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二話「紫の髪の神様」
しおりを挟む目を開けるとそこは真っ白な世界だった。
長い髪の子供が目に入る。
紫の髪にアメジストの瞳、人形のように整った顔立ち。
子供はニコリと笑い、「神」だと名乗った。
「神」と称する子供は、俺に人生をやり直す機会をくれると言う。
やり直せるなら、俺をかばい全身に火傷を負った妹を救いたい。
エリザベーテはあんなに酷い火傷を負ったのに、一度も俺を責めたことがないやさしい子だった。
あんないい子が人生のほとんどを包帯でぐるぐる巻きにされ、ベッドの上で過ごすなんてあんまりだ。
火傷さえしなければ、妹は美しく育ったはず。母親譲りの銀色の髪、父親と同じ青い瞳、目鼻立ちの整った美人になれたはず。
イケメンに求婚され結婚をし、幸せに暮らす未来があったかも。
もしも人生をやり直せるなら、妹を助けたい。
火傷を負わなかったら、皇帝に見初められ求婚されたのは妹だったかもしれない。
「妹を助けたいです。妹に火傷を負わせたくない、妹に幸せなってほしい」
「それが君の願い?」
「はい」
俺は神様を真っすぐに見据えた。
「いいよ、じゃあ君の妹が火傷をしたあの日に君を飛ばしてあげる」
「ありがとうございます」
俺は神と名乗る子供に頭を下げた。
「お礼はいらないよ、それが君にとって最善の選択とは限らないからね」
「えっ?」
神様の言葉が妙にひっかかる。
「いってらっしゃい、後悔のない人生を」
神様の手が光り、目がくらむ。
俺はそこで意識を手放した。
◇◇◇◇◇
次に目覚めた時、俺は見覚えのある部屋にいた。
壁にかけられた鍋やフライパン、重ねられた皿、たくさんのフォークとスプーン。
妹とかくれんぼをしていた台所。
かまどには大鍋がかけてあり、ぐつぐつと音を立てている。
ぐらりと地面が揺れ、皿やグラスが床に落ち派手な音を立てる。
地震……と気がついたときには妹がこちらに走ってきていた。
「お兄様危ない!」
エリザベーテが俺に向かって突進してくる。
かまどにかけられていた大鍋の留め具が外れ大鍋が傾く。
やり直すってよりによってここから?
このままでは妹が俺をかばい大火傷をしてしまう。
「エリザベーテ!」
俺は走ってくるエリザベーテを、鍋とは逆方向に突き飛ばした。
大鍋の中身が俺の体にかかる。
「ぐぁぁああっっ!」
体が焼けるように熱い。
「いやぁぁ! お兄様ぁぁっ!」
妹が悲鳴を上げる。
エリザベーテは無事だったのだろうか?
だけど体が痛くて、確かめる余裕がない。
◇◇◇◇◇
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