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1巻
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「は?」
待て。裸眼で見えるだと? 俺は視力が悪く眼鏡が必要だった。これも種族の恩恵なのか? こんなに見えるのはすげぇな。索敵も障害物がある場所だと便利だな。
次のスキルを確認する。
【治療】 傷の治療
これは嬉しいな。どこまでの傷が治せるのだろうか? 怪我しないことが一番だな。
さて、次はこれか。
【調味料Lv1】 塩
「塩」と唱えると片手いっぱいに塩が現れる。容れ物はなしか。本当に調味料のみしか出ないのだな。このままこの塩をアイテムボックスに入れられるのか?
塩をアイテムボックスにそのまま入れると、手のひらから全て消えていた。
【アイテムボックス】 木剣×1、ナイフ×1、パン×10、銀貨×1、銅貨×3、塩
グラム表示とかはなしか? どれほどの量が入るのか分からないのは不便だな。
残りはあと、上位人族の種族スキルか。
【能力向上】 レベルアップ速度二倍
身体能力UP
おお。これは、チートっぽいな。選んでいて良かった上位人族。この身体能力UPがステータスにある+50ってことか。
「スキルはこんなものか」
スキルの確認を終了、次にポイントの割り振りをするか。もちろん、レベルに全て――。
「あれ? なんでだ?」
レベルにポイントを割り振れない。
もしかして、あれは初回ボーナスだったのか? あの時、レベルにポイントを全振りしなかったことが悔やまれる。悔やんでも仕方ない。次だ、次。
「ステータスオープン」
[ヤシロ リツ] 21歳 上位人族
L V: 5
H P: 6(+50)
M P: 3/5
ATK: 5(+50)
DEF: 5(+50)
LUK: 5
ポイント残高: 50
MPが減っている。そよ風と塩の魔法を使ったからか?
風魔法でもう一度そよ風を出してからMPを確認すると2に変わっていた。次に生活魔法で水を出す。MPは先ほどと同じ2のままだ。生活魔法は、MPの消費はナシか。鑑定もMPの減りはない。
ステータスの風魔法と調味料を再度確認、そよ風と塩を押すとMPの消費量が現れた。
【風魔法Lv1】 そよ風/MP1
【調味料Lv1】 塩/MP1
そよ風も塩もMP消費は1か。MPが0になったら、どうなるんだ?
レベルアップで追加した50ポイントを全て振り分ける。
「こんなもんだな」
[ヤシロ リツ] 21歳 上位人族
L V: 5
H P: 30(+50)
M P: 12/15
ATK: 10(+50)
DEF: 10(+50)
LUK: 11
ポイント残高: 0
HPにはポイントを一番多く振り分けた。木剣以外の攻撃手段がない今、死ぬ確率を下げる最善の手段としてHPが高いほうが良いだろう。種族補正を考慮しても、できるだけHPは高くしておきたい。
さて、ステータスでやることは終わった。どこか人のいる場所へ向かうか。
辺りを見渡すが――大自然! 大草原!
道路的な舗装もなさそうだ。人もだが獣が通った跡もない。
「これなら、右も左も同じだな」
よし、木剣の倒れたほうに進もう。
◆ ◆ ◆
木剣の倒れた右方向に三時間ほど進んだが、景色は一向に変わらない。太陽を見る限り、地球と同じ条件なら今は大体昼頃か?
さらに二時間変わらない光景の草原を進むと、やっと森が遠目に見えた。数時間歩き続けたが不思議と疲れは感じない。今さらだがこの身体、以前の俺のじゃないな。薄々気づいていたが、身長や足幅が以前とは全く違う。それに身体が軽い。
顔は『おまかせ』の容姿なんだろうな。後で確認しよう。
それより今は腹が減った。飯にするか。アイテムボックスからバゲットを出し齧る。
「硬ってぇな、おい!」
生活魔法のファイアでバゲットを炙る。改めて、いただきます。
バゲット、味がねぇな。持っている塩を振ると、まぁ食えなくない。大きすぎるので丸一個を食うのは無理だ。残りは後で食うか。
腹も満たしたので森へ向け歩くが、数歩進んだ場所でベチョという音が足元からする。どうやら何か踏んだようだ。
「あ? なんだこれ? 汚いな」
ドロドロとした物が靴に付いている。ヘドロでも踏んだのか? 鑑定をする。
【水属性スライム】
おお! これスライムなのか? ここには魔物がいるのか。スライムは、思ったより……なんだ、原形を保っていない。どう見ても、掃除しなかったプールの底にあるヘドロだ。
ヘドロの中から光る物を発見、鑑定をする。
【水属性スライムの核】
核か。これ、何かに使えるのか? とりあえず拾っていくか。スライムの核をアイテムボックスに入れる。
周囲に索敵をかけると、ポツポツと赤い点が表示されていた。これが敵のマークか。
赤い点が表示された位置を確認すると、先ほどと同じ水属性のスライムがいた。こちらの奴は原形をとどめているがふにゃふにゃとしている。さっきのスライムは踏んで倒したようだが、こいつはこの核の紫のゼリーを狙うのか? ものは試しだな。木剣で一気にスライムの核を刺してみる。核を刺すと、スライムは踏んだ奴と同様にヘドロの状態になり地面にドロドロと溶けた。
調子に乗って、草原の索敵で発見したスライムをどんどん倒す。スライムは、大した攻撃も反撃もしてはこない。
スライム倒しにも飽きた頃、頭の中で機械音のアナウンスが流れた。
(レベルが1上がりました)
(ポイントが10付与されます)
アイテムボックスに入れた核の数を確認する。倒したスライムは合計で二十体だった。レベル表示は画面にはメーターが付いているが、細かい数字までは表示されていない。あの白い部屋にあったタッチパネル同様、不親切なシステムだ。
ステータスをオープンする。
「あれ? MPが回復してる。レベルアップで回復したのか?」
とにかく、ポイントを振り分ける。
[ヤシロ リツ] 21歳 上位人族
L V: 6
H P: 35(+50)
M P: 15
ATK: 15(+50)
DEF: 10(+50)
LUK: 11
ポイント残高: 0
振り分けは、HPとATKを重視する。よし、先に進むか。
すぐに森の入り口に到着したが、森は暗く辛気臭い雰囲気だ。大丈夫か、これ。鑑定をする。
【ラルジェの森】
草原と同じ名前だ。もっと情報が欲しいな。安易に森に入り、強い魔物に遭遇したら困るな。もっとレベル上げをしたいが、周りにはスライムも他の敵もいない。
暗くなるにつれ森の中での移動は危険になるが、森の中に進むのが最善の道だな。
森へ入ると一気に辺りが暗くなった。木漏れ日の光があるだけでも感謝すべきか?
森を進むこと数分でまたしてもスライムが現れる。現れたスライムはところどころ泥が混じり、丸い形を保っている分、草原のスライムよりは頑丈そうだ。スライムを鑑定する。
【土属性スライム】
スライムにも種類別の属性があるのか。木剣を構えスライムの核を刺すとすぐに溶けた。簡単に倒せたな。変に力む必要はなかった。
スライムの核を回収、森を進む。奥に進むにつれ見たことのない様々な植物が生い茂っていた。特に気になった星型の紫色の草を鑑定する。
【マナ草】
ああ。ゲームならMPポーションなんかの薬草になるやつか。これ、このまま食えんのか? ちぎったマナ草を口に入れて後悔する。
「うげぇ。なんだこれ……クソまずい」
一応、自分のステータスを確認したが変化はなし。口を水で濯ぎながら苦いマナ草を吐き出す。このマナ草の使い方はよく分からないが、採取しておくか。
ブチブチとマナ草を抜く。集中していたら、両手いっぱいのマナ草を採取していた。これ、採取しすぎたか? 萎れたら意味ないよな。
そういやアイテムボックスの中の時間経過はどうなっているんだ? 実験のため、燃やした木の枝をそのままアイテムボックスに収納、少し時間を置いて取り出した木の枝は収納時と同じ燃えたままだった。時間停止機能付きか……これは使えるな。
森の中がさらに暗くなり始める。そろそろ夕方の時間帯か。寝所を確保しないとな。
生活魔法のライトを使用すると、自分の周りが明るくなった。これなら暗くなっても大丈夫だな。地面で寝て、何かに襲われでもしたら危ないな。木の上なら襲われずに済むか?
「腹減ったな。まずは飯だな」
安全そうな場所を探し、ファイアで焚き火を起こす。生活魔法、マジで便利だ。
今日は相当な距離を歩いた。どこもかしこも身体がベタベタして気持ち悪い。試しに生活魔法のクリーンを自分にかけ救われる。
「すげぇ」
一瞬で髪や歯に至るまで全身隅々綺麗になった。これ、癖になりそうだ。
昼の残りのバゲットを食べ終えた頃には辺りはすっかり暗くなっていた。近くの大きな木に登り夜空を見上げる。
こんな満天の星、日本ではそうそう見ることはない。だが、ここが異世界だと主張するように、半分に割れ、青紫に輝く星が見えた。
「あれってこの世界の月なのか? 俺、本当に異世界にいるんだな」
明日は、人に会えるのだろうか……転生時に見た種族選択の画面にもいろいろ書いてあったし、何かしらはいるよな?
「痛て」
手や腕に気づかない間に擦り傷が無数にできていた。治療スキルを唱えて治療する。
凄いな。小さい傷はほとんどなくなった。すぐにMPを確認する。へぇ、MPは使わないのか。コモンスキルは全てMPを使わない分、レベルを上げもできないってことか?
……尋ねても答えはない。自分で調べろってか? 不親切だよ。案内人とかいねぇのかよ!
就寝前に風魔法のレベルを上げるため、そよ風を連発する。MPが0になると魔法が使えなくなった。無理に魔法を使用しようとすると吐き気がした。
風魔法のレベルメーターは八割ほどまで上がっている。あと少しで次のレベルだな。
異世界初日、倒したスライムの核二十五個に集めたマナ草は四十五本だ。何に使えるか分からないが、良い成果なのか? 身体は疲れていないが精神的に疲れた。
しばらく空を眺めていたら、いつの間にか意識を手放していた。
◆ ◆ ◆
夜中、獣の唸り声に目を覚ます。
辺りはまだ暗く、何も見えない。唸り声のする木の下をライトで照らしギョッとする。犬? いや、狼か。鑑定をする。
【フォレストウルフ】
フォレストウルフが七匹、木の下から一斉に吠える。地面で寝ていなくて良かった。
狼は、俺のいる木に登ろうと後ろ脚で立ちながら幹を引っ掻き始めた。だが、登れそうにはないな。一安心――って、くそっ。仲間を足場に登ってきやがった。
アイテムボックスから木剣を取り出し、登ってきたフォレストウルフの目を狙い思いっきり刺す。刺した感触が手に伝わり、フォレストウルフは悲痛な声を上げ地面へ落下。のたうち回っている。木から下りて戦っても数的に不利だ。どうする?
「ちっ。また登ってきやがった」
勢いよく飛んだフォレストウルフにガジッと脚を爪で引っ掻かれる。
「痛ってぇ!」
痛いが、我慢できない痛さじゃない。再び登ってきた狼に向け木剣を振る。目を狙ったが外れて喉元に当たる。鈍い音とともにフォレストウルフは地面へ落ちて動かなくなる。どうやら即死したようだ。残り六匹だ。
フォレストウルフどもは警戒して木には登ってこなくなったが……こちらも木から下りないと攻撃ができない状況だ。
フォレストウルフどもが木の周りを行ったり来たりする。諦めていないようで、睨み合いは続く。寝かさずに疲れさせる魂胆か?
ステータスを確認、引っ掻かれた衝撃でHPが5も減っている。こいつらが狂犬病持ちとかだったら最悪だ。急いで脚を治療で治す。傷口はよく見えないが痛みは軽減した。
ともかく、この状況から抜け出す方法を考えないとな。一か八かだが塩を数回そよ風に乗せてみた。そうしてフォレストウルフのいる方向へと流す――。
「キャンキャン」
クク。どうやら無事に塩が目に入ったようだ。フォレストウルフどもが前足で目を擦りながら苦しんでいる。今が木から下りて戦うチャンスか?
(風魔法のレベルが上がりました)
おお! ナイスタイミングだ。どれどれ、ステータスを確認する。
【風魔法Lv2】 そよ風/MP1
旋風/MP5
旋風? ああ、つむじ風か。って、ウインドカッターとかそういう魔法じゃないのか! いや、待て。これはこれで使える。旋風に必要なMPは5か。今あるMPは、先ほどのそよ風の分を引いたら残りは12だ。旋風は二回使用可能だ。
「ガルルルル」
涎を垂らしながらフォレストウルフがこちらを睨み唸る。おうおう。塩が目に入ってキレてやがんな。今なら奴らもちょうど集まっているから攻撃もしやすい。
「『旋風』『ファイア』」
旋風にファイアを加え、フォレストウルフに向け投げつける。旋風は小さいが、渦巻き状に激しい風が吹く。そうして風と火が混ざると火災旋風になり、フォレストウルフたちを包む。
吠える声が徐々に止み、ため息をつく。無事に倒せたようだ。動物を殺した罪悪感で少しだけ心が痛む。
(レベルが1上がりました)
(レベルが1上がりました)
燃える狼の屍を見下ろし、ハッと気づく、ここは森だ! やべぇ。周囲は火炎旋風で燃え盛っているが、風魔法って消せんのか?
消えろと念じたら火災旋風はすぐに消えた。魔法自体は消えたのだが、飛び火でところどころ燃えていた火は消えなかった。持っていた残りの塩と水で消化活動をして鎮火させる。
「なんとか、火も全部消えたな」
フォレストウルフの肉や毛の焼けた悪臭が鼻につく。六匹は焼け爛れ絶命していた。
こいつらにもスライムと同様の核があるのだろうか? 気持ち悪いが、フォレストウルフを木剣で抉るとコンと硬い物が剣先に当たった。核だな。鑑定をする。
【フォレストウルフの核】
フォレストウルフの焼死体から六個の核を回収する。
「もう一匹はどこだ?」
いたいた。喉仏を殴って落ちた個体は火の攻撃を受けなかったようだ。
念のため、木剣でツンツンと突き生死の確認をする。ライトで照らすと、喉が完全に潰れており間違いなく死んでいた。焼死体は、核以外は使い物にはならないだろうが、燃えてない狼なら売れる可能性がある。
狼をそのままアイテムボックスに入れる。
【アイテムボックス】 木剣×1、パン×9、銀貨×1、銅貨×3、ナイフ×1、水属性スライムの核×20、土属性スライムの核×5、フォレストウルフの核×6、フォレストウルフの死骸×1、マナ草×45
フォレストウルフの死骸も余裕で入ったな。アイテムボックスは容量が大きいのかもしれない。荷物を持たなくて済むのはありがたい。
正直、もう一眠りしたいがここは焼けた獣の臭いと煙で眠るのは厳しい。現在時刻は分からないが、木の間から空を見上げると薄らと明るくなり始めている。予想するに夜明け近くだろう。先に進むか。その前に、レベルアップしたんだよな。
ああ、やはりMPが全回復してるな。減っていたはずのHPもだ。
ステータスにポイント20を振り分ける。
[ヤシロ リツ] 21歳 上位人族
L V: 8
H P: 40(+50)
M P: 20
ATK: 20(+50)
DEF: 15(+50)
LUK: 11
こんな感じか。旋風のおかげで助かったが、MPよりも他のレベルアップが先だ。念のために塩も生成する。フォレストウルフに引っ掻かれた怪我は、赤くなっているが治療でほぼ治っているな。治療スキルも選んでいて良かった。
その後、森をさらに進むと早朝だからか、昨日は見かけなかった植物が多く生えているのに気づいた。早速鑑定する。
【回復草】【毒消し草】【媚薬草】
どれも、そのまんまの名前だな。媚薬草って……なんだよ、これ。
大根のような媚薬草の葉を引き抜く。出てきたのは、ごつい男の顔のような青白い根っこだった。これ、絶対顔だよな。よく見ると瞑っているが目が付いてる。
見ているとパチッと目を開けた。げっ。これ、魔物なのか?
媚薬草と目が合うが……特に何もしてくる様子はない。無害なのだが……ワサワサクネクネと動いてこちらを上目遣いで見た後にウインクをされた。
「気持ち悪……」
捨てていくか迷ったが、結局媚薬草はアイテムボックスに入れた。
歩き始めるとすぐに何かを踏んでしまう。お? 次はなんだ? 鑑定をする。
【マジックマッシュルーム】
……違法薬物か? 見た目は、まんま椎茸だ。踏んだのに崩れてもいない。よく分からないが、これも採取するか。
マジックマッシュルームを採取中に茂みからカサッと音がする。魔物か? 音のした方向を振り向くと、一本角の兎が出てきた。鑑定をする。
【一角兎】
可愛いが、牙が凄いな。
一角兎を観察していたら次々と別の一角兎が現れ、いつの間にか周りを十匹の一角兎に囲まれてしまう。最後に茂みから出てきたのは、一際大きな兎だ。角は鹿のように立派な物が生え、他の一角兎と明らかに体格が違う。鑑定をする。
【ジャッカロープ】
ジャッカロープが奇声を上げると、逃げる暇もなく一角兎どもが一斉に襲いかかってきた。フォレストウルフは焼いてしまったが、これは食料として使えそうなので火は使用しない。
「『旋風』『塩』」
旋風に塩を入れて一角兎に投げつける。塩が目に入ってキュイキュイと可愛い声を出してもがく一角兎を次々と木剣で仕留める。仲間を殺されて怒り狂ったジャッカロープが突進してくる。避けたが、小回りの利く奴はすぐに後ろから再度突進してくる。
「痛てぇ」
ギリギリ避けたが、脚を少し角で掠られたか? HPも1減っている。脚に治療をかける。治療したらHPは元に戻ったが、あの角が脚に刺さるようなことがあれば治療で治せるか分からないな。
「ギャオギャオ」
奇声を上げ、再びジャッカロープが突進してくる。今度は避けると同時に上から首を狙い、力いっぱいに木剣で叩く。
ジャッカロープは倒れそのままの勢いで転がりながら木にぶつかって動かなくなった。
死んだのか? 木剣でツンツンしに行く。口から舌が出て首も変な曲がり方をしているので、死んでいるな。一角兎とジャッカロープを回収、アイテムボックスに入れる。
それからしばらく山道を進むと、途中で熊か何か大きい動物に引っ掻かれた木を多数発見する。なんの動物か魔物かは知らないが、木剣では倒せそうもない。
極力、引っ掻き傷のある木を避け道を進むと、遠くから水の流れる音がした。この音は川だな。音のする方角へ走る。見えてきたのは、やはり川だ。川があるのなら、その先に人もいるはずだ。
魔物を警戒しながら川の側へ到着する。川の水は透明で綺麗だ。魚が泳いでいるのも見える。水面に映った自分の顔を確認する。これは、悪くないんじゃないか? 髪は茶色、目は栗色に少し赤みを帯びている。全体的には以前の自分の面影があるが……確実に勇ましくなったな、俺。面影がある分、違和感はそこまでない。
おまかせで良かった。自分で決めて、センスのない顔になるのは避けられた。身長も少し伸び、体格も以前より良くなってる。それに、なんといってもこの身体は疲れない。
腹から大きな音が鳴る。今は、ちょうど昼ぐらいだろう。
「飯にするか」
狩った一角兎をアイテムボックスから出しクリーン後、皮を剥ぎ内臓を処分して川に晒す。
この世界に投げ出されてからはバゲットしか食していなかったので肉が楽しみだ。一角兎は食用で間違いないよな? 肉は普通に食べられるように見える。治療もあるし大丈夫だろう。
ファイアで焚き火を起こす。ナイフで捌いた一角兎に塩を付けて焼く。肉がジュウジュウと焼ける音と食欲をそそる匂いが辺りに充満する。焼けた一角兎からは肉汁が滴る。いい感じだ。大きな口を開け、ガブリと肉に噛みつく。
「美味い!」
一日振りのまともな食事だ。咀嚼するたび、一角兎の旨みを感じる。兎肉に慌てながら次から次へと噛みつく。
塩がなくなったので新たに生成する。
(調味料のレベルが上がりました)
レベルアップか。確かに調味料スキルのレベルメーターは上がっていた。何が増えたんだ?
【調味料Lv2】 塩
胡椒
胡椒か! ちょうど良いな。早速、胡椒を生成する。胡椒も使うMPは1か。
「って、おいっ! 出てくるの、ホールの胡椒かよ!」
使えるように潰しておくか。岩の上で石を使い、胡椒の実を潰す。潰した胡椒を兎肉にまぶして一口頬張る。ああ、これは高級な味だ。この胡椒、最高品かよ。
待て。裸眼で見えるだと? 俺は視力が悪く眼鏡が必要だった。これも種族の恩恵なのか? こんなに見えるのはすげぇな。索敵も障害物がある場所だと便利だな。
次のスキルを確認する。
【治療】 傷の治療
これは嬉しいな。どこまでの傷が治せるのだろうか? 怪我しないことが一番だな。
さて、次はこれか。
【調味料Lv1】 塩
「塩」と唱えると片手いっぱいに塩が現れる。容れ物はなしか。本当に調味料のみしか出ないのだな。このままこの塩をアイテムボックスに入れられるのか?
塩をアイテムボックスにそのまま入れると、手のひらから全て消えていた。
【アイテムボックス】 木剣×1、ナイフ×1、パン×10、銀貨×1、銅貨×3、塩
グラム表示とかはなしか? どれほどの量が入るのか分からないのは不便だな。
残りはあと、上位人族の種族スキルか。
【能力向上】 レベルアップ速度二倍
身体能力UP
おお。これは、チートっぽいな。選んでいて良かった上位人族。この身体能力UPがステータスにある+50ってことか。
「スキルはこんなものか」
スキルの確認を終了、次にポイントの割り振りをするか。もちろん、レベルに全て――。
「あれ? なんでだ?」
レベルにポイントを割り振れない。
もしかして、あれは初回ボーナスだったのか? あの時、レベルにポイントを全振りしなかったことが悔やまれる。悔やんでも仕方ない。次だ、次。
「ステータスオープン」
[ヤシロ リツ] 21歳 上位人族
L V: 5
H P: 6(+50)
M P: 3/5
ATK: 5(+50)
DEF: 5(+50)
LUK: 5
ポイント残高: 50
MPが減っている。そよ風と塩の魔法を使ったからか?
風魔法でもう一度そよ風を出してからMPを確認すると2に変わっていた。次に生活魔法で水を出す。MPは先ほどと同じ2のままだ。生活魔法は、MPの消費はナシか。鑑定もMPの減りはない。
ステータスの風魔法と調味料を再度確認、そよ風と塩を押すとMPの消費量が現れた。
【風魔法Lv1】 そよ風/MP1
【調味料Lv1】 塩/MP1
そよ風も塩もMP消費は1か。MPが0になったら、どうなるんだ?
レベルアップで追加した50ポイントを全て振り分ける。
「こんなもんだな」
[ヤシロ リツ] 21歳 上位人族
L V: 5
H P: 30(+50)
M P: 12/15
ATK: 10(+50)
DEF: 10(+50)
LUK: 11
ポイント残高: 0
HPにはポイントを一番多く振り分けた。木剣以外の攻撃手段がない今、死ぬ確率を下げる最善の手段としてHPが高いほうが良いだろう。種族補正を考慮しても、できるだけHPは高くしておきたい。
さて、ステータスでやることは終わった。どこか人のいる場所へ向かうか。
辺りを見渡すが――大自然! 大草原!
道路的な舗装もなさそうだ。人もだが獣が通った跡もない。
「これなら、右も左も同じだな」
よし、木剣の倒れたほうに進もう。
◆ ◆ ◆
木剣の倒れた右方向に三時間ほど進んだが、景色は一向に変わらない。太陽を見る限り、地球と同じ条件なら今は大体昼頃か?
さらに二時間変わらない光景の草原を進むと、やっと森が遠目に見えた。数時間歩き続けたが不思議と疲れは感じない。今さらだがこの身体、以前の俺のじゃないな。薄々気づいていたが、身長や足幅が以前とは全く違う。それに身体が軽い。
顔は『おまかせ』の容姿なんだろうな。後で確認しよう。
それより今は腹が減った。飯にするか。アイテムボックスからバゲットを出し齧る。
「硬ってぇな、おい!」
生活魔法のファイアでバゲットを炙る。改めて、いただきます。
バゲット、味がねぇな。持っている塩を振ると、まぁ食えなくない。大きすぎるので丸一個を食うのは無理だ。残りは後で食うか。
腹も満たしたので森へ向け歩くが、数歩進んだ場所でベチョという音が足元からする。どうやら何か踏んだようだ。
「あ? なんだこれ? 汚いな」
ドロドロとした物が靴に付いている。ヘドロでも踏んだのか? 鑑定をする。
【水属性スライム】
おお! これスライムなのか? ここには魔物がいるのか。スライムは、思ったより……なんだ、原形を保っていない。どう見ても、掃除しなかったプールの底にあるヘドロだ。
ヘドロの中から光る物を発見、鑑定をする。
【水属性スライムの核】
核か。これ、何かに使えるのか? とりあえず拾っていくか。スライムの核をアイテムボックスに入れる。
周囲に索敵をかけると、ポツポツと赤い点が表示されていた。これが敵のマークか。
赤い点が表示された位置を確認すると、先ほどと同じ水属性のスライムがいた。こちらの奴は原形をとどめているがふにゃふにゃとしている。さっきのスライムは踏んで倒したようだが、こいつはこの核の紫のゼリーを狙うのか? ものは試しだな。木剣で一気にスライムの核を刺してみる。核を刺すと、スライムは踏んだ奴と同様にヘドロの状態になり地面にドロドロと溶けた。
調子に乗って、草原の索敵で発見したスライムをどんどん倒す。スライムは、大した攻撃も反撃もしてはこない。
スライム倒しにも飽きた頃、頭の中で機械音のアナウンスが流れた。
(レベルが1上がりました)
(ポイントが10付与されます)
アイテムボックスに入れた核の数を確認する。倒したスライムは合計で二十体だった。レベル表示は画面にはメーターが付いているが、細かい数字までは表示されていない。あの白い部屋にあったタッチパネル同様、不親切なシステムだ。
ステータスをオープンする。
「あれ? MPが回復してる。レベルアップで回復したのか?」
とにかく、ポイントを振り分ける。
[ヤシロ リツ] 21歳 上位人族
L V: 6
H P: 35(+50)
M P: 15
ATK: 15(+50)
DEF: 10(+50)
LUK: 11
ポイント残高: 0
振り分けは、HPとATKを重視する。よし、先に進むか。
すぐに森の入り口に到着したが、森は暗く辛気臭い雰囲気だ。大丈夫か、これ。鑑定をする。
【ラルジェの森】
草原と同じ名前だ。もっと情報が欲しいな。安易に森に入り、強い魔物に遭遇したら困るな。もっとレベル上げをしたいが、周りにはスライムも他の敵もいない。
暗くなるにつれ森の中での移動は危険になるが、森の中に進むのが最善の道だな。
森へ入ると一気に辺りが暗くなった。木漏れ日の光があるだけでも感謝すべきか?
森を進むこと数分でまたしてもスライムが現れる。現れたスライムはところどころ泥が混じり、丸い形を保っている分、草原のスライムよりは頑丈そうだ。スライムを鑑定する。
【土属性スライム】
スライムにも種類別の属性があるのか。木剣を構えスライムの核を刺すとすぐに溶けた。簡単に倒せたな。変に力む必要はなかった。
スライムの核を回収、森を進む。奥に進むにつれ見たことのない様々な植物が生い茂っていた。特に気になった星型の紫色の草を鑑定する。
【マナ草】
ああ。ゲームならMPポーションなんかの薬草になるやつか。これ、このまま食えんのか? ちぎったマナ草を口に入れて後悔する。
「うげぇ。なんだこれ……クソまずい」
一応、自分のステータスを確認したが変化はなし。口を水で濯ぎながら苦いマナ草を吐き出す。このマナ草の使い方はよく分からないが、採取しておくか。
ブチブチとマナ草を抜く。集中していたら、両手いっぱいのマナ草を採取していた。これ、採取しすぎたか? 萎れたら意味ないよな。
そういやアイテムボックスの中の時間経過はどうなっているんだ? 実験のため、燃やした木の枝をそのままアイテムボックスに収納、少し時間を置いて取り出した木の枝は収納時と同じ燃えたままだった。時間停止機能付きか……これは使えるな。
森の中がさらに暗くなり始める。そろそろ夕方の時間帯か。寝所を確保しないとな。
生活魔法のライトを使用すると、自分の周りが明るくなった。これなら暗くなっても大丈夫だな。地面で寝て、何かに襲われでもしたら危ないな。木の上なら襲われずに済むか?
「腹減ったな。まずは飯だな」
安全そうな場所を探し、ファイアで焚き火を起こす。生活魔法、マジで便利だ。
今日は相当な距離を歩いた。どこもかしこも身体がベタベタして気持ち悪い。試しに生活魔法のクリーンを自分にかけ救われる。
「すげぇ」
一瞬で髪や歯に至るまで全身隅々綺麗になった。これ、癖になりそうだ。
昼の残りのバゲットを食べ終えた頃には辺りはすっかり暗くなっていた。近くの大きな木に登り夜空を見上げる。
こんな満天の星、日本ではそうそう見ることはない。だが、ここが異世界だと主張するように、半分に割れ、青紫に輝く星が見えた。
「あれってこの世界の月なのか? 俺、本当に異世界にいるんだな」
明日は、人に会えるのだろうか……転生時に見た種族選択の画面にもいろいろ書いてあったし、何かしらはいるよな?
「痛て」
手や腕に気づかない間に擦り傷が無数にできていた。治療スキルを唱えて治療する。
凄いな。小さい傷はほとんどなくなった。すぐにMPを確認する。へぇ、MPは使わないのか。コモンスキルは全てMPを使わない分、レベルを上げもできないってことか?
……尋ねても答えはない。自分で調べろってか? 不親切だよ。案内人とかいねぇのかよ!
就寝前に風魔法のレベルを上げるため、そよ風を連発する。MPが0になると魔法が使えなくなった。無理に魔法を使用しようとすると吐き気がした。
風魔法のレベルメーターは八割ほどまで上がっている。あと少しで次のレベルだな。
異世界初日、倒したスライムの核二十五個に集めたマナ草は四十五本だ。何に使えるか分からないが、良い成果なのか? 身体は疲れていないが精神的に疲れた。
しばらく空を眺めていたら、いつの間にか意識を手放していた。
◆ ◆ ◆
夜中、獣の唸り声に目を覚ます。
辺りはまだ暗く、何も見えない。唸り声のする木の下をライトで照らしギョッとする。犬? いや、狼か。鑑定をする。
【フォレストウルフ】
フォレストウルフが七匹、木の下から一斉に吠える。地面で寝ていなくて良かった。
狼は、俺のいる木に登ろうと後ろ脚で立ちながら幹を引っ掻き始めた。だが、登れそうにはないな。一安心――って、くそっ。仲間を足場に登ってきやがった。
アイテムボックスから木剣を取り出し、登ってきたフォレストウルフの目を狙い思いっきり刺す。刺した感触が手に伝わり、フォレストウルフは悲痛な声を上げ地面へ落下。のたうち回っている。木から下りて戦っても数的に不利だ。どうする?
「ちっ。また登ってきやがった」
勢いよく飛んだフォレストウルフにガジッと脚を爪で引っ掻かれる。
「痛ってぇ!」
痛いが、我慢できない痛さじゃない。再び登ってきた狼に向け木剣を振る。目を狙ったが外れて喉元に当たる。鈍い音とともにフォレストウルフは地面へ落ちて動かなくなる。どうやら即死したようだ。残り六匹だ。
フォレストウルフどもは警戒して木には登ってこなくなったが……こちらも木から下りないと攻撃ができない状況だ。
フォレストウルフどもが木の周りを行ったり来たりする。諦めていないようで、睨み合いは続く。寝かさずに疲れさせる魂胆か?
ステータスを確認、引っ掻かれた衝撃でHPが5も減っている。こいつらが狂犬病持ちとかだったら最悪だ。急いで脚を治療で治す。傷口はよく見えないが痛みは軽減した。
ともかく、この状況から抜け出す方法を考えないとな。一か八かだが塩を数回そよ風に乗せてみた。そうしてフォレストウルフのいる方向へと流す――。
「キャンキャン」
クク。どうやら無事に塩が目に入ったようだ。フォレストウルフどもが前足で目を擦りながら苦しんでいる。今が木から下りて戦うチャンスか?
(風魔法のレベルが上がりました)
おお! ナイスタイミングだ。どれどれ、ステータスを確認する。
【風魔法Lv2】 そよ風/MP1
旋風/MP5
旋風? ああ、つむじ風か。って、ウインドカッターとかそういう魔法じゃないのか! いや、待て。これはこれで使える。旋風に必要なMPは5か。今あるMPは、先ほどのそよ風の分を引いたら残りは12だ。旋風は二回使用可能だ。
「ガルルルル」
涎を垂らしながらフォレストウルフがこちらを睨み唸る。おうおう。塩が目に入ってキレてやがんな。今なら奴らもちょうど集まっているから攻撃もしやすい。
「『旋風』『ファイア』」
旋風にファイアを加え、フォレストウルフに向け投げつける。旋風は小さいが、渦巻き状に激しい風が吹く。そうして風と火が混ざると火災旋風になり、フォレストウルフたちを包む。
吠える声が徐々に止み、ため息をつく。無事に倒せたようだ。動物を殺した罪悪感で少しだけ心が痛む。
(レベルが1上がりました)
(レベルが1上がりました)
燃える狼の屍を見下ろし、ハッと気づく、ここは森だ! やべぇ。周囲は火炎旋風で燃え盛っているが、風魔法って消せんのか?
消えろと念じたら火災旋風はすぐに消えた。魔法自体は消えたのだが、飛び火でところどころ燃えていた火は消えなかった。持っていた残りの塩と水で消化活動をして鎮火させる。
「なんとか、火も全部消えたな」
フォレストウルフの肉や毛の焼けた悪臭が鼻につく。六匹は焼け爛れ絶命していた。
こいつらにもスライムと同様の核があるのだろうか? 気持ち悪いが、フォレストウルフを木剣で抉るとコンと硬い物が剣先に当たった。核だな。鑑定をする。
【フォレストウルフの核】
フォレストウルフの焼死体から六個の核を回収する。
「もう一匹はどこだ?」
いたいた。喉仏を殴って落ちた個体は火の攻撃を受けなかったようだ。
念のため、木剣でツンツンと突き生死の確認をする。ライトで照らすと、喉が完全に潰れており間違いなく死んでいた。焼死体は、核以外は使い物にはならないだろうが、燃えてない狼なら売れる可能性がある。
狼をそのままアイテムボックスに入れる。
【アイテムボックス】 木剣×1、パン×9、銀貨×1、銅貨×3、ナイフ×1、水属性スライムの核×20、土属性スライムの核×5、フォレストウルフの核×6、フォレストウルフの死骸×1、マナ草×45
フォレストウルフの死骸も余裕で入ったな。アイテムボックスは容量が大きいのかもしれない。荷物を持たなくて済むのはありがたい。
正直、もう一眠りしたいがここは焼けた獣の臭いと煙で眠るのは厳しい。現在時刻は分からないが、木の間から空を見上げると薄らと明るくなり始めている。予想するに夜明け近くだろう。先に進むか。その前に、レベルアップしたんだよな。
ああ、やはりMPが全回復してるな。減っていたはずのHPもだ。
ステータスにポイント20を振り分ける。
[ヤシロ リツ] 21歳 上位人族
L V: 8
H P: 40(+50)
M P: 20
ATK: 20(+50)
DEF: 15(+50)
LUK: 11
こんな感じか。旋風のおかげで助かったが、MPよりも他のレベルアップが先だ。念のために塩も生成する。フォレストウルフに引っ掻かれた怪我は、赤くなっているが治療でほぼ治っているな。治療スキルも選んでいて良かった。
その後、森をさらに進むと早朝だからか、昨日は見かけなかった植物が多く生えているのに気づいた。早速鑑定する。
【回復草】【毒消し草】【媚薬草】
どれも、そのまんまの名前だな。媚薬草って……なんだよ、これ。
大根のような媚薬草の葉を引き抜く。出てきたのは、ごつい男の顔のような青白い根っこだった。これ、絶対顔だよな。よく見ると瞑っているが目が付いてる。
見ているとパチッと目を開けた。げっ。これ、魔物なのか?
媚薬草と目が合うが……特に何もしてくる様子はない。無害なのだが……ワサワサクネクネと動いてこちらを上目遣いで見た後にウインクをされた。
「気持ち悪……」
捨てていくか迷ったが、結局媚薬草はアイテムボックスに入れた。
歩き始めるとすぐに何かを踏んでしまう。お? 次はなんだ? 鑑定をする。
【マジックマッシュルーム】
……違法薬物か? 見た目は、まんま椎茸だ。踏んだのに崩れてもいない。よく分からないが、これも採取するか。
マジックマッシュルームを採取中に茂みからカサッと音がする。魔物か? 音のした方向を振り向くと、一本角の兎が出てきた。鑑定をする。
【一角兎】
可愛いが、牙が凄いな。
一角兎を観察していたら次々と別の一角兎が現れ、いつの間にか周りを十匹の一角兎に囲まれてしまう。最後に茂みから出てきたのは、一際大きな兎だ。角は鹿のように立派な物が生え、他の一角兎と明らかに体格が違う。鑑定をする。
【ジャッカロープ】
ジャッカロープが奇声を上げると、逃げる暇もなく一角兎どもが一斉に襲いかかってきた。フォレストウルフは焼いてしまったが、これは食料として使えそうなので火は使用しない。
「『旋風』『塩』」
旋風に塩を入れて一角兎に投げつける。塩が目に入ってキュイキュイと可愛い声を出してもがく一角兎を次々と木剣で仕留める。仲間を殺されて怒り狂ったジャッカロープが突進してくる。避けたが、小回りの利く奴はすぐに後ろから再度突進してくる。
「痛てぇ」
ギリギリ避けたが、脚を少し角で掠られたか? HPも1減っている。脚に治療をかける。治療したらHPは元に戻ったが、あの角が脚に刺さるようなことがあれば治療で治せるか分からないな。
「ギャオギャオ」
奇声を上げ、再びジャッカロープが突進してくる。今度は避けると同時に上から首を狙い、力いっぱいに木剣で叩く。
ジャッカロープは倒れそのままの勢いで転がりながら木にぶつかって動かなくなった。
死んだのか? 木剣でツンツンしに行く。口から舌が出て首も変な曲がり方をしているので、死んでいるな。一角兎とジャッカロープを回収、アイテムボックスに入れる。
それからしばらく山道を進むと、途中で熊か何か大きい動物に引っ掻かれた木を多数発見する。なんの動物か魔物かは知らないが、木剣では倒せそうもない。
極力、引っ掻き傷のある木を避け道を進むと、遠くから水の流れる音がした。この音は川だな。音のする方角へ走る。見えてきたのは、やはり川だ。川があるのなら、その先に人もいるはずだ。
魔物を警戒しながら川の側へ到着する。川の水は透明で綺麗だ。魚が泳いでいるのも見える。水面に映った自分の顔を確認する。これは、悪くないんじゃないか? 髪は茶色、目は栗色に少し赤みを帯びている。全体的には以前の自分の面影があるが……確実に勇ましくなったな、俺。面影がある分、違和感はそこまでない。
おまかせで良かった。自分で決めて、センスのない顔になるのは避けられた。身長も少し伸び、体格も以前より良くなってる。それに、なんといってもこの身体は疲れない。
腹から大きな音が鳴る。今は、ちょうど昼ぐらいだろう。
「飯にするか」
狩った一角兎をアイテムボックスから出しクリーン後、皮を剥ぎ内臓を処分して川に晒す。
この世界に投げ出されてからはバゲットしか食していなかったので肉が楽しみだ。一角兎は食用で間違いないよな? 肉は普通に食べられるように見える。治療もあるし大丈夫だろう。
ファイアで焚き火を起こす。ナイフで捌いた一角兎に塩を付けて焼く。肉がジュウジュウと焼ける音と食欲をそそる匂いが辺りに充満する。焼けた一角兎からは肉汁が滴る。いい感じだ。大きな口を開け、ガブリと肉に噛みつく。
「美味い!」
一日振りのまともな食事だ。咀嚼するたび、一角兎の旨みを感じる。兎肉に慌てながら次から次へと噛みつく。
塩がなくなったので新たに生成する。
(調味料のレベルが上がりました)
レベルアップか。確かに調味料スキルのレベルメーターは上がっていた。何が増えたんだ?
【調味料Lv2】 塩
胡椒
胡椒か! ちょうど良いな。早速、胡椒を生成する。胡椒も使うMPは1か。
「って、おいっ! 出てくるの、ホールの胡椒かよ!」
使えるように潰しておくか。岩の上で石を使い、胡椒の実を潰す。潰した胡椒を兎肉にまぶして一口頬張る。ああ、これは高級な味だ。この胡椒、最高品かよ。
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