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50話「並行世界」王太子視点(最終話)
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――王太子アーサー視点――
未来からの手紙が届いたのは、学園に入学してすぐのことだった。
手紙は七年後の日付で、これから起こることが事細かに記されていた。
親友のフリードを救えなかったことへの悔恨、フリードに義妹のディアーナ嬢を殺させてしまったことへの後悔が、延々と綴られていた。
コーエンがディアーナ嬢を放置し続けたこと、他に好きな女が出来たこと、邪魔になったディアーナ嬢を罠に嵌めて殺そうとしたこと……。
当時王妃だった母親が、ディアーナ嬢に過労死する量の仕事を与え酷使していること、麻薬を投与していること……。
フリードがディアーナ嬢を妹としてではなく女として愛していること、ディアーナ嬢を過酷な環境から救い出したいと思っていること……。
未来のボクは全て知っていた、知っていて何もできなかった。
「悔やんでも悔やみきれない」「何も出来なかった自分が許せない」という文章が何度も出てくる。
演劇に出てくる木の役のようだ。舞台上にいて全てを見ているのに、立っているだけで動くことも話すことも許されない。
聞き分けの良い息子、優しい兄、国民の期待に応える優秀な王太子。その役を演じ続けることしかできなかったことへの憤り。
手紙には、何かの強制力に操られているかのようだったと綴られていた。
未来のボクは、コーエンと王太后を断罪しアイスフェルト帝国に送ったあとで手紙を書いたようだ。
未来のボクは禁術に手を出し、過去の自分にこの手紙を送った。
過去を変えても、並行世界が出来るだけで手紙を書いたボクの世界は変わらないのに。
「禁術に手を出してでも変えたかったの……?」
未来のボクは、フリードとディアーナ嬢が幸せに暮らせる世界を作りたかったのかもしれない。
手紙を受け取ってから、何度も何度も手紙を読み返した。最悪の未来を阻止するために。
だけどボクのいる世界で起こる出来事は、手紙に書かれていたものとは少し違っていた。
手紙を書いたボクのいる世界と、この世界の最大の相違点は、ディアーナ嬢とフリードの関係性。
手紙の書かれた世界では、ディアーナ嬢とフリードの仲はフリードが十三歳の時に破綻している。だがこの世界でのフリードはディアーナ嬢と相思相愛で婚約までしている。
手紙に書いてある世界では二人はずっとすれ違い、フリードは最後までディアーナ嬢に思いを告げることができなかったのに。
それから、手紙に書いてあるディアーナ嬢の性格と、この世界のディアーナ嬢の性格に差異がある。手紙に書いてあるディアーナ嬢の性格はわがままで傲慢、義兄のフリードを拒絶している。
ボクのいる世界のディアーナ嬢は優しい性格で、義兄のフリードを慕っている。それにどこから得たのか分からない不思議な知識を持っている。
手紙に書いてあるディアーナ嬢の性格と、この世界のディアーナ嬢の性格が違うのは、未来のボクが禁術を使ったことによる影響かもしれない。
他にも禁術を使った影響が現れている。手紙の世界のフリードは学園にいる三年間未来のボクと同室だった、この世界のフリードは早々に寮を出て実家に帰ってしまった。
この世界が手紙を書いたボクのいる世界と違い、目に見えない【強制力】とやらに逆らえるのなら、ボクも手紙の世界の自分と同じ行動を取る必要はない。
わがままを言わない聞き分けのよい息子、欲しいと言われるままに弟におもちゃを与える良い兄、国民の期待に応える品行方正で聡明な王太子……そんなものがなんだっていうんだ?
親友一人助けられないなら、なんの価値もない。
ボクは物分りのよい息子でいることも、優しい兄でいることも、公明正大な王太子でいることも放棄した。
ボクはフリードを守るためなら悪魔とだって契約する。
禁術を使い呼び出したジャック・オー・ランタンは実に役に立っている。
コーエンの再教育も、王妃の更生計画も順調に進んでいる。
「未来のボク……いやもうこの世界とは繋がっていないかもしれないから並行世界のボクと呼ぶべきかな?」
ボクは未来から届いた手紙を読み返し、涙の跡をそっとなぞった。
「聞こえるかな? この世界のフリードとディアーナ嬢はとても仲睦まじいんだよ、二人ともすごく幸せそうに笑うんだ。ボクは二人の幸せが永久に続くように、これからも見守っていくよ」
手紙に手を当てて念じると心が暖かくなった。ボクの思いは手紙を通して別の世界の自分に届いた……そんな気がした。
――終わり――
――後書き――
ご愛読ありがとうございました。
次回作も読んでいただけると嬉しいです。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【補足】
原作のその後を描いた同人誌は二冊あります。
一冊目はコーエンとユリアの結婚後、コーエン×ユリア、マルク×ユリア、ゲオルグ×ユリアの性生活を描いた話。
二冊目はコーエン、マルク、ゲオルグ、ユリアの4P本です。コーエンとユリアの結婚から一年後、ユリアが妊娠するところで終わっております。
人気がなくて二冊目で打ち切られました。
原作と同人誌が終わるまで登場人物は好き勝手に動けませんでした。
物語が終わり、アーサーは「どうして今まで毒親と義弟を野放しにしていたんだろう?」と疑問に思うわけです。
「夢の終わりに」にはそんな感じの裏設定がありました。物語内で上手に説明出来ませんでした。すみません。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
本作は「第15回恋愛小説大賞」にエントリーしています。少しでも面白いと思っていただけたら、投票していただけると嬉しいです。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
2022/01/28新作を投稿しました。読んでいただけると嬉しいです!
「彼女を愛することはない~王太子に婚約破棄された私の嫁ぎ先は呪われた王兄殿下が暮らす北の森でした」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/681592804 #アルファポリス
上記の作品は「第15回恋愛小説大賞」にエントリーしています。少しでも面白いと思っていただけたら、投票していただけると嬉しいです。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
下記8作品を「第15回恋愛小説大賞」(2月1日~2月28日開催)にエントリーしています。少しでも面白いと思っていただけたら、投票していただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
①「彼女を愛することはない~王太子に婚約破棄された私の嫁ぎ先は呪われた王兄殿下が暮らす北の森でした」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/681592804 #アルファポリス
②【完結】 「妹に全てを奪われた元最高聖女は隣国の皇太子に溺愛される」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/627457471 #アルファポリス
③【完結】「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/965491267 #アルファポリス
④【完結】「お姉様ばかりずるいわ!」と言って私の物を奪っていく妹と、「お姉さんなんだから我慢しなさい!」が口癖の両親がお祖父様の逆鱗に触れ破滅しました
https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/893514362 #アルファポリス
⑤【完結】「王太子に婚約破棄され、父親に修道院行きを命じられた公爵令嬢、もふもふ聖獣に溺愛される~王太子が謝罪したいと思ったときには手遅れでした」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/845571297 #アルファポリス
⑥【完結】「神様、辞めました~竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/155576468 #アルファポリス
⑦【完結】「真実の愛に生きるのならお好きにどうぞ、その代わり城からは出て行ってもらいます」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/706584153 #アルファポリス
⑧【完結】「転生したら少女漫画の悪役令嬢でした~アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました~」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/809452282 #アルファポリス
未来からの手紙が届いたのは、学園に入学してすぐのことだった。
手紙は七年後の日付で、これから起こることが事細かに記されていた。
親友のフリードを救えなかったことへの悔恨、フリードに義妹のディアーナ嬢を殺させてしまったことへの後悔が、延々と綴られていた。
コーエンがディアーナ嬢を放置し続けたこと、他に好きな女が出来たこと、邪魔になったディアーナ嬢を罠に嵌めて殺そうとしたこと……。
当時王妃だった母親が、ディアーナ嬢に過労死する量の仕事を与え酷使していること、麻薬を投与していること……。
フリードがディアーナ嬢を妹としてではなく女として愛していること、ディアーナ嬢を過酷な環境から救い出したいと思っていること……。
未来のボクは全て知っていた、知っていて何もできなかった。
「悔やんでも悔やみきれない」「何も出来なかった自分が許せない」という文章が何度も出てくる。
演劇に出てくる木の役のようだ。舞台上にいて全てを見ているのに、立っているだけで動くことも話すことも許されない。
聞き分けの良い息子、優しい兄、国民の期待に応える優秀な王太子。その役を演じ続けることしかできなかったことへの憤り。
手紙には、何かの強制力に操られているかのようだったと綴られていた。
未来のボクは、コーエンと王太后を断罪しアイスフェルト帝国に送ったあとで手紙を書いたようだ。
未来のボクは禁術に手を出し、過去の自分にこの手紙を送った。
過去を変えても、並行世界が出来るだけで手紙を書いたボクの世界は変わらないのに。
「禁術に手を出してでも変えたかったの……?」
未来のボクは、フリードとディアーナ嬢が幸せに暮らせる世界を作りたかったのかもしれない。
手紙を受け取ってから、何度も何度も手紙を読み返した。最悪の未来を阻止するために。
だけどボクのいる世界で起こる出来事は、手紙に書かれていたものとは少し違っていた。
手紙を書いたボクのいる世界と、この世界の最大の相違点は、ディアーナ嬢とフリードの関係性。
手紙の書かれた世界では、ディアーナ嬢とフリードの仲はフリードが十三歳の時に破綻している。だがこの世界でのフリードはディアーナ嬢と相思相愛で婚約までしている。
手紙に書いてある世界では二人はずっとすれ違い、フリードは最後までディアーナ嬢に思いを告げることができなかったのに。
それから、手紙に書いてあるディアーナ嬢の性格と、この世界のディアーナ嬢の性格に差異がある。手紙に書いてあるディアーナ嬢の性格はわがままで傲慢、義兄のフリードを拒絶している。
ボクのいる世界のディアーナ嬢は優しい性格で、義兄のフリードを慕っている。それにどこから得たのか分からない不思議な知識を持っている。
手紙に書いてあるディアーナ嬢の性格と、この世界のディアーナ嬢の性格が違うのは、未来のボクが禁術を使ったことによる影響かもしれない。
他にも禁術を使った影響が現れている。手紙の世界のフリードは学園にいる三年間未来のボクと同室だった、この世界のフリードは早々に寮を出て実家に帰ってしまった。
この世界が手紙を書いたボクのいる世界と違い、目に見えない【強制力】とやらに逆らえるのなら、ボクも手紙の世界の自分と同じ行動を取る必要はない。
わがままを言わない聞き分けのよい息子、欲しいと言われるままに弟におもちゃを与える良い兄、国民の期待に応える品行方正で聡明な王太子……そんなものがなんだっていうんだ?
親友一人助けられないなら、なんの価値もない。
ボクは物分りのよい息子でいることも、優しい兄でいることも、公明正大な王太子でいることも放棄した。
ボクはフリードを守るためなら悪魔とだって契約する。
禁術を使い呼び出したジャック・オー・ランタンは実に役に立っている。
コーエンの再教育も、王妃の更生計画も順調に進んでいる。
「未来のボク……いやもうこの世界とは繋がっていないかもしれないから並行世界のボクと呼ぶべきかな?」
ボクは未来から届いた手紙を読み返し、涙の跡をそっとなぞった。
「聞こえるかな? この世界のフリードとディアーナ嬢はとても仲睦まじいんだよ、二人ともすごく幸せそうに笑うんだ。ボクは二人の幸せが永久に続くように、これからも見守っていくよ」
手紙に手を当てて念じると心が暖かくなった。ボクの思いは手紙を通して別の世界の自分に届いた……そんな気がした。
――終わり――
――後書き――
ご愛読ありがとうございました。
次回作も読んでいただけると嬉しいです。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【補足】
原作のその後を描いた同人誌は二冊あります。
一冊目はコーエンとユリアの結婚後、コーエン×ユリア、マルク×ユリア、ゲオルグ×ユリアの性生活を描いた話。
二冊目はコーエン、マルク、ゲオルグ、ユリアの4P本です。コーエンとユリアの結婚から一年後、ユリアが妊娠するところで終わっております。
人気がなくて二冊目で打ち切られました。
原作と同人誌が終わるまで登場人物は好き勝手に動けませんでした。
物語が終わり、アーサーは「どうして今まで毒親と義弟を野放しにしていたんだろう?」と疑問に思うわけです。
「夢の終わりに」にはそんな感じの裏設定がありました。物語内で上手に説明出来ませんでした。すみません。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
本作は「第15回恋愛小説大賞」にエントリーしています。少しでも面白いと思っていただけたら、投票していただけると嬉しいです。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
2022/01/28新作を投稿しました。読んでいただけると嬉しいです!
「彼女を愛することはない~王太子に婚約破棄された私の嫁ぎ先は呪われた王兄殿下が暮らす北の森でした」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/681592804 #アルファポリス
上記の作品は「第15回恋愛小説大賞」にエントリーしています。少しでも面白いと思っていただけたら、投票していただけると嬉しいです。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
下記8作品を「第15回恋愛小説大賞」(2月1日~2月28日開催)にエントリーしています。少しでも面白いと思っていただけたら、投票していただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
①「彼女を愛することはない~王太子に婚約破棄された私の嫁ぎ先は呪われた王兄殿下が暮らす北の森でした」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/681592804 #アルファポリス
②【完結】 「妹に全てを奪われた元最高聖女は隣国の皇太子に溺愛される」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/627457471 #アルファポリス
③【完結】「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/965491267 #アルファポリス
④【完結】「お姉様ばかりずるいわ!」と言って私の物を奪っていく妹と、「お姉さんなんだから我慢しなさい!」が口癖の両親がお祖父様の逆鱗に触れ破滅しました
https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/893514362 #アルファポリス
⑤【完結】「王太子に婚約破棄され、父親に修道院行きを命じられた公爵令嬢、もふもふ聖獣に溺愛される~王太子が謝罪したいと思ったときには手遅れでした」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/845571297 #アルファポリス
⑥【完結】「神様、辞めました~竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/155576468 #アルファポリス
⑦【完結】「真実の愛に生きるのならお好きにどうぞ、その代わり城からは出て行ってもらいます」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/706584153 #アルファポリス
⑧【完結】「転生したら少女漫画の悪役令嬢でした~アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました~」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/809452282 #アルファポリス
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未来のアーサーも過去(パラレルワールド)のアーサーも幸せになってほしいですね(^^)