上 下
3 / 5

3話「再会」

しおりを挟む



「お迎え上がりました、アリッサお嬢様」

そう言って彼は優雅にほほ笑み、塔に閉じ込められていた私に手を差し伸べた。






金色サラサラした髪、サファイアブルーの瞳、目鼻立ちの整った顔……あの頃より身長が伸びて、体格がしっかりしたけど、間違いない! 彼はライだ!

「ライ……!」

斬られて役目を果たさなくなった鉄の柵を乗り越え、ライが私の元に近づいてくる。

私はライの胸に飛び込んだ。

「ライがどうしてここに?
 冒険者になって世界中を旅しているんじゃなかったの?」

「なりましたよ、Sランク冒険者に」

「Sランク冒険者?! 凄い!」

Sランク冒険者になるには十年も二十年もかかるって聞いたことがあるわ。

それをたった四年でSランク冒険者になるなんて素敵ね! 素晴らしいわ!

「Sランク冒険者になってエーベルト侯爵家にお嬢様を迎えに行ったのですが、お嬢様は侯爵家にはいらっしゃいませんでした」

「私を迎えに来てくれたの?
 なんで?」

「お忘れですかお嬢様? 
 Sランク冒険者になったら結婚してくださる約束でしたよね?」

「えっ……? そんな約束したかな?」

「しました!
 お嬢様と結婚することを心の支えに、辛い旅にも耐えてきました!
 なのにわたくしのいない間に王子と婚約していたなんて……あんまりです!」

「ごめんなさい。
 王命だから断れなかったの……」

私だって好きでわがままで癇癪持ちの第一王子と婚約したわけじゃない。

三年前母が亡くなり、一カ月もせずに父が再婚した。

父が母と結婚する前から付き合っていたという女性(世間では愛人という)と、父の間には娘がいた。

私は継母と腹違いの妹と同居することになった。

それからは大変だった。

なんでも私のものを奪っていく妹。

私の顔を見るたびに嫌味を言ってくる継母。

私をいないもののように扱う父。

極めつけは王命による第一王子のフンベアト・ヨナス殿下との婚約。

私とフンベアト殿下との婚約が取り決められた日は散々だった。

フンベアト殿下には初対面で、「銀髪に紫の目のガリガリ女が俺の婚約者? 最悪! 全然好みじゃない! 他のと取り替えろ!」と言われ。

帰宅すれば妹に「なんでお姉様が王子様と婚約するのよ! ムカつくわ!」と罵られ、母の形見を壊された。

継母には「お前のような娘が殿下の婚約者に選ばれるなんて! 生意気よ!」と言われ頭から水をかけられた。

そんなわけで、継母と妹は私とフンベアト殿下の婚約を壊すのに躍起になった。

月に一度第一王子が婚約者とのお茶会のために、エーベルト侯爵家に訪ねて来るのだが。

その日は決まって私は自室に閉じ込められた。

そして、私の代わりに妹のミアがフンベアト殿下の相手をするのだ。

そんなことが何度も繰り返され、フンベアト殿下とミアが仲良くなるのに時間はかからなかった。

フンベアト殿下はミアがついた「お姉様に虐められるの……!」という嘘を信じ、私に辛く当たるようになった。

フンベアト殿下から、
「妹をいじめるなんてお前は鬼だ! 悪魔だ!」
と罵倒されたことは一度や二度ではない。

そして今日、卒業パーティで皆の前で断罪され、婚約破棄されたのだ。

「ここに来る途中、エーベルト侯爵と第一王子を捕まえ半殺しにして……いえ、お二人に丁重に尋ねたら、今までのいきさつを話してくださいました」

ライったら、お父様とフンベアト殿下に何したの?

「ついでに聞いてもいないのに、お嬢様の妹を名乗るミアとかいう女が、色んなことを話してくれました」

ミアが私のことをライに伝えたの?

ろくなことを話してなさそう。

「ミアはライに何を言ったのかしら?
 私に虐められていたとか、私に物を盗まれたとか、私に物を壊されたとか……そんなことかしら?」 

「そのとおりです。
 よくお分かりになりましたねお嬢様」

「ミアは挨拶代わりに私を貶める噂を流すのが好きなのよ」

『はじめましてエーベルト侯爵家の次女ミアです。
 あたしお姉様にいじられているの』

ミアが初対面の人にそう挨拶したとき、びっくりして私は声を出せなかったわ。

「ライも私が妹を虐めていたって思ってる?」



☆☆☆☆☆
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

さようならお姉様、辺境伯サマはいただきます

夜桜
恋愛
 令嬢アリスとアイリスは双子の姉妹。  アリスは辺境伯エルヴィスと婚約を結んでいた。けれど、姉であるアイリスが仕組み、婚約を破棄させる。エルヴィスをモノにしたアイリスは、妹のアリスを氷の大地に捨てた。死んだと思われたアリスだったが……。

婚約破棄され聖女も辞めさせられたので、好きにさせていただきます。

松石 愛弓
恋愛
国を守る聖女で王太子殿下の婚約者であるエミル・ファーナは、ある日突然、婚約破棄と国外追放を言い渡される。 全身全霊をかけて国の平和を祈り続けてきましたが、そういうことなら仕方ないですね。休日も無く、責任重すぎて大変でしたし、王太子殿下は思いやりの無い方ですし、王宮には何の未練もございません。これからは自由にさせていただきます♪

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

婚約破棄されたのでグルメ旅に出ます。後悔したって知りませんと言いましたよ、王子様。

みらいつりびと
恋愛
「汚らわしい魔女め! 即刻王宮から出て行け! おまえとの婚約は破棄する!」  月光と魔族の返り血を浴びているわたしに、ルカ王子が罵声を浴びせかけます。  王国の第二王子から婚約を破棄された伯爵令嬢の復讐の物語。

追放された令嬢は愛し子になりました。

豆狸
恋愛
「婚約破棄した上に冤罪で追放して悪かった! だが私は魅了から解放された。そなたを王妃に迎えよう。だから国へ戻ってきて助けてくれ!」 「……国王陛下が頭を下げてはいけませんわ。どうかお顔を上げてください」 「おお!」 顔を上げた元婚約者の頬に、私は全体重をかけた右の拳を叩き込んだ。 なろう様でも公開中です。

誰ですか、それ?

音爽(ネソウ)
恋愛
強欲でアホな従妹の話。

初対面の婚約者に『ブス』と言われた令嬢です。

甘寧
恋愛
「お前は抱けるブスだな」 「はぁぁぁぁ!!??」 親の決めた婚約者と初めての顔合わせで第一声で言われた言葉。 そうですかそうですか、私は抱けるブスなんですね…… って!!こんな奴が婚約者なんて冗談じゃない!! お父様!!こいつと結婚しろと言うならば私は家を出ます!! え?結納金貰っちゃった? それじゃあ、仕方ありません。あちらから婚約を破棄したいと言わせましょう。 ※4時間ほどで書き上げたものなので、頭空っぽにして読んでください。

(完結)伯爵家嫡男様、あなたの相手はお姉様ではなく私です

青空一夏
恋愛
私はティベリア・ウォーク。ウォーク公爵家の次女で、私にはすごい美貌のお姉様がいる。妖艶な体つきに色っぽくて綺麗な顔立ち。髪は淡いピンクで瞳は鮮やかなグリーン。 目の覚めるようなお姉様の容姿に比べて私の身体は小柄で華奢だ。髪も瞳もありふれたブラウンだし、鼻の頭にはそばかすがたくさん。それでも絵を描くことだけは大好きで、家族は私の絵の才能をとても高く評価してくれていた。 私とお姉様は少しも似ていないけれど仲良しだし、私はお姉様が大好きなの。 ある日、お姉様よりも早く私に婚約者ができた。相手はエルズバー伯爵家を継ぐ予定の嫡男ワイアット様。初めての顔あわせの時のこと。初めは好印象だったワイアット様だけれど、お姉様が途中で同席したらお姉様の顔ばかりをチラチラ見てお姉様にばかり話しかける。まるで私が見えなくなってしまったみたい。 あなたの婚約相手は私なんですけど? 不安になるのを堪えて我慢していたわ。でも、お姉様も曖昧な態度をとり続けて少しもワイアット様を注意してくださらない。 (お姉様は味方だと思っていたのに。もしかしたら敵なの? なぜワイアット様を注意してくれないの? お母様もお父様もどうして笑っているの?)  途中、タグの変更や追加の可能性があります。ファンタジーラブコメディー。 ※異世界の物語です。ゆるふわ設定。ご都合主義です。この小説独自の解釈でのファンタジー世界の生き物が出てくる場合があります。他の小説とは異なった性質をもっている場合がありますのでご了承くださいませ。

処理中です...