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5話「愚かな父」

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父は伯爵家の金を自由に使えると思っていたが、母が生きていたときと変わらずお小遣い制なのに憤慨。

仕事もせずに愛人を連れ込んだろくでなしなど、今すぐ追い出してもよいところだ。

むしろろくでなしの父に、住むところと食べ物を提供し、お小遣いまで上げている私の心の広さに感謝してほしいくらいだ。

異母妹は父にドレスを買ってもらえないとわかると、私の留守中に部屋に入り込み、ドレスやアクセサリーを盗んでいった。

しかもあろうことか「お義姉様いいでしょう? これお父様に買ってもらったのよ」と私に自慢してきた。

私は「私の部屋から盗んだのね、返しなさい」と異母妹を責めた。

すると異母妹は、
「お父様に買っていただいたものを取り上げようとするなんてお義姉様ひどいわ!
 あたしがお義姉様よりお父様から愛されているから、嫉妬しているのね!
 だからあたしのドレスやアクセサリーを取りあげた上に、あたしを泥棒扱いするのね!」と泣き出した。

そこに父の愛人も加わり母娘でギャーギャー喚き立てられ、私のストレスはマックス。

それでも私は父の愛人と異母妹に、
「父は伯爵家の当主ではなく婿養子です。 
 前当主である母が亡くなった今、父は伯爵家の居候に過ぎません。
 伯爵家の居候にすぎない父に、高価なドレスやアクセサリーを買えるお金などありません」
と根気よく何度も説明した。

しかし二人には最後まで理解して貰えなかった。

二時間ほど説明したあと、私は「こいつらはまともではない、説明するだけ無駄だ」という結論に達した。

その数日後。

思ったより贅沢な暮らしができないと知った父と愛人が、伯爵家の調度品を持ち出して売り始めたので、私は貴重品を持って離れに引っ越した。

そして離れの警備を厳重にし、そこで執務をこなすことにした。

本邸にあるのはイミテーションばかり。それらを売ったところで、大したお金にはならないだろう。

しかし泥棒は泥棒なので、彼らが何を持ち出し何を売ったのか、監視をつけてしっかりと記録に残させた。

証拠も揃ったし、この泥棒たちをいつ役所に突き出してやろうか?

しかし、血縁から泥棒がでるなど家名の恥だ。ここは内々に済ませ、三人まとめて荒野か砂漠に捨ててきた方が良いだろうか? 

私がどちらがいいか思案していたとき……。

使用人が先触れもなしにアデルがやってきたと告げた。

アデルは月に一回のお茶会はすっぽかすくせに、こうして思いつきで先触れもなしに訪ねて来ることがあった。

そういうときのアデルの態度は「先触れもなしに急に訪ねてきてすまない」なんて殊勝なものではなく、
「婚約者様が会いに来てやったんだ! 手厚くもてなせ!」という横柄なものだった。

アデルは本当に自分を何様だと思っているのだろうか?

元々悪かった態度が、前当主である母が亡くなってからますます悪くなった。

それはつまり現当主である私が、アデルにも子爵夫妻にも舐められているということだ! 悔しい!

もっとも、アデルが私が伯爵家の現当主だと理解しているか怪しいが。

アデルのことだから婿養子の父が伯爵で母は伯爵夫人、伯爵家の一人娘である私と結婚したら自分が次の伯爵になれる……と勘違いしたままな可能性もある。

子爵夫妻は「アデルにはよく言って聞かせますから」「己の立場を理解させますから」と言っていたが、あの夫妻の言葉はあてにならない。

私が「お茶会をすっぽかさないようアデル様に言ってください」「先触れもなく急に訪ねて来られては困ります」と子爵夫妻に苦情を言ったときも、
子爵夫妻は「アデルにはきちんと説明しておきますから」と言っていたのだ。

それなのにアデルはこうして先触れもなく伯爵家を訪れている。

これが、私が子爵夫妻の言葉を信用出来ない理由だ。

こっちは貴族の娘としてのマナーの勉強に、伯爵としての勉強と領地経営で忙しいのだ。


来年は学園に入学するから、そのための準備もある。

父と父の愛人と異母妹のことだけでも頭が痛いのに、この上モラハラな婚約者まで加わったらたまらない!



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