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33話「困ったことがあったら何でもボクに言って」
しおりを挟む「ディアーナ嬢、困ったことがあったら何でもボクに言って。弟の生殺与奪権はボクが握ってるからね」
王太子殿下、いま爽やかな笑顔でさらっと恐ろしい事をおっしゃいませんでした?
コーエン王子の生殺与奪権は、陛下でも王妃様でもなく王太子殿下か握っていらっしゃるのですね。
「フリードも、コーエンを殺したくなったら一言ボクに声をかけてね。そのときは君の手を煩わせることなくボクが密かに処分するから」
「保証はできないが覚えておく」
フリード様と王太子殿下の会話が物騒です。
フリード様は王太子殿下と終始タメ口でした。ここの力関係はどうなっているのでしょう?
男同士の友情というのは地位や身分を超えるものなのかしら?
王太子殿下が、フリード様と私とフォークト公爵家とルーデンドルフ伯爵家を、コーエン王子より重んじる理由とは?
◇◇◇◇◇
「疲れました」
フリード様の肩によりかかると、フリード様が頭を優しくてなでてくださいました。
あのあと気分が優れないという理由で、お茶会を早々に切り上げました。
今は馬車の中でフリード様と二人きりです。
「フリード様、王太子殿下と随分と仲がよろしいのですね」
婚約披露パーティーのときから思っていたのですが、相手は王太子殿下、学友というだけであんなに気さくに話せるものなのでしょうか?
「アーサーとの剣術の試合で僕がアーサーをこてんぱんに負かしたら、なぜかなつかれてね」
「王太子殿下をこてんぱんにされたのですか?」
さすが剣神持ちのフリード様! ですが相手は王太子殿下ですよ? 不敬罪に問われませんか? 手加減してわざと負けた方がよかったのでは?
「アーサーは勉強でも剣術でも馬術でも魔法でも、誰かに負けたことがなかったらしい。
王太子だから相手が加減したということも考えられるが、アーサーは天才だから同年代……いや年上の相手が全力でかかっても勝負にならなかったのだろう。
だから僕が試合でアーサーを負かしたとき、アーサーは愉しそに笑っていた『初めて試合で負けた。フリード・フォークトきみは面白いね、ボク以上の天才に出会ったのは初めてだよ。同じ景色の見える友人ができそうだ』といってね」
フリード様は剣神のスキルと魔術の才能をお持ち。
王太子殿下は五歳で法律を覚え、算術と天文学と古代文字をマスターされた天才。
天才には天才にしか分からない悩みが有り、天才にしか見えない景色があるのですね。
「だからフリード様と王太子殿下はあんなに仲がよろしいのですね」
「僕がアーサーに気に入られているといいうのももちろんある。だけどアーサーが僕の肩を持つのはそれだけが理由じゃない」
「といいますと?」
「アーサーは賢いし計算高いから、フォークト公爵家とルーデンドルフ伯爵家の価値をよく知っている。両家を敵に回すことがどんなに危険なことかも」
「フォークト公爵家とルーデンドルフ伯爵家ってそんなに力を持っているのですか?
」
王家の権力を持ってすれば公爵家と伯爵家を制圧するのは容易いのでは?
「フォークト公爵家の当主であるお父様が槍聖持ち、お母様が魔道士の才を持っているのはディアーナも知ってるよね? ルーデンドルフ伯爵家の当主である父上は剣聖持ち、母上には魔術の才がある」
「王太子殿下は、その二家を敵に回すのは王家として得策ではないと考えたのですね」
「そのとおり、フォークト公爵家もルーデンドルフ伯爵家も大勢の兵を抱えているからね。槍聖と剣聖持ちの当主が鍛えたおかげで、他の領地の兵よりかなり強い。この二家がグランツ王国から離脱し、他の王家につくことは、グランツ王国にとって大きな損失なんだよ」
「私達の結婚のために両家がそこまでしてくださいますか?」
私の実家であるフォークト公爵家はともかく、フリード様のご実家であるルーデンドルフ伯爵家まで王家に反旗を翻すでしょうか?
「お父様と父上はいとこ同士、僕はフォークト公爵家の婿養子になることがほぼ確定している。フォークト公爵家とルーデンドルフ伯爵家は一蓮托生。
フォークト公爵家がグランツ王国を離脱したら、親戚であるルーデンドルフ伯爵家にも類が及ぶ。ルーデンドルフ伯爵家は肩身の狭い思いをしてグランツ王国に残るより、フォークト公爵家と一緒に離脱することを選ぶだろう」
「そうだったのですね」
王太子殿下がフリード様に肩入れする理由が分かりましたわ。
「ディアーナに危害が及ぶなら、フォークト公爵家とルーデンドルフ伯爵家は総力を上げてグランツ王国に歯向かうよ」
「えっ?」
「ディアーナは妖精のように愛らしく、女神のように聡明で、天使のように清らかな女性だからね」
「はいっ?」
えっと私の為に両家が動くとはいったい?
「ディアーナはこの二カ月、領地で様々な改革をしてきたよね」
「えっと……?」
前世の知識を活かし、快適な生活を送ろうとはしましたが。
「ディアーナが公爵家で行った様々な改革が、人々の心を動かしたんだよ。何があっても君に味方したいと思わせるほどね」
私そんなにすごいことしましたか?
「改革……? もしかして外から帰ったら手洗いとうがいをすること、トイレの後や食事の前には手洗いをすること、病人の使った衣服や毛布や食器は煮沸消毒するようにお父様にお願いしたことですか?」
疫病の蔓延を防ぐ手助けになればと思って伝えたのですが。
「それだけじゃないよ、火傷や怪我をしたときの応急処置の方法や止血する方法を人々に教えた。フォークト公爵家もルーデンドルフ伯爵家も武勇を誇る家だからね、応急処置を知っているのと知らないのとでは、生存率が大きく違ってくる。誰もが回復魔法を使える訳じゃないからね」
軽い火傷の応急処置は水や氷で冷やすこと。軽い怪我は傷口を湯冷ました水で洗い、傷口に石や砂などが入っていたときは取り除き、アルコールで消毒すること。
止血方法は傷口に布を当て、傷口を心臓より高く上げるようにと教えただけです。
「さらに水の濾過方法と井戸の周りを清潔に保つことの大切さを教えた、そのおかげで飲水でお腹を下す民が減少した」
水の濾過方法は桶の底に穴を開け、一番下に炭を置き、その上に綺麗に洗った小石と細かい砂を交互に敷き詰めていくという簡単なものです。
井戸の周りは常に清潔に保ち、肥溜めやごみ捨て場を作らないように注意しただけなのですが。
「あと洗濯板の発明も良かったかな。家事の時間が一時間短縮できたってメイドや領地の主婦が大喜びしてね、ディアーナを支持していたよ」
洗濯板は中学校の自由研究で作ったので作り方を覚えていました。
「ディアーナは自分で思っているよりも、騎士や使用人や領地の民に愛されているんだよ」
なんだかちょっと実感がわかないです。
そういえばメイドさんが時間に余裕ができたからと、刺繍の入ったハンカチや手のこんだお菓子をプレゼントしてくれました。
あれは洗濯板のおかげで家事が短縮さたことへの感謝の気持ちだったのですね。
なんだかそこはかとなく胸の奥がこそばゆいです。良いことをするとこんな気持ちになるのでしょうか?
「だから、僕もお父様もお母様も、実家の父上も母上も、使用人も騎士も民も、ディアーナを守るためなら何だってするよ」
フリード様が私の手を握り、目をじっと見つめながらおっしゃいました。
「はい、ありがとうございます」
でもこれは気をつけないといけませんね、うっかりすると私が戦争の引き金になってしまいます。
私の最終目標は破滅フラグをへし折り、フリード様とお父様とお母様と幸せに暮らすこと。
でもそのために民が傷ついたり、国が混乱に陥るのは嫌です。
慎重に行動し、破滅フラグをへし折りながら、幸せにになる道を探さなくては!
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