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1巻

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 0 プロローグ


『個体名八代律やしろりつの選択が決定しました。これで入力を終了します。良い転生をご堪能たんのうください』


 女性の声で流れる機械音声にあせりながら叫ぶ。

「待ってくれ! 俺はこんなの押してない! おい!」

 目の前にあるATMのようなタッチパネルの機械を揺らすが、無反応だ。これはさすがにひどくないか?
 徐々に身体が薄くなっていき、視界は段々と白くなり、意識が遠くなる。
 勘弁かんべんしてくれ。こんな訳の分からないスキルでこれからどうやって生きるんだよ。

 ◆ ◆ ◆

 謎の転生をする少し前、放置していた虫歯の治療で歯医者を訪れていた。
 数日の激務が続いていたので、この歯医者の待合室で流れるクラシック音楽は非常に眠気を誘う。

「八代さーん。八代さーん?」

 八代……! 俺だ! くっ付きそうになっていた目を開け、眼鏡めがねをかけ直し、受付の支払い口へ向かう。

「八代さん、今日もお疲れですね」

 受付の二十代なかばの女の子が笑顔で言う。今日はピンク色のマスクか。マスクってすごいよな。それだけで、誰でも凄く美人に見えてしまう。この子は元々可愛いのだろうが、マスク効果で余計に美人に見える。

「はは、まぁ……はは」
「こちらが、今回の治療費になります。ご確認お願いします」
「ああ、はは、ありがとう」

 俺、気持ち悪い笑いは今すぐにやめろ。受付の子も苦笑いしているだろ。自分にそう言い聞かせ、差し出された請求書を真顔で確かめる。
 グ、分かってたけど、高いな。
 仕事が忙しく、虫歯を治療する時間がなかったおかげで余計な出費だ。
 料理はする気分じゃないな。今日はコンビニにでも寄ってくか。トレーに載った釣りを財布に仕舞しまいながら欠伸あくびをすると、受付の子に念を押される。

「八代さん、三十分は食べ物をひかえてくださいね」
「あ、はい」


 歯医者を出て、コンビニで弁当と酒を買い物カゴに入れる。

「お! ここのコンビニ、駄菓子だがしも売ってるのか」

 思わず声を出してしまい、他の客にジロジロと見られる。他の客と視線を合わせないように駄菓子を手に取る。懐かしいな。いくつか買っていくか。適当に駄菓子を選び、レジへ向かう。

「イラッシャイマセ。オベント温メマスカー」
「あー、はい」

 支払いを済ませ、温めた弁当を受け取るとコンビニを出た。
 明日は、土曜日だ。やっと一週間が終わった。


「クソ疲れたな」

 家に帰っても洗濯物の山にベッドのシーツは――いつ洗った? 面倒だが、溜まったゴミ出しくらいなら今日中にできるか。閉まりそうなマンションのエレベーターに滑り込み、ため息をつくと急に声をかけられた。

「こんばんは」

 人が乗っていたのか……エレベーターに乗っていたのは、何度か見たことのある同じ階に住む女子大生だった。

「ど、どうも」

 女の子との密室は緊張する。なんだよ、この甘い匂いは……。
 女子大生が静かに尋ねる。

「あの……何階ですか?」
「あ、十階で、お願いします」

 女子大生を見ると視線をらされた。凝視ぎょうしはやめよう。変質者扱いをされたくない。
 エレベーターが二、三階と上がっていく。四階を通る窓の狭間はざまから、小さな子供が下を向きながら扉の前で待っているのが目に映る。五階にも六階にも同じ子供がいる。
 ――なんだ?
 七階にも立つ同じ子供……不気味すぎるだろ。一緒に乗った女子大生は、特に反応しない。もしかして俺、疲れているのか?
 八階、エレベーターが通り過ぎる寸前に子供と目が合う。こちらを見上げてニヤリと笑う口角の上がり方に背筋せすじがゾクリとした。女子大生に声をかけようとすると、大きな音とともに一気に浮遊感がする。

「キャー、助けてー」

 女子大生の叫び声に我に返り手すりをつかむ。
 これ、エレベーターが落下しているのか? 金属がこすれる嫌な音は緊急ブレーキか? 身体の自由がかず、手すりから手が離れ、急いで何かに掴まる。
 エレベーターが急停止する。助かったのか?

「あの、離してください」
「おっ。すみません!」

 咄嗟とっさに女子大生に抱きついていた。ジェットコースターとか苦手なんだよ。
 女子大生の感触が残る手を眺める。女の子ってこんなに柔らかかったか? 久しぶりすぎて分からないが、こう、フワッとしてたなぁ。
 不安そうに女子大生が尋ねてくる。

「私たち、助かったのですか?」
「緊急ブレーキが作動して、止まったみたいだが……とにかく助けを呼びましょう」

 備えられた非常ボタンを押すが、何も反応がない。困ったな。スマホは圏外か。

「外と連絡がつかない。俺のスマホは圏外だ。そっちは?」
「私も圏外です」
「困ったな」

 ため息をつく。こんな事態、どうすればいいか分からないのだが。ここは何階だ? 表示は六階になっているが……エレベーターの窓からは何も見えない。

「あの、何か聞こえませんか?」
「ん?」
「ほら、女の子の声? 何か歌ってるような」

 女子大生にそう言われ、耳をます。確かに女の子の鼻歌が聞こえるな。この曲は、さっき歯医者で流れていたクラシック曲か?

「おーい! 誰かいるのか? 聞こえるか?」

 鼻歌がむと今度は、女の子の甲高かんだかい笑い声が聞こえた。
 不気味なその笑い声に女子大生と目を見合わせる。笑い声は徐々に近くなり、真上から嘲笑あざわらうかのように子供たちの声が無数に聞こえた。

「誰だ!」
「あと三秒でバイバイだよ」
「は? 何を言ってやがる」
「さーん、にー、いーち……」

 急に始まった子供たちのカウントダウンが終わった途端とたん、エレベーターが再度急降下、今度は停止することなく落下した。
 大きな地響きとともに全身を強く打ち、息ができない。

「かはっ」

 口から血を吐いたのか? 全身が痛くて動けない。

「はぁはぁ、ク……ソ」

 息をするのもつらい。女子大生は無事だろうか? 真っ暗で何も見えない。指を動かす力もない。
 俺は、ここで死ぬのか……。
 嫌だ。大した人生を送ってきたわけではないが、まだ死にたくない。もう少し、俺もちゃんとしていたら、今頃は結婚して子供もいたのだろうか?
 走馬灯そうまとうのように自分の人生が脳裏をめぐる。
 人との付き合いも適当で友達と呼べる人もいない。彼女ができても、いつも面倒になり自然消滅した。最後に親と会話したのがいつだったのかも覚えていない。親孝行もせずに……最低な息子だな、俺は。
 身体の痛みはもう感じない。
 これが『死』なのか……?
 ここで死ぬのか……これで終わりなのか……。
 ゆっくりとまぶたを閉じ、遠ざかる意識の中で願った。
 ……次の人生があるなら、平凡な人生ではなく、せめて最期には人生を満喫したと思える、人生を送りたい、と。

 ◆ ◆ ◆

『入力をお願いします』
『入力をお願いします』
『入力をお願いします』


 機械的な女性の声が繰り返し流れるのが聞こえる。
 何度もうるせぇな。声がしたほうに寝返りをして目を開けると石造りの床の上だった。

「は? なんだ、ここ」

 起き上がり辺りを見回すが、何もない真っ白な部屋にいた。


『入力をお願いします』


 何もないは嘘だ。壁に埋め込まれたタッチパネルがある。

「なんだ、これ」

 エレベーターが落下して、それから俺は死んだと思ったが……これは、もしかして夢なのか? 連勤で疲れてたからなぁ。帰って、寝落ちしたのか?


『入力をお願いします』


 それにしては、あのエレベーターで打ちつけた全身の激痛は到底夢とは思えない感覚だった。あれは確かに現実だった。ならこれは夢ではないのか?
 自分の身体を確認すると、白いシャツとズボンと……腕はやや透けている。

「おいおい、なんで腕が透けてるんだよ」

 腕を触ると感覚はあるが、透けているのが気持ち悪いな。
 辺りを再度確認する。部屋には見渡す限りタッチパネル以外は何もない。

「まずは、どうにかここから出たいな」

 謎の部屋から出ようとするが、どの方向へ歩こうがタッチパネルの前に戻ってくる。


『入力をお願いします』


 なんだよ、これ。
 タッチパネルの前に立つ。銀行のATMに似ている。白だっただろう枠組部分が黄色く変色しているので随分ずいぶん古いな。

『名前をご入力ください』
「お?」

 さっきと反応が違う。誰かが監視してるのか? 画面の右上にヘルプボタンがあるので、まずはヘルプだな。

『お困りでしょうか? 質問をご入力ください』

 あーと。そうだな……まず、ここがどこなのかだな。

【ここはなん】

 おいおい。五文字しか打てないのか?

『申し訳ございません。【ここはなん】の回答が見つかりませんでした』

 気を取り直して再度入力する。

【ここどこ?】
『ここは転生の間です』

 転生の間? やはり俺は死んだってことか? これ、漢字変換可能なのか。それなら……。

【俺死んだ?】
『はい。十月十日午後八時二分死亡が確認されました』

 そう、だよな。あの痛みはさすがに夢ではないよな。転生の間ってことは、また一から地球で人生を始めるか? それともラノベのように異世界に転生してウハウハコースか?

【どこ転生?】
『転生惑星は選択可能です』

 場所の選択ってことは地球以外もあるのだな。

【記憶残る?】
『記憶の有無は選択可能です』

 記憶残すかは一択だな。

【神様いる?】
『エラー』

 なんだよ、エラーかよ!
 だが、これは明らかになんらかの神的な力は働いているよな? それはそうと確認をしなければならないことがある。

【女大丈夫?】
『転生時の性別は選択可能です』

 違う違う。俺は、あの女子大生が大丈夫なのかを聞きたいんだよ。

【女は無事?】
『転生時の性別は選択可能です』
【女どこだ?】
『転生の選択肢の後、性別から選択可能です』

 くそっ。俺のことか入力内容の回答しかできないのか?
 しかもこのタッチパネル、反応がクッソ遅い。文字もタッチした場所とは違う反応なんで超絶に打ちにくい。最悪だな。こいつからはもう少し情報が欲しい。

【お前誰だ?】
『転生の間、入力パネル一号。製造番号いちです』
【ここ出たい】
『入力をお願いします』

 タッチパネルはそう言うと、初めの画面に勝手に切り替わった。

「おいおいおい。何を勝手に初めの画面に戻ってやがる。あれ? ヘルプボタンが消えてやがる。マジかよ……」
『入力をお願いします』

 ぐはっ。最悪だ。仕方ない……入力しない限り、この部屋からは出られそうにない。不本意だが【入力を開始する】を押す。

『記憶を残す』『記憶を抹消まっしょうする』

 もちろん、記憶は残す。

『名前を入力してください』
【八代 律】
『性別を選択してください』
【男】
『転生先を選択してください』

 転生先の選択肢……実質一カ所しかないのだが。このラーディラって場所以外が文字化けして押せねぇ。迷っていたら【ラーディラ】と勝手に決められ次の選択肢に進んだ。
 ラーディラってどこだよ!

『種族を選択してください』

 種族? ずらっと並んだ種族の選択肢がパネルに表示される。

『人族』『上位人族』『魔族』『エルフ』『ドワーフ』『獣人族』『精霊族』

 種族の選択肢が多いな。これ、転生先はファンタジー的な異世界決定だな。
 人族系以外の選択肢を開くとさらに細かく種族が分類されていたが、どれも選ぶことはできなかった。後に進化可能ということか? それなら進化をすでにしている上位人族にしよう。

【上位人族】
『年齢を入力してください』
【21】

 年齢は自分の年の31と入力しようとしたが、タッチパネルの不具合で21になる。タッチパネルは削除も取消しも不可能で次に勝手に進んだ。これは別に問題ないな。若返る分には文句はない。

『容姿を選択してください』
【おまかせ】

 これもタッチパネルのバグで変更不可だ。平均的な容姿をお願いしたい。

『それでは、ステータスを振り分けてください。振り分けポイント残り31』

 これはもう完全にゲームの世界だな。最近は忙しくてゲームとかしてなかったからなぁ。ヘルプボタンもないから、とりあえず均等に振り分ける。


 L V: 5
 H P: 6
 M P: 5
 ATK: 5
 DEF: 5
 LUK: 5


 まぁ、こんなものか。MPは魔力だよな? 魔法が使える世界かよ。楽しくなりそうだな。


(レベルが1上がりました)
(レベルが1上がりました)
(レベルが1上がりました)
(レベルが1上がりました)
(レベルが1上がりました)
(ポイントが50付与されました)


 うわっ。なんだ、この頭に響くタッチパネルの声と似た機械音は。レベルが上がるごとに10ポイント入るということか。それだったら31ポイントすべてをレベルに注ぎ込めばよかったな。もちろん、元には戻せない。失敗したな……。
 この追加の50ポイントの振り方も分からない。このシステム、不親切すぎないか?

「おい! 少しくらいはチュートリアル的な説明はないのか?」

 タッチパネルの画面は切り替わり、俺の質問なんぞ無視してさっさと次へ進む。

『コモンスキル3、レアスキル2、ユニークスキル1を選択してください』

 どうやら、後ろに書いてある数のスキルを選ぶことができるようだ。
 コモンスキルの表示を押すと長いスキルのリストが表示された。

「選べるスキルのリストが三百個もあるのか? これは、選ぶのに時間がかかりそうだな」

 それぞれのスキルを押すと、簡単な説明が添えられている。剣術や棒術は理解できるのだが……よく分からないスキルが多いな。例えばこんな感じだ。


【虫取り】 虫を取りかごに入れる
【ベッド召喚】 ベッドを召喚する
【W.C.】 どこでも用が足せる


 なんのためのスキルだ? トイレはありがたいが……スキルで選ばなくともその辺でできるだろ?
 タッチパネル同様にスキルも適当なものが多いのだろう。悩んだ末に決めたコモンスキルは【治療】【生活魔法】【索敵さくてき】だ。
 小さな怪我けがでも死ぬ可能性がある。怪我を治すスキルは必須だ。生活魔法は便利だからという理由で選んだ。索敵は、他のコモンスキルが謎すぎて選ぶものがなかった。一番くだらないと思ったスキルはこれ――。


【拍手】 大きな拍手ができる


 なんだよ、それ。大きな拍手は、スキルなんかなくともできるだろ。一体どこで使うんだよ。それとも使いようがあるのか? あったとしても説明不足なのでこれは選ばない。
 レアスキルは、選択肢が減り五十個のスキルの中から選ぶ。選んだのは、【鑑定】【風魔法】だ。火、水、土魔法も捨てがたかったが……『どちらにしようかな』で決めた。
 スキルの選択肢の中にアイテムボックスがないのが非常に残念だ。一番に必要なスキルだと思うのだがな。
 ユニークスキルの選択肢は五つだ。


聖者せいじゃころも】 聖者の衣をまとう。衣を纏っている間は、全ての攻撃を防御
千里眼せんりがん】 全てを見抜く眼
【魔物召喚(全)】 全ての魔物を召喚しょうかん
【神の剣】 神の剣を持てる剣聖けんせい。剣術レベル五倍アップ
【調味料】 調味料


 最後の調味料ってなんだ? 説明も調味料のみの記載だ。
 他のスキルは結構チートっぽいな。魔物召喚はまるで魔王だな……待て、まさか魔王がいる世界なのか? 乱世を生き抜くとかいう苦行くぎょうは普通に嫌なのだが。
 取得したスキルには攻撃系が足りていない。剣聖になれたら、カッコイイし戦乱の世でも生き残れそうだ。よし! 剣聖で第二の人生をチートに楽しく生きよう。
 迷わず【神の剣】を押すが選択された文字に目を見開く。


【調味料】


 ん? 待て待て。タッチパネルの不具合で何故なぜか神の剣ではなく、隣にあった調味料が選択される。クソッ。前の画面に戻ることも調味料を取り消すこともできない。


『個体名八代律の選択が決定しました。これで入力を終了します。良い転生をご堪能ください』


「おい! 嘘だろ?」

 タッチパネルを激しく叩くが、徐々に目の前が真っ白になる。

「待ってくれ! 俺はこんなの押してない! おい!」

 意識が徐々に遠のいていく。
 勘弁してくれ、こんな訳の分からないスキルでこれからどうやって生きるんだよ。



 1 チュートリアルは?


 真っ白だった視界に色が付き始める。目の前に広がるのは見渡す限りの草原だ。

「いきなり大自然だな、おい。ここ、どこだよ」


 【ラルジェの草原】


「びっくりした! なんだ、これは?」

 急に目の前に現れた小さなスクリーンに触れることはできない。ラルジェの草原? ラーディラはどこへ行った?
 まずは確認だ。ゲームならステータスか? ステータスと唱えたが何も起こらない。

「ステータスオープン」

 出た! ヴォンという音とともに目の前に現れた俺のステータスだ。どれどれ。


[ヤシロ リツ] 21歳 上位人族
 L V: 5
 H P: 6(+50)
 M P: 5
 ATK: 5(+50)
 DEF: 5(+50)
 LUK: 5
 ポイント残高: 50
 スキル: 【治療】【生活魔法】【索敵】【鑑定Lv1】【風魔法Lv1】
      【調味料Lv1】
 上位人族スキル: 【言語】【アイテムボックス】【能力向上】


 おお! 上位人族スキルが凄いな。言語とか考えてもなかったが、確かに言葉が通じないと詰むな。アイテムボックスも助かる。スキル選びの時に選択肢になかったから疑問に思っていたんだよな。HPとかに付いてるプラス50は、種族の力の補正か。名前は結局カタカナになるのかよ! 漢字で入力させる意味あったのか?
 それに――。

「くっ。調味料……」

 ほんとに調味料を出すだけのスキルだったら、頑張って他のスキルを伸ばすしかないな。身を守れる戦闘用のスキルが一つ、風魔法しかないのは痛い。
 それにしても魔法か。ワクワクするな。早速、風魔法を使ってみるか。現在使用可能の魔法を確認するためにそっとパネルに触れる。ステータスパネルは触れることが可能のようなので、風魔法を押してみる。


【風魔法Lv1】 そよ風


 そよ風……嫌な予感しかしない。唱えれば魔法は使えるのか? 分からないが、そよ風を唱えてみる。

「『そよ風』」

 身体が少し熱くなり、前に出した手のひらから風魔法のそよ風が出て優しい風が吹く。

「って、おい! 即死コースじゃあねぇか!」

 これ、俺、絶対また死ぬな――と、十分ほど草原を眺めながら黄昏たそがれる。
 そよ風……絶望的だ。だが、絶望していても何も始まらない。今は、自分の持っているスキルでどうにかするしかない。
 スキルを一つずつ確認する。


【言語】 全ての言語


 これは便利だな。ここがどんな世界かも分からないが、国も言語も様々だろう可能性が高い。国か……テンプレだと中世レベルの時代とかか?
 次のスキルを確認する。


【生活魔法】 ウォーター
       クリーン
       ライト
       ファイア


 生活魔法、便利だな。選んでいて正解だった。試しにウォーターを唱え、水を出してみる。

「おおお。本当に水が出た」

 そよ風よりも実感のできる手のひらに現れた水を一口飲む。ちゃんと飲料水だ。


【鑑定Lv1】 対象の名前


 レベルアップすると他に何が見えるんだ? そもそも、どうやってレベルアップするんだ? 鑑定をしまくるのか?


【アイテムボックス】 木剣ぼっけん×1、ナイフ×1、パン×10、銀貨×1、銅貨×3


 すでに中に物が入ってんのか。ラッキーだな。アイテムボックスの容量はどれほどなんだ? 同じ種類の物は今のところは十個まで入りそうだな。
 アイテムボックスの中身はどうやって出すんだ? チュートリアルもないのか……。
「アイテムボックス」と唱えると、丸い宇宙空間が目の前に現れた。ここに手を? と、一瞬躊躇ちゅうちょしたが、宇宙空間の中に手を入れる。

「変な感覚だな」

 宇宙空間の中はひんやりとした感触で、吸い込まれる感覚がなんとも言えない。
 取りたい物を思い浮かべながら宇宙空間から木剣を取り出す。凄いな。これ、俺の思っていることが分かんのか。一体どうなってるんだ?
 取り出した木剣は普通だな。そうだ、鑑定してみるか。


【木剣】 木で作られた剣


 思った通り、ただの木剣か。
 パンと硬貨、それからナイフを次々とアイテムボックスから取り出す。パンはやや硬くバゲットだ。一個の大きさが両手で持たないといけないほどデカいな。
 ナイフも普通のナイフだ。銅貨は模様があるがこすれていてよく見えない。銀貨は十字架に王冠の模様がある。しかし、この雑な鍛造たんぞうの仕方……ここの時代設定は、異世界のテンプレ通り中世レベルの可能性が高いな。
 次のスキルを確認する。


【索敵】 周囲100メートルの索敵


 索敵を唱えると脳裏に周辺の地図が浮かんだ。特に何も表示されていないので、敵はいないのだろう。地図はありがたいが、草原だと百メートル先は裸眼らがんでも余裕で見える。


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