完結・私と王太子の婚約を知った元婚約者が王太子との婚約発表前日にやって来て『俺の気を引きたいのは分かるがやりすぎだ!』と復縁を迫ってきた

まほりろ

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2話「元婚約者」

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「ラウ侯爵令息のおっしゃった言葉の意味が分かりません」

カスパー様と会話するなら、魔族と会話した方がまだ話が通じる。

カスパー様の思考回路は常人では理解しかねますわ。

「アリスがフリーダをいじめたのは俺に嫉妬してほしいからなんだろう?
フリーダがおおごとにしたくないと言うし、俺もノイマン侯爵家との間に争いを起こしたくないから、お前がフリーダをいじめていた件は有耶無耶うやむやにした。
裁判に負けたお前が、修道院に送られたら可哀そうだからな」

ザックス男爵令嬢がカスパー様に、
「アリス様に教科書や制服やかばんを破られました!
噴水に落とされたり、階段からつき落とされそうになったこともあります!」
と泣きながら訴えたそうだ。

だがすべてザックス男爵令嬢の自作自演だということは分かっている。

こっちには証拠が揃っている。

裁判になったら、負けて修道院送りになるのはカスパー様とザックス男爵令嬢の方だ。

ラウ侯爵とザックス男爵が地面に膝を突いて泣きながら、
「息子(娘)を許してください!」
と懇願するので、仕方なく示談に応じた。

こんなことになるなら裁判にかけて、両家を塵一つ残らないぐらい、徹底的に粉砕してやるべきだったわ。

「情深い俺は傷物になり嫁の貰い手がなくなったお前を、俺がラウ家の当主になったとき、愛人にして囲ってやろうと思っていたんだ。
フリーダは領地経営とかに向いてないからな、頭でっかちなお前に仕事を与えてやるつもりでいたんだ」

ドヤ顔で言うカスパー様の顔面を、ぶん殴ってやりたかった。

誰かやかんに熱湯を沸かして持ってきてくれないかしら? カスパー様の頭に熱湯をかけてやりたいわ。

カスパー様の言ったことを要約すると、行き遅れになった私を愛人にして仕事だけさせる……ということだ。

馬鹿にするにも程がある。

カスパー様は自分がラウ侯爵家の当主になれると思っているのね、笑えるわ。

「俺は充分嫉妬したぞ。
もういいだろう?
愛人ではなく正妻にしてやるから俺のところに戻ってこい」

カスパー様の顔には俺は心の広い男だろ?と書いてあった。

誰か硫酸を持ってきてくださらない? カスパー様の顔面に硫酸をかけて差し上げます。

「ラウ侯爵令息、一つ良いことを教えてあげます」

「なんだ?」 

「ラウ侯爵令息はラウ侯爵家を継げません」

「はっ?
そんなはず無いだろう!
俺は一人っ子だぞ!」

「それがそんなはずがあるのです。
ラウ侯爵令息がザックス男爵令嬢と浮気し、『アリスとの婚約を破棄し、真実の愛で結ばれたフリーダと結婚する!』
と言ったとき、ラウ侯爵はあなたを跡継ぎにすることを諦め、ザックス男爵家に婿養子に出すことを決めたのです」

「えっ?
はっ?
う……嘘だ!
父上がそんなことをするはずがない!!」

「残念ですが全て事実です」

我が家としては、カスパー様とザックス男爵令嬢に下された処分はぬるいと思っています。

お二人には一生屋敷内に幽閉するか、除籍して修道院に送るか、市井に落とすかして苦労させるかしてほしかったのです。

ラウ侯爵もザックス男爵も、子供に対する処罰が甘すぎますわ。

私に冤罪をかけるということは、ノイマン侯爵家に喧嘩を売ったのも同じ。

その当事者たちの処分が、男爵と男爵夫人になることだなんて、ノイマン侯爵家もなめられたものです。

カスパー様は侯爵家の当主候補から外れ、格下の男爵家の当主になるので、カスパー様にとっては罰になるのかもしれません。

それでも貴族でいられることに変わりはありません。

どう考えても罰がぬるすぎます。

「お疑いでしたら、ラウ侯爵にお尋ねください。
もうすぐ当家に来るはずですから」

「父上がノイマン侯爵家に来るだと!」

「ラウ侯爵令息が当家が裁判沙汰にせず示談にしてさし上げた、ラウ侯爵令息とザックス男爵令嬢が私に冤罪をかけた件を持ち出して、屋敷の前で騒いでいるのです。
屋敷の前で騒がれるのは迷惑ですのでラウ侯爵令息を屋敷に入れましたが、当家としては一刻も早くラウ侯爵令息にはお引き取りいただきたいです。
ラウ侯爵令息の監督責任はラウ侯爵にあります。
ラウ侯爵を呼ぶのは当然でしょう?」

「お前と婚約破棄したとき、父上にとんでもなく怒られたんだぞ!」

それはあれだけのことをしたのですから、怒られて当然でしょう。

「『それに示談にして上げた!』とはなんだ、それはこちらのセリフだ!
お前がフリーダをいじめていたことは事実だろう!」 

示談にして差し上げたのに、全く反省していませんのね。

やはりあのとき徹底的に戦い、カスパー様とザックス男爵令嬢を灰にしてやるべきでしたわ。

「そうだ!
アリス、お前が俺との寄りを戻したくて、俺をノイマン侯爵家に呼んだことにしてくれ!
そうすれば俺は父上に叱られなくて済む!
お前だって馬鹿王太子と婚約しなくて済む!
どうせ馬鹿王太子に王族の権力を使われ、無理やり婚約者にされたんだろ!?
お前には王太子妃なんか似合わない!
俺がお前を救ってやる!
お前が俺と一緒に謝れば、父上だって許してくれる!
そして俺を次の侯爵家の当主にしてくれるはずだ!!
お前は俺と結婚して侯爵夫人になるんだ!」

よく動く舌です。

誰かハサミを持ってきてくれないかしら?

カスパー様の舌を切りたい気分ですわ。

カスパー様の舌は二枚はありそうです。

一枚ぐらいちょん切ってもいいでしょう。


☆☆☆☆☆

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