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2話「伯爵家の長女として生を受け」
しおりを挟む私、カトリーナ・ウェルナーは伯爵家の長女として生まれた。
優しくて優秀な母と、婿養子で無能な父、そしてやや抜けている伯爵家当主の祖父。
これが私が生まれたときの家族構成だ。
祖父は私の性別が女だと確認すると、大喜びで「ゲルラッハ子爵家に行ってくる!」と言って出かけてしまった。
帰宅した祖父は、
「カトリーナとゲルラッハ子爵家の次男アデルとの縁談をまとめてきた!
アデルの歳はカトリーナと同じゼロ歳だ!」
と得意げな顔で言ったらしい。
祖父と先代のゲルラッハ子爵は若い頃からの親友で、二人は「お互いの家に子供が生まれたら結婚させよう」と約束していたらしい。
だが、祖父の子供も先代のゲルラッハ子爵の子供も女の子だった。
二人の間で「お互いの家に子供が生まれたら結婚させよう」……という話は、「お互いの家に孫が生まれたら結婚させよう」という話に変化した。
祖父が親友の孫と自分の娘の婚約を勝手に決めてしまったことに、母は大激怒した。
というのも、母の結婚相手は祖父が見つけて来たのだが、これがなんの役にも立たないでくのぼう。
父は男爵家の三男で顔は多少良かったのだが、取り柄はそれだけ。
父は頭もよくなければ、仕事もできない、努力もしない、言い訳ばかりする、金遣いは荒い……母の嫌いなものを詰め込んだような人間だった。
祖父は人は良いのだが少し抜けてるところがあり、そのためよく人に騙されていた。
伯爵家が破産しなかったのは、祖母が生きているときは、祖母が祖父の尻拭いをしていたからだ。
祖母が亡くなったあとは、母が祖父の尻拭いをしている。
まさか祖父の尻拭いを、孫の私まですることになるとは思わなかった。
母は祖父の見る目のなさをよく知っていた。
だから祖父が、生まれたばかりの娘と子爵家の息子との婚約をまとめて来たとき、激怒したのだ。
祖父は土下座して母に謝罪したが、怒りの収まらない母は、祖父と一年間口を聞かなかった。
祖父は泣きながら母に何度も謝った。
母は祖父に「爵位を今すぐわたくしに譲るならお父様を許します」と言った。
祖父は二つ返事で了承し、ようやく二人は仲直りした。
こうして母は若くして爵位を継いだ。
伯爵家には母の弟もいたが、我が国の法律では「長男」ではなく「男女問わず先に生まれた子供」が爵位を相続するので、叔父は私が生まれる前に他家に婿養子に行った。
大事な事なので二度言おう。
伯爵家の当主は私が一歳の時から母だ。
そして父は伯爵家の婿養子。
爵位は「男女問わず先に生まれた子供」が継ぐ。
大事なことなので覚えておいてほしい。
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