【BL】【完結】転生したらシンデレラ♂でした、舞踏会なんか行きたくないので家出することにします・ドＳ王子に初めてを奪われちゃう～～！

二章・30話「さよならエステン国、さよならフィリップ王子、アップルパイの半分はやさしさと嘘で出来ている 4」シンデレラ視点

目覚めたとき、オレは船の上だった。

どうして船の上だと分かったかというと、部屋が揺れていて、潮の香りがして、窓から外を見たら海だったからだ。

ベッドから身を起こす、拘束（こうそく）はされてないらしい。服もちゃんと身につけている。

フィリップ王子からもらった、アクセサリーもそのままだ。

身ぐるみを剥（は）がされて、売られる途中ではないようだ。

「お目覚めになりましたか？」

黒髪の紳士が部屋に入ってきた。

年齢は四十代、いやもう少し上だろうか？

落ち着いた雰囲気をかもし出す、イケメンさんだ。

黒髪の紳士は、ティーポットとカップが乗ったシルバーのトレイを手にしていた。

「えっと、カールさん……でしたよね？　ここはどこですか？　あれからオレは……？」

「どうぞ『カール』と呼び捨てになさってください」

カールさんが穏やかにほほ笑み、トレイをテーブルの上においた。なれた手つきでカップに紅茶を注ぐ。

「そのお話は、お茶のあとにいたしましょう」

たしかに、喉がからからだ。

「どうぞ」

カールさんに差し出されたティーカップを、両手で受けとる。

「ありがとうございます」

カールさんにお礼を言い、紅茶に口をつけようとして一瞬ためらう。

いつの間にか、王子に毒味してもらうのがクセになっていた。

あの王子様は猫舌だから、紅茶はいつもぬるかった。

「フィリップ王子……」

涙が頬を伝い、膝をぬらした。

バカなやつ、最後までかっこつけやがって……！

うつむいたとき頬に触れた横髪は短く。あいつに切られたのは、夢じゃなかったんだと痛感した。

いじわるで、いやみで、かっこつけで、わがままなやつだった。

最後まで身勝手なやつ。勝手にオレを巻き込んで、勝手にいなくなるなんて……！

だけどやさしいところや、憎めないところもあって……。

多分オレはあいつのことが…………好き、だった。