スキル調味料は意外と使える

トロ猫

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1巻

1-3

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 2 最果ての村


 食事を終え、火の後始末をして再び川沿いを歩き始める。今日はいい天気だな。散歩だったら最高だろうな。
 そんなことを考えていたらグギャグギャと耳障みみざわりな汚い声が森のほうからした。急いで川沿いから離れ、隠れながら声の主を探す。いた。あれは……鑑定をする。


【フォレストゴブリン】


 だよな。どこからどう見ても立派なゴブリンだ。緑色の肌に体格は小さいが鬼のような面と膨れ上がった腹が特徴の魔物だ。小鬼と呼ばれる理由がよく分かる。クソッ、武器も持ってやがるのかよ。索敵で敵の人数を確認する。
 ゴブリンの数は五匹か。ん? 索敵に表示されたこの白い点はなんだ?

「キャアア。やめて! 離して!」

 少女の大きな悲鳴が森に鳴り響く。誰かゴブリンに捕まっているようだな。白い点は敵じゃない者の表示か。しかし、すげぇ大きな声だな。
 ゴブリンに近づき状況を確かめると、棒に手足をくくり付けられた少女が運ばれていた。あんな子供なのによく遠くまで声が届いたな。子供の鑑定をする。


【ジョスリン】


 鑑定で名前が出るんだな。可哀想だから助けてやりたい。
 ゴブリンどもを追跡しながら、女の子を解放する策を練る。ゴブリンの強さが分からない以上、迂闊うかつに手を出したくはない。武器を持っている奴がいるのも警戒する理由だ。さて、どうするかな。

「ん?」

 索敵に別の赤い点が急に表示される。ゴブリンに何かが近づいているな。五匹のゴブリンよりも大きな赤い点は仲間なのか? すぐに大きな足音とともに赤い点の姿が現れる。


【フォレストボア】


 巨大いのししだ。
 フォレストボアはそのままゴブリンの列に突っ込み、二匹のゴブリンをいた。轢かれた一匹のゴブリンは抵抗もできず衝突の勢いで後ろに飛び、木の枝に背中から刺さり串刺しになる。凶暴な猪だな、おい。
 別のゴブリンが持っていたやりで猪を刺す。刺された猪は、ゴブリンが槍を抜く前に牙でゴブリンの腹を突き刺す。突き刺された牙はゴブリンを貫き背中から飛び出し、黒い暗緑色あんりょくしょくの血が広範囲に飛び散る。グロい光景だ。
 猪の息は荒く乱れている。先ほどゴブリンに刺されたダメージが大きいようだ。だが、眼光は鋭く残り二匹のゴブリンが尻込んでいる……やるなら、今がチャンスだな。

「『旋風』」

 旋風に潰した胡椒を入れゴブリンと猪に投げつけると猪は危険を察したのか、即座に走り去っていった。ゴブリンたちは胡椒入りの旋風をもろにくらい、咳き込み始めた。狙い通りなんだが、顔が涙と鼻水であふれ……不細工な面が余計にみにくくなっていて非常にグロい。
 胡椒に苦しんでいるすきに、二匹のゴブリンの首を後ろから刺す。木剣なのによく刺さるなと感心していると、目の前に急にもう一匹ゴブリンが現れる。さっき猪に轢かれた内の一匹だ。腹に怪我しているようだが血走った目でこちらを睨んでいる。
 ひとしきり睨み合い、両者同時に動く。
 ゴブリンは俺の脚狙いか。奴の狙いとは逆の足でゴブリンを蹴り上げる。倒れたゴブリンに上から覆い被さり木剣でそのまま目を刺す。力を加え、眼球からそのまま地面まで一気に木剣で貫く。ゲップのようなゴブリンの断末魔が聞こえる。


(レベルが1上がりました)


 上がった息を整えながら、深呼吸をすると急に充満した悪臭でむせる。

「おえぇ。なんだ、このにおい? クセェ!」

 戦っている最中は気づかなかったが、このくささはなんだよ! 暗緑色の血がついた木剣を嗅ぎ、ゲロに下水を混ぜたような下劣なにおいにえずく。この悪臭は、どうやらゴブリンの血のにおいらしい。鼻がもげそうだがゴブリンに核がないか確認する。


【フォレストゴブリンの核】


 無事に全ての核を集め、ゴブリンが持っていた武器を回収する。槍は猪に刺さったまま消えたが、剣と棍棒は無事回収できた。木剣と自分をクリーンする。念のために二回だ。

「ゴホッゴホッ」

 さらわれていた少女が苦しそうに咳をする音が聞こえた。完全に女の子の存在を忘れていた。縛られていた棒から女の子を解放、クリーンをかける。十歳くらいの子供だろうか? 三つ編みの長い髪に村人って感じの格好だ。

「大丈夫か?」
「喉がまだ痛いけど、大丈夫。助けてくれてありがとう。お兄ちゃんは冒険者の人?」

 咳をしながら女の子が尋ねる。

「冒険者? いや、んーとな、旅人だ」
「こんな場所に?」
「こんな場所?」
「ここは、最果ての森だよ。ここに旅人なんて来ないよ……」
「あー、なんだ。道に迷ったんだよ」

 最果ての森ってなんだよ! いぶかしげにこちらを見る女の子に咄嗟とっさに道に迷った旅人だと嘘をついたが……俺の話を信じてなさそうだ。

「俺はリツだ。君は?」
「リツお兄ちゃん? 私はジョスリン」

 この子の名前は鑑定ですでに知っていたが、とりあえず互いの自己紹介をする。

「ジョスリンちゃんか。よろしく」
「ジョスリンって呼んでね」
「分かった。ジョスリン、よろしくな。ここが最果ての森なら、君はどこから来たんだ?」
「最果ての村リスタ」

 最果てのってワード多いな。しかし、俺はなんつーとこに落とされたんだ。
 聞けば、ジョスリンは早朝の薬草採取の帰りにゴブリンに襲われたらしい。拉致らちされてから最低でも半日以上は経っているようだ。

「帰り道は分かるか?」
「……分からない」
「一人だったか?」
「うん。一人で行くなって母さんと父さんに言われていたけど……」

 ジョスリンが地面を見ながらしおれる。

「そうか。帰ったらいっぱいしかってもらえ。とりあえず、俺はこれから川をくだる予定だ。リスタの村に着くかは知らないが、人がいる場所にはそのうち着くだろ。ついて来るだろ?」
「いいの?」
「ああ、もちろんだ」


 ジョスリンとともに川に沿って歩き始める。子供だからか、俺よりもゆっくりで体力がなく徐々に口数も減っていく。仕方ないのでジョスリンを背負うことにする。

「ほら、乗れ。じゃないといつまでも村には着かない」
「うん……ありがとう」

 歩かなくてよくなったジョスリンは、急に元気になった。おしゃべり好きなのか……聞いてもいない村や近辺のことを教えてくれた。
 ここは、ガドル帝国という国らしい。リスタ村を含めたこの地一帯は領主のバルバロス辺境伯が治めているという。貴族がいる世界か。ますます、文明が中世の可能性が……いや、ジョスリンの格好からもうそれはほぼ確定なんだが。情報はありがたい。ジョスリンには、子供の割に物知りだとめておく。

「みんな、知ってることだよ」
「そうか。領主はいい奴か?」
「父さんたちは、いい領主だって言ってたよ」

 悪徳領主だったらさっさとどこか遠くに行こうと思っていたが、いい奴なら良かった。
 空を見れば夕方前だ。今日、進める距離はここまでだな。今夜の安全な寝場所を探さないとな。やっぱり今夜も木の上がいいだろう。また魔物に襲われたら困るので少し高い木にするか。

「今日、進むのはここまでだ。川の側は危ないから、あの木の上で寝るぞ」
「うん」


 夕食は一角兎、それにバゲットだ。兎一匹で十分足りるだろう。一角兎とバゲットをアイテムボックスから取り出すとジョスリンが驚いたように尋ねる。

「すご~い。どこから出てきたの? 魔道具なの?」

 この世界には魔道具があるのか? だがアイテムボックスを知らないのなら、言う必要はないな。説明が面倒だしな。

「ああ、そうだ。旅人だからな」

 二人で枝を集め、焚き火を起こす。一角兎に塩胡椒をみ込み、焚き火でじっくりと焼く。一角兎の足部分をちぎりジョスリンに渡す。

「熱いから、気をつけて食べろよ」
「ありがと! お腹いた!」

 空腹で限界だったのか、ジョスリンはガツガツと一角兎を食べ咳き込む。

「一気に食いすぎだ、ゆっくり食え」
「凄く、美味しい! リツお兄ちゃんも早く食べようよ」
「ああ」

 一角兎一匹を完食する。バゲットを食べ終えたジョスリンに尋ねる。

「まだ食うか?」
「ううん。もうお腹いっぱい。リツお兄ちゃん、ありがとう」
「ああ。火を消して、そろそろ寝るか」

 立ち上がり、火を消しに水を出そうとしたらジョスリンに止められる。

「火なら私が消せるよ。『ウォーター』」
「生活魔法か?」
「ううん。水魔法だよ。私のスキルなの。水を出すことしかできないけど……生活魔法のウォーターよりはたくさん出るんだよ」

 ジョスリンはその他に生活魔法、薬草採取、大声のコモンスキル三つを持っているという。水魔法はレアスキルだな。

「スキルの話は人に教えていいのか?」
「父さんたちは、知らない奴にスキルのことは言うなって……でも、リツお兄ちゃんはもう知らない人じゃないでしょ?」
「知り合って一日も経っていないだろうが……親の言うことはちゃんと聞け」

 ともかく、大声のスキルのおかげでゴブリンどもに誘拐されていた時の叫び声があんなに遠くまで届いていたのか。納得だな。ゴブリンどもも大声スキルを近場で聞いてよく耐えられたな。しかし待てよ、ジョスリンは半日拘束されてたはずだが。

「捕まった直後にはスキルを使って叫ばなかったのか?」
「急に現れて頭を殴られたの。気がついたら、逆さまで運ばれていたから叫んだけど……」
「あの時に気がついたのか。俺に声が届いて良かった。殴られた場所を見せてみろ」

 ジョスリンの後頭部には大きなコブができてれていたので治療をかける。コブは小さく残ったが、腫れは引いたようだ。

「すご~い。治癒スキルを持ってる人は村にも一人しかいないんだよ」

 人に教えちゃいけないけど、と言いながらもジョスリンがペラペラと喋る。聞く感じ、治癒は大怪我や大病も治せるらしいが、魔力の消費が激しく頻繁には使えないという。

「俺のスキルは、治じゃない。治で大したことはないが他の奴に言うなよ」
「うん。言わない」

 お喋りジョスリンは信用できないが、治癒というスキルがあるなら治療が露見ろけんしたぐらいで問題はないだろう。どうせ、コブも完全に治せないほどの効果だしな。

「寝るぞ。ゴブリンどもは夜も活動するのか?」
「冒険者の人が夜も出るって言ってたよ」
「面倒だな」
「捕まったら、食べられちゃうから」

 おい! ゴブリン、人を食うのかよ!
 ジョスリンを先に木に登らせ、続く。木から落ちないよう、ジョスリンを後ろから抱える。

「大丈夫か?」
「うん。温かいよ」

 数分後、すぐにジョスリンから寝息が聞こえた。この子、無防備すぎるだろ。親でもないのに心配になるのだが。
 レベルが上がった分のポイントの振り分けをする。


[ヤシロ リツ] 21歳 上位人族
 L V: 9
 H P: 40(+50)
 M P: 30
 ATK: 20(+50)
 DEF: 15(+50)
 LUK: 11


 さっきのレベルアップで手に入れたポイントはMPに10全てを投入する。塩や胡椒を生成、アイテムボックスに移す作業をした後にジョスリンの話を思い出し、ため息をつく。

「……人食いゴブリンとか、マジで勘弁してくれよ」

 そう呟いた瞬間、遠くから何かの遠吠えがしたので索敵を展開する。百メートル範囲内に赤い印は見えないが、緑の印が一帯に散らばっている。これは何かの動物だろうか? こちらに敵意がない動物などは緑の点で表示されるのか。敵対しないなら、放っておくのが一番だな。
 寝ていたはずのジョスリンが急に大声で叫ぶ。

「お肉が美味しい! むにゃむにゃ」
「寝言かよ!」

 いきなり大声出されると焦るだろ! 声がでけぇんだよ。
 しばらくジョスリンがまた大声を出すのではないかと見張っていたが、涎を垂らしながら静かに熟睡していた。俺もいつの間にか眠りについていた。

 ◆ ◆ ◆

 早朝、目が覚める。まだ熟睡中のジョスリンを揺らし起こす。

「ジョスリン、朝だ。飯食ったら、出発するぞ」
「ん……父さん?」
「リツだ」
「あれ? そうだった」

 朝食にはバゲットを炙り、半分ずつ分け食べる。朝は元気だろうから、ジョスリンには歩いてもらう。抱えるのは後からだ。
 昨日、索敵を常に付けてなかったせいで一角兎の集団に襲われたので、今日は索敵を常に発動しながら川沿いを進む。
 早速、索敵に赤い点が無数に現れる。ここからまだ離れているが、これは川沿いなのか? 表示的に川の中のような気がするが……。鼻歌を歌いながら歩いていたジョスリンを止める。

「ジョスリン、静かに。たぶん、この先に魔物がいる」

 敵のいる場所まで移動、やはり川の中だ。だが、赤い点が表示する川の中には何もいないように見える。

「リツお兄ちゃん、何もいないよ」
「見えないだけで、いるぞ」

 川の中に石を投げ入れると、無数のピラニアに似た魚が水面から飛び出し石の落ちた場所に襲いかかる。やっぱりいたな、クソ恐ろしいな。なんだよこの魚……鑑定をする。


【マンイーターフィッシュ】


 こいつらも人食いかよ! 魚まで獰猛どうもうなのかよ。
 一匹のマンイーターフィッシュが勢い余って川沿いの砂利じゃりに投げ出される。魚を突くと、カチカチカチと歯を噛み合わせる音がする。凶暴な魚だな、おい!
 マンイーターフィッシュは、息ができずにすぐ弱々しくなったのでさっさと首元をナイフで刺す。この魚の血は赤いのだな。魚を持ち上げジョスリンに尋ねる。

「こいつ、知ってるか?」
「知らないよ。初めて見たよ」

 人里にはいないのか。それとも、ジョスリンが知らないだけなのか? 重要なのは、こいつ、食えるのか? ひとまず、アイテムボックスに収納する。
 川に近づきすぎないように気をつけつつ、再び川沿いを歩き始める。遠くから野獣の雄叫おたけびが聞こえ、ジョスリンが驚いて委縮いしゅくしてしまう。索敵には何も表示は出ていない。百メートル以上離れているのだろうが、ピリピリと圧を感じるような雄叫びが続く。

「大丈夫だ。遠い」
「本当? オークなの?」
「オークがいるのか? あれが何かは知らないが近くじゃないが、早く先に進むぞ。抱える」

 ジョスリンを抱き上げ、駆け足で先を急ぐ。


 ジョスリンを抱えたまま小一時間ほど走った。ここまで来れば、先ほどの雄叫びの生物からは距離を取れただろう。安心したら、腹時計が鳴った。昼時だな。さっきの魚は――また後で食うとして、塩胡椒をり込んだ一角兎を焚き火で焼く。

「二日連続、一角兎で悪いな」
「ううん! すごく美味しい」

 ジョスリンが一角兎を頬張りながら笑顔を見せる。平和な食事をしていたはずだったが、赤い点が索敵に現れ始める。八か……数が多く動きが速いな。狼か?

「ジョスリン、敵だ。食事は中断だ。逃げるぞ。こっちに来い」

 ジョスリンを抱え走って逃げたが、敵も素早く二手に分かれ回り込まれる。

「クソッ、逃げきれないな」
「何がいるの?」
「分からないが、数が多い。ジョスリン、隠れてろ。何があっても出てくるなよ」
「う、うん。分かった」

 敵が姿を現す前に、ジョスリンを大きな岩石の陰に隠す。不安そうな顔で俺を見ているが、俺だって不安だ。
 敵を迎え撃つため走り出し、ジョスリンから距離を取る。敵も動いた俺を追う。
 ここまで来れば、ジョスリンからは大分距離を取れたな。
 ついに敵に追いつかれ、森から奴らの姿が現れたので鑑定をする。


【フォレストゴブリンライダー】


 また汚い緑の奴らが、今度は狼に乗って登場か。狼に乗った分、動きは速い。グギャグギャと汚い笑みを浮かべ距離を詰められる。八匹……いや、森のほうにもう一匹いるな。合わせて九匹か。攻撃は旋風で先行させてもらう。

「『旋風』」

 ゴブリンライダーどもが胡椒入りの風に苦しんでいる間にすかさず次の一手を打つ。

「『旋風』『ファイア』」

 火災旋風でゴブリンライダーを燃やす。辺りが燃えるとゴブリンたちが狼を捨て飛び降りる。狼は燃え上がり、ほぼ戦闘不能になったな。MPは残り20だ。ゴブリンにもう一度、火災旋風をお見舞いする。狼に乗っていない単体のゴブリンの動きはさほど速くはないので一発で集まっていたゴブリンどもに火災旋風が命中する。

「グギャアア」

 悲鳴を上げ燃え上がるゴブリンども。無事に八匹とも戦闘不能になる。焼けただれ苦しんでいるゴブリン一匹一匹にトドメを刺す。焼けたゴブリンからはなんともいえない悪臭が漂う。

「くせぇんだよ」

 最後の一匹は、まだ森から姿を現さない。他のゴブリンより点の印が数段大きいのが気になるが、隠れている敵に向かって石を投げる。

「おい! 出てきやがれ!」

 姿を現したのは、他のゴブリンより体格が一際大きな一体だった。俺より背が少し低いくらいか? 鑑定をする。


【ゴブリンリーダー】


 こいつ……リーダーの癖に隠れていたのか? いや、俺を見極めていたのかもしれない。身体には無数の古傷があることから、戦い慣れた個体だと予想する。
 ゴブリンリーダーが剣を背中から取り出し勢いよくこちらへ向かってくる。
 ヤバイ、このゴブリン、他の奴よりも動きが明らかに速い。
 振り下ろされた剣を、拾っていたゴブリンの鉄剣で受ける。金属のぶつかる甲高い音が鳴り、振動が手元から全身へ伝わる。こんなの木剣だったらすぐに折れていたぞ!
 防がれた剣を睨みつけながら、ゴブリンリーダーが吠える。

「ガギャアア」
「何、キレてんだよ」

 ゴブリンリーダーを蹴ると、奴は一歩後ずさり再び剣を俺に振り落とす。剣を受け止め反撃すると、何度となく剣が互いを弾く鉄の音が川沿いに響いた。
 ――されている。一撃一撃が重たい……これ以上の交戦は厳しい。俺は元々、剣の使い方なんて知らない。
 案の定、ゴブリンリーダーにたくみに剣で攻め込まれ腹を蹴られる。蹴られた勢いで地面に転がり、息を吐き出す。

「ゲボォ。痛ってぇな!」

 転がっている俺を見て、ゴブリンリーダーが高笑いをする。
 勝ち誇った顔で見下しやがって……。
 立ち上がろうとすると、ゴブリンリーダーがすぐに距離を詰め、上から剣を突き刺してくる。

「あっぶねぇ!」

 寸前で目の前に迫った剣を避け、ゴブリンリーダーのひざの皿を狙って蹴る。

「グギャアアア」

 痛みで膝を抱え叫ぶゴブリンリーダーに、俺は口角を上げる。

てぇだろ! ザマァみろ! クソが!」

 剣を握り吠えながら襲ってくるゴブリンリーダーは、何度も怒り任せの斬撃を放つ。一撃一撃が今までよりも荒く重い。これが続けば防ぎきれない。油断した一瞬の隙に剣を弾き飛ばされ、首を掴まれる。強く掴まれた首元の手を掻きむしるが、ビクともしない。息ができねぇ。ヤバい。
 ゴブリンリーダーの目を狙い、作っていた塩を全て投げる。目を掻きながら苦しんでいるが、俺の首を掴んだままだ。絞り出すような声で調味料を唱える。

「『塩』『塩』」


(調味料のレベルが上がりました)


 こんな場面でレベルアップかよ! 何が増えた!


【調味料Lv3】 塩
        胡椒
        マヨネーズ


 調味料の出る順番、どうなってんだよ! さしすせその順じゃねぇのかよ……徐々に絞める力が増し始め息ができず、意識を保つのがやっとだ。ゴブリンリーダーの顔が近い。

「息が――クセェん……だよ。これでも食らいやがれ……」

 残りのMPの全てを使い、ゴブリンリーダーの口の中にマヨネーズを流し込む。
 大量のマヨネーズが口の中に流れ込んだ奴の表情は、勝ち誇ったにくたらしい顔から困惑に変わる。ゴブリンリーダーは自分に何が起こったのか理解が追いつかず、必死に息をしようともがく。
 俺の首を絞めていた手が緩くなった隙にゴブリンリーダーを蹴る。砂利じゃりの上に投げ出されると、地面に両膝を突き咳き込みながら息を必死に吸う。

「ゲホッゲボォ……やっと息ができる」

 ゴブリンリーダーを見ると、手足をジタバタと動かしながら仰向あおむけになって白目をいていた。マヨネーズで窒息ちっそく、息ができず瀕死ひんしだ。
 フラつきながらも立ち上がり、飛ばされた剣を拾う。剣に体重を乗せながらゆっくりとゴブリンリーダーの首を突く。暗緑色の血と混じりながら、白いマヨネーズが喉元から溢れ出て、口から泡が立つ。俺、しばらくマヨネーズ食えねぇかも……。


(レベルが1上がりました)
(レベルが1上がりました)
(レベルが1上がりました)


 レベルが一気に三段階上がる。結構強い相手だったもんな。俺もたまたま勝てただけだ。
 首を刺したゴブリンリーダーの死骸を見下ろす。まだ口からはマヨネーズが溢れている。ウゲェ。目を逸らしたいはずなのに、口から垂れるマヨネーズを凝視してしまう。

「リツお兄ちゃん!」

 遠くから走りながら手を振るジョスリンが見える。


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