【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜

まほりろ

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49話「夢の終わりに⑦」漫画のコーエンとユリアのその後

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隣国との新しい国境は、旧フォークト公爵領の入口になっていた。

旧フォークト公爵領までは馬車で移動する。

四頭建ての王族専用の馬車しか乗ったことがなかったので、一頭建ての小さな馬車の乗り心地は最悪だった。振動する度に天井に頭をぶつけ、揺れの激しさに何度か吐きそうになる。

時おり民衆が「お前たちのせいでフォークト公爵家とルーデンドルフ伯爵家がグランツ国から離れ、グランツ国は小国になった!」「商団とフォークト公爵家との貿易がだめになった! 責任を取れ!」「幼いときからの婚約者を罠にはめるとは見下げた男だ! お前は虫けら以下だ!」「側近と妻を共有していただと?! 何が真実の愛だ! この外道!」罵声を浴びせ石を投げてきた。

母上の乗った馬車にも「過労死寸前まで息子の婚約者を働かせるなんて非道だ! この悪魔!」「お前の息子のせいで俺達はどれだけ迷惑してると思ってるんだ!」「息子の教育もまともにできないくせに何が王太后だ!!」民衆は怒りをぶつけ、石や卵を投げつけた。

それでもまだ馬車があるまでましだった。

旧フォークト公爵領に着くと、馬車を降りるように命じられり。

母上は腰まで届く長い髪をバッサリと切られた。

俺と母上は顔に真っ赤に焼けた焼きごてをあてられ、罪人の印をつけられた。

自身の肉が焼ける匂いに気が遠くなる、木を失いそうになると水をかけられる。

身体検査の名目のもと服を脱がされ母上はシュミューズ姿にされた。俺は上着もズボンも靴も奪われパンツ一枚にされた。王族の母上と俺に下着で歩けと言うのか?

馬車どころか履く靴も服すらない状態で手を前で縛られ、鉄の重しがついた足かせをはめられ、城まで歩くように命じられる。

素足で歩いたことなどないので足が痛くてたまらない、あちこちに小さな傷ができ血が流れた。

足も痛いのだが民衆から向けられる視線はもっと痛い。

「ディアーナ様はこの二人に殺された!」「お優しかったフリード様はこいつらのせいで心に深い傷を負った!」「フリード様から笑顔が消えたのは貴様らのせいだ!!」「公爵夫妻の人が変わったのもお前たちのせいだ!」

民衆は殺気の籠もった目で俺と母上を睨み、口汚く罵ってくる。

石を投げつけられることはなかったが、下着姿で途方もない時間歩かされ、ゴミを見る目で見られ、罵倒されるのは地味に辛い。

プライドの高い母上にはさぞ堪えただろう。

この苦しみも城に着きフォークト公爵家の当主に会えば終わる、そう思っていた。

公爵に罵詈雑言を吐かれ、殴られ、蹴飛ばされ、最後は剣で斬られる。死ねばこの苦しみも終わる。

王宮を出たときはあんなに生に執着していたのに、今は生きるのが辛い。こんな目に合うのならいっそ死んだ方がましだと思えるほど……。

そんな俺の僅かな希望はあっけなく打ち砕かれた。

フォークト公爵とフリードは、俺と母上に会う気はないと言う。

俺は狭くて汚くて薄暗いカビの生えた部屋に入れられた。部屋というより牢屋といった方が正しいかもしれない。おそらく母上も同じような部屋に入れられたのだろう。

着るものは粗末なシャツと穴の空いたズボンのみ。

家具は壊れかけたベッドが一つ。

食事は一日二回、パンと水だけだ。

暗く音もない世界を支配しているのは、【無】だった。

独り言を呟いていなければ気が狂いそうになる。

時おり死んだユリアとマルクとゲオルグの夢を見る。三人ともボロボロの服を着て、額から血を流し、肌は腐りかけている。最初は生きている俺を恨めしそうに見て消えていくだけだったが、最近は「また四人で遊びましょう」と言って腐って酷い悪集を放つ体を擦り寄せてくる。

その夢を見た日は一日体調が悪い、全身汗でぐっしょりで、蕁麻疹じんましんができていた。胃の中の物を吐いたこともある。

目覚めたとき誰かに腕や足を掴まれた跡が残っているのだが……これは気のせいだよな? 気のせいであってくれ……!

ここにいると徐々に精神を蝕まれていく……。

何度「出せぇぇえええ……!! ここから出してくれぇぇぇぇっっ!!」と叫び鉄格子を叩いたか分からない。手から血が流れ、喉が枯れても鉄格子を叩くのを止められなかった。

その陰鬱いんうつな空間から抜け出せるのは、週末の外出の時だけ。

【散歩】と言う名のもとに、手を前で縛られ、パンツ一枚にされ街中を連れ回される。無論靴などは与えられない。

母上はシュミューズ姿だ、パンツ一枚で歩かされるよりはましだろうが、女性には辛いだろう。特に母上のような誇りの高い女性には。

プライドの一部は、豪華な衣服によって保たれていたのだと思い知らされた。

この散歩は母上と一緒だ。母上はこの数カ月で一気に老けた、茶色の髪には白髪が交じり、頬は痩せこけ、目に覇気を感じられない。

「私は……悪くない……私のせいじゃない……」とぶつぶつと繰り返し、金髪の若い女性を見ると酷く怯え「ひぃぃいいいいっっ……!! ゆ、許して……! わ、私はただ息子のために……!!」何もない空間に向かって叫んでいる。

「ゴミ王子とろくでなしの王太后にはその姿がお似合いだ!」「人でなしのくず王子とカス王太后様のお出ましだ!」人々は俺たちを見て、暴言を吐き、クスクスと笑う。

死ぬことも許されず、死ぬよりも苦しい罰を永続的に与えられ続ける。

王子として蝶よ花よと育てられた俺が死にたいと思うほど苦しいんだ、長年王妃として権力を振りかざしてきた母上にはもっと辛いだろう。

空腹で腹の虫が卑しくも音を立て、それを聞いた民が声を上げて笑う。誰かが腐りかけの肉を投げつけてきた。その肉の砂を払い口に入れたとき、王子としての俺は死んだと思った。

「人質に来たのは王子と聞いていたが物乞いだったようだ!!」誰かが叫ぶと、民衆が爆笑した。

プライドなど空腹の前には無力だ。

俺は死ぬことも許されず、寿命が尽きるまでこの暮らしを続けなければならない。

これが俺に与えられた罰。

車裂きの刑で死んだマルクとゲオルグとユリアが羨ましく思える。

人々は車裂きの刑が残酷だと言うが、俺の受けている仕打ちよりは百倍はましだろう。










こんな刑罰は序の口で……民衆の前でペニスを切り落とされ男たちに集団で犯され、実験動物のように生爪を一枚づつ剥がされ、手足の指を一本ずつ切り刻まれることをこのときの俺は知らない。
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