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46話「夢の終わりに④」漫画のコーエンとユリアのその後
しおりを挟む「コーエン、次はお前の罪を暴く」
兄上の怒りの矛先が自分に向き、身体がビクリと震える。
「この薬を覚えているか?」
兄上が手にしていたのは、卒業パーティーの日、フリードが手にしていた茶色い小瓶だった。
「ディアーナ嬢の部屋から発見された毒の入った小瓶だ、ユリアに盛られた毒の成分と一致している」
「それはユリアの食事に毒を入れたのがディアーナだったから……」
自分の声が震えているのが分かった。心臓がバクバクと嫌な音を立てる。
「この毒がなんの毒か知っているか? バジリスクという砂漠に生息する蛇の毒だ。バジリスクは全長二十四センチメートルほどの小さな蛇だが、猛毒を持っているため【蛇の王】と言われ恐れられている」
「そ、それがなんだと言うのですか……?」
「バジリスクの毒は周りが早い、毒を飲んだらすぐに解毒剤を飲ませないと死に至る。解毒剤は砂漠にしか生息しないイタチの血から生成される」
額からどくどくと汗が溢れ、頬を伝いゆかにしみを作る。
「解毒剤の生成方法は秘匿とされ、我が国には伝わっていない。わずかに輸入された解毒剤は王宮で王の主治医によって厳重に保管している。解毒剤は貴重なので、学園の医務室には置いてない。ボクの在学中は特例として置いてあったが、ボクが卒業するのと同時に回収された。数も厳しく管理されているから、一つでも紛失したらすぐに分かる」
それは王太子の兄上にバジリスクの毒を盛られたら解毒剤を投与されるが、第二王子の俺にバジリスクの毒を盛られても放置されることを意味する。王太子と第二王子ではこんなに扱いが違うのか。
「仮に学園に解毒剤が置いてあったとして、男爵令嬢ごときに処方されることはない。バジリスクの毒に犯されたらこの国では死ぬしかないんだよ」
息が上手くできない。兄上は知っている。全てを知っていて俺に探りを入れている。
「おかしいよね、バジリスクの毒を盛られたのにユリアはどうして助かったのかな? 倒れたユリアに一番最初に近づいたのはコーエン、お前だったそうだね?」
兄上がアメジストの目を細め、射抜くように俺を見る。
「学園に勤務していた医師が不思議がっていたよ、ユリアはバジリスクの毒を盛られたのにどうして助かったのかと。
医師は倒れたユリアに最初に近づいたのがコーエンだと分かり、ユリアに毒を盛ったのはコーエンではないかと疑っていた。
コーエンがユリアの愛を得るためにユリアに毒を盛り、かっこよく助けてユリアの愛を得ようとしたと画策したのではとね。
第二王子程度では王宮からバジリスクの解毒剤を持ち出せないことを、その医師は知らなかったらしい。
医師は一応王太后には報告したと言っていたが……どうせもみ消したんでしょう?」
母上を見ると、罰の悪そうな顔で視線を逸した。
「バジリスクの毒の入手経路にも不審な点がある。
ディアーナ嬢は学校ではお前の代わりに生徒会の仕事をこなし、王宮では王妃教育と王太子の仕事をこなしていた。
ディアーナ嬢は睡眠時間を削って仕事をしなければならないほど多忙でね、彼女には自由になる時間などなかったんだよ」
ディアーナがいつも忙しそうにしていたのは知っていた、だけどそこまでだったとは思わなかった……。
「ディアーナ嬢は婚約者に近づく女がいて、その女を憎いと思っても、秘密裏に毒薬を調達するような時間など作れなかったんだよ。
誰かがディアーナ嬢を嵌めようと近づき、言葉巧みにそそのかし、毒を渡さない限り彼女は毒を入手出来ないんだよ」
俺の歯がカチカチと音を立てる。
「ある男を捕まえたら全て吐いたよ、第二王子に頼まれ、国王の誕生パーティーで、会場で一人佇んでいる金髪に青い目の女に毒薬を渡せと言われたとね、第二王子には解毒剤も渡したと言っていた」
核心を突かれ、俺はその場で固まることしかできなかった。
額の汗は止まらない、体がぶるぶると震える、目まいと吐き気がする。
俺の犯した罪が…………バレた。
「マルク・ベーアの手下が全て吐いたよ。マルクの父親は司祭だったね、砂漠の国ワールブルグではバジリスクの毒を教会内の粛清に使うそうだ。
教会との繋がりでバジリスクの毒と解毒剤を手に入れやすかったのかな。王族より教会関係者の方がバジリスクの毒を手に入れやすいのは盲点だったよ」
冷淡に言い放つ兄上の言葉を俺は聞いていることしか出来なかった。
「コーエンの目的はディアーナ嬢との婚約破棄、コーエンと恋仲にあるユリアが毒を盛られれば、真っ先にディアーナが疑われる。そうなれば婚約破棄できると思ったのかな? ユリアにはすぐに解毒剤を飲ませ事なきを得た。
だがお前の予想に反してディアーナとの婚約は破棄されなかった。ディアーナ嬢は疑われはしたが証拠不十分で、この事件は未解決のまま処理された」
あるときユリアが正妃になりたいと言い出した。だから婚約者のディアーナは邪魔だった。
王家とフォークト公爵家との繋がりがあるから、ディアーナとの婚約は簡単には破棄できない。
男爵令嬢のユリアでは側妃にもなれない、なれたとしても愛妾がせいぜいだ。
父上に頼みこめばディアーナを正妃にし、ユリアを側妃にすることはできたかもしれない。
だがそれではユリアは納得しない「真実の愛で結ばれるのに私がコーエン様の正妃になれないのはおかしい! 側妃を設けるなんてどうかしている! 私を愛人扱いするなんて酷い!」と言って俺を責めた。
だから俺はディアーナを罠にはめ、彼女を罪人に仕立て、彼女との婚約を破棄することにした。
フリードがディアーナの部屋からバジリスクの毒の入った小瓶を見つけてくれた。まだ処分していなかったのかと鼻で笑った。
卒業パーティーでディアーナを断罪し、俺とユリアは真実の愛で結ばれている! 王位継承権を放棄してでもユリアと結婚したい! そう父上にかけあった。
王位継承権が剥奪されることはなく、一代限りの公爵位を賜った。
◇◇◇◇◇
※※※バジリスク
ヨーロッパや中東で信じられてきた幻獣。
バジリスクの弱点はイタチ、イタチをバジリスクの巣に投げ込むと臭気でバジリスクは死に至ると信じられていました。なのでイタチの血をバジリスクの解毒剤として登場させました。
※※※
コーエンが他の女と結婚するのは許せないのに、自分が逆ハーレムを作り他の男と交わるのは許せるユリア。
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