【BL】【完結】神様が人生をやり直しさせてくれるというので妹を庇って火傷を負ったら、やり直し前は存在しなかったヤンデレな弟に幽閉された

六話「ヤンデレな弟に幽閉され」

俺の知らないうちに、弟はヤンデレに育っていた。

「フィンリー心配するな、お兄ちゃんは出ていかない、ずっと家にいるから」　

「ずっと僕の側に……本当ですかお兄様！」　

弟が俺の肩を掴み、顔を近づける。

銀色の髪にサファイアのような瞳、あどけなさを残す美少年の顔が間近に迫り、ドキリとした。

俺の心臓が跳ねたのは、多分フィンリーの目が怖いせいだ。

「ずっと家にいる」とは言ったが、「ずっと弟の側にいる」とは言ってない。まあ似たようなものか？　どちらかが死ぬまで同じ家で暮らすんだから。

「ああいつまでもフィンリーの側にいる、だから足の火傷やけどを治してくれ」

歩けないと何かと不自由だ。

「お兄様、僕と結婚して幾久いくひさしく二人で幸せに暮らしましょう！」

「はい？」

なんでそうなる？

「いま『はい』と言いましたね！」

フィンリーが口角を上げる。

「いや、今のは……」

承諾の意味での「はい」じゃねぇーよ！

「ああ嬉しいです！　お兄様が永久に僕のものになる日が来るなんて！　最大マクシムム・回復ベッセルング！」

弟が呪文を唱えると、足の痛みが消え、動かせるようになった。

国中の医師と魔法使いがさじを投げたのに！　やっぱ俺の弟天才！　

……と喜んでいる場合ではない。

「お兄様、性行為をしましょう！」

ニコニコと笑う弟にお姫様抱っこされて、ベッドに運ばれた。

まだ十八歳なのに、俺より背も低いのに（多分）どこにそんな力があるんだ？

ベッドに組み敷かれたと思ったら、あっという間に全裸にされた。

弟、素早すぎる！

どこで服の脱がし方なんて覚えたんだ？

「美しいです、お兄様！　お兄様には傷一つないお体がお似合いです！」

弟の息が荒い、兄の裸を見て欲情するな！

「こんな美しいお兄様を、クソゴミな両親はヘルベルト男爵の妾に差し出す気でいました！　許せない！」

フィンリーの綺麗な顔が怒りで歪む。

ヘルベルト男爵のうわさは聞いたことがある、美しいものは男でも女でも買って、大人の玩具おもちゃで調教するのが好きな変態だと。

俺はヘルベルト男爵の愛人にされるところだったのか？

やり直し前よりグレードが落ちてるな。やり直し前は、後妻とはいえ正妻で相手は子爵だった。

顔と足に火傷があるとはいえ、男爵家の愛人として売られるとはね。

「えっと、フィンリーが両親を説得してくれたのかな？　ありがとう」

フィンリーがまばゆいほど美麗な笑みを浮かべる。

「殺しました」

「…………えっ？」

頭が一瞬フリーズした。

「今なんて……？」

「僕がどんなに説得しても聞く耳を持たないゴミどもだったので、処分しました」

父と継母をフィンリーが殺した？

それを処分したって言ったのか？

「仕方なかったのですよ、そうしないとお兄様を守れないから」

「だって、俺にとっては義理の母親でもお前にとっては実の……」

「ええ実の母親です、それがなんですか？　僕の愛しいお兄様を傷つける存在は全部敵です」

そう言ってフィンリーが笑う。それは雪のように冷たくも美々しい笑顔で、目からブリザードが出ていた。

上級魔法使いは目から吹雪が出せるらしい。知らなかった。

「フィンリー、お前……」

起き上がろうとするが、腕を押さえつけられた。

弟の細い腕のどこにこんな力が？

魔法で強化しているのか？

「逃げようとしないでくださいね、お兄様。逃げようとするお兄様を手助けする人間がいたら、そいつらも消さなくてはなりませんから」

火傷のため長年引きこもりしていた俺が逃げようとしたら、誰かの手助けが必要だ。

でも、俺が誰かに助けを求めたらその人が弟に殺される。

俺は腕の力を抜いた。

「そうですお兄様、力を抜いて、おとなしくしていてください。僕がやさしく抱いてあげますから」

ニコニコと笑う弟の顔は天使だった。中身は悪魔がしっぽを巻いて逃げ出すほど冷酷なのに……。


◇◇◇◇◇