32 / 50
32話「人の恋路を邪魔する奴はグーで殴られてしまえ!!」
しおりを挟む「ディアーナにはすでに婚約者がいる……? でも、俺は……今まで欲しいものは……全て手に入れてきた……」
コーエン王子がぶつぶつと何か言っている。
背筋がひやりとする、嫌な予感がします。
「ディアーナに一目惚れした! ディアーナが欲しい! フリード公子、ディアーナと別れてくれ! ディアーナ・フォークト、俺の婚やく…………ぐへぶぅっっ!!」
コーエン王子の頬に拳がめり込み、三秒後コーエン王子の顔半分が地面に埋まっていた。
「やぁ来てたんだね、フリード、ディアーナ嬢」
にこやかに挨拶をする美少年には見覚えがあった。
「王太子殿下!」
「アーサー!」
コーエン王子をぶん殴ったのは、第一王子のアーサー様だった。
コーエン王子は白目をむき口から泡を吹いている。どうやら気を失っているようだ。
「ああこれ、コーエンの顔に大きな虫が止まっていたから刺されないうちに弟ごと殴ったんだよ。どうやらその衝撃でコーエンは気を失ってしまったようだね」
王太子殿下がコーエン王子を指差しくすりと笑う。
「それは惜しいことをした、その虫は僕が仕留めたかったのに」
フリード様が胸の前で右手を握りしめ、左手に打ち付ける。
フリード様のまだ怒りが収まってないようで、コーエン王子を見る目つきが死ぬ歩度冷たい。
「そう言うと思った。だからボクが殴ったんだよ。君が殴ると虫が止まっていた対象ごと壊してしまいそうだからね」
王太子殿下がニコニコと笑いながら物騒なことを話す。
私も出来ればコーエン王子に平手打ちをお見舞いしてやりたかったです。
「第一王子が第二王子を殴っても兄弟喧嘩で済まされるけど、公爵令息が第二王子を殴ったら面倒なことになるからね」
王太子殿下はもしかしてフリード様を守って下さったのでしょうか? だからフリード様の代わりにコーエン様を殴った?
「僕はこいつを殴って、ディアーナと義理の両親を連れてフォークト公爵領に戻っても良かったのだが。そうなればルーデンドルフ伯爵家の人間もルーデンドルフ領に戻ることになるが」
コーエン王子を殴ってフォークト公爵家の人間とルーデンドルフ伯爵家の人間が領地に戻る? フリード様、王家と戦争をなさるおつもりですか?
「それを回避するためにボクが愚弟を殴ったんだよ。コーエンのせいで親友とその婚約者と優秀な二家の貴族を失うなんて嫌だからね」
王太子殿下がコーエン王子を冷酷な目で睨む。
「フリード、ディアーナ嬢、愚弟の非礼はボクが詫びる。コーエンはボクが躾けるから、チャンスをくれないかな?」
王太子殿下の提案に驚く。
「愚弟をきちんと調教すると誓うよ。今日はボクの顔に免じて許してくれないかな?」
王太子殿下はフリード様の親友。出来るなら二人の友情を壊したくない。
「フリード様、今日は王太子殿下の顔を立てましょう」
フリード様のジュストコールの裾を引っ張り、お願いする。
「いいのかい? ディアーナ」
フリード様が驚いた顔で私を見る。
「はい、王太子殿下が第二王子をちゃんと調教……教育して下さるなら」
うっかり調教といいかけて慌てて言い直す。
「ありがとうディアーナ嬢、約束するよ。ボクもコーエンに二度目のチャンスを与えるほど寛容じゃない。コーエンが変われなかったときは、王家の仕来りに乗っ取り適切に処分をするよ」
まるでゴミか何かを処理するように、王太子殿下が淡々と話します。コーエン王子に兄弟の情はないようです。
「はっきり言っておく、二度目はない! 親友の弟でも容赦はしない!」
フリード様が王太子殿下を真っ直ぐに見据え冷たく言い放つ。
「また僕の婚約者を自分の婚約者にするなんてふざけたことを言うようなら、今度こそ容赦しない! 次は僕が第二王子を殴る!」
フリード様が冷たい視線を王太子殿下とコーエン王子に向ける。
「それは困るね、君がコーエンを殴ったら、フォークト公爵家とルーデンドルフ伯爵家はグランツ王国を見捨てて他国に行ってしまう。
【コーエン】と【フォークトと公爵家+ルーデンドルフ伯爵家】では天秤にかけるまでもない。
ボクもやっと見つけた唯一無二の親友を失いたくないしね。
そのときはボクが責任を持って弟を処分すると誓うよ」
王太子殿下の中でのコーエン王子の価値は、そのへんの石ころより低いらしい。
「ディアーナ嬢、愚弟が迷惑をかけてすまなかった、怖くなかったかい?」
王太子殿下からの謝罪に戸惑う。身分が上の人に頭を下げられてしまった。
「頭を上げてください、私なら大丈夫です。フリード様が守ってくださいましたから」
フリード様の袖をキュッと掴むと、フリード様に抱きしめられた。
「ディアーナすまなかった! 僕がディアーナの手を離したばかりにディアーナを危険な目に合わせた!」
フリード様のサファイア色の瞳が悲し気に揺れる。フリード様はご自分を責めているようです。
「フリード様のせいではありません」
きっとこれは漫画の強制力だ。
漫画と同じピンクのドレスと赤いリボンを身につけてお茶会に参加することになったのも、フリード様とはぐれたのも、薔薇のアーチでコーエン王子に出会ったのも。
漫画の強制力は思っていたよりも手強い。
ですがフリード様と王太子殿下のおかげで、コーエン王子に薔薇のアーチでプロポーズされるフラグをへし折ることが出来ました。
漫画のストーリーは変えられる。コーエン王子の婚約者になる未来も、卒業パーティーで断罪され殺される未来も変えられる。
私には頼りになる味方がいます。強制力にだって打ち勝ってみせます。
今日のことで未来に希望が持てました。
37
お気に入りに追加
1,127
あなたにおすすめの小説
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜
みおな
恋愛
公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。
当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。
どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
転生ガチャで悪役令嬢になりました
みおな
恋愛
前世で死んだと思ったら、乙女ゲームの中に転生してました。
なんていうのが、一般的だと思うのだけど。
気がついたら、神様の前に立っていました。
神様が言うには、転生先はガチャで決めるらしいです。
初めて聞きました、そんなこと。
で、なんで何度回しても、悪役令嬢としかでないんですか?
ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ヒロインがいない。
もう一度言おう。ヒロインがいない!!
乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。
※ざまぁ展開あり

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる