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二章・24話「塔でのスローライフ、毒殺と王子様と間接キスと 11」シンデレラ視点
しおりを挟む―塔での生活、三日目、朝―
昨日あんな話をしたのであまり眠れなかった。
フィリップ王子が来たらどんな顔をしよう? なんて話かけよう? 起きてからずっとそわそわしていた。
なのに部屋に入ってきたあいつに、昨夜のシリアスな雰囲気はまるでなく……。
陽気な顔で、たくさんの宝石とドレスを持ってきた。
「なんだよその、宝石とドレスは?」
オレの問いに、フィリップ王子がニコリと笑う。
「君の処女を奪った償いだよ、慰謝料(いしゃりょう)払えと言ったのは君だろ?」
中心のサファイアを取り囲むように、ダイヤがちりばめられたシルバーのネックレスを取りだし、なれた手つきでオレの首にかける。
ハートにカットされたアメジストが中央に配置され、その横に二つのダイヤがついた指輪。ティアラの形にデザインされた指輪に、アメジストとダイヤのついた指輪。
それらの指輪をオレの指にはめ、フィリップ王子が不敵に笑う。
左手の薬指に指輪をはめなかったので、婚約指輪ではないらしい。
ちょっとがっかりした。
いやがっかりなんかしていない! あいつがオレの左手の薬指に指輪なんかつけたら、ぐーで殴ってやる。
結局金で解決か。昨日のことでちょっとは王子に同情してたのに……同情して損した。
だからと言って、慰謝料を突っ返すほど、オレはマヌケじゃない。
「慰謝料として遠慮なくいただいといておく。指輪はメリケンサックの変わりになるしな。王子を殴る時に攻撃力が上がる」
指輪をはめた右手を、左手にバシッと打ち付け。オレはニヤリと笑う。
王子が顔を青ざめさせ、苦笑いを浮かべる。
「メリケンサックが何か知らないが、おてやわらかに頼むよ」
そうは言っても、フィリップ王子は護身術(ごしんじゅつ)の心得があるだろうし。素人のオレの攻撃など余裕でかわせるだろう。
「それと君の要望通り、動きやすいドレスを用意したのだが……一人で着られるかな?」
オレはフィリップ王子から距離をとり、手で胸をおさえる。
「一人で着られる! おまえが居なくなったら着替えるから、オレに触わるな!」
オレの行動を見て、王子がくすくす笑う。
「これは失礼、侍女を使わそうかと思っていたのだが、君には必要なかったようだね。それとも、ボクに着替えを手伝ってもらいたかったのかな?」
フィリップ王子がいじわるく言う。
「するか!」
やっぱりこいつ性格が悪い!
昨夜のピュアな笑顔にキュンとした気持ちを返せ!
フィリップ王子になんか、二度と同情しない!
☆☆☆☆☆
フィリップ王子が持ってきたドレスの中で、一番地味な色のドレスを身につける。
濃い緑色の落ち着いたデザインのドレスだ。
クローゼットに入っていたパーティー用のドレスより、ずっと着やすくて動きやすい。
王子がドレスをプレゼントしてくれたからと言って、着替えてやる義理はない。
義理ないが……豪華なアクセサリーを身につけているのに、服がボロボロだと違和感がはんぱない。
いつ何時(なんどき)でも逃げられるように、貴重品はできるだけ身につけておきたい。
フィリップ王子は安全に逃がすと約束してくれたが……。どこまでが本心なのかあてにならない。
いざというときに頼れるのは、自分自身だ。
うまく城から逃げ出せたとして、暮らすにはお金が必要だ。
指輪やネックレスは金に変えられる。
宝石を金貨に替えるとき、ボロをまとっていては、盗んだのではと疑われるし、買いたたかれる。
それなりの服装をしている必要はある。
飴(あめ)はもらって鞭(むち)は避(さ)ける。これが上手な世渡りだと、先人も言っている。
もっともオレの人生は、鞭(むち)ばっかりだったが。
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