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五話「弟はヤンデレに育ってました!」
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それから月日は流れ、俺は二十七歳に、妹は二十四歳に、弟は十八歳になった。
やり直し前に俺に求婚してきた隣国の皇帝が舞踏会でエリザベーテに一目惚れし、その場で求婚。妹は遠い国へと嫁いで行った。
やり直し前の人生で継母の言っていた通りになった。妹が火傷を負わなかったら、皇帝に求婚されていたのは妹だったようだ。
よかったねエリザベーテ、幸せに暮らすんだよ。お兄様はエリザベーテの幸せを願っているからね。
それからすぐに両親が相次いで事故でなくなり、十八歳の弟が家督を継いだ。
順番的にいえば家督を継ぐのは長男の俺なのだが、俺は顔と足に負った火傷を理由に当主に認められなかった。
それはかまわない。当主になれば火傷を理由に家に引きこもりしていられない。領地の視察やら、社交界やらに行かなくてはいけない。
正直、人前にあまり出たくない。
「心配しないでください、お兄様のこともこの家の事も僕が全て管理しますから」
天才の弟は領主の仕事をテキパキとこなしいく。これなら公爵家と領地の事を任せても大丈夫だろう。
とはいえ十八歳という若さで当主を努めるのは、不安や不満もあるたろう。その時は俺が弟の精神的な支えになろうと思う。
ん、今お兄様を管理するって言わなかったか? 聞き間違いだろうか?
「最大・回復」
弟が俺の顔に向け手をかざす。
金色の光が俺の体を包み込む。
弟が俺の顔に巻かれていた包帯を外す。
「どうですかお兄様?」
弟に手鏡を渡され、中をのぞき込む。
傷ひとつない俺の顔が映っていた。
前世よりいくらか歳を重ねてはいるが、前世の俺と同じ顔をしている。
「フィンリーこれは?」
「実はね、ずっと前からお兄様の火傷は治せたんですよ」
「えっ?」
そうだったの? 回復魔法の天才だとは思ってだけどまさか火傷の跡を綺麗さっぱりなくせるほどの魔法を使えるとは思わなかった。
前世では妹の火傷を治すために、国中の魔法使いと医者が呼ばれた。誰一人妹の火傷を治す事はできなかった。
そんな魔法を十八歳で使いこなしてる!?
俺の弟まじで天才! 神ってる!
「じゃあ足の火傷も治せるのか?」
「もちろんです」
弟が濃紺の目を細め、にこりと笑う。
まじか! すごいな!
当主の座には興味がないから、体が動くようになったら弟の仕事を手伝ってあげたい。
「なら治してくれ!」
「嫌です」
「えっ……?」
いま嫌だって聞こえたけど気のせいかな?
「当主の座を俺に奪われるんじゃないかと心配しているのか? 確かに長男の俺ではなく次男のお前が家督を継いだのは、俺が火傷を負っているからだ。でも心配するな、俺は家を継ぐ気はない、火傷が治ってもお前の地位を奪ったりしない!」
フィンリーが十八歳で家督を継いだのは、俺が顔と足に火傷を負ったからだ。
本来なら長男であり成人している俺が当主になるはずだった。だが俺は当主になる気はない。
「それとも周りの目が気になるのか? 長男の俺が健康なら、俺が当主になるべきだと言うもやつが出てくるから?」
フィンリーの仕事ぶりを見れば誰もそんな事は言わないだろうが、この国では長男が家を継ぐべきという価値観が根強く残っている。
無能でもアホでも、健康なら長男が家を継ぐべきという派閥があるのだ。そういう輩にやいののやいの言われるのを恐れているのだろうか?
「俺の存在が邪魔なら言ってくれ、家を出ていくから」
フィンリーの邪魔になるくらいなら俺は、この家を出ていく。
俺の言葉を聞いたフィンリーの顔が険しくなる。
「この家を……出ていく?」
「フィンリー?」
「お兄様は火傷が治ったら、この家を出ていくお考えなのですね!」
フィンリーが俺の肩に手をおく。フィンリーの手がふるふると震えている。
フィンリーの顔をのぞき込むと、鋭い目で射抜かれた。
なぜだか分からないが、俺はフィンリーを怒らせてしまったらしい。
「絶対にお兄様の足の火傷は治しません! やっとやっと……お兄様と二人きりになれたのに……!」
んんん? フィンリーは何を言っているのんだ?
「フィンリー……?」
フィンリーが俺の顔に手をあて、俺の顔を撫でる。
「アルフィンお兄様のこの美しい顔に火傷を負わせたのは、エリザベーテお姉様だそうですね」
肌を撫でる手つきはやさしく、声も穏やかだ。なのにフィンリーからピリピリと怒りのような波動がつわってきて、背筋がぞくりとした。
「ですがよくよく話を聞けば、お姉様はお兄様を庇おうとなさっていたとのこと。そのお姉様をお兄様が庇って火傷をした。なのでお姉様の事は許してあげました」
フィンリーがにこりと笑う。その笑顔は氷のように冷たい。
「お姉様は無能な両親と違い賢く、僕の言うことを何でも聞いてくださる従順な方でしたから」
フィンリーの言い方が引っかかる。
幼少期、俺の元に毎日通っていた妹がある日を境にパタリと来なくなった。
廊下ですれ違ってもよそよそしくあいさつを交わすだけになった。まるで何かにおびえているように。
継母に俺と話すなとでも言われたのかと思っていたが、まさか……。
「エリザベーテが俺の元に来なくなったのは……?」
「僕が言ったからですよ、命が惜しいならお兄様の元に近付くなと」
フィンリーがニコリと笑う。血が通っていない冷たい笑顔だった。
妹よ、他国に嫁いで以来手紙の一通もよこさないのを冷たいと思っていたが、弟に脅されていたんだね。
俺の事は忘れて幸せに暮らしてください。くれぐれも里帰りしようとか思わないように。
◇◇◇◇◇
やり直し前に俺に求婚してきた隣国の皇帝が舞踏会でエリザベーテに一目惚れし、その場で求婚。妹は遠い国へと嫁いで行った。
やり直し前の人生で継母の言っていた通りになった。妹が火傷を負わなかったら、皇帝に求婚されていたのは妹だったようだ。
よかったねエリザベーテ、幸せに暮らすんだよ。お兄様はエリザベーテの幸せを願っているからね。
それからすぐに両親が相次いで事故でなくなり、十八歳の弟が家督を継いだ。
順番的にいえば家督を継ぐのは長男の俺なのだが、俺は顔と足に負った火傷を理由に当主に認められなかった。
それはかまわない。当主になれば火傷を理由に家に引きこもりしていられない。領地の視察やら、社交界やらに行かなくてはいけない。
正直、人前にあまり出たくない。
「心配しないでください、お兄様のこともこの家の事も僕が全て管理しますから」
天才の弟は領主の仕事をテキパキとこなしいく。これなら公爵家と領地の事を任せても大丈夫だろう。
とはいえ十八歳という若さで当主を努めるのは、不安や不満もあるたろう。その時は俺が弟の精神的な支えになろうと思う。
ん、今お兄様を管理するって言わなかったか? 聞き間違いだろうか?
「最大・回復」
弟が俺の顔に向け手をかざす。
金色の光が俺の体を包み込む。
弟が俺の顔に巻かれていた包帯を外す。
「どうですかお兄様?」
弟に手鏡を渡され、中をのぞき込む。
傷ひとつない俺の顔が映っていた。
前世よりいくらか歳を重ねてはいるが、前世の俺と同じ顔をしている。
「フィンリーこれは?」
「実はね、ずっと前からお兄様の火傷は治せたんですよ」
「えっ?」
そうだったの? 回復魔法の天才だとは思ってだけどまさか火傷の跡を綺麗さっぱりなくせるほどの魔法を使えるとは思わなかった。
前世では妹の火傷を治すために、国中の魔法使いと医者が呼ばれた。誰一人妹の火傷を治す事はできなかった。
そんな魔法を十八歳で使いこなしてる!?
俺の弟まじで天才! 神ってる!
「じゃあ足の火傷も治せるのか?」
「もちろんです」
弟が濃紺の目を細め、にこりと笑う。
まじか! すごいな!
当主の座には興味がないから、体が動くようになったら弟の仕事を手伝ってあげたい。
「なら治してくれ!」
「嫌です」
「えっ……?」
いま嫌だって聞こえたけど気のせいかな?
「当主の座を俺に奪われるんじゃないかと心配しているのか? 確かに長男の俺ではなく次男のお前が家督を継いだのは、俺が火傷を負っているからだ。でも心配するな、俺は家を継ぐ気はない、火傷が治ってもお前の地位を奪ったりしない!」
フィンリーが十八歳で家督を継いだのは、俺が顔と足に火傷を負ったからだ。
本来なら長男であり成人している俺が当主になるはずだった。だが俺は当主になる気はない。
「それとも周りの目が気になるのか? 長男の俺が健康なら、俺が当主になるべきだと言うもやつが出てくるから?」
フィンリーの仕事ぶりを見れば誰もそんな事は言わないだろうが、この国では長男が家を継ぐべきという価値観が根強く残っている。
無能でもアホでも、健康なら長男が家を継ぐべきという派閥があるのだ。そういう輩にやいののやいの言われるのを恐れているのだろうか?
「俺の存在が邪魔なら言ってくれ、家を出ていくから」
フィンリーの邪魔になるくらいなら俺は、この家を出ていく。
俺の言葉を聞いたフィンリーの顔が険しくなる。
「この家を……出ていく?」
「フィンリー?」
「お兄様は火傷が治ったら、この家を出ていくお考えなのですね!」
フィンリーが俺の肩に手をおく。フィンリーの手がふるふると震えている。
フィンリーの顔をのぞき込むと、鋭い目で射抜かれた。
なぜだか分からないが、俺はフィンリーを怒らせてしまったらしい。
「絶対にお兄様の足の火傷は治しません! やっとやっと……お兄様と二人きりになれたのに……!」
んんん? フィンリーは何を言っているのんだ?
「フィンリー……?」
フィンリーが俺の顔に手をあて、俺の顔を撫でる。
「アルフィンお兄様のこの美しい顔に火傷を負わせたのは、エリザベーテお姉様だそうですね」
肌を撫でる手つきはやさしく、声も穏やかだ。なのにフィンリーからピリピリと怒りのような波動がつわってきて、背筋がぞくりとした。
「ですがよくよく話を聞けば、お姉様はお兄様を庇おうとなさっていたとのこと。そのお姉様をお兄様が庇って火傷をした。なのでお姉様の事は許してあげました」
フィンリーがにこりと笑う。その笑顔は氷のように冷たい。
「お姉様は無能な両親と違い賢く、僕の言うことを何でも聞いてくださる従順な方でしたから」
フィンリーの言い方が引っかかる。
幼少期、俺の元に毎日通っていた妹がある日を境にパタリと来なくなった。
廊下ですれ違ってもよそよそしくあいさつを交わすだけになった。まるで何かにおびえているように。
継母に俺と話すなとでも言われたのかと思っていたが、まさか……。
「エリザベーテが俺の元に来なくなったのは……?」
「僕が言ったからですよ、命が惜しいならお兄様の元に近付くなと」
フィンリーがニコリと笑う。血が通っていない冷たい笑顔だった。
妹よ、他国に嫁いで以来手紙の一通もよこさないのを冷たいと思っていたが、弟に脅されていたんだね。
俺の事は忘れて幸せに暮らしてください。くれぐれも里帰りしようとか思わないように。
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