからそれまでに月光さんから事情を聞こう。壊れた天井には布を張り応急処置をして床をクリーンする。天井を凝視するラジェに声を掛ける。
「明日には大工を呼ぶみたいだよ。部屋に戻るけどラジェはどうする?」
「僕も行く」
ラジェと共に四階へ上がりソファへダイブする。ラジェはお茶の準備をしてくれた。ありがとう、ラジェ。
「お茶ができたよ。どうぞ」
「ありがとう! 今日はラジェも疲れたでしょう? なんか変な人に声掛けられたしね」
「うん……ミリーちゃん、天井にいるのは誰?」
ラジェの質問に飲んでいたお茶を吹く。
1,769
お気に入りに追加
26,153
あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく
しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ
おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!
甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。