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本編
朝食前の噂話
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次の日の朝、いつもより早く目覚め、リビングで準備をしていたジョーに挨拶をする。
「お父さん、おはよう!」
「お、ミリーか。早いな。昨日は、いつの間に帰って来ていたんだ?」
そうだった。昨晩は月光さんの使った風魔法でまるで泥棒かのように屋上まで飛び、送り届けられて帰宅したのだった。
この帰宅方法もだけど、私に爺さんから護衛をつけられている理由などをジョーに素直に話しても心配をかけるだけだ。
(心配よりも、私への婚約の話は発狂するだろうけれど)
爺さんもジョーやマリッサに見つからないように護衛しろと月光さんに指示をしている。
とりあえずジョーには、適当に誤魔化す。
「昨日は食堂が忙しそうだったから、声をかけずにそのまま部屋まで上がったよ」
「そうか? まぁ、昨日のディナーは確かに忙しかったからな。ミカエルさんに送ってもらったのか?」
「ううん。別の……ギルド長の従者の人」
「その別の従者は俺の知っている奴か?」
「あ、うーん……どうだったかな?」
その『従者』が月光さん扮するルイジさんだとも言えず悩みながら返事をする。
あの爺さんの手紙以来、ジョーは心なしか少しだけ心配性が増したようだ。やはり、婚約を希望している商会がいるなどと伝えれば家に閉じ込められてしまいそう。
「その従者、次回来た時には必ず挨拶したい。ミリー、次は必ず声をかけてくれな」
ジョーが眉を顰めながら言う。
「うん。今度は、家に着いたらちゃんと声をかけるね」
そう、ジョーに笑顔で答える。
この件は月光さんに丸投げしよう。いろんな変装ができるようだから、きっと問題はないよね?
厨房へと向かうジョーを見送り、仕事着に着替える。
今日は商業ギルドにも菓子店リサにも行く予定はないので、猫亭の朝食を手伝う予定でいる。婚約の話が落ち着くまで商業ギルドに顔を出すことは禁止されているので行けないが、菓子店リサには今まで通りジェームズに変装して通うことはできるので良かった。商業ギルドに行かないといけない用事はすぐにはないけれど、不便ではある。私にできることはきっと特にないので歯痒いけれど、爺さんが上手く解決してくれることを願う。
(爺さん、できれば穏便に解決して欲しけれど……徹底的に圧力をかけるんだろうな)
商業ギルドへ行けない間は時間に余裕ができるから、猫亭のお手伝いの回数でも増やそうかな。もう、すでに猫亭は私がいなくとも回っているようだけど……。
食堂に入り床にこびり付いた汚れを、水魔法を使いながら掃除をするラジェに手を振る。
「ミリーちゃん、おはよう。今日の朝食働くの?」
「ラジェもおはよう。うん、今日は久しぶりに朝食のお手伝いに入る予定。今日は食堂の汚れが凄いね。私も掃除を手伝うね」
どうやら昨晩は忙しい夜だったようだ。床に落ちて踏まれた食べかすやエールを零した汚れが目立つ。しばらくラジェと共に食堂の掃除に徹する。
(あれ? ここどうしたんだろう?)
表の扉に一番近い席に魔法の痕跡が残っているのが見える。昨晩、誰かが魔法を使った? 次の日まで濃く残っているってことは、結構強い魔法が使われたはずだ。痕跡だけではだれの魔法なのかまではよく分からないけれど。
食堂の掃除を終わらせカウンターにいたジョーに尋ねる。
「お父さん、昨日あの席でなにかあったの?」
「ん? 別に何もなかったぞ。汚かったか? 昨日は酔っ払いが多かったからな」
隣にいたガレルさんがカウンターから顔を出し、何かを思い出したように言う。
「あそこ、婆さんと四十ほど離れた男がデートしていたと、昨日ケイトが言っていた」
「あぁ、そういえばそんなこと言っていたな。二人とも初めて見る客だったな」
ジョーも頷きながら言う。
そんな年齢差のある男女がデートだなんて珍しい……あれ? 何かが引っかかる。
昨晩、月光さんの言い残した「これからとある悪ガキと話がある」という言葉を思い出す。
「どんな顔してたか覚えてる?」
「いや、俺は近くで見ていない。でも、男の方がフラれたとケイトに聞いた」
例の席を見ながらにフッとガレルさんが笑う。
ジョーも扉に近い席はカウンターから遠く二人の顔の詳細までは覚えておらず、気づいたらお婆さんが消えていたという。
(気づいたら消えている……)
聞けば、昨日のお客さんではその二人以外は顔なじみの常連だったそうだ。
これ、絶対お婆さんの方が月光さんだよね。他にこの辺りでこれほど濃い痕跡を残せる人を知らない。
月光さん、一体誰と会っていたのだろう。
「それより、二人とも早く朝食を食え。コーンスープとハム卵だ」
ジョーからトレーに載った朝食をラジェと受け取る。
「美味しそう! お腹ペコペコなんだよね」
「お父さん、おはよう!」
「お、ミリーか。早いな。昨日は、いつの間に帰って来ていたんだ?」
そうだった。昨晩は月光さんの使った風魔法でまるで泥棒かのように屋上まで飛び、送り届けられて帰宅したのだった。
この帰宅方法もだけど、私に爺さんから護衛をつけられている理由などをジョーに素直に話しても心配をかけるだけだ。
(心配よりも、私への婚約の話は発狂するだろうけれど)
爺さんもジョーやマリッサに見つからないように護衛しろと月光さんに指示をしている。
とりあえずジョーには、適当に誤魔化す。
「昨日は食堂が忙しそうだったから、声をかけずにそのまま部屋まで上がったよ」
「そうか? まぁ、昨日のディナーは確かに忙しかったからな。ミカエルさんに送ってもらったのか?」
「ううん。別の……ギルド長の従者の人」
「その別の従者は俺の知っている奴か?」
「あ、うーん……どうだったかな?」
その『従者』が月光さん扮するルイジさんだとも言えず悩みながら返事をする。
あの爺さんの手紙以来、ジョーは心なしか少しだけ心配性が増したようだ。やはり、婚約を希望している商会がいるなどと伝えれば家に閉じ込められてしまいそう。
「その従者、次回来た時には必ず挨拶したい。ミリー、次は必ず声をかけてくれな」
ジョーが眉を顰めながら言う。
「うん。今度は、家に着いたらちゃんと声をかけるね」
そう、ジョーに笑顔で答える。
この件は月光さんに丸投げしよう。いろんな変装ができるようだから、きっと問題はないよね?
厨房へと向かうジョーを見送り、仕事着に着替える。
今日は商業ギルドにも菓子店リサにも行く予定はないので、猫亭の朝食を手伝う予定でいる。婚約の話が落ち着くまで商業ギルドに顔を出すことは禁止されているので行けないが、菓子店リサには今まで通りジェームズに変装して通うことはできるので良かった。商業ギルドに行かないといけない用事はすぐにはないけれど、不便ではある。私にできることはきっと特にないので歯痒いけれど、爺さんが上手く解決してくれることを願う。
(爺さん、できれば穏便に解決して欲しけれど……徹底的に圧力をかけるんだろうな)
商業ギルドへ行けない間は時間に余裕ができるから、猫亭のお手伝いの回数でも増やそうかな。もう、すでに猫亭は私がいなくとも回っているようだけど……。
食堂に入り床にこびり付いた汚れを、水魔法を使いながら掃除をするラジェに手を振る。
「ミリーちゃん、おはよう。今日の朝食働くの?」
「ラジェもおはよう。うん、今日は久しぶりに朝食のお手伝いに入る予定。今日は食堂の汚れが凄いね。私も掃除を手伝うね」
どうやら昨晩は忙しい夜だったようだ。床に落ちて踏まれた食べかすやエールを零した汚れが目立つ。しばらくラジェと共に食堂の掃除に徹する。
(あれ? ここどうしたんだろう?)
表の扉に一番近い席に魔法の痕跡が残っているのが見える。昨晩、誰かが魔法を使った? 次の日まで濃く残っているってことは、結構強い魔法が使われたはずだ。痕跡だけではだれの魔法なのかまではよく分からないけれど。
食堂の掃除を終わらせカウンターにいたジョーに尋ねる。
「お父さん、昨日あの席でなにかあったの?」
「ん? 別に何もなかったぞ。汚かったか? 昨日は酔っ払いが多かったからな」
隣にいたガレルさんがカウンターから顔を出し、何かを思い出したように言う。
「あそこ、婆さんと四十ほど離れた男がデートしていたと、昨日ケイトが言っていた」
「あぁ、そういえばそんなこと言っていたな。二人とも初めて見る客だったな」
ジョーも頷きながら言う。
そんな年齢差のある男女がデートだなんて珍しい……あれ? 何かが引っかかる。
昨晩、月光さんの言い残した「これからとある悪ガキと話がある」という言葉を思い出す。
「どんな顔してたか覚えてる?」
「いや、俺は近くで見ていない。でも、男の方がフラれたとケイトに聞いた」
例の席を見ながらにフッとガレルさんが笑う。
ジョーも扉に近い席はカウンターから遠く二人の顔の詳細までは覚えておらず、気づいたらお婆さんが消えていたという。
(気づいたら消えている……)
聞けば、昨日のお客さんではその二人以外は顔なじみの常連だったそうだ。
これ、絶対お婆さんの方が月光さんだよね。他にこの辺りでこれほど濃い痕跡を残せる人を知らない。
月光さん、一体誰と会っていたのだろう。
「それより、二人とも早く朝食を食え。コーンスープとハム卵だ」
ジョーからトレーに載った朝食をラジェと受け取る。
「美味しそう! お腹ペコペコなんだよね」
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