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本編

Side:ロイ4 

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ミリアナ・スパーク、東ギルド長エンリケのひ孫。

(まさか、王太子が探ってくれと言っていた子供と同一人物だったとはな)

 祭りのあと、ミリーの発言のせいで俺がどれだけベッキーの機嫌を取るのに骨を折ったか。ベッキー、レベッカ・ラムゼンの父はアジュールの漁業に深く関係のあるラムゼン男爵だ。あの男爵はとことん娘に甘いので不機嫌なまま領地に返すわけにいかなかった。

(おかげで……次回王都に滞在の際、最低二回はデートすると約束させられたんだよな)

 ミーナには「女性の心を無闇に誑かすからですよ。自業自得です」と言われた。ベッキーは幼い時から知っているので妹みたいなものだと知っているはずなのに、俺が悪者みたいに言いやがって。
だが、収穫もあった。ミリーのフルネームを手に入れた。素性が分かった後は、主にミーナに調べさせ、木陰の猫亭まで辿り着いた。
 王太子には手紙でひ孫ではなく、東のギルド長の家族について調べる許可を申し出たが……帰ってきた返事は『それより姉が王都いる間、歓待することに力を入れた方が良いのでは?』と逆に提案された。
 ――見張られている。
 俺の性格を熟知しているのか、何か別の理由か知らないが影でも使って見張らせているようだ。全くあの王太子の慎重さと腹黒さは変わらない。考えていることは相変わらず分からないが。
 しばらく王太子の提案を受け入れ大人しくしていたが、その後、自然と別口で偶然に遭遇したわけなので……これはルール違反じゃねぇよな? あの返事から随分時間も過ぎた。もう、たぶん俺には影も付いていないはずだ。
 屁理屈なのは十分承知している。今日の俺はたまたま下町に店を開拓するために飯屋を訪れているというていだ。少々変装もしてきた。カシアンよりもマシな変装だから、簡単にはバレないだろう。

東区のこの地域は今まで用事もなく訪れることも少なかったが、案外、悪くないな。

「木陰の猫亭……ここか。この辺では結構立派な宿だな」

 近所の少年にやんわりと猫亭とミリーのことを尋ねたが、訝しげに「おっさん、ぺどふぃあだろ」と言われ逃げられた。
 ――ぺどふぃあってなんだ?
 木陰の猫亭の表扉を開けるとすぐに店員の十歳ほどの元気な少女に声を掛けられる。

「お一人ですか?」

「ああ」

「今、手前の席しかないんですけど、大丈夫ですか?」

 この時間にほぼ満席なのか? 繁盛してんな。扉に一番近い席に向かうと、カウンター越しにミリーの父親が見えたのであちらからは顔が見えないように座る。

(ここで、間違いないな)

 ほくそ笑みながらエールを注文、青年がすぐに運んでくる。

「おい、これはなんだ? 頼んでないが」

 エールのジョッキと共に置かれた黄色い棒。ニンニクとパターの香ばしい匂いがする。

「あ、お客さん。それ、エールを頼んだ人には最初の付け合わせでポレンタフライを出してるんですよ」

 後ろから最初の少女が補足する。

「無料でか?」

 当たり前のようにそうだと少女が答える。無料というのには驚いたが、この黄色い棒はコーンミールで出来ているらしい。なるほどな。それなら安いな。
この青年と少女、二人はどうやら兄妹のようだ。手綱は完全に妹の手元だな。俺の姉貴といい、どうも女きょうだいというのは逞しく育つ。

「食べ物の注文はどうしますか? 今日のおススメはクリームコロッケ、野菜サミコ酢、それからボアバーガーです!」

 ん? ひとつもどういう食い物か分からないのだが。
 俺が迷っていると少女店員がある程度の食べ物の説明をしてくれる。コロッケはあれだと隣のおっさんが指差すテーブルを見れば、男がひとりで山盛りの茶色い物を食っていた。

「あんな量が来るのか?」

「いえ……あの人は特別で、通常ワンオーダーで一つです」

「そうか……全部美味そうだな。じゃあ、その三品を持って来てくれ」

「お客さん、ありがとうございます!」

 注文に向かう少女を見送りエールを一口、ポレンタフライと名前の付いた黄色い棒を口に入れる。

「なんだ、これ。普通にうめぇな」

 あの安パンと同じ材料から作ったとは思えない美味さだ。口の中で広がるニンニクとバターがエールに合う!
 次のポレンタフライに手を伸ばそうと思ったら、俺の席の目の前に人が座った。

「坊主。久しぶりだのぉ」
「あ、あんたは」

「あたしを覚えてくれていたかい?」

「……変な名前のクソババァだろ」
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