上 下
104 / 125
本編

ラジェの疑問

しおりを挟む
 まだ開店していない食堂のテーブルをジョー、マリッサ、ガレルさん、それからラジェと私で囲む。

「声を掛けられただけで何もされてないから、本当に大丈夫だよ」

 今日の市場の知らない女性に声を掛けられた状況を説明するが、マリッサもジョーもなんだか納得のいかない不安を感じているようだ。相手が下町の市場にいるのに裕福な服装をしていたのもだが、どうやら護衛を連れていたのではないかというガレルの話に更にうーんとうなり、二人して黙り込んでしまう。
 少ししてマリッサが不安そうに尋ねる。

「ミリー、その女性は貴族だったの?」
「違うと思う」

 これに関しては本当にそう思う。市場で声を掛けてきた女性は裕福で金銭的には余裕はありそうだったが、貴族かと問われるのなら違うと思う。ジョーのお母さんのような芯から湧きだす上品さは感じなかった。どっちにしても月光さんにあの女性の素性を尋ねれば誰かは分かるだろう。でも、このままだと明日の教室は行けなくなりそう。困りはしないが、なんとなくシルヴァンとの約束を破ることはしたくなかった。助け舟を求め天井をチラっと見上げたが、無反応だった。月光さんめ!

「俺も貴族だとは思わなかった」
「そうなのか? どうしてそう思った?」

 天井に向けてお願いした助け船はガレルさんから来た。ジョーの疑問に答えるガレルさんの洞察力は高く、驚くほど市場で声を掛けてきた女性とその後ろにいた護衛の詳細を覚えていた。ガレルさんが言うには後ろにいた護衛は雇われの短期の冒険者だろうという。

「護衛はまだ若く、警戒心が低かった。装備も中古品で錆びていた。駆け出しの冒険者だ。女は商人だ。服は綺麗だがベルトに財布を結び付けてポケットに入れていた。あれをやるのは商人だけだ。貴族の女は財布など持たない」

 ガレルさん、なんか凄いよ。あんなに片言だった王国語も最近は流ちょうになってきている。錆びとかポケットとか私は全然そんな場所を見ていなかった。目を輝かせながらガレルさんを見上げれば、目が合った瞬間に顔を逸らされる。なんでだろう……私の隣に座っているラジェを見れば、同じようにキラキラした目でガレルさんを見ていた。どうやら、ガレルさんは私たちの尊敬の眼差しに耐えきらずに顔を逸らしたみたいだ。話し合っている内容はシリアスだけど、なんとなくガレルさんを見ながらほのぼのとしてしまう。

「商人か……マリッサ、エンリケさんから何か聞いているか?」
「お祖父さまは何も言っていなかったけれど、急にミリーに従者を付けて出迎えを始めたから不思議には思っていたのよね」

 ジョーとマリッサ二人に加えてガレルさんとラジェも私を見る。

「あー、あー」

 急に話を振られてすぐに答えが出て来ずに目を泳がせていると、ボトっと天井の一部が床に落ち全員の視線がそちらに向かう。マリッサが落ちて来た板を拾いながら天井を見上げる。

「あら、やだ。天井が壊れたの? 板が完全に割れているわね」
「下に誰もいなくて良かったな。あとで大工を呼ぶから、ここは客が通らないようにしないとな」

 急に壊れた天井の件で市場の女性の話や急に私に付いた従者の話は中途半端に終わった。たぶん月光さんの仕業だろう。助かったけど、天井の修理代……。
 とにかく時間は稼げた。また夜にはジョーとマリッサに質問攻めにあうだろうからそれまでに月光さんから事情を聞こう。壊れた天井には布を張り応急処置をして床をクリーンする。天井を凝視するラジェに声を掛ける。

「明日には大工を呼ぶみたいだよ。部屋に戻るけどラジェはどうする?」
「僕も行く」

 ラジェと共に四階へ上がりソファへダイブする。ラジェはお茶の準備をしてくれた。ありがとう、ラジェ。

「お茶ができたよ。どうぞ」
「ありがとう! 今日はラジェも疲れたでしょう? なんか変な人に声掛けられたしね」
「うん……ミリーちゃん、天井にいるのは誰?」

 ラジェの質問に飲んでいたお茶を吹く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

お姉ちゃん今回も我慢してくれる?

あんころもちです
恋愛
「マリィはお姉ちゃんだろ! 妹のリリィにそのおもちゃ譲りなさい!」 「マリィ君は双子の姉なんだろ? 妹のリリィが困っているなら手伝ってやれよ」 「マリィ? いやいや無理だよ。妹のリリィの方が断然可愛いから結婚するならリリィだろ〜」 私が欲しいものをお姉ちゃんが持っていたら全部貰っていた。 代わりにいらないものは全部押し付けて、お姉ちゃんにプレゼントしてあげていた。 お姉ちゃんの婚約者様も貰ったけど、お姉ちゃんは更に位の高い公爵様との婚約が決まったらしい。 ねぇねぇお姉ちゃん公爵様も私にちょうだい? お姉ちゃんなんだから何でも譲ってくれるよね?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。