スキル調味料は意外と使える

トロ猫

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2巻

2-2

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 2 雨季


 数日後、リスタ村の雨季の訪れは前触れもなくやってきた。
 その日はいつもと同じように朝からレベル上げのために森に向かったが、魔物を見つける前にスコールのような雨に急に降られてしまった。仕方ないので雨が止むまで抉れた巨大な木の幹の中に、キモイと避難する。

「これ、止むよな?」

 キモイが蝕手を伸ばしながら雨を触ろうとするが届かず、プルンと身体を揺らしながら鳴く。

「キュイ」
「今の鳴き声、お前か? なんだ、雨に触りたいのか? 好きにしたらいいだろ」

 キモイは頭の上から地面に飛び降り、ピョンピョンと外へと飛び出し蝕手を広げると雨を全身に浴びた。普通に気持ち良さそうだな。
 水属性スライムだからやはり水が好きなのか? 一人、外で日光浴をするかの如く雨に打たれながら、テンションが上がったのかいつにも増して謎な踊りを披露し始めた。
 キモイの踊りを横目にステータスの確認をする。


[ヤシロ リツ] 21歳 上位人族
 L V: 28
 H P: 80(+50)
 M P: 140
 ATK: 40(+50)
 DEF: 20(+50)
 LUK: 26
 スキル: 【治療】【生活魔法】【索敵】【鑑定Lv4】【風魔法Lv4】【調味料Lv6】
 上位人族スキル: 【言語】【アイテムボックス】【能力向上】


 ここ数日は森でレベル上げをしたが、ゴブリン襲撃のせいか村周辺に魔物は少なく、索敵で探すのに苦労している。昨日は遠出までしてやっとレベルを二つ上げた。HPに5、MPに10、それからLUKに5ポイントを追加した。
 試しにキモイにも一角兎を数匹討伐させてみたが、レベルは上がらず3のままだった。もっと強敵を倒せば上がるのだろうが……そんなことをしたら万が一の事態にもなりかねない。一応こいつが心配なので、キモイはゆっくりとレベルを上げていく予定だ。


【キモイ(1)】 超超良好 3


 超超良好……雨のおかげか? キモイ、お前、粉砂糖よりご機嫌になることがあったんだな。
 木の幹で雨宿りして二十分ほど過ぎたが、雨は止む気配が全くなかった。地面はすでに絡みつくようなペースト状になっている。
 これはダメだな。止んだとしても今日のレベル上げは危険だな。
 仕方ない。村へ戻るか。
 まだ雨の中で遊びたいと駄々をこねるキモイを回収。
 雨の中、早足で村へと戻るとカーターの家へと飛び込む。
 俺の帰りを窓から覗いていたジョスリンが、急いで二階から下りてくる。

「リツお兄ちゃん、大丈夫? はい、タオル」
「助かる。ありがとな」

 ジョスリンから受け取ったタオルでずぶ濡れになった身体を拭く。
 キモイが頭から降り、こちらに背を向け閉じた表の扉を見つめフルフルと揺れる。

「キモイ、まだ遊び足りないのか? はぁ、仕方ねぇな」

 表の扉を開けるとピョンピョンと嬉しそうにキモイが外へ走り出す。後ろをついていこうとしたジョスリンを止める。

「ダメに決まっているだろ。外を見ろ。さっきより雨がひどいだろ」
「私もキモイちゃんと遊びたいのに~」

 頬を膨らませたジョスリンを無視して、雨の音にかき消されないよう大声で叫ぶ。

「キモイ、気が済んだらちゃんと中に入ってこいよ!」

 キモイはこちらを見向きもせず謎の踊りを始める。あいつ、聞こえているのか?

「私がスキルで伝えるね」
「あ、待て――」
「キモイちゃーーん。遊び終わったらおうちに帰ってきてねー!」

 ジョスリンのスキル大声が間近で炸裂。ああ、くそ。大声のせいで耳がキーンと響いて頭がてぇ。

「ジョスリン! 家の中でスキルは使わない約束だったでしょ!」

 大声を聞きつけたメアリーに怒られたジョスリンがしょんぼりしながら、耳に治療をかける俺に謝る。

「ごめんなさい。声は抑えたつもりだったんだけど……」
「あれでか? もう武器だな」
「うん!」

 「リツさん、娘が迷惑かけた」
 夕食の席に着くのと同時に、カーターがジョスリンの大声の件で謝罪する。
 カーターにも怒られたのか、暗い表情で皿の上のつけ合わせのパンをいじるジョスリンに声をかける。

「もう謝ってもらったし、耳も治した。次に気をつけてくれたら問題はない」
「うん。今度から気をつけるね」

 ジョスリンの表情がパッと明るくなり、メアリーもカーターも半ば呆れ交じりの表情で自分たちの娘に微笑んだ。
 カーターは毎日村を立て直すことで忙しく、一緒に夕食の席に着くのは久しぶりだ。今日はマチルダも俺の向かいの席に座っている。マチルダは欠損した片腕にも随分と慣れたのか、ここ数日は裏庭で鍛錬をしているのを幾度か見かけた。
 キモイは小雨になったタイミングで家に戻り、遊び疲れたのか今は俺の膝の上で丸まっている。
 メアリーが大きなフライパンから鶏の香草焼きをそれぞれの皿に載せる。

「それじゃ、食べましょう」

 鶏の香草焼きをナイフで切り、口に入れる。

美味うまい」
「ありがとう」

 マチルダの香草焼きはメアリーが気を利かせ先に細かく切ったようで、一人でも問題なく食事はできている。
 食事の中盤になると小雨になっていた雨が再び大きく音を立てながら降り始めた。カーターが窓から雨を眺めながら苦い顔をする。

「今年は雨季が来るのが少し早かったな。しばらく外での作業は厳しいな」
「繁忙期は大丈夫なのか?」
「ああ、冒険者はゴブリンの件で例年より少ないが、宿はもう満室だそうだ。まぁ、今年は村を出ていった奴らの空き家があるから、冒険者の宿泊にはそれを利用させてもらっているが」

 ここ数日、村には冒険者や商人たちが集まってきていると思ったが、例年よりも数は少ないという。目的は例のカエル……フォレストフロッグだ。
 デカいカエルを想像しただけでゾッとした。俺の強張こわばった顔に気づかずカーターが恐ろしい提案をする。

「リツさんも参加してみるか?」
「何にだ?」
「もちろん、フォレストフロッグ狩りだ。今年は冒険者が少ない分、大物を狩れるチャンスだ」

 聞けば、大物だとカーターの太ももまで大きさがあるカエルが過去には狩れたという。
 もうカエルじゃねぇだろ、それ。ただのモンスターだろ。
 どうにか断ろう。いや、絶対に断ろう。

「いや、俺はカエルはちょっと……」
「そんなに怯えるほど獰猛どうもうじゃない。子供も参加する狩りだから捕獲も簡単だし、結構いいお金になる」

 マチルダが横から余計なことを言う。
 どうにかカエル狩りに参加させられないよう反論してみたが、席に着いている全員になぜカエルが苦手なのか理解できないという顔で見られる。

「リツさん、カエルのシチューはとっても美味しいのよ」

 メアリー、俺はカエルなんぞ食べなくてもこの先なんの支障もない。美味いとかそのような話ではない。見かけが受けつけないだけだ。

「リツお兄ちゃん、カエルが怖いの?」

 ジョスリンがあわれみを含んだ視線を俺に送りながら尋ねる。

「いや、怖いわけではない。見た目が嫌なだけだ」
「お父さんが苦手な食べ物は触れ合えば克服できるって言ってたよ」
「そ、そうか……」
「うん。だから、リツお兄ちゃんもフォレストフロッグ狩りに一緒に参加すればいいよ。大きいのは無理だけど、小さいのなら狩り方を私が教えてあげるよ」
「いや、俺は……」

 結局押し切られ、フォレストフロッグ狩りに参加することになり、その晩は一人ベッドの上で自分のヘタレさを嘆いた。



 3 カエル日和


 とうとう訪れてしまった……カエル狩りの日。
 早朝に目を開け、腹の上で丸まって眠っているキモイを起こした後に背伸びをしながら、部屋の窓を開ける。

「あー、外はどんよりしているな。まさに地獄の一日の始まりに相応ふさわしい天気だな」

 窓から見える道は舗装などされておらず、連日の雨で粘土質な泥になっていた。人通りはいつもより多く、見たことのない冒険者が数人歩いていた。ここ数日は索敵にもたくさんの人が映っており、村の人口は倍ほどになっていた。
 あの冒険者たちもカエル狩りに向かっているのだろうな。ね返る泥汚れを気にもせず楽しそうだが、これから狩るカエルの話で盛り上がっているのだろうか?
 先日の夕食時のフォレストフロッグの会話後も、やんわりとカエル狩りに行きたくないということは伝えたが、ジョスリン、マチルダ、それにメアリーの中ではカエル狩りは決定事項であるかのように、予定が素早く立てられた。特にジョスリンは凄く楽しみにしているのが嫌なほど伝わってきた。
 長く深いため息をらす。

「グダグダ言っても逃げられない」

 今日の目標はカエル一匹。さっと確保してすぐに退散すればいい。ただそれだけだ。
 一階へ下りると、朝食の席にすでに着いていたカーターが挨拶をする。

「リツさん、おはよう」
「おはよう。他のみんなは?」
「もう朝食を済ませて、狩りの服装に着替えに行ったよ。リツさんも早く食べるといい」
「そうか……」

 席に着き、朝食の卵とハムをパンに載せ口へと入れる。
 カーターが茶をすすり外を見た後、爽やかな笑顔で俺と目を合わせる。

「雨が降りそうだ。今日はカエル狩り日和だな。聞いた話だが、昨日は若い冒険者パーティーが五匹もフォレストフロッグを狩ったそうだ」
「そうか……それは多いのか?」
「ああ。通常は多くても二、三匹だろうな。昨日からジョスリンも張り切って楽しみにしている」

 二、三匹で多いのなら、一匹狩れば十分だな。一匹なら大丈夫だろう。引きつっていた笑顔を緩める。
 そんな俺にカーターが尋ねる。

「そんなにカエルが苦手なのか?」
「まぁ、ぬめりとか何を考えているのか分からない顔でピョンピョンと跳ねたりするのが、昔からどうも苦手なだけだ」
「そうか……今からでも別の人に頼んでもいいぞ」

 カーターはそう言ったが、あれだけ楽しみにしているジョスリンに直前で行かないって言うのはさすがにヘタレムーブすぎる。

「いや、俺も曖昧あいまいな返事をしていたからな。ちゃんと参加はする」
「そうか。これは昨日冒険者に聞いた、フォレストフロッグがいる安全な場所を記した地図だ。今年は特に村に近い川に集まっているそうだ」

 フォレストフロッグは水属性のスライムを餌としていて、川沿いや雨で自然にできた泉などの近くにいるらしい。

「水属性スライムのキモイを連れていっても大丈夫なのか?」
「ワームを単体で倒すほどの実力があるなら、フォレストフロッグなど足元にも及ばないだろう。それに……川を見れば分かるが、この時期は水属性スライムも大量に発生している。わざわざ人族や自分より強者を襲わずとも、川の中で口を開けていれば餌が入ってくる」
「そうか。情報をありがとう。助かる」

 カーターに礼を言い、残りの朝食を食べてから、キモイと家の外で女性陣を待つ。


 草笛を吹きながら女性陣を待つこと三十分。一向に出てこない。
 着替えるだけだよな? 準備にどれだけ時間かけんだよ?
 暇すぎて草笛でリズムを鳴らしていると、キモイが目を見開きながら草笛を凝視する。

「なんだキモイ? 草笛が欲しいのか?」

 キモイに草笛を与えると、そのまま消化をしてしまう。草笛は吹くものだと教えたが、キモイはよく理解できなかったようで、俺の持つ草を蝕手で追いかけた。なんだか猫みたいだな。

「そもそもお前、肺はないんだろうから草笛なんか吹けないよなぁ。なんだ、草でもっと遊んでほしいのか?」

 草を持ったまま手を止めていると、さっさと動かして遊ばせろとキモイに蝕手でぺシぺシと叩かれる。こいつ、本当にスライムか?
 キモイとの草じゃらし遊びも飽きた頃に、ようやくメアリーたちが家の中から姿を現した。やっと出てきたか……。
 腰かけていた石から立ち上がり尻についた汚れを払う俺に、メアリーが申し訳なさそうに謝る。

「リツさん、待たせてしまってごめんなさい」
「あ、いや。そんなには待っていない」

 十分に待ったが、女子たちと三対一の状況で余計なことは口に出さないほうがいいだろう。とりあえず笑顔を見せる。
 今日の三人は冒険者風の装いだ。まぁ、実際にマチルダは冒険者だからいつも通りだし、メアリーもゴブリン襲撃時と同じ格好だが、ジョスリンの冒険者姿はなんだか新鮮だ。
 ジョスリンが上目遣いで尋ねる。

「リツお兄ちゃん。私のこの格好、似合っていない?」

 クルリとその場でジョスリンが回りながら今日の装いを俺に見せる。

「ん? もちろん、似合っているぞ」
「もう、なんか違う」

 唇を尖らせながらそう言われるが、何が違う? 普通に褒めただけだろ?
 家の扉の前に立つカーターに、出かける挨拶をする。

「リツさん、マチルダ、妻と娘をよろしく頼む」
「もちろんだ」

 勇ましくカーターに返事したが、どちらかといえば女子の三人には俺を守ってほしい、カエルから。
 カーターと軽く握手、手を離す直前にこっそり耳打ちをされる。

「リツさん、次回女性に装いが似合っているかを聞かれたら、絶対に服装をじっくり確認してから返事はしないように。即座に返事すれば大抵の女性は喜ぶ」
「そ、そうなのか? 分かった」

 カーターが軽くウインクをしながら手を放す。俺がじっくり確認した間が、似合っているか似合っていないかを天秤に掛けたようでアウトなのか……。
 ジョスリンの不満は理解したが……なんだよ、その暗黙の了解的な話は。

「それじゃ、出発しましょうか?」
「ああ、キモイほら、頭に乗っておけ」

 キモイが頭に乗ると、メアリーを先頭にフォレストフロッグがいるという村に近い場所にある川へと向かう。
 村を出てすぐに一旦ペースを落とす。

「歩きにくいんだが……」

 俺の両隣を平行して歩くジョスリンとマチルダ、そしてなぜか足に絡まるキモイ。これが噂のハーレム――

「リツ、もう少しそっちに寄ってよ」
「おい、押すなよ」
「リツお兄ちゃん、疲れたら抱っこしてね」
「歩き始めたばかりだろ」

 いや違うな。これはハーレムじゃねぇ。高校生と子供に囲まれてどこもなんにも感じねぇ。それに、キモイが変に足に絡まるせいで、俺はまるでトイレを我慢しているかのような歩き方だ。なんだこの状況……勘弁してくれ。
 逃れようとしたが結局そのまま状況を受け入れ、先を進んだ。

「リツさん、もうすぐ目的の川に着きます。そろそろ、見えてくるはずですよ」
「ほら、二人にキモイ、もういいだろ。引っついていると危ないだろ」

 ようやく自由になると目的地の川が見えてきた。前回トイレ用の水属性スライムを確保した川より、少し上流部分だ。ここは下流よりごつごつした小ぶりな岩が多く散乱している。

「この場所はすでに先客がいるわね。もう少し上流に向かいましょう」

 メアリーが先に到着していた冒険者たちを確認しながら上流へと進む。冒険者たちは川から少し距離を取り、何かを待っているように水辺を凝視していた。
 冒険者たちの視線の先を追うが、見えるのは大量のスライムだけで、どこにも肝心のフォレストフロッグの姿は見えない。
 カエルはどこだ? 奴らの姿が見えず内心焦りが高まる。
 カーターが脅しただけで、実際はそこまでデカいカエルじゃないのか?
 それともどこかに潜んでいるのか? 一応鑑定をかけてみるか。


【フォレストフロッグ(0)】 良好 0
【フォレストフロッグ(0・1)】 良好 0
【フォレストフロッグ(0)】 良好 0
【フォレストフロッグ(0・2)】 良好 1
【フォレストフロッグ(0・1)】 良好 0
【フォレストフロッグ(0)】 良好 0
【フォレストフロッグ(0)】 良好 0


「うげっ!」

 待て待て待て! 待ってくれ! 鑑定にはスライムに交じって大量のフォレストフロッグが表示される。岩だと思っていたもの、これ全部カエルじゃねぇかよ! 

「これ、全部カエルなのか!」

 思わず裏返った声で叫んでしまう。

「スキルを使ったの? こいつらは擬態が得意」

 マチルダが笑いながら近くの岩を突くと、岩が俊敏に逃げていった。

「うわっ。結構素早いな」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫だが……まさか岩に擬態しているとは思わないだろ? 少し驚いただけだ」
「もう! フォレストフロッグは岩に擬態することも、雨が降るとすぐ姿を現すから捕まえやすいってことも、夕食の時にみんなで話したよ」

 隣にいたジョスリンが少し呆れた表情で説明をする。
 バッと空を見上げる。頭上は今にも雨が降りそうな立派な曇り空だ。フォレストフロッグは雨の中でのほうが討伐しやすいと聞いたのは覚えているが、夕食の席でされていた、なぜ捕獲しやすいかという肝心の説明の部分は聞いていなかった。
 冒険者たちから少し離れた場所でメアリーが足を止める。

「雨が降るまでここで待機しましょう」

 待機して五分も経たないうちに、ぽつんと鼻先に雨が落ちる感覚がした。すぐにどこからかグバァとカエルの鳴き声が聞こえ、鳥肌が立つ。

「あ、雨だ。リツお兄ちゃん、一番大きいのを狙おうね」
「ああ……」

 無邪気に笑うジョスリンに無表情のまま空返事をする。
 ポツポツと降り始めた雨はすぐに鉄砲雨に変わり、激しさを増した。

「リツ、出てきたよ」

 マチルダが見ろと指差したほうに視線を移すと、先ほどまで岩だったものが徐々に色を変え始めた。フォレストフロッグだ。
 蛍光がかった真緑、黄色や青、いろんな色のデカいカエルが辺り一帯に姿を現し始める。
 見た目は普通にアマガエルがデカくなった感じだ。
 いや、意外と大きいカエルのほうが小さいのよりも平気そうだ。大丈夫だ。
 だが、せっかく整えた平常心は、奴らが細めていた目をほぼ全匹同時に勢い良く見開いたことで崩れ去った。

「ヒィ」
「今です。行きましょう!」

 メアリーのかけ声とともに俺以外の全員が颯爽さっそうと飛び出し、カエルたちの元へと走り出す。俺も少し出遅れたが、三人の後を追う。
 ジョスリンが辺りにいた一番巨大なカエルに目をつけ、躊躇ちゅうちょなく頭を棒で殴る。

「やった!」

 ジョスリンに殴られたフォレストフロッグはひっくり返ると、手足をピクピクと動かし死んだように動かなくなった。マチルダとメアリーがカエルの喉を急いでナイフで貫くと紅血こうけつ飛沫しぶきが噴き出した。
 カエルの血って赤いのだな……。

「リツさん! やりましたよ」

 メアリーが血まみれで嬉しそうにカエルの身体の一部であろう何かを掲げながら手を振る。ジョスリンも誇らしげな表情で、俺に仕留めたカエルを近くで見ろと言う。

「私が仕留めたんだよ! 大きいでしょ!」
「あ、ああ。一番の大きさだ」

 ――今日さ……俺、いらなくね?

「次はリツお兄ちゃんの番だよ! フォレストフロッグは頭を叩けばすぐにひっくり返るから。早くしないと逃げちゃうよ!」

 そうジョスリンに急かされ、どのカエルを叩くかを吟味ぎんみする。ゲップをするような鳴き声で合唱しながら川に向かい始めたカエルどもの後を追いながら、早く早くとメアリーにも急かされる。分かったから、そう急き立てないでくれ!
 くそっ。もう、こうなったらどれでもいいだろ。早く狙いを定めて頭を殴ればいい。それだけで済む。
 ふと、鑑定にまだ石に擬態したままのフォレストフロッグが表示される。


【極小フォレストフロッグ(4)】 良好 2


 年齢とレベルが他のカエルに比べ高いのが気になったが、極小という名前通り他の奴らよりも五分の一ほどの小さいサイズだ。これなら行けるだろう。
 握りしめた棒で思いっきり極小フォレストフロッグの頭を叩く。ボキッと音が鳴るとカエルを叩いた棒は真っ二つに折れ、手に振動が伝わった。


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