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13話「Sクラスの【S】の意味を彼は知らない」

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「アデル様、ご理解いただけましたか? 
 私がミランダに『それは私の物よ返して』といった理由は、彼女が私の部屋から私物を盗み出し、盗んだドレスを着ていたから。
 ミランダはそのことを反省もせず、謝罪もしませんでした。
 それどころか「このドレスはお父様から貰ったものよ!」と言って嘘をつき続けたのです。
 そんなことをしたミランダと、異母妹の肩を持つ父とその愛人に、当主である私が『あなたは平民なのよ。伯爵家から出ていって」と言うのは当然ではありませんか?
 伯爵家の当主である私が、居候にすぎない父に指図していた理由も、その妻を名乗る女性を「愛人」と呼んでいた理由も、ご理解いただけましたか?」

全てを理解したのか、アデル様のお顔は真っ青だった。

もっと早く理解していたら、ここまで悲劇的な結末にはならなかったのに。

真っ青な顔をしたアデルとは対照的に、異母妹は顔を真っ赤にして、眉間にしわを寄せ私を睨んでいる。

「アデル様は私と結婚したら、伯爵家の当主になるつもりでいたようですが、無理なんですよ。
 アデル様は伯爵家の血を一適も引いていないのですから。
 アデル様は婿養子に入って私を立てるしかなかったのに、それを何を勘違いしたのか、
 『イケメンの僕が不細工で地味なお前と結婚してやるんだから感謝しろ!』
『僕は次の伯爵だ! お前は僕のやることに黙って従っておけばいいんだ!』
 などなど……顔合わせの日からずっと、私に暴言を吐き続けて来ましたよね?」

「あのクズ……この世界から消してやりたい」

私の隣りにいるクロリスが、低い声でささやいた。クロリスは鋭い瞳でアデルを睨みつけている。

クロリスはきっと、長年に渡り私が婚約者に暴言を吐かれていたことを、我がことのように悔しがってくれたのね。

クロリスは、友達思いの優しい子だわ。

「じゃあ……お前との婚約を破棄してミランダと結婚しても……伯爵家は……」

アデル様が青い顔で尋ねてきた。

「当然、継げません」

私はアデルの希望を一刀両断のもとに切り捨てる。

「アデル様との婚約はあなた様の有責で破棄。
 追って子爵家に、私に対するこれまでの暴言と、浮気による精神的苦痛に対する慰謝料を請求いたします。
 ミランダと浮気の証拠は揃っています。
 『義理の妹になるから優しくした』だの、『火遊びのつもりだった』だの『若げの至だ』だの、そんな言い訳は通用しませんわよ。
 こちらにはあなたがミランダと浮気した決定的な証拠があり、なおかつ優秀な弁護士がついているのですから!」

私はアデルに向かってそう言ってやった。長年の胸のつかえが取れた気がする。

ちらりと横を見ると、親友と目があった。

彼女は私と目が合うと、ニコリとほほ笑んだ。私も彼女に向かってほほ笑みを返した。

持つべきものは、名家出身の親友ね。

「待て! それでは僕はどうなる!?
 伯爵家に婿入り出来なかったら僕は……」

「それはあなたのご両親である子爵夫妻と話し合ってください。
 新しい婚約者を見つけるなり、出家するなり、軍人になるなり、平民になって働くなり色々と道はあるでしょう。
 もっとも卒業パーティでこれだけの騒ぎを起こしたアデル様に、新しい婚約者が見つかるとは思えませんが」

婿養子に入る身で婚約者に罵詈雑言を吐き、婚約者の異母妹と浮気して、公衆の面前で婚約者に寃罪をかけて婚約破棄をした男性と、婚約したがる貴族女性がいるとは思えない。

その証拠に会場にいる女性のアデルを見る目は冷ややかだ。彼女たちがアデルに向ける目は、毛虫を見る目と同じだ。

「カトリーナ、聞いてくれ!
 僕はミランダが平民だなんて知らなかったんだ!
 彼女とは別れる!
 だから、君との婚約を破棄すると言った件はなかったことにしてくれ!
 頼む、カトリーナ!
 僕とやり直してくれ!」

アデルが必死の形相で懇願してくる。

「お断りいたします」

私は即答した。

一言の謝罪もしないで、なんで元鞘に戻ると思っているのかしら?

厚かましいにも程があるわ。

「アデル様、あなたがミランダと肉体関係を持ったことは知っているのですよ」

アデルはギクリとして私から顔を逸した。

「今日あなたから婚約破棄されなくても、私からあなたに婚約破棄を突きつける予定でした。
 もちろん私はこんな衆人の目にさらされる場所で、婚約破棄を口にするつもりはありませんでしたが。
 伯爵家にあなたとご両親を呼んで、婚約破棄を突きつける予定でした。
 ミランダは自分の子供を宿しているかもしれないのに、そんな女性をあっさりと切り捨てるなんて、アデル様は最低ですね」

アデルは返す言葉もないのか、酷く狼狽えている。

ちらりと彼の隣りにいる異母妹を見る。異母妹はアデルの心変わりにショックを受けているようだ。

私と目が合うと、異母妹は鬼のような形相で私を睨んできた。

「お義姉様酷いわ!
『結婚は家と家との結びつき。私との結婚前にあなたとアデル様との間に子供ができたら……。子爵夫妻も考えを改めるかもしれないわね』って言ったじゃない!
 だからあたし、アデル様を誘ってホテルに泊まったのよ!
 なのに……こんなの詐欺だわ!」

異母妹が私に向かって吠える。髪を振り乱して怒りを顕にする姿は、神話に出てくる怪物のようだ。美人が第無しね。

「嘘は言ってないわ。
 あなたがアデル様と肉体関係を持ったら、子爵夫妻も『アデルは義理の妹になるミランダに優しくしているだけだ』なんて寝ぼけた事を言えなくなる。
 子爵夫妻は今までの考えを改め、アデルの浮気を認め、私とアデルの婚約破棄に同意してくれる。
 そういう意味を込めて言ったのよ。
 もっとももう子爵夫妻の同意を得る必要はないわ。
 アデル様の浮気は明白。
 あなたとアデル様が浮気をした証拠も掴んでいます。
 こちらには優秀な弁護士もついています。
 子爵夫妻が婚約破棄に同意しなければ、裁判をするだけです。
 もちろん裁判費用も子爵家に請求します」

「ゲルラッハ子爵令息が卒業パーティで婚約破棄騒動を起こした証人が必要なら、わたくしがなるわ」

クロリスが申し出てくれた。

「ありがとうクロリス、そのときは頼むは」

「ええ」

クロリスは扇で口元を隠しニコリと笑った。

やはり持つべきものは親友だ。

「カトリーナ、頼む! 考え直してくれ!
 のSクラスに所属していた君には、伯爵家の経営なんてできるはずがない!
 君にはEクラスに所属していた、僕のようなな人間が必要だ!!」

アデルの発言に会場にいた生徒から失笑が起きた。

最低クラス呼ばわりされたSクラスの生徒だけは、眉間にしわを寄せアデルを睨んでいた。

「アデル様、それ本気でおっしゃってます?」

私も笑いをこらえるのに必死だった。

バカだとは思っていたがここまで無知だったとは。

「当然だ!
 成績優秀な者からアルファベット順のクラスに分けられる。
 Aが一番賢くて、僕の所属していたEクラスは五番目。
 君の所属しているSクラスは二十番目だろ?
 最下位のクラスだった君が、五番目に賢いクラスにいた僕に勝てるはずがない!
 最下位クラスにいた君が領地経営なんかしたら、伯爵領はめちゃめちゃになる!
 意地を張らずに僕に伯爵家の領地経営を任せた方がいい」

会場にいる生徒から再び失笑が起きた。

今度は生徒だけでなく先生も笑ってる。

唯一Eクラスの担任の先生だけが体を小さくして、顔を真っ赤にしていた。

教え子がここまで愚かだと、教える方も大変でしょうね。


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